世界の日本研究者ら187名による「日本の歴史家を支持する声明」の背景と狙い

今回の声明について、ほとんどのメディアは「安倍晋三、『慰安婦』問題での日本の立場を叱責される」(英フィナンシャル・タイムズ)、「歴史学者ら、日本に戦争の歴史を直視するよう要求」(米ウォール・ストリート・ジャーナル)「187人の研究者が安倍に日本の戦時中の歴史に向き合うよう要求」(ジャパン・タイムズ)のように、研究者らによる安倍政権への批判として報道した。

 

ところが『東洋経済』編集局記者の福田恵介氏は、「日米歴史家、韓国メディアの“変化球”に困惑 なぜ『5月5日の日米声明』をネジ曲げるのか」と題する記事で、これに異を唱える。福田氏は、この声明を「安倍晋三首相はじめ日本政府を狙って批判・糾弾しているものではない」としたうえで、韓国メディア・聯合ニュースの報道を「日本たたき」として批判する。しかし聯合ニュースの記事の内容は、日本語版を確認する限り、フィナンシャル・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルと大差ない内容だ。世界中のメディアが声明を誤解しているのでなければ、福田氏の解釈がおかしいのだろう。

 

福田氏は聯合ニュースによる捏造の一例として、同紙が声明を引用して「大勢の女性たちが自らの意志に反してとらえられ、むごい野蛮行為のいけにえにされた」と書いている部分について、原文には「大勢の女性が自己の意思に反して拘束され、恐ろしい暴力にさらされた」とは書かれているが、「どこにも『むごい野蛮行為』『いけにえ』といった言葉はない」と指摘している。

 

たしかに声明の日本語版ではそのように訳されているが、英語版では「large numbers of women were held against their will and subjected to horrific brutality」だ。どちらの訳も間違いではないが、「brutality」という言葉はただの「暴力」より残虐性の強い言葉だ。聯合ニュースの記事が一度韓国語を経由して日本語に翻訳されているのだとすると、この程度の違いはまったく不思議ではないと思うのだが、それを「ネジ曲げ」「改ざん」とまで呼ぶ福田氏の判断には疑問を感じる。

 

福田氏はさらに、聯合ニュースが声明の呼びかけ人の一人でコネティカット大学の歴史学者であるアレクシス・ダデン氏のコメントを掲載したことに対して、早稲田大学の浅野豊美氏に「ダデン教授は署名者の一人であるが、内容を主導してはいない」「このようなコメントは今回の声明に盛られた研究者の総意とはまったく違う」とまで言わせているが、声明の呼びかけ人がジョージタウン大学のジョーダン・サンド氏とダデン氏の二人であることは公開されている。

 

浅野氏の発言が正確に引用されていると仮定しての話だが、他の数名の人とともに翻訳を手伝ったという浅野氏こそ、共同署名者の一人ですらないのに、このようにして呼びかけ人を公然と中傷するのはどういうことだろうか。浅野氏は浅野氏で、聯合ニュースの報道が注目されてしまったためにこの声明が反日的であるという先入観を持たれることを懸念して、反日ではないと打ち消すことによってより多くの日本の人たちに読んでもらおうとしたのかもしれないが、嫌韓ムードに迎合・便乗し呼びかけ人の一人を中傷するような方法をとらずとも、ほかに手段はあったはずだ。

 

いずれにせよ、『東洋経済』が引用するのは、声明に署名すらしていない浅野氏ただ一人。それだけを根拠として、韓国メディアの報道に「日米歴史家」が「困惑」しているというのは、それこそあきらかな捏造だ。「なぜネジ曲げるのか」と、こちらこそ聞きたい。

 

声明が発表されて以降、日本の一部の人からは、外国の学者たちは「慰安婦」問題について無知だからこんな声明を出すのだろう、という声が聞かれる。もちろん、それぞれ専門は違うのだから、すべての署名者がみな十分な知識を持っているとは限らないだろう。しかし、日本の右派が自説の根拠としてよく持ち出すような歴史資料、たとえば1944年に作成された米軍による朝鮮人慰安婦と日本人経営者の尋問報告書や、1943年に朝鮮の新聞に掲載された慰安婦募集の広告などは、少なくとも声明の中心となった人たちには知られている。

 

3月のアジア研究学会で行われた会合でのことだ。「慰安婦」問題の現在の状況について話をしていて分かったのは、どうやら日本の保守系団体がアジア研究学会の日本研究者の(やや古い)名簿を入手したらしく、定期的に会員全員に「慰安婦」やその他の歴史問題についての英文メールが届いている、ということだ。そのメールでは、右派がよく持ち出すさまざまな歴史資料が添付され、それぞれに解説がつけられている。

 

しかしかれらが興味を持ってその資料を読んだところ、送り手の解説はことごとく一部だけを引用して都合よく解釈したものであり、全体を読めば日本軍の犯罪がよりいっそう根拠づけられる内容だった。一部のとくに好奇心旺盛な研究者らが、研究対象が向こうからやってきてくれることを歓迎する一方、それ以外の多くの研究者はただ単純に迷惑していたが、いずれにせよ笑い話のネタにはなっているようだった。

 

今回声明に参加した研究者たちは、反日でもなければ無知でもない。その多くは、日本に住んでいる誰にも負けないほど生涯を通して日本を見つめつづけ、その行く末を心から心配する人たちであり、海外における日本の最大の理解者たちだ。そういった人たちが、安倍首相の訪米 ・米議会演説の1週間後、そして戦後70年の節目を前にしたこのタイミングでこういう声明を発表した意味は、明らかだろう。

 

もとはと言えば、日本政府が米国の教科書の内容に口を出してきたことへの反発がきっかけだったが、いまではそれが突発的な出来事ではなく、日本における歴史研究や報道への圧迫の延長であったことが知られてしまっている。世界の知日派たちによる声明に、安倍首相やその周辺がどのように応えるのか、今度こそ日本軍「慰安婦」制度の被害を受けた人たちとの和解に向け一歩踏み出せるのか、戦後70年を記念して8月に発表されると思われる首相談話に注目が集まっている。

 

■「日本の歴史家を支持する声明」Open Letter in Support of Historians in Japan

 

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