欧州で再燃の兆しをみせる反ユダヤ主義――世界各国の報道を見る

イスラエルがパレスチナ自治区ガザに軍事侵攻を行ったことに対して国際的に激しい非難の声が上がっている。その中で欧州で反ユダヤ主義の兆しを示唆する動きが起こっているという報道が複数のメディアで流れた。

 

本稿では、米紙『ワシントン・ポスト』、英紙『インディペンデント』、カナダ紙『グローブ・アンド・メイル』、ロシアの報道専門局『RT』、ドイツ国際放送局「ドイチェ・ヴェレ」、イスラエル紙『ハーレツ』の六ヶ国のメディアが、この欧州における反ユダヤ主義の兆候についてどう報道したのかに注目したい。

 

 

米紙『ワシントン・ポスト』の報道:欧州各地に飛び火する抗議デモ

 

まず最初に、米紙『ワシントン・ポスト』が7月30日付の記事で報じた内容を以下にまとめてみたい。

 

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イスラエルとパレスチナの紛争は欧州の街頭にも飛び火している。平和的なもの、暴力的なものを含めて、抗議デモが多発しており、欧州全体で緊張が高まっている。

 

ロンドンでは45,000人がイスラエル大使館前で抗議活動を展開し、「パレスチナを解放せよ」というシュプレヒコールを上げていた。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃開始前から反ユダヤ主義の暴力が横行しているフランスでは、パレスチナ支持派の若者たちが略奪行為を働き、パリ郊外のユダヤ系企業に放火するという暴挙に出た。フランス当局は反イスラエル抗議活動を禁止しているが、何千人もの若者たちがその命令を無視し、石や瓶を投げて警察と衝突した。

 

しかし、ドイツでの抗議活動ほど不快なものはないだろう。ドイツでは過激なシュプレヒコールが過去の亡霊のようにベルリンの街に響き渡っている。一方、イスラエル支持のデモも行われているが、パレスチナ支持のデモほど激しいものではない。政界、メディアおよびドイツ社会全体という文脈で見た場合、イスラエルとユダヤ人一般に対して向けられた怒りの爆発によって、ドイツにおける言論の自由の限界と歴史の重みが試されている。

 

 

ドイツにおける反ユダヤ主義の抗議活動

 

ベルリン警察の報道官によると、抗議デモの最中に「ヒトラー万歳!」と叫んだ扇動罪の容疑で告発された人物が一人出ているという。同報道官は、次のように述べている。

 

「世界中が我々の対応に注目していることはよくわかっている。戦争を行っている国を批判するのは明らかに表現の自由にあたる行為だが、イスラエルの戦い方を批判するのとイスラエル人が負傷するのを望んで声を上げることは、全く別の問題だ。そこは危険水域だ」

 

ドイツの反ユダヤ主義の顔は、1930年代や1940年代と比べると全くと言っていいほど異なる様相を呈している。今回の抗議デモには、ドイツ人も参加していたが、大部分はイスラム教徒の移民とドイツ生まれのその子供によって占められていた。急激に増加しているドイツ在住のユダヤ人たちは抗議デモに戸惑っている。ドイツのユダヤ人口は、1989年のベルリンの壁崩壊以来、ベルリンだけでも三倍の約三万人に増えている。

 

ベルリンのアル・ヌール・モスクの導師が、全ての「シオニストのユダヤ人」を神が滅ぼしますようにと祈ったことについて、現在取り調べが行われている。また、約三十人のイスラム教徒の一団が中に誰もいないベルリンのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝堂)の前で反ユダヤの罵詈雑言を浴びせるという事件もあった。イスラエルのヤコブ・ハダス・ハンデルスマン駐ドイツ大使は最近、『ベルリナー・ツァイトゥング』紙に寄稿した記事の中で、「イスラム教徒はベルリンの街でユダヤ人を悩ませており、まるで1938年の世界に生きているかのようだ」と書いている。

 

ドイツにおける反ユダヤ主義に対して反対運動を展開しているあるグループの報道官のレヴィ・サロモン氏は、ユダヤ人はベルリンで行われたデモで撮影された写真を見てショックを受けていると語っている。その写真には、服が赤い絵の具で塗られている子供が写っていた。それはイスラエルのガザ攻撃で死亡した子供たちのイメージを想起させるものだ。しかし、ドイツのユダヤ人指導者たちはその写真に対して、ユダヤ人が子供を殺し、その血を宗教儀式に使ったという反ユダヤ主義の神話が復活したことを表す証拠だとして、厳しく非難している。サロモン氏は、「二十年以上ドイツにおける反ユダヤ主義の動きを監視してきたが、こんなひどい写真を見たのは初めてだ」と語っている。

 

ユダヤ人指導者たちは、ドイツの状況はフランスほどひどくはないと口にしている。フランスでは反ユダヤ主義の暴力による激しい緊張状態が生まれており、その中でユダヤ人は攻撃されているような感覚を覚えている。しかし、ドイツの事態はさらに悪化しているかもしれないことを示すいくつかの兆候が見られる。

 

 

悪化するドイツにおける反ユダヤ主義

 

ドイツ西部の都市ヴッパータールで7月29日(火)、シナゴーグに火炎瓶が投げつけられるという事件があった。また、7月24日(木)には18歳の正統派ユダヤ教徒であるイスラエル・ダオスという青年がベルリン中心部にあるシナゴーグに向かう途中で顔を殴られるという暴行事件も起こっている。ダオスは自分を殴ったのは「アラブ人かトルコ人」だと話し、「近くで行進しているデモ参加者が『ユダヤ人に死を!』と叫んでいるのを聞いたことがある。事態がここまで悪化するとは思っていなかった」

 

ユダヤ人に対する抗議の声が高まっていることに対して、ドイツ社会全体が警戒を強めており、有力政治家やメディアは新たな反ユダヤ主義の動きが頻発していることを激しく非難し、この動きを直ちに止めなければならないとしている。

 

メルケル政権はこのユダヤ人に対する一連の抗議活動に対して、異例のストレートな表現を使って、次のような批判声明を発表している。

 

「ユダヤ人に対する抗議活動や反ユダヤ主義的な発言が頻発しているのは、自由と寛容さに対する攻撃であり、自由な民主主義の秩序を揺るがそうとする行為だ。ドイツ政府はこの事態を認めることはできないし、認めるつもりもない。治安当局はユダヤ人施設に対するあらゆる攻撃を極めて深刻に受けとめている。反ユダヤ主義の行為は最終的にあらゆる法的手段によって裁かれることになる」

 

パレスチナ支持派の集会主催者は、実際、抗議活動を行っている人の中には一時的な激情に駆られて行き過ぎた行為に走る人もいると語っている。彼らの話によると、集会主催者は反ユダヤ主義的で暴力的なスローガンを禁止した警察の指導指針に従うように努めているという。また、彼らの怒りはユダヤ人に向けられたものではなく、イスラエル軍の爆撃に対するものだと主張している。

 

ナチスによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の歴史があるために、ドイツはイスラエルに対して客観的なものの見方ができなくなってしまった、と集会主催者は考えている。英国のニック・クレッグ副首相を含めて欧州の政治家の中には、イスラエルによる行き過ぎた武力行使を公然と批判する政治家もいる。しかし、パレスチナを支持する評論家は、メルケル首相がイスラエル支持の姿勢を明確に示していることに注目している。

 

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以上が、米紙『ワシントン・ポスト』の記事のまとめだ。

 

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シノドス国際社会動向研究所

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