誰もに優しい社会をいっしょに――「障害者の権利に関する条約」批准に寄せて

日本の社会通念よりも広い障害

 

そうした背景から生まれたため、非障害者の中で共有されている概念も、障害者の目線で捉え直せば意味が変わるものがある。

 

 

(1)障害の捉え方

 

一般的に「障害者」という言葉から思い浮かべるのは、「目が見えない人」「足が動かない人」「知的能力に制限のある人」などだろう。そのように、「障害」の根拠をその人個人の身体の機能障害(inpariment)に求める考え方が、いわゆる「医学モデル」と呼ばれる障害の捉え方である。

 

医学モデルを前提とすると、社会参加への取り組みは、その機能障害を治癒して非障害者の健康状態に近づけようとする方向で行われる。ところが、そうした取り組みでは、障害者は、身体の機能障害という自分にとってなんら帰責性のない事情により、治癒するまでの間は障害のない人と一緒のサービスを受け、共に何かに取り組む、という「参加」の経験を得られない。治らなければ、一生参加できないままであるということになる。

 

そこで障害者は、「自分の身体」ではなく、非障害者を基準として形成された文化、慣習、規範、構造物などの「社会のありよう」の方に障害、支障がある、と考えるようになった。これが、先ほどの「医学モデル」に対して「社会モデル」と呼ばれる障害の捉え方である。

 

 

(2)「機能障害」の幅

 

日本の場合、「機能障害」のイメージは、障害者手帳を持っているような、「固定的かつ永続的な、身体の機能障害」であろうと思う。しかし、権利条約はそのように限局された考え方ではない。

 

たとえばユニークフェイス(アザや発疹、大きく変形した顔や身体をもつ人のこと)や、慢性疾患(がん、HIV、てんかん、糖尿病などの難治性疾患など)も、社会的障壁との相互作用によって社会参加を阻害する「機能障害」であると考えられている。だから私は、冒頭で「将来がんになる人も関係する」と述べたのである。この条約が対象としようとする「障害」は、日本の社会通念よりもはるかに広いのである。

 

 

合理的配慮の不提供という「状態」を含む差別

 

「差別」を国語辞書で引いてみる。

 

すると、「取り扱いに差をつけること。特に、他よりも不当に低く取り扱うこと」とある。一般的に「差別」とは、このように「差をつける」「取り扱う」といった、「何らかの意図に基づいた作為」をイメージするだろう。そして、かなりの割合で「やってはならないこと」というネガティブなイメージが伴うだろう。

 

しかし、権利条約が社会からなくそうとする「差別」とは、そういった不法行為の加害行為の一態様としての「作為」「行為」だけではない。なんらかの社会的障壁によって、障害者の社会参加が阻害されている「状態」をも含む。それが、不作為による差別として新たに提唱される、「合理的配慮の不提供」という差別類型である。「合理的配慮の不提供」については、詳しくは、Synodosジャーナルにおいて、国際人権法の川島聡先生が執筆なさっている「障害者差別解消法Q&A」のQ14以下をご覧頂きたい。

 

「社会モデル」的に障害を捉えれば、これまでの社会は、「非障害者」を標準として形成されていることから、文化、規範、建造物、慣習など、ありとあらゆるところで障害者の参加が阻害されている、と考える。そうすると、非障害者と同一の待遇を平等に保障するだけでは、非障害者の環境に順応できない障害者をかえって排除する結果になる。そこで、こうした社会参加への障壁を除去するためには、障害者側から、「合理的な別異の取扱」を求めることを権利として保障しなければならない。この、「合理的な別異の取扱」のことを「合理的配慮」というのである。

 

ただし、「合理的」とついている以上、不合理な配慮、つまり、配慮する側にとって求められる配慮が過重な負担となる場合は免責される。これを提供しないことも、障害者の社会参加を阻害するとして「差別」に当たるのである。

 

 

 

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