日本の内部告発が変わる!?――「内部告発.jp」の挑戦

匿名で報道機関などに通報できる、日本初の内部告発サイト「内部告発.jp」が始動へ。内部告発の意義と課題とは何か? TBSラジオ 荻上チキSession-22「内部告発」より抄録。(構成/今西亮太)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

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内部告発サイトとは?

 

荻上 今夜のゲストをご紹介いたします。内部告発サイトの設立者で駿河台大学専任講師の八田真行さん。ハクティビズムに詳しい、学習院大学非常勤講師の塚越健司さんです。今日は、よろしくお願いします。

 

まず、八田さんにお聞きしたいと思います。「内部告発.jp」を立ち上げようと思ったのは、いつ頃なのでしょうか。

 

八田 実際に手をつけたのは2014年の春ぐらいじゃないかと思います。

 

荻上 一年足らずで実際に動き出すところまで作るのは可能なんですね。

 

八田 僕が一から作ったわけではなく、既存のソフトウェアを使っているので、それほど大変なことではないんです。

 

基本的にこのサイトを構成しているプログラムは、二種類あります。一つは“Tor”(トーア)と呼ばれるもので、簡単に言うと、どこかのサイトにアクセスするときに、そのアクセスを匿名化し、他の所からアクセスされているように見せかけるという仕組みのソフトです。

 

もう一つは、「グローバリークス」という、Tor経由で受けたリークのデータを、登録したジャーナリストの受信者に送るという仕組みのソフトです。

 

この二つのソフトに関しては2009年ぐらいから興味があったんですが、2013年から2014年にかけてニューヨーカーやフォーブズ、ワシントンポストといった海外の大手マスメディアが同種のサイトを始めたので、私たちもやってみようと思いました。

 

荻上 Torはパソコンの遠隔操作事件の際も随分と話題になりましたね。

 

八田 そうなんです。やろうと思えば、悪用することも可能なプログラムですからね。日本では悪用されたイメージが強くて、良い印象がTorにありません。今回の試みによって、社会の利益になる使い方もあるんだと示したい、という思いもあります。

 

塚越 もともとTorというのは、独裁国家で活動を制限されたり監視されたりしているジャーナリストや活動家の人々が、身元を隠して通信をするためにも使われている技術ですからね。その意味で、Torは悪用もできるけど、言論の自由を守るための道具にもなるんだ、ということが重要だと思います。

 

荻上 15人程度のジャーナリストと準備を進めているということですが、リークされた情報が届くと、記者の方がそれを検証した上で記事にする、という流れになるんですよね?

 

八田 はい、そういう流れを想定しています。サイト側はリークの内容には触れず、リークは記者に直接送られます。リーク内容は受信者にしか解読できないように、暗号化されて送られるので、他の人には分からない、ということになります。

 

荻上 リークの送り先は公表されるんですか?

 

八田 公表されます。日本の大手マスメディアの方々には、一社を除き、何らかの関心を示していただいていているんですが、実際の受信者になっていただける方がどれくらい居るかのかは未定です。

 

荻上 リークする人は、情報の送り先を選べるのでしょうか。

 

八田 はい、選ぶことができます。受信者は「金融」や「政治」など分野を指定して登録できます。なので、例えば「金融に詳しい人に送りたい」という風に、内部告発者がリーク先を選ぶことが可能です。

 

荻上 特定秘密保護法案では、官製の情報をリークした人や、それを幇助した人も罪に問われる場合がありますよね。このサイトではその「幇助」にあたらないのでしょうか。

 

八田 幇助に関しては、特定秘密保護法の逐条解説を見ますと、直接内部告発者の元に押しかけて行って、やいのやいの言う、みたいなことを想定しているようですから、今回のサイトでは幇助や教唆にあたらないのではないかと僕は考えています。

 

塚越 八田さんは「土管」とおっしゃっていますが、このサイトのシステムは、内部告発したい人と、それを受けたい人をつなぐだけのものなんです。どんな告発内容も八田さんをはじめとしたサイト側の人は見ることができない仕組みになっています。ですので「みんなが勝手にやり取りをして、僕は場所を貸しただけ」といえる構造であるが故に、秘密保護法にあたらないと考えられます。

 

荻上 今後、リークされるケースが増えてきて、怒った人たちが秘密保護法の範囲を拡大しようとする動きはあるかもしれないですが、現時点でそうしたことは想定していないんですね。

 

塚越 現状そんな動きは無いですが、危惧している人も結構いるので、今後八田さんも対策を取る必要はあるのかなと思います。

 

八田 今後、弁護士の方に顧問をお願いするなどの対策を考えています。

 

 

ウィキリークスとの違いと理念

 

荻上 告発サイトと言えば、ウィキリークスが有名ですが、ウィキリークスは自分のサイトで情報ソースを丸々載せることもしています。今回の八田さんが立ち上げているサイトでは、情報を渡すことに限定していくのでしょうか?

 

八田 ウィキリークスも初期は匿名化技術を使って、情報を受け取る仕組みを構築するというのが主な活動内容でした。ですが、途中からそういう技術的な側面は薄れて、どちらかと言えば人脈でリークを入手して、自らジャーナリストとして内容を検証して記事化するというような方向に行ったんです。僕自身はそれをやるつもりは全然無いので、ウィキリークスとは違うサイトになっていると思います。「日本版ウィキリークス」と呼ぶ方もいらっしゃるので困っているんですけど(笑)。

 

荻上 そもそもやりたいことも違いますし、日本版ウィキリークスと言うと、「ウィキリークスがいよいよ日本に進出」みたいなイメージになってしまいますもんね。

 

八田さんの関心としては、ジャーナリズムを補完したいのか、それともネットの技術を拡張したいのか、理念としてどちらに重きを置いていますか?

 

八田 個人的には2008年か2009年にウィキリークスを見た時の衝撃があって、それは彼らが発信している情報よりも、情報技術をジャーナリズムの分野でこういう風に使えるんだということに非常に驚かされたんです。

 

僕はジャーナリストとしての教育を受けた事はないので、どちらかと言うと技術的な関心に興味を持ってやっています。背負った言い方になりますが、情報技術で社会を良くすることが少しでもできればいいのかなと思います。

 

荻上 ウィキリークスでは、ジャーナリズムより、ネットの持つ技術の可能性を強調していますよね。

 

塚越 アサンジさんは、バリバリの反権力志向で、ジャーナリスト根性もあり、なおかつハッカー精神もあるというタイプの人だったので、とにかく自分でやりたい人なんですよね。だから、賛否両論を巻き起こしたりもすれば、組織の内部分裂などもあったりするわけです。

 

八田さんはジャーナリストの精神も大切だと思う一方、自分たちは技術をきっちり整えて、ジャーナリズムは専門の人たちにやってもらおうじゃないかという、まさに技術で社会を変革する方に重きを置いている感じですよね。

 

荻上 海外メディアだと自社で匿名リークのツールを作るような動きがありましたけど、日本ではなかなかジャーナリズムのツールが作られない、という意識はあったんですか?

 

八田 関心をお持ちの方は色んなマスメディアにいらっしゃったので、自分で作らなくてもいいのかな、という気もしましたけれど(笑)。

 

塚越 海外では民間でも多くのリークツールがつくられています。アメリカで2013年に自殺した26歳の天才ハッカー、アーロン・シュワルツという人が中心となって「デッドドロップ」というものをつくりました。

 

その開発プロジェクトが後に「セキュアドロップ」という、グローバリークスと似たような、リークした人の身元が分からないように通信させるプログラムとなり、現在も運用されています。

 

アーロン・シュワルツは自分の信念の元に色んなものをつくったり、様々な情報を公開する中で、アメリカ政府に圧力を受けたことが自殺の原因となっています。

 

アメリカのハッカー精神は概して、社会を変革することと情報技術を使うこと、その両方を重視しています。彼らが色んなものを作ってくれているので、別に一から作る必要はない、と考えられているとは思います。

 

 

告発したことがバレる不安

 

荻上 今回は「どんなサイトになるのか?」というメールがたくさん届いています。

 

「内部告発をすると組織内や業界内で不遇な目に遭うこともあると思うのですが、そちらのサイトでは配慮されているんでしょうか」

 

「リークした」とバレると干されるんですけど……、ということですね。

 

八田 基本的に、それはあってはならないことです。公益通報者保護法という法律がありまして、内部告発者は法的に保護されるという制度があるんですが、いろいろ問題が多くて、やっぱり冷や飯を食うことは多いと聞いています。

 

今回のサイトでも、その情報を知っている人が一人しかいなければ、匿名サイトを使おうがすぐに分かってしまうので、バレる危険はあるわけです。しかし、少なくともそのような告発者が特定されやすい場合で無ければ、誰が告発したのか分からないわけですから、少しは安全なのではないかなという気がします。

 

この手の話では、誰かを簡単に信用するのはリスキーです。ですから、私自身を信用する必要もないと思います。私もどこかの情報機関の人かもしれないし、受信者のジャーナリストも全員どこかの情報機関の人かもしれませんよね。サイト自体が壮大な嘘かもしれないわけです。

 

一応、設計上は、私のサイトが完全に破られてしまったとしても、少なくとも内部告発者の身元にはたどり着けないように設計してあります。

 

塚越 公益通報者保護制度だと、実際にヒューマンエラーがいっぱい起きているんです。そうでなくとも、自分の上司や自分の官庁の不正を告発したとして、受信先が通報されたところの親会社やその上の省庁だった場合、自分の膿を「こんな事を通報されました」と出せるかと言われたら、やっぱり出せないですよね。

 

ですから、多くの人々の手を渡ることが予想されている人ベースでつくられた制度には、やはり心理的抵抗があると思うんです。だからこそ、内部告発サイトのように、人ではなくちゃんとした技術によって守られていれば、より安心感を得ることが出来るのではないでしょうか。

 

荻上 今回のサイトではリークをすると、利害を共有しない報道機関が裏を取って、もし裏が取れたら報じる可能性があると。告発者は誰か分からないので、告発した側に「これは本当ですか?」と取材に来ることも無いんですよね?

 

八田 一応、匿名性を保ったまま、内部告発者と受信者であるジャーナリストがやり取りをする仕組みも用意はしてあるんです。ですが、それは内部告発者がそうしたいと思わないとできないようになっています。

 

僕自身はあまりお勧めしないけれど、内部告発者がもしそれを受諾するのであれば、掲示板のような形で受信者と直接にやり取りをしたり、あるいは実際に会ったりすることもあるかもしれないですね。【次ページにつづく】

 

 

 

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