シリア・アサド政権はどのように必要とされているのか?

「アラブの春」がシリアに波及して、この3月15日で4年が過ぎた。「今世紀最悪の人道危機」と評される同国の惨状は、今でも「独裁」対「民主化」という勧善懲悪のもとで捉えられることが少なくない。「アサド政権が20万人以上の市民を虐殺した」、「アサド軍は「樽爆弾」を無差別に投下し、市民を殺戮している」といった批判がその典型だ。

 

むろん、国内では、シリア軍の作戦で多くの人命が絶たれ、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、人口(約2,200万人)の半分に相当する1,000万人が被災し、650万人が国内外での避難生活を余儀なくされている。しかし、実証や裏付けを伴わない一方的な批判は、もはや暴力停止に向けた建設的議論をモラトリアムするための口実にしか見えない。

 

 

「独裁」対「民主化」?

 

今日の混乱は、政治犯の釈放や地方行政の改革を求めて2011年3月に始まった散発的デモに、バッシャール・アサド政権が過剰とも言える厳しい弾圧を加えたことに端を発している。だが、「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」において筆者が網羅的に収集してきた情報が示している通り、紛争は「独裁」対「民主化」といった単線なものではなく、争点や当事者を異にする様々な対立が重層的に展開することで悪化した。

 

紛争がシリア軍の一方的な暴力を特徴としていないことは、犠牲者の内訳を見ても明らかだ。ロンドンに活動拠点を置く反体制組織のシリア人権監視団の統計(2015年3月15日発表)によると、2011年3月18日から2015年3月14日までの死者総数21万5,518人のうち、シリア軍と親政権民兵の死者は7万6,200人に及び、反体制武装集団(民間人に含まれている)や離反兵の死者数3万9,227人を大きく上回っている。反体制派はかなり早い段階から武装しており 、「独裁」政権の拠点を攻撃するとして、首都ダマスカスやアレッポ市の住宅街を無差別に攻撃してきた反体制武装集団と、「テロとの戦い」のもとに重火器や戦闘機を使用し続けるシリア軍の双方が、被害の拡大させたのである。

 

この統計において、ダーイシュ(「イスラーム国」のアラビア語の通称)、シャームの民のヌスラ戦線などの外国人戦闘員の死者数が2万6,834人と記録されている点も看過されるべきではない 。彼らは、突如としてシリアの紛争当事者や国際社会の脅威として立ち現れたのではない。外国人戦闘員の流入は「自由シリア軍」を名のる武装集団が活動を本格化した直後に始まっており、2012年1月にはヌスラ戦線がすでに各地でテロを行なっていた。「解放区」と称された反体制派支配地域を群雄割拠しているのは、このヌスラ戦線のほか、シャーム自由人イスラーム運動、ムハーリジーン・ワ・アンサール軍、そしてダーイシュといったアル=カーイダ系のイスラーム過激派で、米国が主導する有志連合が根絶をめざしているのもこうした勢力である。

 

 

シリア人権監視団データ_rev

 

 

重要なのは暴力の応酬の終息

 

「独裁」打倒をめざしていたはずの「自由シリア軍」はイスラーム過激派に圧倒され、その一部は敗退、消滅し、かろうじて活動を続けている武装集団も、その多くがヌスラ戦線などの指揮下に身を置いている。欧米諸国が「シリアにおける唯一の正統な代表」とみなしてきたシリア革命反体制勢力国民連立(いわゆるシリア国民連合)や国内で活動を続ける民主的変革諸勢力国民調整委員会といった反体制政治組織、政治家・有識者も、主導権争いに明け暮れ、一致団結することはおろか、体制転換後の具体像さえ示せず、低迷している。

 

今日のシリアを俯瞰すると、シリア政府が国境地帯などで支配権を失いつつも、国内最大の政治主体として勢力を温存し、また民主連合党が主導する西クルディスタン移行期民政局が、ハサカ県とアレッポ県北部で自治を強めている。両者は都市部でしばしば衝突しつつも、イスラーム過激派掃討に総力をあげている点で共通している。

 

それ以外の勢力は、国内に支持基盤を持たず、治安回復において実務的な役割を担うことはできない。むろん、シリア国内で暮らす人々の多くは政府に対しても批判的だ。だが、彼らにとってより重要なのは、外国人戦闘員を排除し、暴力の応酬を終息させることで、政府や西クルディスタン移行期民政局はその限りにおいて存続を黙認されていると言える。【次ページにつづく】

 

 

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