人はなぜ美容整形をするのか

自己満足についての考察

 

ここで「自己満足」について、もっと掘り下げておこう。このタームはマジックワードであって、「自己満足といっても本当は劣等感があるのではないか」「本当は異性にもてたいからではないのか」「他の理由が何であっても自己満足というのではないか」などと考えることは可能である。

 

しかし、これは「動機の語彙」なのだ。当事者の「真の」動機を(研究者の側で)「決定する」ことはできない。重要なのは、さまざまな理由のバリエーションの中から「自己満足」が、美容整形の「適切な」理由として、実践者に「選ばれる」という事実なのである。したがって、「自己満足」の「真の」中身を追求するのではなく、それが語られるような「美容整形の位置づけ」について考えたり、それが語られるときの「自己」とはどういうものかを考えたりするべきなのである。それについては『美容整形と化粧の社会学』(2008、新曜社)で既に述べているが、以下でも少し触れておき、自己満足に関する若干の補足を試みたい。

 

 

美容整形の位置づけ

 

まず、自己満足という語彙から透けて見える、今の美容整形の特徴を考えておこう。一つの特徴として、歴史的に「正当」とされた理由は、もはや絶対条件ではないことが挙げられる。もちろん劣等感を克服したい、人並み(普通)になりたいといった理由は、今でも語られるだろう。だが必ずしも、そういった動議の語彙を使わなくても、美容整形が可能になったことが重要である。外見を褒められるにもかかわらず、「もっとよくなりたい」という風に受けることもできるのだ。

 

もう一つには、ある意味で「女性的な語彙」が使用されていることも特徴といえるだろう。先に見たように、「もて」の強調は男性が使用する語彙であった。それに比べて「自分」の強調は、女性が好んで選択する語彙なのである。

 

したがって、現代の「美容整形」は、「正当とされてきた語彙」「男性的な語彙」を使用せずに、経験可能なものとなっている。そして、外見に劣等感のない女性たちが、あくまで自分のために受けるものとして位置づけられるといえる。

 

 

美容整形を志向する人々の「自己」とは

 

筆者は、美容整形・美容医療をしたいグループとしたくないグループに分け、それぞれのグループがどう違うかを検討している。両グループの「性別」「年代」、「世帯年収」、「最終学歴」、「既婚・未婚」に違いがあるか分析したところ、「性別」においてのみ顕著な差が見られた。男性より女性が美容実践に関心を持つのである。その他は、いずれにおいても有意差は見られなかった。性差の影響を避けるため、女性のみで美容整形に「したい」「したくない」グループに分けて同様に分析しても有意差は見られなかった。

 

そこで、女性のみの「したい」グループと「したくない」グループにおいて、美容と関係なく(服を着替える、顔を洗うなどの)「一般的に外見を整える理由」12項目に有意差があるかどうかを分析した。12項目とは1.同性に評価されたい、2.異性に評価されたい、3.流行に乗り遅れないため、4.自分が心地よくなるため、5.自分らしくあるため 、6.若く見られたいから、7.年相応に見られたい、8.大人っぽく(年上に)見られたい、9.同性にバカにされないため、10.異性にバカにされないため、11.清潔感を保つため、12.身だしなみとして、である。

 

そのうち、7項目で有意差がでた。美容整形・美容医療を受けてみたい人は、そうでない人に比べて「同性に評価されたい」「異性に評価されたい」「流行に乗り遅れないため」「若く見られたいから」(χ2検定:1%水準で有意)、「自分が心地よくなるため」「同性にバカにされないため」「異性にバカにされないため」(χ2検定:5%水準で有意)。「清潔感のため」「身だしなみのため」などは有意差がなかった。

「希望者」ではなく、実際に美容整形を受けた女性(27人)のデータで確認しても、同じ傾向が見られた。

 

美容整形・美容医療希望者の身体意識・女性のみ(2011)N=400(女性のみ)

美容整形・美容医療希望者の身体意識・女性のみ(2011)N=400(女性のみ)

 

 

したがって、美容整形を志向する人の特徴は、次のようなものになる。一つは、清潔感・身だしなみといった「社会」的配慮については、美容整形に関心のない人と同じようにもっている。

 

二つ目に、特に「自分」という語彙を前面に押し出す傾向がある。「自分が心地よくなるため」という理由は、身体を加工において、美容整形・美容医療に関心のない人も、使用している(48.1%)。美容に関心のない人にとっても、一般的に外見を整える理由として挙げうる「無難な動機の語彙」なのである。しかしながら、美容実践を望む人の方が、よりその理由を挙げている(62.5%)。つまり、「自分の心地よさ」という語彙は、美容実践を望む人が、より好む理由なのである。したがって、美容整形・美容医療を志向する人にとって、特に「自分の心地よさ」や「自己満足」ということが重要になることが分かる。

 

とはいえ、三つ目に、「同性・異性に評価されたい・バカにされないため」「流行に乗り遅れないため」「若く見られたいから」といった理由に有意差が見られたことも注目すべきであろう。美容実践を望む人ほど、「自分」を語りながらも、普段から「他者」の評価を意識していることが分かるからである。

 

ゆえに、美容整形・美容医療を受けたい人の「自分」とは、殊更、「自分だけの」心地よさや満足を語りつつも、その「心地よさ」「満足」の中には、普段から「他者の評価」が組み込まれている「自分」なのである。

 

 

まとめ

 

こうして、現代の美容整形は、外見を褒められるような人まで行う、「自分だけの」満足や心地よさのために行われる行為であると分かった。ただし、その際の満足や心地よさには、言外に他者評価が組み込まれているということも分かった。

 

以上で論を閉じるが、最後に、今後の研究を進めるにあたって、目指すべき方法論について述べておきたい。実際の所、美容整形の動機を探るには、実践した人にインタビューするのは当然必要であるが、それだけでは限界がある。

 

まず、美容整形をした人・希望した人にだけアプローチするのは、十分ではない。例えば、男性の意識を調べる際に、男性にだけ調査するのでは不十分で、女性の意識と比較してこそ初めて意味を持つ。それと同様に、美容整形を希望しない人と比較する必要がある。

 

次に、美容整形実践者の、事後の語りは「動機の語彙」であり、美容整形を正当化する戦略が無意識であれ含まれることになる。したがって、今回示したような希望者の意識、特に美容整形を希望する理由ではなく、そもそも持っている日常的な身体意識についての調査を組み合わせて初めて、インタビューが意味を持つだろう。

 

つまり、美容整形に関心のない人々との比較や、整形希望者の日常的な身体観の調査などを組み合わせる必要があるのだ。今後も、そういった方法論を用いながら、美容整形を希望する人々の心性について調査していきたい。

 

参考文献

 

・Balsamo, A., 1996, “On the Cutting Edge: Cosmetic Surgery and the Technological Production of Gendered Body”, in Camera obscure 22, Jan., pp.207-226.

・Blum, V., 2003, Flesh Wounds: The Culture of Cosmetic Surgery, Berkeley, CA: University of California Press.

・Bordo, S., 2003 Unbearable Weight: feminism, Western culture, and the body, University of California Press, Berkeley, L.A., London.

・Davis, K., 1995 Reshaping the Female Body, Routledge: New York & London.

・Gimlin, D., 2002, Body Work: Beauty and Self-Image in American Culture. Berkeley, CA: University of California Press.

・Haiken, E., 1997, Venus Envy: A History of Cosmetic Surgery  Baltimore, MD: Johns Hokins University Press(=野中邦子訳1999『プラスティック・ビューティー』平凡社).

・Jeffreys, S., 2000, Body Art and Social Status: Cutting, Tattooing and Piercing from a Feminist Perspective, Feminism and Psychology 10(4), pp.409-429.

・谷本奈穂2008『美容整形と化粧の社会学——プラスティックな身体』新曜社

・谷本奈穂2012「美容整形・美容医療を望む人々――自分・他者・社会との関連から」『情報研究』(関西大学総合情報学部)第37号、37~59頁

・Wolf, N.,  The Beauty Myth: How Images of Beauty Are Used Against Women, William Morrow, 1991(=曽田和子訳 1991=1994 『美の陰謀』 TBSブリタニカ).

 

サムネイル:「woman’s day」Vladimer Shioshvili

http://www.flickr.com/photos/vshioshvili/414505968/

 

 

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