ダイエットしたら太る――最新の医学データが示すダイエットの真実(1)

はじめに、ダイエットという魔物

 

ダイエットを成功させると幸せになると思っていませんか。生活が一変し、人生の成功者になれると思っていませんか。多くの人がダイエットの人生一発逆転効果を盲信し、ダイエットに惹きつけられていっています。テレビ、新聞、雑誌、そしてインターネットコマーシャルで、新しいダイエット法が紹介され、人生がどれだけ輝かしいものと変わったかが語られ、人々の自己実現欲を煽り、流行し、廃れ、そしてまた次のダイエットが流行るようになります。

 

どうして痩せられないのでしょう。意志の問題だと、自分を責めてばかりでは解決になりません。ダイエットってなんでしょう。そもそも、あなたはダイエットする必要があるのでしょうか。もし必要がない人がダイエットをすると何が起こるのでしょうか。

 

これからのお話の中に出てくるダイエットというのは、体重を低下させようと意識的にカロリー摂取量を減らそうと試みることです (Hill, 2017)。ポイントは、“摂取量を減らそうと試みた”ことだけで、結果的に継続的に摂取量を制限し体重減少できたかは関係ありません。何をどれだけ、どのように食べるかにこだわるのがダイエットです(Neumark-Sztainer & Loth, 2017)。

 

ダイエットは目標体重になるのが目的ですので、一時的な体重低下に終わります。多くが美容目的で、痩せすぎの体重が目標なので、不自然、不健康なライフスタイルにならざるを得ません。周囲の驚嘆する表情を思い浮かべながら過激な痩せすぎの目標体重を設定し、人々の賞賛を夢見てダイエットに猛進するというのがよく見られる光景です。

 

そのような向こう見ずな、痩せすぎを目指したダイエットは、その目標体重に到達した後のことを考えていないので、長期的にはダイエットは必ず失敗します。そして、現実的にはダイエット開始前よりもっと太るという悲惨な結果に終わってしまうことが、医学的な研究によって示されているのです。

 

それに対して、現在、不健康な体重にある人々が、医学的に正しい健康的なライフスタイルに変更すると、つまりヘルシーなライフスタイルを基本に、日々の生活を地道に営み、その結果として健康的な体重の維持という堅実な結果がやってきます(Wadden, et al., 2012)。ダイエットとは似ていて、全く違うことなのです。

 

まず類似の言葉を説明しておきます。痩せすぎはBody Mass Index (体重(kg)/身長(m)2、以下BMIと略す)が18.5未満であることです(表1参照)(World Health Organization, 1995)。太りすぎ、肥満もBMIの数値で判定されます。

 

ダイエットは人が自ら意識的に摂取カロリーを抑えようとすることです。摂食障害研究で登場する言葉に体重抑制(Weight suppression)がありますが、これはダイエットの結果、ある程度の体重減少が継続していることです(Lowe, 1993)。摂食障害研究では、成人になってからの最高体重と現在の体重との差(Lowe, 1993; Stice, et al., 2011)とも、少なくとも6〜12ヶ月間継続する、10ポンド(4.5キロ)の体重減少(Lowe & Kleifield, 1988)とも定義されています。

 

では、ダイエットとは何かを、最新の医学研究結果に基づいてご紹介していきます。このシリーズの後半には、ダイエットしたいという気持ちの果てに起こる摂食障害という巨大迷路をご紹介します。

 

 

*WHO (World Health Organization, 1995)はpre-obese、日本肥満学会(日本肥満学会肥満症診療ガイドライン作成委員会, 2016)は肥満(1度)としています

 

 

ダイエットをすると太るという不都合な真実

 

ダイエットをすると太ります。そんな嘘のような話が実証されているのです。Neumark-Sztainer(Neumark-Sztainer, et al., 2012)という先生たちは、米国ミネアポリス近郊の中高生1902名(うち女子学生1083名、研究開始時の平均12.8歳ですから、平均は、おおよそ日本の中学1年生に当たります)を対象に10年間にわたって追跡調査しました。

 

これは前向きコホート研究という質の高い研究です。「この1年間にどれぐらいダイエットしましたか」との質問に、「なし」、「1~4回」、「5~10回」、「10回以上」、「常に」のうち、「1~4回」以上を回答した場合にダイエットしているとしました。また、過去1年間に体重を減らすために、①断食、②ほとんど食事をしない、③ダイエット食品、ダイエットドリンクの利用、④食事を抜かす、⑤より多く喫煙する、⑥ダイエットピルの利用、⑦嘔吐する、⑧下剤、⑨利尿剤、すなわち不健康なダイエットについても質問しました。

 

最初の研究は1998年~1999年に、2回目の追跡調査は2003年~2004年に、3回目は2008年~2009年に行われ、対象者の平均年齢は12.8歳から23.2歳に成長していました。38%の女子学生が、研究開始時点と2回目調査の両方で、ダイエットを継続して行っていました(表2参照)。そしてダイエットを継続していた群は、Body Mass Indexが4.3上昇していました。BMIは表1に説明したとおりです。

 

たとえば体重50キロ、身長160センチなら、50÷1.6÷1.6=19.5で19.5です。これが4.3上昇して23.8になったとすると、体重が60.9と10キロも増えてしまったことになります。このBMI上昇値は、開始時点でのBMIや年齢、人種、経済状況によって統計学的に補正した値です。ですので、開始時点で太りすぎであったかどうかと、ダイエットの10年後の影響は関係ありません。

 

 

 

 

さらに、衝撃なのは、図1に示したとおり、研究開始時で過体重(BMIが85パーセンタイル以上)の女子学生が不健康なダイエットを継続したばあい、10年後にBMIが5.19上昇していたのです。たとえば155センチ60キロから、72.5キロに12.5キロアップしたことになります。そのような不健康なダイエットを行わなかった場合、BMIの上昇がわずか0.15であることと対照的です。体重が重めの女子学生が焦って、不健康なダイエットを行い、その結果、成長期の10年といった大事な時期にドンドンと体重が増えていく現実が顕わになったのです。

 

 

図1、女子学生の10年後のBMI(研究開始時点で過体重、BMIが85パーセンタイル以上であった場合、不健康な体重コントロール継続の有無で比較)

 

 

この研究では実に15年後の調査もされています(Goldschmidt, et al, 2018)。15年後まで体重が増えすぎたことがない(BMIが25を超えていない)人たちは、ダイエットや不健康なダイエットをしていない人が多かったです。その一方で、ダイエットや不健康なダイエットは、15年後の体重増加と関係しており、10代後半にダイエットを続けることが、その後の体重増加と関係していることが示されています。

 

この衝撃的な研究結果をどのように理解したら良いのでしょうか。この研究を行ったNeumark-Sztainer博士(Neumark-Sztainer & Loth, 2017)は次の4つの理由をあげています。

 

①ダイエットはごく短期間の行動であって、ライフスタイルを変更して、運動を続け、規則正しく朝食を摂り、フルーツや野菜を摂ることとは異なる。②ダイエッティングサイクルなどと言われるように、無理なダイエットは饑餓状態によって強い空腹感に苛まれ、耐えきれず、食べ過ぎに陥り、ダイエットに失敗したと意気消沈し、再びダイエットに励む負のサイクルが形成される。③自然な生理的コントロール(空腹と満腹の内部サイン)ではなく、意識的に摂食をコントロールしようとしていると、少し禁止している食物を摂取しただけで食べ過ぎに至るなど、ダイエットによって反対に脱抑制のリスクが増す。④ダイエットにより代謝が下がり、つまり代謝を維持するのに必要なカロリーが少なくてすみ、より太り易くなる体質が獲得される。

 

この4つ目の、ダイエットによって反対に太り易い体質になることが、もっとも怖いことです。さらに最近の研究では、ダイエットすればするほど脂肪細胞が増えてしまう可能性があると報告されています(Maclean, et al., 2011; MacLean, et al., 2015)。

 

ダイエットをした全員が摂食障害になるわけではありませんが、ほとんどすべての摂食障害はダイエットを契機として発症しています。そして摂食障害治療では、たとえ過食症の治療であっても、いかにダイエットを止めるかが重要です(Fairburn, 2013)。

 

結局、肥満も、摂食障害も、ダイエットをすれば改善するのではなく、ダイエットは発症や悪化の糸口なのです。意識を変えないといけません。ここから、「太り易い体質」などを含めて、1つ1つの項目を紹介していきます。【次ページにつづく】

 

 

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