法制度からオープン・データを考える

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クリエイティブ・コモンズ・ジャパンによる、オープンカルチャーに関する新しい対話の場/学びの場であるCCサロン。第5回目を迎える今回は「建築・都市におけるソーシャルデザインの可能性」と題して、日本社会の縮小をポジティブに捉え直す「列島改造論2.0」を構想し、「公共建築から考えるソーシャルデザイン・鶴ヶ島プロジェクト」などを手がける建築家の藤村龍至氏、そして、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事であり、オープンガバメント・データの専門家でもある生貝直人氏をゲストに開催された。そのなかから生貝氏によるプレゼンテーションをお届けする。(構成/出口優夏)

 

 

法制度におけるボトムアップとトップダウン

 

クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事の生貝直人と申します。わたしは文化芸術に関わる知的財産の処理や、おもに日米欧の情報政策、著作権、プライバシー、セキュリティといったいわゆる「情報法・政策」を専門に研究しています。ですから、じつのところ今回のテーマである建築・都市というのは不案内な世界です。しかし、公共建築と法制度は、「公共的なものをいかにボトムアップでオープンにつくっていくか」という点で方法論的に共有している部分も多く存在します。ということで、ぼくのほうからは法制度の観点からみた公共的な設計物や構築物のあり方、そしてそのオープン性やボトムアップ性についてご紹介させていただこうと思います。

 

まず、法制度におけるボトムアップやトップダウンのあり方についてお話させていただきます。

 

法制度に関わる社会科学のなかでは、トップダウンとボトムアップはある意味で対照的に存在しています。伝統的な法学の方々はトップダウン、つまり立法、行政、司法という三権が法律をつくることで社会をマネジメントしていく方法論に重きを置いています。その一方で、経済学や経営学系の方は、社会制度は市場や企業、個人という分散的な主体がボトムアップでつくっていくべきだと考えているわけですね。

 

もちろん、必ずしもこの二極のどちらかが正しいというわけではありません。正しい答えは両者の中間あたりに存在しているのではないかとぼくは考えています。

 

 

ボトムアップのメリットとデメリット

 

法制度をボトムアップから考えるとき、大前提になっているのは「インターネット上では、もう政府が法律やルールをつくることはできないだろう」という考え方です。

 

インターネットが発展する以前の社会では、政府がトップダウンで法律やルールをつくり、社会を制御していくという方法論が比較的うまく機能してきました。しかし、技術革新の激しい情報社会では、「そもそもプライバシーってなんだ」、「著作権の正しいありかたってなんだ」というように、さまざまなものを一義的に定義することが非常に難しくなってしまっている。そこにグローバル化の流れも加わって、一国の政府はもう相対的な力しかもちえない。それならば、「民間の側が、ボトムアップでどんどんインターネットのルールをつくっていったほうがいいんじゃないか」ということになってくるわけですね。

 

しかし、このボトムアップの考え方を人権保護やプライバシー、表現の自由といったさまざまな分野に拡張していくと、危なっかしい部分もたくさん出てきます。もしかしたら、民間側がつくったルールが、不公正なものだったり、実効性がないものだったりするかもしれない。あるいは民主的な正当性がない場合もあるかもしれない。

 

そのときに、ボトムアップのメリットを十分に活かしながら、そのリスクや不完全性を国が補完していくというあり方、つまりボトムアップとトップダウンを組み合わせた最適なルールづくりはできないか、ということをぼくは研究対象にしています。この考え方を「共同規制(co-regulation)」と呼びます。

 

 

共同規制とはなにか

 

共同規制について、もう少しくわしく説明させていただきます。

 

これらの考え方のひとつの土台にあるのは、「できる限り政府の仕事は少ない方がいいに決まっている」という、いわばリバータリアニズム(自由至上主義)的な考え方です。そのような社会では、ボトムアップで企業や市民の側がしっかりとルールをつくっていかなければならない。こうした私的な主体によるルール形成を、ここでは仮に「自主規制(self-regulation)」と呼びます。

 

そして、問題は自主規制では上手くいかない場合です。こうなると、日本はすぐにその対極にあるトップダウン、つまり「直接規制(direct regulation)」に走ってしまっている。しかし、そうではなくて、トップダウンとボトムアップを組み合わせたルールづくりができないか模索していくのが「共同規制」の考え方になります。

 

 

ikegai

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

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