組体操、この先に必要な議論とは

年間8000件以上の負傷事故が発生し、重傷事故も相次ぐ組体操。「安全なのか危険なのか」、「実施か中止か」の二者択一の議論ではなく、これから先に議論すべき論点について、名古屋大学准教授の内田良氏、首都大学東京教授の木村草太氏と共に考える。2016年04月01日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「ココが変だよ日本の学校/第二弾・危険性が認知されはじめた組体操 この先、必要な議論とは?」より抄録。(構成/大谷佳名)

 

 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

組体操の事故率

 

荻上 今日のゲストをご紹介します。これまで組体操のリスクを指摘し続けてきた、学校リスク研究所主宰の名古屋大学准教授・内田良さんです。

 

内田 よろしくお願いします。

 

荻上 そして、学校での憲法問題にも関心を寄せる、首都大学東京教授の木村草太さんです。よろしくお願いします。

 

木村 よろしくお願いします。

 

荻上 内田さんがこの問題に注目され始めたのはいつごろからですか?

 

内田 2014年5月です。Twitterで何人かに方から組体操が危険だという連絡が来て、関心を持ち始めました。

 

そして、日本スポーツ振興センターが公表する、学校管理下におけるさまざまな事故のデータから独自に分析し、実際に組体操で多くの事故が起きていることを明らかにしました。

 

荻上 スポーツ振興センターのデータとはどのようなものだったのですか?

 

内田 たとえば体育の時間に骨折が何件ありました、図工の時間に怪我が何件ありましたとか、ただ数字が並んでいるだけです。4年ほど前から、組体操という項目も作られました。おそらく事故ケースが増えたからだと思います。この調査自体は随分前から行われています。というのも、保険業務を行っているからです。学校で骨折や怪我をした場合には、治療費がセンターの方から各家庭に戻ってきます。

 

荻上 組体操の問題を指摘しはじめて反響はいかがですか?

 

内田 マスコミのみなさんが啓発を続けてくださったおかげで、だいぶ居心地はよくなってきました(笑)。最初は批判ばかりで、教員の友達から「みんな内田の悪口を言っているよ」と聞かされることもありました。

 

荻上 組体操で年間8000件以上の事故が起きています。それだけ怪我をしている子どもがいるというのは大変な問題ですよね。

 

内田 はい。小学校では跳び箱やバスケに次いで怪我が多いです。しかも、組体操は学習指導要領に書かれていないので、わざわざ実施する必要もありません。

 

荻上 地域差もあるのでしょうか。

 

内田 関西や九州で、わりと巨大な組み方が多い気がします。ちなみに、そもそも組体操を実施していない学校や自治体も多くあります。組体操を行わない学校もあるなかで事故件数が非常に多いというのは、事故が起こる確率を考えるとかなり危険だと考えられます。

 

荻上 また、組体操をするのは小学校では5、6年生の児童だけだったりしますよね。

 

内田 そうです。跳び箱など他のスポーツはいろいろな学年でやっていて、組体操はそれよりも少ないのに事故件数は3番目にきているわけです。その意味でも、組体操の事故率は高いと推測されます。

 

木村 重たい事故の数も多いわけですよね。

 

内田 はい。高いところから落ちる、あるいは下敷きになるといった重大事故がたくさん起きています。

 

荻上 タワーやピラミッドを組むときに先生が横で補助しているから安全だという意見もあるようですが、下敷きになる子は助けられないですよね。

 

内田 その通りで、タワーもピラミッドもしばしば内側に崩れます。しかし、保護者の方が学校に問い合わせても、「去年より補助の先生を増やしました」と言われてしまう。保護者の方も詳しいことは分かりませんから、それなら仕方ないかなと引き下がるわけです。巨大組体操に対する批判が高まってきたにもかかわらず、学校は「安全だ」として巨大なものを続けてきました。だから文科省や自治体が上から動かざるを得なくなったのです。

 

 

「昔は怪我しなかった」?

 

荻上 リスナーから、こんなメールがきています。

 

「私が住む市でも組体操の三段タワーでの事故が多発し、市民が集まっているSNSのコミュニティーでも話題になりました。コミュニティーでは意外にも組体操中止に対する反発が多く、『昔はこんなので怪我をしなかった』、『中止する方向にだけ話を進めるのではなく、子どもたちの体力の問題を改善して、組体操を継続させる方向でも検討すべき』という意見がありました。」

 

「昔はこんな事故はなかった」という反発、これについていかがですか?

 

内田 そもそも、この10年でピラミッドやタワーを中心に組体操が巨大化してきたという背景があります。ピラミッドでいうと、最高で中学校だと10段、高校で11段、小学校でも9段で、小学校の場合、一番流行っているのは6、7段です。巨大化、あるいは低年齢化という点を踏まえなければいけません。もちろん、昔の組体操も危険なものはありました。今と昔の組み方って結構違っていて、昔は俵型といって四つん這いの上に重なっていく、おにぎりのような形が主流でした。それで4、5段を組んでいました。

 

荻上 私のころはそれでした。

 

内田 一方で今は、四つん這いになった子の後ろにまず立って、前の人の背中に手をのせる形で、単に上に高くなるだけでなくて後ろに大きくなっていく。より立体的に、本物のピラミッドに近い形になっています。

 

荻上 なるほど。さきほどのお話ですと、そもそも昔の組体操の事故のデータはないということでしたので、比較しようがないはずですよね。本当に「昔は怪我しなかった」と言えるのでしょうか。

 

内田 データについてはスポーツ振興センターが過去に集計した個別表をちゃんと残しておけば遡ることが可能ですが、僕たちが独自に調べることはできないです。ただ、過去がどうであっても今の時点で十分事故が起きていますので、過去のことを抜きにしても安全対策は必要です。

 

荻上 増えていようが減っていようが、怪我をした子にとってはただの痛みですからね。

 

内田 そうです。また、もう一つ「子ども体力の低下が問題だ」という議論もありますが、仮に低下しているのであればそれに合わせた競技をやるべきです。事故が多発しているのに、「体力の低下」と子どものせいにして問題に蓋をするのはよくないと思います。

 

荻上 子どもの体力に合わせてプログラムを変えるのではなくて、なんとしてもプログラムを実行するために体力をつけてもらおうというのは、子どもより組体操が大事だと言っているように聞こえますね。

 

木村 今のメールでもそうですが、組体操の危険性について指摘した場合に、こうすれば安全だという反論はされていない。「昔からやっているから」とか「感動するから」とか別のことを言い出して、危険を無視しようとするものが非常に多いです。安全にやる方法について議論されることは少ないですよね。

 

荻上 そうですね。メールには続きがありまして、「昔、上半身裸でやらされたのが恥ずかしかった」という意見も出たそうです。裸だとより怪我をしやすい状態になってしまいますよね。

 

内田 怪我の問題を抜きにしても、裸になるのはやめてもらいたいですね。

 

荻上 別の方からもこんなメールが届いています。

 

「中学生のとき上半身裸で組体操をやりました。私は下から二段目だったのですが、下になった生徒の背中が汗でかなり滑りやすく、何度やっても崩れてしまい、上級生から辛辣なブーイングを受けました。結局、先生からもダメ出しされてしまい、他の人に代わるように言われ、私は一段上になることで事なきを得ました。そもそもなぜ裸でやらなくてはいけないのか、最後まで疑問でした。ちゃんと体操着を着ていれば他人の汗だくの背中の上で耐える必要もなかったのに……。」

 

内田 そもそもなぜ裸なのかという点が大事ですよね。実は体操服を着ることによるリスクもあります。体操服の襟元に足がひっかかったり、落ちるときに他の人の服をつかんで一緒に崩れてしまったり。でも、本来ならば体操服を着て安全にやるにはどうすれば良いかを考えなくてはいけませんよね。なのに、まず裸が前提になってしまっている。

 

荻上 「裸でやるのが伝統だから」とか、合理的な説明がないままに対応がなされてきたケースも多いでしょうね。

 

 

なぜ「ピラミッド」や「タワー」にこだわるのか

 

荻上 つづけて、二通目のメールです。

 

「千葉県内の幾つかの自治体で組体操が中止になりましたが、私が住んでいる地域の公立学校が組体操についてどのような対応をとろうとしているのか、市のホームページを見ても分かりません。組体操だけでなく他のスポーツでも重大事故が起きているようなので、体育科目全般においてどのような指導が適切なのか議論が必要と感じます。」

 

内田 最近、文科省や自治体が状況の改善に動いているという報道が増えました。でも具体的に動いている自治体は、一握りだけです。ほとんどの自治体が動いていません。ということは、各学校に教育委員会から通知が来るわけでもなく、学校現場に安全意識がない場合は例年通りのことを続けることになります。もちろん、独自の安全対策を行っている学校もありますが。

 

荻上 そもそも、なぜ組体操でなければいけないのでしょうか。協調性を育むことが目的なのであれば、僕はダンスやよさこい、演武などでも良いと思います。組体操の中でも一段の扇型など、より安全なものもあると思うのですが、なぜそれがダメなのか説明が出てこないですよね。

 

内田 どうしても巨大なものにこだわっている人が多いんですね。そんな中で今ようやく、他の種目に変える、あるいは低い段数のものを丁寧に組むという議論が出てきたところです。低い段数のものでもいい加減にやれば怪我が起きます。低い段数でも事故が多いことは文科省が出した通知文のデータでも示されています。

 

つまり、今まではおそらく巨大なものを目指して低い段数のものはササッと済まそうとしていたので、事故が起きていたのだと考えられます。でも今後は低いものを目標にして、一つ一つ時間をかけて丁寧に安全指導をしていく。いかに安全を最優先にして組体操をやるか、あるいは他の競技に変えるかということがいま最も重要な議論となっています。

 

荻上 なるほど。手間をしっかりかけていくことが必要になるわけですね。先生方にとってはダンスやよさこいは指導に手間がかかる印象がある一方、組体操の指導は楽そうな印象もあるかと思います。

 

内田 そうですね。ただ組体操って、たとえ低い段数のものでも体のどの部分に負荷がかかるかで全然痛みが違うんです。僕も最近はじめて体験したのですが、二段の組体操で四つん這いになった上に人が乗るとして、腰や腕の付け根など、軸になっているところに負荷がかかるとそれほど痛くないですが、軸のない背中の部分に乗られるとすごく痛いんです。たった二段でも、痛さを含めてきちんと指導していくことで安全は改善されますし、そこで学ぶことは非常に多いです。

 

荻上 安全指導と必ずセットでなければいけないことは確認しておきたいですね。

 

 

内田氏

内田氏

 

専門性のない指導のもとに

 

荻上 木村さんは過去の判例の中から組体操の事例を調べていらっしゃるということですが、組体操をめぐってはどのような裁判が行われてきたのでしょうか。

 

木村 組体操による事故は、学校事故の一種です。学校側は、大切な児童・生徒を預かっているのですから、彼らの安全に配慮すべき義務、「安全配慮義務」を負っています。学校での活動によって怪我をした、あるいは怪我の障害が残ってしまったという場合には、学校側が十分に安全に配慮しなかったのではないか、と責任が問われることになります。組体操による事故についても、安全配慮義務違反を主張して、損害賠償を請求する訴訟になります。

 

判例に共通して指摘されているのは、怪我が起きないような対策をきちんととっていたのかということです。組体操をする場合に、安全配慮義務を果たしたといえるためには、たとえば土台がぐらついたとき倒れないように掴まる何かが必要です。当たり前だと思うのですが、2メートルの高さのぐらつく土台に乗れと言われたら、手すりがないと嫌ですよね。でも組体操では手すりがない。では、どこに掴まるように準備していたのかと裁判所は問うているのですが、中には「首に掴まれと指導していた」と学校側が反論するケースもありました。

 

荻上 首に掴まると下の子を殺すことになりますよね。

 

木村 下の子にさっとしがみつけと指導するようですが、そんなことで十分に安全が確保されているとは言えません。安全配慮義務を果たすためには、足場を作らなければピラミッドを組めない、という結論になるかと思いますが、安全のことを本気で考えるなら当たり前ですよね。バスケットやサッカーなどの競技では、2メートルの高さから落ちることはまず考えられませんが、組体操では平気で起こります。それほどリスクのある競技なので、当然、校長や教育委員会がきちんと対策をとらなければ、安全配慮義務違反とされ、数百万円単位の賠償を請求されることもありえます。

 

荻上 訴えることができるのは怪我をした本人とその保護者でしょうか。

 

木村 一般的にはそうですが、理論的には差し止め訴訟もできると思います。このやり方は危険だからやらないでくれと、仮処分などさまざまな方法で簡易裁判所あるいは地方裁判所に訴えることは可能です。

 

もう一つ、判例を読んでいて気がついたことは、タワーやピラミッドなど高層化したものに注目が集まっていますが、低い段数のものでも大きな怪我人が出ています。たとえば、人の上に立って逆立ちしてくる人の足を掴むという組体操で倒れてしまい、女の子が前歯を全部折ってしまったという事故が起きています。組体操は、ピラミッドやタワーでなければ安全というものではありません。肩車をするだけでも相当危険です。

 

その判例が認定した事実関係によると、指導をした先生は、組体操の教則本を読んで、安易に異なる技を組み合わせたものをやらせてしまった。つまり、逆立ちしてくる子の足を受け止めるという技と、人の背中に乗って扇のように広がるという技を組み合わせて、人の背中の上に乗って逆立ちを受け止めるという技を考えてしまったと。ところが組み合わせたものはそれぞれの技よりもはるかに危険なものになっていて、そのことに先生が十分に気づけなかったと指摘されています。

 

荻上 それは雑技団の人がやっているやつですよね。

 

木村 この話から分かるのは、現場の先生の一人一人が組体操を安全に指導する技術や見識を持っているわけではないということです。組体操の議論をするときは伝統だなんだと言う前に、なぜそのやり方が安全だと言えるのかを問うていくべきだと思います。

 

荻上 部活動の議論でも同じことが言えますね。日本の部活動はなぜか義務扱いされる傾向が強いですが、指導する先生は嫌々ながら顧問になっているケースも多いですよね。組体操でも担任だから仕方なく指導している場合も多いと思います。スポーツが苦手な先生もたくさんいらっしゃるので、この構造そのものに問題がある気がしますよね。

 

内田 先生が素人であるのは悪いことではないのですが、市販されている本で、組体操の指導書ってたくさん出ているんですね。楽しそうな本が。その本を買ってきて、これならできるなと思ってやってしまうわけです。実際にこれまで出版されてきた本が安全のためにページを割いているかというと全然違います。さまざまな技を紹介していって、最後には巨大な技が待っているというものです。

 

何も専門性がない上に、そういったマニュアルを見て安易に巨大なものをやらせてしまう。低い段数のものなんて本当にサラっとやってしまって、そこでまた事故が起きるということが続いてきたわけです。ですから、先生の専門性という点も考えなければいけません。【次ページにつづく】

 

 

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