シノドス・トークラウンジ

2024.07.22

2024年9月11日(水)開催

【レクチャー】アーレントの思想をいま考える――異質な他者と共に生きるための政治的想像力に向けて

押山詩緒里 ホスト:坂本かがり

開催日時
2024年9月11日(水)20:00~21:30
講師
押山詩緒里
ホスト
坂本かがり
場所
Zoom【後日、アーカイブ動画での視聴も可能です】※本レクチャーは9/11、9/28、10/9、10/26の全4回です。
料金
9800円(税込)

シノドス・トークラウンジ、今回はハンナ・アーレントの思想を読み解くレクチャーを開催します。本講義では、アーレントによる名著『人間の条件』(1958)をもとにしながら、「政治的な想像力」や「異質な他者と共に生きること」の意味についてじっくりとひもといていきます。

講師には、『〈砂漠〉の中で生きるために――アーレント政治哲学の現象学的研究』の著者・押山詩緒里さんをお迎えします。アーレントの思索と押山さんの講義とともに、異なる人と一緒に生きる世界のあり方を考えてみましょう。

【イベント概要】

日程  全4回 20:00〜21:30
    09月11日 (水) 第1回 「無思考性」と「想像力の欠如」とは?
    09月28日 (土) 第2回 「異質な他者と共に生きる」とは?
    10月09日 (水) 第3回 「現れの空間」とは?
    10月26日 (土) 第4回 「共通感覚」と「視野の広い考え方」とは?
形式  Zoomを使用したオンラインレクチャー
講師  押山詩緒里
料金  9,800円
レベル 教養編

▼ 講義シラバス

私たちの生きている世界は、多様な価値観、多様な文化、多様なアイデンティティ、多様な「意見」によって構成されています。多様さは、一方で人間存在の豊かな可能性の現れですが、他方で異なる価値観の間に摩擦を生じさせ、誤解と対立を招く原因でもあります。

こうした人間の多様さについて思索をしたのが、20世紀を代表する政治哲学者の一人であるハンナ・アーレント(Hannah Arendt, 1906-1975)です。
アーレントによれば、自由で平等な公的空間は、政治的な「想像力」(imagination)によって形成可能になります。政治的な想像力とは、自分とは異なる他者の立場について、自分自身の頭で考える働きを意味しています。人間一人ひとりが想像力によって、異質な他者と「語り」と「聴取」の関係をそのつど形成することが、政治の本来の意味であり、人間として生きるための根源的な条件だというのです。
なぜアーレントは、政治的な想像力と公的空間の重要性を主張したのでしょうか。それは、「誰もが公の場所に姿を現し、声を発すること」ができなくなったとき、どれだけ悲惨で、非人間的な事態が起こるのかを、自身の体験とともに知っていたからです。その最も象徴的な事例は、20世紀のナチスドイツ政権下で行われた大量虐殺であり、絶滅収容所でした。

このレクチャーでは、アーレントの『人間の条件』(1958)を基本的なテキストとして、「政治的な想像力」や「異質な他者と共に生きること」の意味について、皆さんと一緒に考えていきます。アーレントの思索を学ぶことを通じて、参加者の一人ひとりが、哲学的な問いを自分自身の身近な問題として考える機会になればと思っています。

第1回 「無思考性」と「想像力の欠如」とは?(9/11)

第1回の講義では、「自分自身の頭で、他者の立場を考える」ことの重要性について、「アイヒマン裁判」という具体的な事例を通して考えていきます。
オットー・アドルフ・アイヒマンは、ナチスの親衛隊(SS)の中佐であり、アウシュヴィッツなどの「絶滅収容所」へのユダヤ人移送を指揮した責任者でした。彼は、第二次世界大戦後はアルゼンチンで逃亡生活を送っていましたが、1960年にイスラエル諜報特務庁 (モサド) によってイェルサレムに連行され、裁判にかけられました。裁判の中で、アイヒマンは終始「自分は命令に忠実に従っただけ。役人としての職務を全うしただけ。だから自分には責任はない」と主張し続けました。
この裁判を傍聴していたアーレントは、アイヒマンの罪は「無思考性」と「想像力の欠如」にあると指摘します。いったい「考えること」や「想像すること」とは、どのような能力でしょうか。なぜ「考えないこと」や「想像しないこと」が罪悪になりうるのでしょうか。第1回では、これらの問いについて皆さんと一緒に議論していきたいと思います。

第2回 「異質な他者と共に生きる」とは?(9/28)

第2回の講義では、アーレントの『人間の条件』を手掛かりとして、人間の生の在り方について考えていきます。
「人類という種族全体の一部として生存すること」と「今・ここにいる〈この私〉として、人々の間で生きること」の違いとは何でしょうか。もしも私たちが「他者と取り換えることができない存在」「かけがえのない存在」として現れることができるとすれば、それはどのような条件のもとで可能でしょうか。私たちは独りで生きることができるのでしょうか、それとも何らかの形で「他者」を必要としているのでしょうか。
第2回ではこれらの問いについて、アーレントが「人間存在を根本的に条件づけている活動力」として挙げている「労働(labor)」「仕事/制作(work)」「活動/行為(action)」という三つの働きを手掛かりに、考察してみたいと思います。

第3回 「現れの空間」とは?(10/9)

第3回では、異質な人々の間で形成される「現れの空間」について考えていきます。
「現れの空間」は、多様な人々が織りなす「人間関係の網の目」によって形成されています。この空間は、人々が互いに関心を向け、共通の問題について語り始めることによって顕在化することができます。しかし逆に人々が互いに無関心になったり、国家や共同体の強制力によって「たった一つの立場」しか認められなくなったりすることで、たやすく消失する儚いものでもあります。
「現れの空間」が無くなってしまったとき、いったいどんな事態が起こるのでしょうか。第3回ではこの問いについて、「顕在化」と「生のリアリティ」の関係から考えていきたいと思います。

第4回 「共通感覚」と「視野の広い考え方」とは?(10/26)

最終回では、異質な人々と一緒に「現れの空間」を形成するためには、どんなことが必要になるのかについて、考えていきたいと思います。アーレントによれば、「現れの空間」は「共通感覚」と「視野の広い考え方」によって、他の人々と共有することが可能になります。
いったい「共通感覚」と「視野の広い考え方」とは、どのようなものでしょうか。混迷を極めている現代社会の中で、アーレントの思索はなんらかの道標になりうるのでしょうか。政治的な想像力は、未来に向けてどのような可能性をもっているのでしょうか。これらの問いについて、皆さんと一緒に意見を交わしていきたいと思います。

【参考文献】
・H・アーレント『人間の条件』志水速雄訳、筑摩書房、1994年
・H・アーレント『イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告』(新版)、大久保和郎訳、みすず書房、1994年
・重田園江『真理の語り手――アーレントとウクライナ戦争』白水社、2022年
・杉浦敏子『ハンナ・アーレント入門』藤原書店、2002年
・千葉眞『アーレントと現代――自由の政治とその展望』岩波書店、1996年
・E・ヤング=ブルーエル『なぜアーレントが重要なのか』矢野久美子訳、みすず書房、2008年。
・M・カノヴァン『アレント政治思想の再解釈』、寺島俊穂・伊藤洋典訳、法政大学出版局、2004年

【受講者の皆さんへ】

このレクチャーでは、哲学の専門用語を身近な具体例に言い換えながら、双方向的に議論を進めていきたいと思っています。
人間の多様性とは、ひとりひとりが生きてきた歴史の多様性でもあります。オンラインレクチャーという場は、様々な年代、様々な立場、様々な生き方をしてきた人々が偶然的に集まる奇跡のような空間です。一期一会のかけがえのない場所を、皆さんと共有できる機会を頂けることに、心から感謝します。
ぜひ肩肘を張らずに、おいしいコーヒーや紅茶などを飲みながら、議論に参加して頂けたら嬉しいです。色んなご意見や疑問も大歓迎です。皆さんと一緒にお話しできることを楽しみにしています。

プロフィール

押山詩緒里

1987年生まれ。2022年度・法政大学大学院人文科学研究科哲学専攻博士後期課程修了、博士(哲学)。専門領域は哲学、倫理学、現象学、政治哲学。現在、法政大学非常勤講師。単著に『〈砂漠〉の中で生きるために――アーレント政治哲学の現象学的研究』(法政大学出版局、2024年)、主要論文に「アーレントにおける「赦し」と「裁き」──クリステヴァによる解釈を超えて」(『現象学年報』第32号、日本現象学会編、2016年)、共著に『アーレント読本』(日本アーレント研究会編、法政大学出版局、2020年)などがある。

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