「エコロジカル・フットプリント」と人間開発 ―― 資源消費量を減らしながら、社会を発展させることは可能か

日本人の生活水準は地球2.4個分

 

「エコロジカル・フットプリント」という指標がある。私たちが資源をどれだけ浪費しているのかを表す指標である。例えばある人が、電気やガソリンやプラスチックなどの資源を、ふんだんに使って生活しているとしよう。そのような生活を人類すべてが実行した場合、地球は何個分、必要になるだろうか。エコロジカル・フットプリントは、この問題を、各国別の平均で教えてくれる。

 

例えば日本人の平均的な生活を、世界中の人々が実行したとしよう。地球はおそらく耐えられないだろう。資源は枯渇し、環境は破壊されるだろう。この指標によると、現在の日本人の生活を世界規模で実現するならば、地球は二・四個分必要になるという。「地球環境に負荷をかけない」という倫理規範に照らした場合、私たち日本人は、再生不可能なエネルギーの消費量を、いまの半分以下に減らさなければならないということになる。これが「エコロジー」生活のための、一つの規範的な要請である。

 

だがエネルギー消費量を、いまの半分以下に減らすことはできるのか。そのためにはおそらく、私たちは1950年代ごろの生活水準に戻らなければならない。まだ洗濯機や冷蔵庫が普及していなかった時代の水準である。はたしてそのような生活水準の劣化を、私たちは「エコロジー」の理想のために、受け入れることができるだろうか。

 

1950年代と言えば、民主主義の政治は未熟で、女性の社会的進出も進んでいない。教育環境も十分とは言えず、医療環境やその他の福祉環境においても劣った状況にある。人々の平均寿命も短く、幼児死亡率も高かった。考えるべきは、私たちが資源消費量を落としながらも、なおかつ各種の指標において、すぐれた成果を挙げることはできるのかという問題である。

 

以下のリンク先の図は、グローバル・フットプリント・ネットワークが作成した、「人間開発指標」と「エコロジカル・フットプリント」の関係である。各国は、1980年から2007年までのあいだに、どれだけ人間開発を進め、資源を利用するようになったのか。それが分かりやすく把握できるようになっている。

 

 

http://www.footprintnetwork.org/en/index.php/GFN/page/fighting_poverty_our_human_development_initiative/

 

 

「人間開発指標」とは、平均余命指数、教育指数、成人識字指数、総就学指数、GDP指数を、ある一定の数式を用いて総合的に判断した指数である。上記のリンク先の図によれば、日本は「人間開発指標」においてすぐれた国のひとつであり、先進諸国のあいだでは、環境にあまり負荷をかけない社会といえる。しかしそれでも、エコロジカル・フットプリントに照らせば、日本人は、まだまだ浪費的であり、地球に負担をかけない生活とはかけ離れた状態にある。

 

 

フィンランドその他の国から学べ

 

ここで興味深いのは、1980年から2007年のあいだに、人間開発をすすめながら、再生不可能な資源消費量を減らすことに成功している諸国が存在する、という事実である。

 

例えば、フィンランド、ノルウェー、ドイツ、ハンガリー、ニュージーランド、オーストラリアといった国々は、人間開発指標における水準を改善しながら、エコロジカル・フットプリントの水準を下げることに成功してきた。これに対して、日本、アメリカ、イタリア、ベルギー、オーストリアなどの国においては、ますます資源浪費的な生活になっている。

 

こうした違いは、どこから生まれるのだろうか。各国の事情によって、さまざまな要因があるだろう。私たちは、エコロジカル・フットプリントの値を減らしながら、人間開発指標を改善するための余地がある。環境に負担をかけないで、よりよい社会を築くための余地がある。そのような可能性について、フィンランドその他の国から大いに学ぶことができるのではないか。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

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