和解だけが救いの形ではない――『聲の形』作者・大今良時氏の目指すもの

評価されたいのはそこじゃない

 

荻上 ちなみに、ご自身はいじめの経験はありますか?

 

大今 見聞きするほどのひどいことは経験していないですね。悪口くらいなら言われていましたしイヤでしたけど、自分に原因があると思っていたのでしょうがないというか……。心の中で文章にできない感情を残したまま成長して、卒業して、とくに和解のやりとりもなく、その子たちといつもの関係に戻る。仲の良い子たちだったので、言ったり言われたりすること自体がありふれていて特別なイベントだとは思わなかったです。そんなことより、イヤなやつとか敵に意識が向いていました。

 

荻上 学校観も聞いてみたいんですが、学校は好きでした?

 

大今 小中学校は授業がとにかく嫌いでした。これをやっている間に、やりたいことができるなって。勉強も、点数や数字にしか反映されないことも、尊敬していない人に評価されることも嫌いでした。私が評価されたいのはそこじゃないって思っていましたね。

 

とにかく絵を描くのが好きだったんです。それだけはやけに楽しくて。いま思えば家庭環境もよくなかったように思います。部屋もすごく汚くて、教科書を広げられるスペースなんてなかった。自分で散らかしているんだからしょうがないんですけど。

 

荻上 好みがはっきりしていたんですね。掃除する時間はなかった?

 

大今 掃除しても掃除しても汚い家だったんですよね(笑)。あと当時の家は特別狭くて、物も多かったんで。漫画なんて部屋どころか玄関の外にはみ出していましたし。意識が散漫としている中で、絵だけは唯一集中できました。それだけが評価されることだって。

 

 

「敵」だった先生

 

荻上 先生はどうでした?

 

大今 小学校のときに熱血先生がいて、すごくいい人だと思っていたんですね。その前に担任だった先生が冷めて特別嫌いな人だったので、その熱さが心地よくて。熱いってことは、それだけたくさん叱るということなので、胸ぐら掴まれたりした人の中には、先生にいじめられたって感覚だった人もいるかもしれませんが。

 

まあでも……減点法なので……ましだったくらいですね……。前の先生が嫌いすぎたんです。子供の頃の私は、その先生のことを「元いじめっ子」だと認識していました。「○○くんが小学校の先生になるなんてねえ……」とか近所のおばさんから聞いていましたし、「お前なんて嫌いだ!」とずっと構えていました。大人になった今は、いじめの加害者や被害者に対して昔よりも複雑な思いを抱いていますから、その先生に対しても、ただただ「嫌い」というだけではありませんが。

 

ただ当時は、いろいろ露骨な嫌がらせもありました。教室の掲示板に今月は何を頑張るか紙に書いて貼らなくちゃいけなかったんですけど、私だけ永遠にオッケーがもらえなかったり。

 

荻上 特におかしなことを書いているわけじゃないんですよね?

 

大今 そうですね。私だけ「これはどういうことなの?」とかずっと聞かれて。結局、貼られませんでした。あとでみんなのを見てもなにが違うのかわからない。

 

あと可愛い子をひいきしていましたね。A子ちゃんって可愛い友達がいたんですけど、私を呼ぶときは「大今!」で、その子は「A子ちゃん」って呼んでたり。写生の時間にA子ちゃんと一緒に描いてたら、「A子ちゃんにだけ特別に描き方のコツを教えてあげるよ。茎はね、真ん中をちょっと濃くすると本物っぽくなるんだよ? 秘密だよっ?」とか言っていたり……。

 

荻上 うわぁ、それはきもいですね……。隣にいるのに、透明人間扱いされていますね。

 

大今 そうですねえ。同級生がクラスのリーダー格に嫌われていて、「○○ちゃんはおじさんとヤったらしいよ」とか悪い噂を流されていた時期があったんですけど、その先生が私とA子ちゃんのところにきて、「○○ちゃんの噂が流れているけど知ってる? 何をしたって聞いたの?」ってA子ちゃんに聞いて。

 

荻上 ああ、その子の口から言わせたいんですね……。

 

大今 ええ。「……男と女の関係になったって聞きました」ってA子ちゃんが答えたら「はい、そうですね」って。……嫌いでしたねえ。

 

荻上 その先生は「敵」だったんですか?

 

大今 「敵」でした。でも私だけだったと思います。イケメンだったので親たちの評判はよかったし、他の子たちもそんなに嫌ってなかったと思う。【次ページにつづく】

 

 

 

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