参議院選、雇用・労働政策の向こう側――そもそも日本の労働社会をどうするのかという視点

6月22日公示、7月10日投開票の第24回参議院議員選挙。選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてから最初の投票となります。シノドスでは「18歳からの選挙入門」と題して、今回初めて投票権を持つ高校生を対象に、経済、社会保障、教育、国際、労働など、さまざまな分野の専門家にポイントを解説していただく連載を始めました。本稿を参考に、改めて各党の公約・政策を検討いただければ幸いです。今回は、雇用・労働政策の視点から常見陽平さんにご寄稿をいただきました。(シノドス編集部)

 

 

「就職」ではなく「就社」

 

幼児A:「ぼくのお父さんは、しょうしゃというところではたらいています。ラーメンからロケットまでうっているそうです」

 

幼児B:「わたしのお父さんは、しょうけんがいしゃというところではたらいています。かぶのうりかいをしているのですが、いそがしすぎてたおれました」

 

ある幼稚園での、参観日での一コマです。子どもの隣に保護者が座り、紹介するという企画でした。幼児Aは「お父さんは結局、ラーメン屋さんなの?ロケット屋さんなの?」と同じクラスの子から質問が集中。幼児Bに関しては、その場で保護者の方は「やっぱり証券会社って忙しいんだ……」と憐れみの視点で見たそうで。クラスの子からは「お父さん、八百屋さんなの?野菜売り過ぎて倒れたの?」と質問が……。お世話になった方から聞いた本当の話です。

 

実はこの無邪気なやり取り、選挙に向けて雇用・労働政策を論じる際の大事な一歩なのではないかと思っています。日本の労働社会の特徴が端的にまとめられています。

 

「就職」という言葉がありますが、日本人は本当に「職」に就くのでしょうか。実は「就職」ではなく「就社」です。であるがゆえに、どのような「仕事」をしているのか説明し辛いのです。この、幼児たちの素朴な保護者紹介にそれが凝縮されています。

 

10代後半の皆さんにとっては、「雇用・労働に関する政策」と聞いてもピンと来ない人も多いことでしょう。というのも、約8割の人はその段階で就職していないからです。いまや高校卒業時の年齢で働いている人は、同学年で2割程度となっています。「働く」と言っても、アルバイト以外の経験がない方が多数派です。

 

保護者の方の仕事についても、皆さんはよく分からない人も多いことでしょう。前述したような理由で日本の仕事というものはわかりにくいのです(主に父親とのコミュニケーションが足りないというのも日本の家庭の問題ではありますが)。

 

だから、就活が迫った21歳の大学3年生ですら、親の仕事というものは理解し辛いわけです。大学はもちろん、高校などでもキャリア教育の取り組みは始まっていますが、とはいえ、「働く」ということはイメージしづらいことでしょう。

 

そのため、選挙における雇用・労働政策に関しては、10代の皆さんにとってはピンと来ないことが多いかもしれません。いや、みなさんをバカにしているわけでは決してありません。実際に働いてみないと分からないことも多いからです。

 

ここで、雇用・労働政策を考える上での前提についていくつか確認しておきたいことがあります。それは労使の関係、労働者と資本家の関係です。この2つの利害は必ずしも噛み合わないのです。ただ、労働力がなければ企業活動はほぼ成立しませんし、労働者も仕事がなければ生活が困難になってしまいます。これは、企業という組織が成立してからの永遠の課題なのです。

 

労働者は生活者でもあります。過酷な労働環境では生活に影響がありますし、ブラック企業に代表される労働者を使い潰すようなものには抗わなくてはなりません。一方で働きやすさを追求した結果、稼ぎが減り、生活できないというのも問題です。さらには、機械と人間がどう共存するのかというのも今後、考えなくてはならないテーマでしょう。

 

 

選挙の前に、雇用システムを根本的に問い直す

 

政策を論じる際の視点としては、それが、いつ、どの対象にどのように利くのか、メリットとリスクは何かという観点が大切です。そもそも、実行できるのかというのも大事な論点ですね。

 

この前提のもとで、やっと本題です。参議院選の雇用・労働政策の論点です。今回は「同一労働同一賃金」「最低賃金の値上げ(1000円〜1500円)」「長時間労働の抑制」「正規雇用の増加」「労働者派遣法の見直し」「ブラック企業対策」などが各党から政策として掲げられています。

 

今回、公開されている政策を読み比べた印象では、労働問題について網羅的に記述している共産党を除くと、正直なところ、各党の違いはわかりにくいものとなっています。例えば、「同一労働同一賃金」「長時間労働の抑制」「最低賃金の値上げ(時給1000円以上)」は自民党も民進党も、掲げている政策は似ています(言葉遣いや、どこまでやるか、どうやるかなどは違います)。

 

しかし、問うべき点は具体的な言葉の意味、達成プロセスではないでしょうか。先に結論から言ってしまうと、これらのことを実現するためには、付け焼き刃の対策ではなく、日本の雇用システムを根本的に問い直さなくてはならないからです。

 

例えば、ここ数ヶ月、議論が加熱してきた「同一労働同一賃金」について考えてみましょう。主に正規雇用と非正規雇用の格差是正のために、この政策が打ち出されています。要するに同じ仕事内容なのに、正規と非正規で賃金が違うのはおかしいという論理です。一見すると、非正規雇用を救うかのような政策のように見えますね。

 

しかし、そんなに単純な話でしょうか? 次のような点を疑ってみましょう。この「同一労働同一賃金」という言葉は、各党で同じ意味で使われているのでしょうか? 何を目的としたものなのでしょうか? 導入する手段やプロセスは明確でしょうか?【次ページにつづく】

 

 

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