2014.02.28
山梨県の大雪災害を山梨日日新聞から読み解く
本稿では筆者が甲府で経験した大雪について、実際に何が問題になり、事態がどのように推移していったのか、自らの経験と地元新聞の一面記事の見出しを使って、皆さんにご紹介したい。本稿をとりまとめた2月25日現在、山梨県は災害対策本部体制にあり、現在も災害は継続している。現時点でとりまとめたものであることをご了承いただきたい(2月28日13時追記:2月28日9時、県は災害対策本部を解散し、豪雪災害復旧対策本部を新たに設置しました)。
今回の災害は、すでに多方面で指摘されているが、「普段積雪の少ない地域」において、歴史的、記録的な大雪となったということに尽きるだろう。冬の山梨というと、冠雪した富士山や白銀の南アルプスに代表されるように、雪のイメージを持つ人が少なくないだろう。かくいう筆者も、山梨に赴任する前は雪のイメージがあった。しかし、都道府県別の年間日照時間は1位(2010年)となっており、山間部を除いて晴天の日が非常に多い積雪の少ない地域なのである。
一般に、災害とは素因と誘因[*1]により説明される。誘因とは、地震、津波や豪雨、今回のような大雪など、災害を引き起こす自然現象のことである。そして素因とは地域社会のことを意味し、地形や地質といった自然素因と、人間社会を意味する社会素因により構成される。
日本海側の豪雪地帯であれば、甲府の114cmや河口湖143cmの積雪があったとしても、これほどの被害や混乱は生じなかったであろう。なぜなら、豊富な除雪車と道路には消雪パイプやロードヒーティング、流雪溝といったハード対策と、除雪技術を有する作業員と豪雪のための防災計画、マニュアルといったソフト対策が整備されているからである。さらに、地域住民も普段から豪雪への備えを行っており、積雪時の対応についても習熟している。つまり、災害は降雨や降雪といった誘因だけで決定されるのではなく、素因である地域社会がどれだけ誘因に対して脆弱なのかと密接に関わっているのである。わずか数cmの積雪で、東京近郊の交通網は麻痺し、大雪との報道がなされるのはそのためである。
[*1]素因を脆弱性、誘因をハザードとして説明されることもある。
当方の経験とローカル新聞の見出しから見る大雪の影響の多様さ
まずどれだけの積雪があったのか見てみよう。
図1は、2月7日~2月25日にかけての、甲府アメダスにおける1時間降雪量と積雪量を示している。2月14日から降り続いた大雪のため、2月15日に114cmを記録し、1894年からの観測史上最大の積雪量となった。
実は今回の大雪の1週間前にも、甲府では大雪があった。2月8日未明からの降雪で、甲府は最大積雪量43cmと2月としては観測史上3番目を記録した。筆者も2月8日(土)、9日(日)は、住民総出で雪かきに追われた。
表1は、山梨日日新聞朝刊の一面記事の見出しと一面に占める大雪関連記事の比率[*2]を整理したものである。2月9日の見出しから、2月8日の甲府で41cmの積雪があったことや、大雪により交通網が終日乱れたことがわかる。
翌10日の見出しは、「大雪後遺症 生活に打撃 交通まひ、事故・けが人続出、休校」となっており、県内各地で大きな影響があった。実際、県内の物流は滞り、コンビニエンスストアの陳列棚からは商品が消えた。また、住民の多くがスコップやスノープッシャーといった雪かき道具を買い求めたため、ホームセンターではこれらの商品が直ぐに無くなった。この2日間の朝刊に占める大雪関連記事の比率は、それぞれ全体の52%、58%となっており、大雪はトップ記事として報じられた。
この経験から、食料の備蓄や除雪道具を買いそろえた人も少なくなかったと思う。2月14日には一面から雪関連記事はゼロになり、一面で報じるべき雪の影響はなくなったことがわかる。もちろん、これは雪の影響が完全になくなったことを意味しない。同日の社会面には、「大雪予報に「またか」 県内スコップ完売/置き場に苦心 道路除雪予算が不足」との見出しで、14日未明から15日かけての降雪に見舞われる予報と、雪にうんざりする県民の声が報じられた。筆者自身、「また、雪かきか」という思いだった。甲府気象台からは、「重い雪、先週よりも積もる恐れ 農業施設に警戒促す」と、次第に雨に変わる見通しとの表現とともに警戒の呼びかけを行った。
[*2]コラムと広告を除いた一面紙面の面積に対する、大雪関連記事の面積の比率を算出した。
こうして2月14日(金)を迎えることとなった。注目してもらいたいのは、積雪深がゼロにならないまま、降雪を迎えたことである。至る所で雪が残っていたし、山間部には多くの残雪があった。そして、未明から降り続いた雪は、明らかに先週以上のペースでみるみる積もっていった。
筆者は大学で勤務していたが、異常な降雪から正午過ぎには帰宅指示が出た(写真1)。もちろんこのような指示は初めてのことである。このあたりから大雪に関する情報収集を開始した。午後18時には積雪量は既往最大の49cmに達した(写真2)。若干アングルがかわっているためわかりにくいかもしれないが、4時間の間に正面の階段は見えなくなり、軽自動車も雪に覆われている。
このような状況であったが、テレビでは雪のことはほとんど報じられなかった。一方、Twitterでは大雪のため立ち往生する自動車の写真を目にするようになり、とくに国道20号の渋滞により中央道大月ICから出られなくなった車両が数珠つなぎになった写真は、強烈なインパクトがあった。甲府市古関町では雪崩により4台の自動車が巻き込まれ、自衛隊への災害派遣の要請、中央線の不通、精進湖周辺のホテルの孤立といった情報がどんどん流れてきた。異常な事態が刻々と進行している。そんな意識を持った。
普段は災害情報の収集に役立つテレビも、このときはソチオリンピック一色で、なかなか状況がつかめなかった。大災害の時には自分の見える範囲のことしかわからなくなると言われるが、まさにそのような状況にあった。「今何が起こっているのか」を判断することができる情報が、流通していたメディアは、Twitterのみであった。すでに被害を伝える写真が多数リツイートされていたし、国道を管轄する国土交通省甲府河川国道事務所@mlit_kofuのアカウントからは、14日13時40分に国道20号甲州市大和町鶴瀬地先でスタック車両の発生が報じられ[*3]、立ち往生したドライバー向けに20号沿線で開設された避難所の情報提供がなされた。
いくつかリツイートされた被害情報の中で、NAVERまとめ「記録的降雪で交通遮断、陸の孤島となった山梨県各地の様子」は秀逸だった。県内の被害ツイートがまとめられ、多くのネット住人達が、山梨県の被害に気がつき始めた。
こうして2月14日未明から降り続いた雪は、翌15日9時まで続き、観測史上最大の114cmに到達した。そのときの自宅前の駐車場が写真3である。降雪のほとんどない地域で生まれ育った私には、積雪量に呆然とした。甲府盆地でこれだけの量であれば、山間部では一体どれくらい降ったのか。駐車場の雪かきは近所の人たち総出で行ったが、自動車が通ることができる最低限の共有スペースの確保に、丸二日かかることとなった。
2月17日の見出しは、「県境途絶「陸の孤島」」であり、紙面の比率も87%に達した。山梨県は面積の8割が山岳部であり、大地震の際には県全域が陸の孤島となる危険性を、筆者が所属する山梨大学地域防災・マネジメント研究センターでとりまとめていた[*4]。東海地震等の巨大地震を想定したものであったが、図らずも大雪に対して非常に脆弱であることが露呈した。
16日午後、県防災危機管理課を筆者は訪問し、職員の方々と簡単な意見交換をさせていただいた。15日、16日にかけては、立ち往生したドライバーの安否と、孤立した地域からの救助が主な対応ということであった。同課職員の多くは参集し、14日から不眠不休で対応していたが、被害に関する情報は県にほとんど集まっていなかった。その後、県が災害対策本部を設置したのは、週明け17日(月)の朝であった。
18日の見出しは、「13市町村 1800世帯孤立」と孤立集落が大きな問題として取り上げられた。17日23時には、中央道の通行止めが解除されチェーン規制となり、18日から物流が回復し始めた。同時に甲府⇔新宿間の高速バスや中央線の一部も運転を再開、公共交通機関も続々と回復し始めた。その結果、19日の「県内「陸の孤島」は解消」との見出しにつながる。18日、19日は、全面が雪関連となった。
20日の見出しは、「集落孤立 まだ519世帯」と集落の孤立化が依然として解決していないことや、「県、問われる危機管理」と県の初動対応が批判されるようになった。21日は、外部から調査に入った雪氷の専門家の現地調査から、全県で雪崩の危険があることが報道され、翌22日「雪崩 各地で警戒」の見出しになった。
25日現在、全県で雪崩注意報が発表されたままであり、雪崩による二次災害防止は大きな課題となっている。孤立集落については一部を除きほとんどが解消されている他、中央道の復旧から徐々に物流も回復し、平常時に戻りつつある。一方、農業被害は大変深刻なため、「ハウス再建費 3割助成 国が雪害支援策」、「5年間、無利子融資」と支援内容が話題となっている。
山中湖では依然として積雪が1mを超えており、除雪はまだまだこれからである。いくつかの市町村で雪害ボランティアの派遣・受け入れが行われている。詳しくは、県ホームページをご覧いただきたい。
以上、事態の推移について私の経験を交えながら地元新聞の一面記事を元に紹介した。誘因は、14日未明から15日9時までの降雪であるが、25日現在においても県内に多くの影響を依然として及ぼしている。図2に示されるように、積雪量は気温上昇に伴って順調に減少しているものの、大雪関連記事は80%を占めており事態の収束には至っていない。
[*3]https://twitter.com/mlit_kofu/status/434189650509328384/photo/1
[*4]2011年5月30日プレスリリース資料にて、巨大地震が発生した場合の危険性として、甲府盆地の孤立を指摘し、県の孤立を想定した防災計画の策定を提言している。
今回の大雪での課題
今回の大雪では、災害情報収集ツールとしてのTwitterの有効性について再確認した。大雪となった14日から15日にかけては、山梨県内の積雪被害について多くの既存メディアによる報道がない中、筆者の知りたい情報が流通していたのはTwitterのみであった。Twitterの即時性、速報性、拡散性を改めて実感した。テレビについては、速報性とともに報道態勢について課題が示されたと言えるだろう[*5]。
以下に、筆者が感じた課題を3点挙げてみたい。
(1) 普段積雪の少ない地域における記録的大雪の影響
今回の大雪により、甲府は120年間の統計で既往最大49cmを大幅に上回る114cmを記録した。地域の公助・共助・自助のあらゆるレベルにおいて、ハード・ソフトの備えが不足していた。除雪車からスコップに至る除雪のための機材が不足したし、スノーモービル等の移動手段も備えられていなかった。また、建築設計における構造計算上の積雪荷重は、甲府では50〜65cmであり、設計荷重を大きく上回る積雪であった。一方、県や市町村の多くは雪害の防災計画が準備されておらず、初動の情報収集に時間を要した。住民も除雪機材や雪用の長靴を持っていない人が少なくなかった。
24日の甲府市防災行政無線では,住民に対して「路上の凍結の恐れがあるため歩道の雪を道路に捨てないよう」注意のアナウンスがなされていた。地域に雪捨て場がほとんど無く、住民の多くが路上に捨てた結果、路面の凍結に加えて、側溝が雪で詰まったり、車線の半分が雪でふさがれ渋滞を引き起こすなど、大きな問題となった。豪雪地帯には当たり前にある、備えやノウハウがなかったことが、被害を拡大させたと言えるだろう。
改めて図1の積雪量のグラフを見てもらいたい。2月8日と15日の最大積雪量からの推移の形状が似通っている、すなわち相似形になっていることに気がつかれるだろう。一方、図2から一面の記事の比率は社会的影響を表しているとすると、8日の大雪の影響は3日後には収束しているにもかかわらず、14日の大雪の影響は25日80%と、依然として収束していないことが見えてくる。積雪量が既往最大を大きく超えたことが、社会的な影響を深刻にし、拡大、長期化させたと言えるだろう。
また、今回の記録的な大雪に対して、公的機関から一般住民やドライバーに対する情報提供については、多くの課題があった。実際にどのような社会的影響が発生し、どのような災害情報ニーズがあったのか、事実関係を明らかにすることが非常に重要である.その上で、防災関係機関がどういった対応が出来得たか、どのような災害情報の提供が可能かについて,議論する必要があるだろう。事態の収束後、調査を行う予定である。
(2)大雪特別警報
今回大雪特別警報は発表されなかったが、大雪特別警報に必要な3つの要件(府県程度の広がり、50年に1度と言える積雪深、その後も警報級の降雪が丸一日程度以上続く)の3つめの要件を満足しなかったためとされている。しかし、14日18時に既往最大を記録した時点が、1つのポイントだったのではないだろうか。複数の気象の専門家に尋ねたが、「1週間前の積雪も残っている中で、既往最大の積雪深を記録した。この段階で、2~3日程度では溶けないのは容易に予測できる」との回答だった。
もう1点気になっているのは、「今、危機が起こっている」というアラートを誰がだすべきだったのかという視点だ。正常性バイアスと呼ばれるように、人は危機に遭遇しても、危機を実感することが難しい。だからこそ、「今がそのときですよ」ということを宣言することは有効だ。防災機関の危機管理については、今後しっかりとした検証が求められる。
(3) 安全管理とコスト
物流の途絶から、コンビニやスーパーの陳列棚からは商品が消えた(写真4)が、流通業者の多くは在庫を持たないジャストインタイム方式を採用している。余剰在庫を持てば今回のようなケースにおいても、商品の供給に余裕があるかもしれないが、そのコストが価格に転嫁されることを消費者の多くは納得しないだろう。
一方で、自治体が食料の備蓄を行うことも、税金が使用されるという意味において本質的には何も変わらない。大雪で一番問題となる除雪業務についても課題が指摘されている。公共事業が削減される中で、地元建設業者に依頼されている除雪業務が、不安定な支払い条件や除雪機械の維持管理費の負担増[*6]から、除雪体制の維持は困難になることが予想されている。
やはり、今後求められるのは、「安全管理にはコストがかかる」というコンセンサスの形成ではなかろうか。対策の中には行政に任せるよりも、各個人が普段から備えを行った方が、効果的でコストも低い場合も少なくないだろう。大規模災害時には県全体が孤立する本県では、10日分の備蓄を目標に、各家庭における備えの推進が必要であろう。
[*5]情報デザインが専門の首都大学東京の渡邉英徳氏@hwtnv 2月16日「NHKのディレクターや記者のかたによると「画」が撮れなければニュースにできない、と。現地にカメラが入れない状況では報道できない。つまりはネットで補完するしかない」とツイートしている(https://twitter.com/hwtnv/status/435178725856919552)。
[*6]社団法人全国建設業協会除雪業務に関する検討WG:積雪地域の安定的・継続的な除雪体制の確保に向けて,2010
おわりに
雪に慣れていない筆者が一番驚いたことは、雪はなかなか解けないという事実だ。だからこそ、大雪の影響は長期化するということでもある。一方で、すでに公共交通機関は復旧し平常に戻りつつあるものの、旅館やホテルでは相次ぐキャンセルに悲鳴の声が上がっている。山梨は、新宿から特急あずさで甲府・石和温泉まで90分、大月まで60分の距離にある。こういう時だからこそ、雪かきボランティアはもとより、温泉や観光目的にお越しいただくことが、何よりの被災地貢献につながる。お越しいただければ大変幸いである。
本稿では一面記事に限定した分析を行ったが、社会面の分析も並行して進めている。こちらについては、別稿に譲りたい。
プロフィール
秦康範
兵庫県出身。1972年生。山梨大学地域防災・マネジメント研究センター准教授。東京大学大学院工学系研究科社会基盤工学専攻博士課程修了。人と防災未来センター、防災科学技術研究所、東京大学生産技術研究所を経て現職。博士(工学)。専門は社会安全システム・災害情報。最近の関心は、持続的な地域の安全安心活動の推進と、長期的な災害リスクの低減。