ネット選挙運動が解禁されることで何が変わるのか ―― ネット選挙法Q&A

Q1 最近「ネット選挙法」という言葉をよく聞きますが、具体的にどのようなものですか?

 

じつは「ネット選挙法」といった類の法律はありません。日本の選挙については、「公職選挙法」という法律に、そのやり方や制限などが細かく定められていますが、インターネットは公職選挙法で配布が許されている「文書図画(ぶんしょとが)」のなかに含まれていないため、使用が制限されています。最近話題になっている「ネット選挙解禁」とは、この点を改め、インターネットを選挙でも使えるように、公職選挙法を改正することを言います。

 

 

Q2 インターネットを選挙で使えるようになると、何ができるようになるのでしょうか?

 

インターネットを使った「選挙運動」ができるようになります。「選挙運動」とは特定の選挙において、特定の候補者の当選を目的として行う運動のことです。これまで、公示日(地方選挙の場合、告示日)から投票日の前日までの選挙期間は、インターネットを使った選挙運動は禁止されていましたが、解禁によって、選挙運動でウェブもソーシャルメディアも使えるようになります。メールについては、執筆時点(2月26日)では、候補者と政党にだけ送信を認めるか(与党案)、有権者にも送信を認めるか(野党案)で対立があります。

 

与野党間で現時点で合意している点を、具体例で説明すると、下記のようなネット選挙運動ができるようになります。

 

・候補者がブログやソーシャルメディアで、支持を訴える。

・有権者がtwitterで、特定の候補者への投票を求める投稿をする。

・演説をUstream中継する。

・候補者や政党が投票を求めるメールを送信する。

・政党がバナー広告を掲載する。

 

 

Q3 現在の選挙運動ではどんな活動が認められているのですか? また、何が禁止されているのでしょうか?

 

公職選挙法は「べからず法」とも呼ばれるぐらい、選挙のやり方を制限しています。「ほとんど禁止だけど、例外的にいつかの方法だけ許される」と考えた方が良いでしょう。

 

選挙運動は「文書図画による選挙運動」と「言論による選挙運動」があります。文書図画については、頒布(はんぷ:不特定多数に配ること)が許されているものは、葉書、ビラ、政策についてのパンフレットに限られています。しかも葉書、ビラについては枚数まで細かく定められています。たとえば衆議院の小選挙区では、ハガキは3万5千枚、ビラについては7万枚、候補者は使用することができます。ただし、認められる手段を行うのであれば、手厚い公費による補助が受けられます。法定ハガキは無料で送ることができ、ビラについても製作費の補助が出ます。ただし、一枚一枚に選挙管理委員会の発行する証紙を貼らなければならないので、大変な作業です。

 

掲示が許される文書図画は、ポスターだけです。こちらも掲示できる場所と枚数が限られていて、公費負担制度があります。

 

「言論による選挙運動」については、街頭演説、演説会、選挙運動用自動車(いわゆる選挙カー)、政見放送の使用に限られています。戸別訪問は認められていませんし、演説の場所も時間も、限られています。こちらにも公費負担制度があり、選挙カーについていうと、自動車レンタル代からガソリン代、運転手代まで出ます。

 

ただし、自由にできる選挙運動もあります。それは電話による投票依頼です。日中家にいると、投票依頼の電話が頻繁にかかってくるのはこのためです。

 

 

Q4 現在認められている選挙運動のみでは何が問題なのでしょうか?

 

公職選挙法は、昭和25年につくられた法律であり、その時点から大きく見直されていないため、有権者の生活スタイルに必ずしも対応できていません。とくに、日中自宅にいないサラリーマンが、候補者の情報を得る手段は、非常に限られています。現在の公職選挙法は、公正な選挙に重きを置きすぎ、有権者の利便性という視点に欠けていると言わざるをえません。型どおりのハガキやビラ、あるいは連呼といった現在の選挙運動では、本当に有権者が知りたい情報について聞いたり、いま起こっている身近な問題について、候補者の意見を比べたりすることは難しいはずです。

 

選挙運動に多くの人々が不満を抱いているはずです。にもかかわらず、そうした選挙手法が多額の公費により支えられているのです。

 

 

Q5 ネット選挙運動が解禁されることによるメリットは何ですか?

 

最大のメリットは、有権者と候補者が選挙期間中も直接、双方向にコミュニケーションを取ることができることです。これまでは直接会うか、もしくはメディアを介してでしか、有権者と候補者はつながることができませんでした。時間・場所の制約は大きく、とくに地方議会議員選挙のように、メディアにあまり情報が出ていない選挙になると、有権者にとってはなかなか候補者の詳しい情報が得られず、候補者にとっては自らの政策・想いを有権者に伝えにくい状況がありました。

 

ネット選挙運動が解禁されることで、有権者は選挙期間中でも、候補者がどのような選挙運動をしているのか知り、ウェブサイトやSNSを通じて直接メッセージを受け取ることができます、また、候補者に質問や疑問を投げかけることが可能となるのです。候補者も、有権者のニーズや想いを収集することができます。

 

選挙期間は、有権者がもっとも選挙に関心を向ける時期のひとつです。この時期に、ネットを通じて、有権者と候補者、あるいは友人同士が気軽に議論する環境ができることで、人々の政治に対する関心を高め、有権者の足を投票所に向けさせることにつながるかもしれません。

 

ネットは「使い方」次第です。すでに地盤・看板・カバンという「三バン」がなくても、ネットを巧みに使って、当選する若い議員も出てきました。ネットを使って情報を発信することは、それだけ候補者や議員の「情報発信力」あるいは「コミュニケーション力」を磨くことにもつながります。いままで後援会を通じてしか顔を向けてこなかった政治家の行動も変えていくことになるかもしれません。

 

候補者本人にとっても大きなメリットがあります。たとえば選挙期間中に、マスメディアで事実と異なる報道がされてしまったら、ネットが使えないいまの状況だと、候補者はこれに対抗しうる反論の手段を持っていませんでした。ネットであろうがなかろうが、根も葉もない誹謗中傷が飛び交うことは選挙期間中、日常茶飯事です。そんなとき候補者にとってネット、とくにソーシャルメディアは大きな反論の手段となるはずです。

 

また、ネット選挙が解禁されようがされまいが、もうすでに、政治家の「なりすまし」のアカウントもあるし、巨大掲示板には根も葉もないことも書かれていることもあるでしょう。今回のネット選挙解禁法案によって、なりすましや誹謗中傷に対しては、罰則を含む対策が取られることになります。掲示板にかかれた誹謗中傷も、これまでより迅速に削除がされやすくなります。

 

 

 

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