集団的自衛権行使容認を海外メディア・専門家はどう見たか

7月1日(火)、安倍内閣が臨時閣議で憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使を認める閣議決定を行った。これを受けて、首相官邸周辺で大規模な抗議デモが行われるなど、激しい議論が巻き起こっている。反対派の主張には徴兵制導入の危険性という議論もあるが、これは少々感情論的であり、論理の飛躍があると言わざるをえないのではないか。

 

集団的自衛権の行使は日本の国防と安全保障に関わる重大な問題だけに、感情論をできる限り廃し、冷静に議論する必要がある。

 

本稿では、今回の安倍内閣の方針転換に対する海外メディアの報道や専門家の分析に注目したいと思う。海外からの視点が少しでも冷静な議論を行うための材料となれば、筆者として幸いだ。

 

 

安倍政権の集団的自衛権行使容認に関する10のウソ

 

まず、反対派の主張に関して、アジア太平洋地域の情勢を中心に報道を行っている雑誌『The Diplomat』に、「安倍政権の集団的自衛権行使容認に関する10のウソ」と題する記事(7月10日)が掲載されているので、その内容をご紹介したい。

 

これはマイケル・グリーン氏とジェフリー・ホーナン氏の共著論考で、安倍政権による解釈改憲に反対する人たちが勘違いしている点を10点挙げて、説明を加えている。マイケル・グリーン氏と言えば、ワシントンD.Cの戦略国際問題研究所(CSIS)で上級副所長/アジア・日本部長を務めており、知日派の米国人学者として広く知られている。ジェフリー・ホーナン氏は、アジア太平洋安全保障センター(ホノルル)准教授兼CSIS客員研究員だ。

 

ここで挙げられている10のウソとは、以下のような内容になる。

 

 

1. 自衛隊の役割と任務が根本的に変化する

2. 自衛隊が海外での戦争に参戦することになる

3. 朝鮮半島の緊急事態に自衛隊が派遣される

4. 安倍首相は日本の平和憲法の精神を骨抜きにしようとしている

5. 閣議決定のプロセスが透明性に欠け非民主的

6. 閣議決定は憲法改正と憲法九条排除へとつながる

7. 日本の再軍備化が始まる

8. 閣議決定は地域を不安定化させ、地域の平和を危うくする

9. 世論は圧倒的に反対している

10. アジアは集団的自衛権行使容認に反対している

 

 

以下に、この10点についてそれぞれの要点をまとめてみたい。

 

 

1. 自衛隊の役割と任務が根本的に変化する

 

今回の閣議決定を受けて、日本の同盟国や日本と考えを同じくする国が攻撃を受けた場合、自衛隊が救援を行うことができるようになったが、集団的自衛権を実際に行使できる条件は、次の三つに限られている。(1)日本にとって明白な脅威となる状況であるか、または日本国憲法第十三条で保障されている生命、自由および幸福追求に対する国民の権利が根本的に脅かされる危険性のある状況下であること。(2)攻撃に対抗するために、日本とその国民を守るための他の方法がないこと。(3)武力の行使が必要最小限に限定されていること。

 

日本の政策は、専守防衛のための最小限の武力という従来の基準にこれからも従うことになり、また日米同盟における自衛隊の主な役割はこれからも変わらず、日米双方が現在担っている役割と任務に必ずしも根本的な変化が生まれるとは言えない。

 

 

2. 自衛隊が海外での戦争に参戦することになる

 

集団的自衛権は専守防衛の原則に沿った防衛措置であり、今回の集団的自衛権行使容認の決定は、日本が他国に対して戦争を仕掛ける権利を与えるものではない。つまり、日本は他国を守るために海外で戦争を行うことをこれからも禁じられるということだ。

 

 

3. 朝鮮半島の緊急事態に自衛隊が派遣される

 

韓国は、韓国政府との協議なしに集団的自衛権の行使の下で緊急事態に自衛隊が朝鮮半島に派遣されることを認めないという主張を展開しており、これは日本政府の解釈とも完全に一致している。韓国は、朝鮮半島で緊急事態が発生した時に日米同盟が効果的に機能することが米韓同盟にも有効だという認識を持っている。

 

 

4. 安倍首相は日本の平和憲法の精神を骨抜きにしようとしている

 

内閣法制局は1954年以来、日本は国連憲章第五十一条で認められた個別的自衛および集団的自衛を行使する権利を持っているという見解を示してきた。しかしこれまでは、集団的自衛は内閣法制局の「最小限の」防衛という定義に反するために不適切だと考えられてきた。

 

ところが、安倍内閣は、各国との同盟関係の重要性や日本の安全と存続にとって重要な協調関係、脅威環境と技術の変化を考えた時、制限された集団的自衛権であれば条件を満たすものだという決定を下した。この決定は、外交、開発援助、世界への非軍事的関与を強調する安倍首相の平和への積極的貢献という大きな文脈の中で考える必要がある。

 

 

5. 閣議決定のプロセスが透明性に欠け非民主的

 

今回の閣議決定のプロセスは極めて透明性の高いものだった。閣議決定はこれから数ヶ月後に国会で正式に承認されることになっており、透明性はさらに高まるだろう。閣議決定が行われる前の段階で、連立政権のメンバーは約二ヶ月間に十一回の会合を重ねて、様々なシナリオや可能性について議論してきた。

 

公明党の強い反対の中で自民党は妥協策を図り、解釈改憲の文言と具体的な内容について大幅な記述の削減を強いられた。この議論の過程は毎日メディアが報道し、国民は議論に関する情報に触れることができた。安倍首相自身も特別に記者会見を開き、解釈改憲の必要性を訴えた。

 

さらに、これから数ヶ月かけて連立与党は、自衛隊法や海上保安庁法などの関連法を変更するために必要な法律を立案する必要がある。その法案は国会で議員による検証を受け、議論され、メディアもその内容を報道することになる。その過程で、内容が弱められ、制限が加えられる可能性が高い。

 

 

6. 閣議決定は憲法改正と憲法九条排除へとつながる

 

日本の法律策定のプロセスと、憲法解釈変更と憲法改正の違いに対する基本的な事実関係を確認する必要がある。集団的自衛権の行使と憲法改正は全く別の問題で、憲法改正には衆参両院の過半数の賛成と国民投票による賛成が必要となる。内閣総理大臣にとって、この二つのプロセスを経ずに憲法を改正することは法的に不可能だ。安倍首相の集団的自衛権行使容認の閣議決定を憲法改正と絡めて考えるべきではない。この二つの問題は全く別のプロセスを経て決められるべき全く別の問題だ。

 

 

7. 日本の再軍備化が始まる

 

特に中国の反対派は、1930年代の記憶を想起し、安倍政権が日本の再軍備化を始めたと批判し、日本が平和的な発展の道から外れつつあることを示す証拠が出てきたと考えているが、集団的自衛権の行使容認は日本が他国に戦争を仕掛けることを認めているわけではない。今回の閣議決定によって、同盟国である米国や、あるいはもしかするとオーストラリアなどと自衛隊との協力分野が広がることになるが、自衛隊の役割と任務はこれからも日本が脅威にさらされている状況下だけに厳しく限定され続ける。

 

 

8. 閣議決定は地域を不安定化させ、地域の平和を危うくする

 

集団的自衛権の行使容認はアジア太平洋地域を不安定化させるものだという批判があるが、実際には一般的な考え方として、強固で信頼できる日米の同盟関係こそ平和と安定に対する現実の問題を解決するための答えだとされている。

 

東西冷戦構造の崩壊以来、アジア太平洋地域は大きな変化を遂げてきた。特に中国は、海洋における主張を強めている。北朝鮮も過去二十年間に挑発の度合いを強めており、核開発プログラムの推進やミサイル技術の拡散という問題を引き起こしている。

 

このような不安定化を招く外部要因が存在する中で、日本は米国との統合をより強化している。集団的自衛権行使容認の閣議決定は日米防衛ガイドラインの改正に向けた重要な動きだ。日米が将来の緊急事態においてより緊密に連携して行動する準備が整うという事実自体に、抑止力を効かせ、安定を維持し、事態の悪化を抑えるための大きな力がある。

 

 

9. 世論は圧倒的に反対している

 

自衛隊に対する制限をなくすこと、または憲法解釈を変更することについての世論調査の中で、日本の国民は概して、相矛盾する態度か、あるいは反対の態度を示している。しかし、日本からはるか離れたホルムズ海峡のような場所における活動を含めた米軍との協力行動のために自衛隊の権限を強化することについて尋ねられると、集団的自衛権を支持する声が50%以上を占めている。このような結果は、自己主張を強める中国と核兵器を拡散させている北朝鮮の現実を考えると、日米同盟が効果的な抑止力を発揮できるように日本がもっと努力しなければならないという日本人の実利的な状況判断を反映している。

 

 

10. アジアは集団的自衛権行使容認に反対している

 

アジアの個々の国々を見ていくと、中国は非常に批判的だ。中国の外務省報道官は、安倍首相は自らの政治的な目的を果たすために中国の脅威をでっち上げていると警告を発し、日本は平和的な発展の道を変更したのではないかという懐疑的な見方を示しながら、集団的自衛権行使容認は中国の主権と安全保障を侵害するものだという懸念を表明している。

 

韓国も懸念を表明し、外務省は、日本は過去の歴史に起因する疑念と懸念を払拭し、歴史修正主義をやめ、適切な行動によって近隣諸国の信頼を取り戻すべきだという声明を発表している。

 

しかし、中国と韓国の間には違いがある。中国は集団的自衛権の行使によって日米同盟が強化されることを望んでいないが、韓国の場合は、日米同盟の重要性を認識している。

 

オーストラリア、フィリピン、シンガポールの三国は日本の集団的自衛権行使容認を支持する立場を表明している。インドネシア、マレーシア、タイ、ミャンマー、ベトナム、インドなどの国々は、日本の集団的自衛権行使について本音では支持しているが、公式見解としては警戒する姿勢を見せている。これらの国々はどこも強力な日米同盟によってメリットを享受できると考えており、それは日本との安全保障面での協力を強化するチャンスになるものと見ている。

 

 

 

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