雇用における障害者差別禁止の問題点とは?

これまでの障害者雇用・就労政策と実際の状況

 

日本では障害者雇用促進法のもとで「障害者雇用率制度」がとられており(割当雇用)、企業や機関等で雇用している人のうち一定の割合で障害者を雇用しなければならない。

 

現在その割合(法定雇用率)は、民間企業で2.0%、国・地方公共団体等で2.3%となっている。ちなみに、これまで民間企業全体での実際の雇用率(実雇用率)は法定雇用率を上回ったことがなく、法定雇用率を達成している企業は全体で半数にも満たない。

 

また、障害者福祉分野での就労支援サービスとしては、雇用契約を結んで障害者が働く「就労継続支援A型」(雇用型)と、雇用契約を結ばずに生産活動を行う「就労継続支援B型」(非雇用型)もある。

 

これらの形態は従来から「福祉的就労」と呼ばれ、障害者の働く場として重要な位置を占めてきたが、そこでの就労によって得られる収入(工賃)の低さや、民間企業や公的機関での雇用に移る障害者が少ないことは、長年にわたり大きな課題とされ続けている。

 

 

差別禁止との整合性の問題

 

先に述べたように、改正障害者雇用促進法の差別禁止規定では、とくに重度障害者にとって不平等が残るのであり、本当の意味では「均等な機会」が実現されるとは言い難い。

 

これに対し、重度障害者の雇用を確保するために「障害者雇用率制度」があり、民間企業や公的機関で働くことが難しい障害者のために「福祉的就労」の場がある、と考えることもできそうだ。

 

しかし、そのように差別禁止・割当雇用・福祉的就労を位置づけることはそう単純ではなく、まだまだ議論の余地が残っており、もっと言えば、看過すべきでない矛盾をはらんでいるようにも思えるのである。

 

第一に、「労働能力が低い障害者を雇用しないことは差別ではない」という理屈と「労働能力が低くても障害者を雇用しなければならない」という理屈とはどのように両立するのか?という点である。

 

障害者雇用率制度によって一定割合の障害者を雇用しなければならないということは、労働能力が高い障害者がいなければ、障害のない人より労働能力が低くても障害者を雇用しなければならないということを意味する。

 

このたび障害者雇用促進法が改正され差別禁止規定が加わることにより、差別禁止と割当雇用とが同じ法律の中に存在することになる。この2つの位置関係はどのようになっているのか、2つが理屈のうえでなぜ両立するのか。「労働能力が低い障害者は雇用しなくてもよいが、労働能力が低くても障害者を雇用しなければならない」ということになりはしないか。

 

 

個人間での不公平の問題

 

第二に、障害のない人よりも障害のある人が優先されることが、なぜ正当化されるのか?(不当化されないのか?)という点である。

 

「障害者差別禁止指針」や「解釈通知」では、「積極的差別是正措置として障害者を有利に取り扱うこと」は「障害者であることを理由とした不当な差別的取扱い」にあたらないとされている。

 

ここでは「積極的差別是正措置」の例として「障害者のみを対象とする求人」をあげ、「障害者を有利に取り扱うものであり、法違反とならない」と述べられている。「積極的差別是正措置」であれば、障害者を有利に取り扱ってよいということは、障害のない人を不利に扱ってよいということだと考えられる。

 

そこでは、労働能力の適正な評価やそれにもとづく処遇については問われていない。障害のあるCさんと障害のないDさんがいたとして、Dさんの労働能力の方が高くても、障害のあるCさんの方が採用される可能性があるということである。

 

これは果たして、採用されなかったDさんにとって納得のいく結果だといえるのだろうか。何らかの労働能力が求められ、それを適正に評価することが必要な雇用の場で、差別を是正するためとはいえ、「障害者かどうか」という基準が優先され、能力が高いにもかかわらず不採用となったことについて、Dさんをはじめ人々にどう説明するのか。

 

差別是正を肯定する理由として、障害者がこれまで不利な立場に置かれ続け、障害のない人との間に大きな格差が生じていることや、障害のために労働能力が制限されているため、積極的な措置をとらなければ雇用されることは難しい、といったことが考えられる。

 

とはいえそれは、労働能力が高いにもかかわらず「障害者でない」という理由で不採用となったDさんにとって、「それなら仕方ないですね」と思える理由なのだろうか。「自分の方が能力あるのに」「自分は障害者を差別してないのに」と思いはしないだろうか。

 

同じことは、割当雇用で障害者を雇用する場合にも起こりうる。採用できる人数が限られていて、新たに障害者を雇用しなければならない場合、労働能力が低くても障害のある人が採用され、代わりに労働能力が高くても障害のない人が不採用となる可能性がある。

 

福祉的就労についても、雇用契約を結ぶA型での就労があり、原則として最低賃金が保障される。近年、非雇用型のB型を雇用化し、国や地方自治体が賃金を保障すべきという議論もある。ここでも、労働市場全体で考えれば、失業している障害のない人が数多くいる一方で、障害のある人の雇用や賃金が公的に保障されるということになる。

 

現行の法律や制度の背後にある、このような障害のある人とない人との個人間の不公平を、私たちはどのように考えればよいのだろうか。

 

 

今後の障害者雇用・就労政策に求められること

 

障害者差別解消法や改正障害者雇用促進法によって障害者に対する「差別」がなくなり、必要な合理的配慮が提供されれば、「障害」による問題がすべて解決するということではない。これらの法律だけでは、障害による能力面での制限や不利の問題が残されてしまう。

 

かといって、雇用されるのが難しい重度障害者も包摂しようと、ただ単にいろいろな法律や制度を同時にとればよいというものでもない。ひとつの政策に相反する論理を内在させることになるし、障害のある人への差別や不利をなくすために、今度は、障害のない人を障害の有無を理由として不利に扱うことにもなる。

 

これらの法律が施行されることで、多くの「障害を理由とする差別」「障害者であることを理由とした差別」がなくなり、社会のさまざまな場面に障害者が対等に参加できるようになることはまちがいない。その意味では大いに期待するところであるが、それですべて解決できると過信してはならない。

 

残された「問い」に対し納得のいく「答え」を見出すことが必要であり、それを明確にできる政策こそが、真の意味で確かな政策といえるのではないだろうか。

 

 

文献

・「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」条文

http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha_h25/dl/kaisei01a.pdf

・「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の概要」

http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha_h25/dl/kaisei02.pdf

・障害者差別禁止指針「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000082149.pdf

・合理的配慮指針「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針」

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000082153.pdf

・解釈通知「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の施行について」

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000092076.pdf

・「合理的配慮指針事例集【第一版】」

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000093954.pdf

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

AWS Access Key ID: AKIAJSA5SEKND2GVG7TA. You are submitting requests too quickly. Please retry your requests at a slower rate.

 

 

シノドスのコンテンツ

 

●ファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

・打浪文子「知的障害のある人たちと「ことば」」

・照山絢子「発達障害を文化人類学する」
・野口晃菜「こうすれば「インクルーシブ教育」はもっとよくなる」
・戸谷洋志「トランスヒューマニズムと責任ある想像力」
・濵田江里子「「社会への投資」から考える日本の雇用と社会保障制度」
・山本章子「学びなおしの5冊 「沖縄」とは何か――空間と時間から問いなおす」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(6)――設立準備期、郵政民営化選挙後」