ホールボディーカウンター ―― 調べてわかった被ばくの現状

東京電力福島第一原子力発電所の事故で、福島県民は絶えず「放射線への不安」を抱えながら生きてゆくことを余儀なくされました。そして、事故から1年4ヵ月。様々な調査がなされ、少しずつ被ばくの現状が見えてきました。データから読み解く被ばくの現状と福島で暮らす上でのヒントや注意点などを、3人のスペシャリストに伺いました。(ラジオ福島HPより)(構成/金子昂)

 

 

自己紹介

 

―― 去年の3月に東京電力福島第一原子力発電所で事故が発生しました。あの瞬間から、福島県民は放射線、放射能と共存して生きていかなくてはいけなくなりました。そのためにも私たちは放射線や放射能についてきっちり理解して、これからを考えていかなくてはいけません。

 

そこで「ホールボディーカウンター~調べてわかった被ばくの現状」と題して、東京大学大学院教授の早野龍五さん、東京大学医科学研究所、医師の坪倉正治さん、毎日新聞の斗ケ沢秀俊さんをお招きして、放射線、放射能について学んでいきたいと思います。

 

最初に早野先生のご専門分野についてお伺いしたいと思います。様々なメディアにご登場されている早野先生ですが、意外なことに、もともとホールボディーカウンターをずっと研究されてきたわけではないそうです。本来の早野先生のご専門についてお話ください。

 

早野 専門は実験物理学です。以前ヒッグス粒子発見のニュースで話題になったCERN研究所の実験室で、20年近く反物質に関する研究をしています。研究のためには、放射線機器や測定の知識や技術は必要なのですが、実は今日のテーマでもあるホールボディーカウンターは、去年の11月末まで実際に見たことはありませんでした。

 

11月の最初に坪倉先生から尿検査に関するメールをいただいて、翌日に東京でお会いし、ホールボディーカウンターや南相馬市の様々な問題について夜中までお話をしました。11月末には、坪倉先生に相馬市と南相馬市をご案内していただき、南相馬市立総合病院の院長先生をはじめ、医師や技師の方々とお会いし、実際にホールボディーカウンターのデータを見せていただいたんです。それ以来、ホールボディーカウンターとの長い付き合いが始まりました。

 

 

―― ありがとうございます。では早野先生がホールボディーカウンターと付き合うきっかけとなったメールを送った坪倉先生の専門についてお話ください。

 

坪倉 僕はもともと血液内科医です。去年の三月の終わりまで、がんセンターである駒込病院に勤務し、白血病やリンパ腫といったご病気の方へ骨髄移植や抗がん剤治療をしていました。

 

南相馬市には4月10日あたりに初めて行きました。南相馬市を選んだ特別な理由はありません。僕はいま30歳で、とても使い勝手のよい世代なんです。ですから「当直に行ってこい」とか「救急をみてこい」といった指示をよく受けます。震災発生後、僕らの世代はたびたび岩手や宮城、福島に派遣されていました。僕も一回は被災地に行きたいと思っていたので、研究室で「南相馬市の状況を見に行こう」という話があがったときに自ら希望して南相馬市に行きました。

 

 

―― 最後に斗ケ沢さんにお願いいたします。

 

斗ケ沢 私は2005年から07年まで福島支局長を務め、現在は水と緑の地球環境本部長をしています。これは環境活動を自分たちで実践しようということで、もったいないキャンペーンや植樹などをしています。

 

 

ホールボディーカウンターとは

 

―― まずはホールボディーカウンターについてお話いただきたいと思います。早野先生は南相馬市立総合病院のホールボディーカウンターの検査にどのような形で関わってこられたのでしょうか。

 

早野 ホールボディーカウンターは体内の放射性セシウムが出すガンマ線を測って、内部被ばくがあるかどうかを検査する装置ですが、しっかり遮蔽されていないと、空間のガンマ線も測定してしまいます。ホールボディーカウンターと原理を同じくする食品検査器は簡単に遮蔽できる一方、ホールボディーカウンターは遮蔽のために大掛かりな装置が必要となります。福島県内には、ほとんど遮蔽されずに運用されていたホールボディーカウンターがありました。そしてそのホールボディーカウンターで、貴重なデータを取っていたことが多々あります。私は、そのデータを可能な限り正確なデータに直すための解析をしてきました。また坪倉先生や他の先生から、データをいただいて「しっかりと測定できているか」「データにはどんな特徴があるか」といった質問にお答えしてきました。

 

 

―― ホールボディーカウンターを使った検査はどのようなもので、検査結果はどのような数値で出るのでしょうか。

 

坪倉 遮蔽された、少し狭い空間に入っていただいて、検査器の前に2分間立っていただくと、結果が出るようになっています。検査結果は、スペクトルと呼ばれる波のデータで、カリウムやセシウムが何ベクレルあるか、数値がでるようになっています。

 

南相馬市立総合病院の場合、検査結果は検査の2週間後に紙で通知しています。その際、いろいろと不明な点があるかと思いますので、常に外来をあけて相談を受けています。去年の暮は予約でいっぱいでしたが、いまは以前に比べたらぐっと減ってきています。

 

 

―― 皆さん、どのような相談をされるのですか。

 

坪倉 具体的な生活のアドバイスを求められることが多く、「2ミリシーベルト受けると、がんのリスクがうんたらかんたら」という話はあまりされません。例えば「布団を干していいのか」「蛇口から出てくる水を飲んでいいのか」「どの種類の野菜を食べていいのか」といった質問ですね。あと「旧警戒区域を走った車の整備をしているのだが、どんな作業はしていいのか」といった相談を受けたこともあります。やはり皆さん、生活を続けていく必要がありますから、そのためにどうすればよいのかを気にされているようです。

 

簡単に「大丈夫だ」「危険だ」と答えることはできません。人によってリスクが異なります。そして1回の検査で全てがわかるわけではありません。ですから「この食べ物は食べないほうがいい」とお話することもあれば、「今の検査結果だけではわからないから、継続的に検査を行って数値を確認していきましょう」とお話することもあります。

 

 

―― ホールボディーカウンターには、検査しやすい人、しにくい人はあるのですか。

 

早野 大ざっぱに言いますと、子どもは測りにくいです。

 

ホールボディーカウンターは原発作業員が1日の作業を終えた後に短時間で検査できるように作られた装置です。そのため150センチメートルから190センチメートルの範囲であれば誤差15%くらいの精度で測れるように設計されています。ですから身長が1メートルくらいのお子さんや背の低い方を測るのには不向きな構造なんですね。

 

子どもが測りにくい理由はもう一つあります。例えばいま、食事が原因で内部被ばくしている家族がいるとしましょう。子どもは体内にはいったセシウムを大人よりも早くおしっこで排出します。いま内部被ばくしていると判断する数値は、大ざっぱに、全身で300ベクレルくらいです。この値ですと、子どもが1日10ベクレル食べていると、ぎりぎり300ベクレル検出される程度ですが、大人が1日10ベクレル食べた場合、1400ベクレルくらい検出されます。更に子どもは大人に比べて食べる量が少ないので、検出が一層難しくなります。

 

坪倉 やはりお子さんを検査したいという親御さんが多くいます。子どもを検査することはもちろん大切です。しかし、実は1、2歳の子どもの内部被ばくを測るには、お母さんを測らせていくほうが現実的な運用としてベストなんです。

 

同じ地域でも、ある家族は全員検出されて、違う家族はまったく検出されないことが頻繁にあります。これは内部被ばくが、地域単位ではなく家族単位で起きているということです。地域の線量ではなくて、ご家庭の食生活に強く依存しているんです。ですから、測定しにくいお子さんを測るより、同じ食事をとっている、測定しやすいお母さんを検査するほうが現実的なんです。

 

早野 もちろん、最初からお子さんを測らなかったわけではありません。

 

人体には必ず、放射線を出すカリウム40という物質があります。病院の託児所のお子さんをお借りして、踏み台やチャイルドシートなどに乗っていただいて、ホールボディーカウンターでカリウム40を検出できるか、一生懸命試行錯誤しました。その上で、やはり親子セットで検査するほうが、よほど効率いいという結論となったのです。

 

 

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