戦後賠償――ドイツと日本の違いはどこにある?

「戦争には関わりのない子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」。戦後70年談話で安倍首相はこのように述べた。70年前、日本と同じように敗戦国となったドイツ。彼らは過去の歴史にどうやって向き合ってきたのか。そこから日本が学ぶこととは。東京大学大学院・石田勇治教授と経済学者の飯田泰之が語り合う。2015年8月26日(水)放送TOKYO FM「TIME LINE」『過去を克服できたドイツ、できない日本』より抄録。(構成 / 大谷佳名)

 

■ TIME LINE

TOKYO FM(80.0MHz)で月~木 19時から放送。多様な価値観、経験を積んだ「言論集団」と共に、様々な出来事・ニュースの「糸」を手繰って、今日という1日の意味を感じるニュース番組。第2、4水曜日は飯田泰之(明治大学政治経済学部 准教授)が担当。生放送終了後、「もう一度聴きたい!」という声にこたえて、ホームページにて1週間限定で番組音声を配信。http://www.tfm.co.jp/timeline

 

 

戦後70年談話

 

飯田 今夜のゲストはドイツ近現代史、ジェノサイド研究をされている、東京大学大学院教授の石田勇治さんです。よろしくお願いいたします。

 

石田 よろしくお願いいたします。

 

飯田 安倍首相の戦後70年談話を受けてどのように感じられましたか。

 

石田 そうですね。国内外の各方面に配慮された内容になっていると思いましたけど、心に残る部分があったかというと、あまりなかった。ややネガティブな印象を持ちました。

 

飯田 私は日本語版と同時に、主語をはっきりさせようと思い、英語版も同時に見ましたが、これまでの談話に比べると非常によくできてるというのが正直な感想です。日本語バージョンも英語版もすごく良いスピーチライティングです。しっかりとしたストーリー仕立てで、長めの形にしたことの意味は非常に大きいと感じました。

 

石田 今日のテーマに関していえば、戦後生まれが人口の八割を越えている中で、戦争に関わりのない子どもたちにいつまでも謝罪を続けさせるのか。ポイントは、それへの首相の答えですね。

 

もし本気でそうさせたくないのなら、今回、首相自身の言葉で、謝罪の気持ちを率直に述べられるべきだったと思います。それをしないで、これからの世代に謝罪をさせないよ、と言われても説得力が弱いなと思いました。

 

 

「戦争犯罪」と「ナチ犯罪」

 

飯田 なるほど。今日の番組テーマは「過去を克服できたドイツ、できない日本」となっています。僕はこの「ドイツ見習え論」には組みしない方なのですが。

 

例えばドイツの謝罪について考えるときに、重要な論点になるのは「戦争犯罪」と「ナチスの犯罪」という違いです。ドイツでこの二つはある程度明確に使い分けられているのでしょうか。

 

石田 そうですね。歴史的にいうとこうなります。戦争直後は、両者は未分化でした。「ナチ犯罪」があたかも戦争犯罪のように語られ、ユダヤ人虐殺の下手人が戦犯として恩赦されるなんてこともあったんです。しかし、それはおかしいでしょうという声が高まり、「ナチ犯罪」は特別なんだ、戦争犯罪とは違うんだ、と言われるようになります。

 

「ナチ犯罪」が強調されたもうひとつの理由は、誰のどの被害を補償するか、という戦後ドイツの補償政策にありました。補償されるべきは、一般的な戦争被害ではなく、ナチによる被害だったからです。

 

そうはいっても、現在のドイツで、大統領や首相が謝罪の意を表明する際に、戦争犯罪と「ナチ犯罪」を使い分けるということはありません。かつてドイツの名において行われた犯罪に対して「ドイツの名において許しを請う」、「謝罪する」と言っていますよ。

 

飯田 そういった点において日本の場合は「誰が何をしたか、誰が責任者であったか」という主体が非常に曖昧ですよね。これはごまかしているという意味ではなくて、実際の意思決定の現場でも、「空気」の支配によって戦争が遂行されていってしまった。

 

一方でドイツの場合は、「ナチスが決め、ナチスが行ったのだ」と言い切れる証拠があったわけです。この二つの差が、日本で謝罪や責任の追及が難しくなっている理由ではないでしょうか。

 

石田 たしかにそういった説明はよく聞きますが、実際はもっと複雑です。

 

なぜヒトラーのような人物に権力を与えてしまったのか、どうしてヒトラー体制に魅了されたのか、なぜホロコーストのような蛮行を食い止めることができなかったのか、そしてナチ時代のドイツがもたらした結果に自分たちはいったいどんな責任を負うのか――戦後ドイツの人びとはこれらの問いをずっと議論してきました。

 

有名な哲学者ヤスパースの「罪責論」も、よく読めば、ドイツの国民は皆、ナチであってもなくても、何らかの罪を負うと言っています。戦後のドイツはナチだけに罪を押しつけてきたという、日本でよく聞かれる説明は、一知半解の誤った見方です。【次ページにつづく】

 

α-synodos03-2

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.220 特集:スティグマと支援

・稲葉剛氏インタビュー「全ての人の『生』を肯定する――生活保護はなぜ必要なのか」

・内田良「児童虐待におけるスティグマ――『2分の1成人式』を手がかりに考える」

・金泰泳(井沢泰樹)「在日コリアンと精神障害」

・加藤武士「アディクション(依存)は孤独の病」

・齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「Yeah! めっちゃ平日」第五回