朝鮮学校「無償化」除外問題Q&A

朝鮮学校に対する「高校無償化」除外は、事態が一歩も進まないまま恒久化の様相を呈しつつあります。問題が長期化するにともなって、権威あるメディアによって正確な情報が共有される機会が減り、逆に巷間では、誤情報が修正されずに流布することが多くなってきたように思います。

 

そこで、本稿ではQ&A形式であらためて情報を整理したいと思います。朝鮮学校「無償化」除外問題を論じるにあたって参考にしていただければ幸いです。

 

せっかく情報を整理しようというのに言葉の使い方で混乱があってはなりませんので、はじめに4つ用語の整理をしておきます。

 

 

(1)いわゆる「高校無償化」は、後述する通り2つの事業からなっているのですが、その両方を含む制度全体を「高校無償化」と呼ぶことにします。

(2)朝鮮民主主義人民共和国のことは北朝鮮と表記します。

(3)朝鮮高級学校の略称は通常「朝高」ですが、文中ではやや視認性が悪いため「朝鮮学校」と略します。

(4)外国人学校、インターナショナルスクール、民族学校などを総称して「外国人学校など」とします。

 

 

Q1. 日本の私立高校でも無償にはならないのに、なぜ朝鮮学校だけ無償化が議論されているのか。

 

「高校無償化」に関しては、2010年2月からマスメディアなどで朝鮮学校だけが主な話題になってきたため、「日本の私立高校ですら無償化されないのに、なぜ朝鮮学校だけ無償化されるのか」と誤解する人もいるようです。しかし、事実はまったくの逆で、朝鮮学校だけが「高校無償化」の適用を2年以上ものあいだ留保され続けていることが問題になっているのです(経緯はQ5参照)。

 

ここで、いわゆる「高校無償化」がどのような制度なのか整理しておきましょう。

 

マスメディアでは「高校無償化」や「高校授業料無償化」と呼ばれていますが、正式名称を「公立高等学校の授業料無償化・高等学校等就学支援金制度」といいます。これは、(1)公立高校の生徒から授業料を徴収しない「授業料無償制」と、(2)私立高校などの生徒に公立高校の授業料相当分を「就学支援金」として助成する2つの制度からなっています。

 

つまり、実際に「無償」になるのは公立高校に通う生徒のみです。それ以外の私立高校などは一般に公立高校よりも授業料が高いので、生徒は就学支援金と授業料の差額分を在籍校に納付しなければなりません。

 

 

表1 学校の種別と「高校無償化」制度の関係

表1 学校の種別と「高校無償化」制度の関係

 

 

学校の種別と「高校無償化」制度の関係をまとめたのが表1です。外国人学校などが学校として認可されるときは、各種学校に分類されることになります(Q3参照)。ただし、「外国人学校など」と一口にいっても実態は多様ですので、「高校無償化」を適用するにあたって文部科学省令が定められ、以下の3種類が対象になると規定されました。

 

 

(イ)出身国の教育制度に沿った教育を日本で行っている「外国人学校」。例えば、ブラジル学校、韓国学校、中華学校、ドイツ学校、フランス学校などがこれに相当します。

(ロ)いろいろな国の子どもたちが在籍する「インターナショナルスクール」。どこかの国の教育制度に準拠しているわけではないので、文科省が指定した国際的教育評価団体から学校として認可されていることが支給の条件となります。

(ハ)高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして、文部科学大臣が指定したもの。いわば「その他」に当たります。ここには、(ロ)に漏れたインターナショナルスクールとコリア国際学園、そして朝鮮学校が含まれます。

 

 

以上の規定により、「各種学校」認可を受けている外国人学校などは、朝鮮学校を除いてすべて就学支援金の支給を受けています。文科省が公表した、就学支援金の対象となる外国人学校などの一覧が次のURLです。http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1307345.htm

 

なお、ここまでの説明から明らかなように、「他のインターナショナルスクールなどは無償化されないのに朝鮮学校だけ無償化を求めるのはおかしい」といった主張(例えば https://twitter.com/#!/FIFI_Egypt/statuses/179514161464750080)も、Q1と同様に間違っているということになります。事実は、「条件を満たした他の外国人学校などはすべて就学支援金が支給されている一方で、朝鮮学校だけが“慎重に審査している”という名目で長期間にわたって除外され続けている」、ということになります。

 

 

Q2.北朝鮮とは国交がなく朝鮮学校の教育内容を確認できないので、「高校無償化」の対象から外されているのではないか。

 

一時期そのような報道もありましたが、二つの意味で、事実と異なります。

 

第一に、日本と国交のない台湾系の中華学校2校は、現に就学支援金の支給を受けています。公式の外交関係がなくとも、「出身国の高校に相当する」ことを証明する書類のやり取りは可能なのです。したがって、国交の有無は「高校無償化」の適用と関係がありません。

 

第二に、そもそも朝鮮学校は「北朝鮮の高校に相当する」学校ではありません。というのも、北朝鮮の学校と朝鮮学校とでは教育制度が異なるからです。北朝鮮では、幼稚園が1年、小学校4年、中学校6年の計11年が義務教育です。一方、朝鮮学校は日本の教育制度に合わせて6-3制をとっています。したがって、たとえ北朝鮮政府と外交関係があったとしても、「朝鮮学校が北朝鮮の高校に相当する」ことを証明できるかどうか極めて微妙です。

 

Q1への回答で示した各種学校の3区分のうち、韓国学校が(イ)「外国人学校」に含まれていたのに対して、朝鮮学校が(ハ)「その他」とされたのも、そうした事情によるものだと考えられます。

 

ところで、なぜ朝鮮学校の教育制度が北朝鮮と異なっているのかといえば、朝鮮学校設立の経緯に理由があります。

 

在日コリアンは植民地支配によって奪われた言葉や名前やアイデンティティを取り戻すため、終戦直後から精力的に学校を設立しました。1948年に北朝鮮が建国される2年前の段階で、すでに小学校525校、中学校4校が設立されていました。それらが朝鮮学校のルーツです。

 

1950年代半ばからは北朝鮮風の教育を強めていきますが、それでも北朝鮮の教育制度に合わせるということはせず、逆に、日本で学習指導要領が改訂されるたびにカリキュラムを改正するなど、日本の教育と適合するよう歩調を合わせてきました。

 

いわば、朝鮮学校は「北朝鮮の学校」というより、北朝鮮に愛着とつながりを持ちつつ日本社会に根づいた「在日コリアンの学校」です。

 

 

 

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