「韓国の政治外交」という視座【PR】

神戸大学の木村幹です。私に与えられた課題は「日韓関係」ですが、今日はデータをお見せしながら、大まかに日韓関係、特に韓国の政治がどのように見えてくるのかをお話いたします。

 

ご存知のとおり、この数年、日韓関係は悪い状態がずっと続いてきました。昨年12月28日は日韓の慰安婦合意がありましたが、それをきっかけにしても経済や社会の協力が劇的に進んでいる状況にはありません。

 

先日、自民党本部で講演をしてきました。最近は朝鮮半島の話を政治家の皆さんの前でしても集まりが非常に悪いんですね。しかし中国関係の話になるとたくさんの人が集まる。報告するのが僕だから、という問題はもちろんあるのですが、それ以前に政治家、メディア、財界の中での朝鮮半島への関心がどんどんなくなってきているんです。新潟は韓国・北朝鮮に対して非常に関心がある地域なので今日もたくさんの方がお集まりになっておられますが、東京や僕が住んでいる神戸では、関心がだんだんなくなってきていて、「何をやっても無駄なのではないか」という雰囲気が流れています。

 

若い方ですと「日韓はずっと悪い関係なんだから、これからも何も変わらないのではないか」と考える方も多いと思います。しかし例えば10年前の2005年頃、小泉総理大臣の時代も日韓関係は悪かったものの、まだ期待はありました。いまみたいに「慰安婦合意が行われても関係は改善しない」という雰囲気はなかったんですね。

 

当時は、大きく二つの期待があったと思います。ひとつは、当時、日本は小泉総理大臣で、韓国は盧武鉉大統領でしたが、どちらも若者用語でいうところの「キャラが立っている」、つまり特異なキャラクターな人物だとみなされていました。「小泉・盧武鉉が変わった政治家だから、こういう状況になっているんだ。政権交代が起これば日韓関係はよくなるのではないか」という期待があったわけです。そしてもうひとつの期待は、現在ほぼなくなった議論ですが、「政治的な関係はよくないけれど、社会的な交流は進んでいるのだから、長期的にはよくなっているだろう」というものです。しかしご存知のとおり、結果的にはなにもよくなりませんでした。

 

 

写真(報告1)

 

 

問題の重要性の他に、関係の重要性がある

 

朝鮮日報という韓国の一番大きな新聞で、慰安婦や竹島などの問題がどのように議論されているのかを見ていくと、状況はどんどん悪くなっていることがわかります。激しい論争が増えてきているんです。

 

「日本が右傾化しているから悪いんだ」と言われることがありますが、必ずしもそうではありません。例えば、僕は1982年に高校生でしたが、当時の教科書と現在の教科書を比べると、植民地支配や朝鮮半島の記述は確実に増えています。年配の方は「こんなことまで書いてるのか!」と驚かれるのではないでしょうか。日本の教科書は80年代からずっと右傾化してきたわけではない。「日本が右傾化したから、日韓関係が悪くなった」という単純な状態にはないのです。

 

とすると、さきほど述べた2つの期待が実現しなかったのは、何かを間違えていた、ということになります。例えば「交流が増えれば日韓関係はよくなる」という期待について言えば、日中関係も交流は増えていますが、関係は改善されていませんよね。いったいわれわれは何を見落としてきたのでしょうか。

 

参考に、韓国と主要国(中国、日本、アメリカ)の貿易額を見比べてみましょう。絶対額をみると確かに増えてきています。つまり、経済的な交流は増えているように思われる。「だから日韓関係は大丈夫だ」というわけではないんですね。会社の経営で考えてみてください。取引先がどの程度重要なのかは、取引の量で決まるわけではありません。韓国は経済成長してきた国、言ってみれば大きくなってきた会社です。大きくなってきた会社との取引が増えるのは当然ですよね。でも本当に重要なのは取引量ではなく、その会社の取引において、どれほどのシェアを持っているか、のはずです。

 

そこで韓国からみた、主要3カ国の貿易シェアの動きを1965年から2014年まで見ていくと、かつて40%ものシェアを持っていた日本は、昨年の段階で7%しかありません。まっさかさまに落ちている、と言ってよい。つまり韓国から見れば、日本の経済的重要性は6分の1になっているんです。

 

すると何が起こるのか。慰安婦や竹島の問題そのものももちろん重要ですが、それだけで二つの国がもめるわけではありません。例えば、夫婦関係にたとえて考えてみましょう。ある夫婦がいて、実は奥さんは旦那さんにずっと不満を持ってきた、とします。子育ても付き合ってくれなかったし、夜は酔っぱらってすぐに寝てしまって話もしなかった。しかし、奥さんにとって旦那さんがバリバリ働いて稼いできたとき、重要であったときは文句が言いにくかった。ですが、旦那さんが退職すると、お金もいれてこないし、ゴミさえも出してくれない。旦那さんの立場がなくなって、奥さんは旦那さんに文句を言いやすくなる。そして、その時、奥さんは言うわけです。「あなたは昔から私になにもしてくれなかった」。つまり、夫婦間の歴史認識問題の勃発です。旦那さんの方は今まで文句を言わなかった奥さんに突然、過去の話を蒸し返されてびっくりしてしまう。一体、なにが起こったんだ、というわけです。

 

これは国際関係でも同じです。つまり、問題そのものの重要性以外に、お互いの関係そのものの重要性という、もうひとつの要素があるんですね。慰安婦、竹島問題そのものの重要性と同時に、日韓関係そのものの重要性を考慮にいれなければなりません。みんながその関係が重要だと思っていれば、財界や財閥、メディア、誰かが止めに入るでしょうから。

 

 

日韓関係を改善しようとする人は減っている

 

違う言い方をすれば、歴史認識問題には2つの要素があることになります。ひとつが「火をつける人」、問題を起こす人です。そしてもうひとつが、「広がっていく火を消す人」です。

 

重要な問題ならば、誰かが広がっていく火を消そうとします。例えば、2012年の李明博大統領が竹島に上陸し日韓関係が悪化しました。それから3年経った2015年12月28日まで、日本側も韓国側も、誰もそれを止めようとしませんでした。これほどまで長くこの問題が続いたのは、日韓関係の重要性が低下して、それを止めるために汗をかく人がいなくなったのが一因です。

 

実は日本が韓国で置かれている状態は、アジアの、あるいはほとんどの国で見られることです。中国から見ても日本の貿易シェアは減っています。当然ですよね、中国はどんどん経済成長していますから。たとえ日中貿易が増えたとしても、中国にとって日本の重要性は下がり続ける。そうすると中国の政治家やビジネスマンは日本に対して文句を言いやすくなります。

 

もうひとつ、韓国がどの程度力をつけているのかも見ていきましょう。韓国が一人あたりのGDPで日本にどんどん追いついてきているのかは皆さんご存知のことかもしれません。では軍事費はどうでしょうか。ここでは日韓両国の軍事費をドルベースにして比べてみます。すると2014年時点で韓国の軍事費は日本の80%までになっていることがわかります。もちろん軍事力には積み重ねも必要ですから、韓国の軍事力が突然日本の80%になったというわけではありませんが、どんどん差が詰まっていることは事実です。だからこそ「韓国にとって日本は必要ない」という意見はますます出やすくなる。

 

このままのペースで行くと、10年以内に韓国の軍事費は日本の軍事費を抜くでしょう。中国にばかり目が行きがちですが、韓国だって日本の軍事費を抜いていく状況がすぐ目の前にあるんです。だからこそ韓国側が強気になることには理由がある。もっといえば年配の方の多くが依然として持っている「韓国は経済的にも軍事的にも日本に依存しているはずだ」という認識は、当たっている部分が全くなくなったわけではありませんが、今の日韓関係にうまく当てはまらなくなっている。だからこそ、韓国の中で日韓関係に対して強気な意見が増え、汗をかいて日韓関係を改善しようとしている人たちが減っていく。この動きはもはや無視できないものになっています。

 

 

保守政権だからこそ中国に近づいている

 

冒頭で政権交代の話をしました。当時、盧武鉉政権は韓国で言うところの「進歩派」、わかりやすく言えば左派の政権でした。あの頃われわれは、韓国が保守派の政権になれば、日米関係を重視するようになるだろうと考えていました。しかし、ご存知のとおり、現在の大統領である朴槿恵さんは、セヌリ党という保守党のさらに右側に属する人ですが、日本を重視せず、むしろ中国に寄っています。われわれからすると非常に奇異に見えますし、場合によっては「韓国はしょせん中国には頭が上がらないんだ。昔からそういう国なんだ」という説明をする人もいます。しかし、はたして本当にそうなのでしょうか?

 

中韓貿易が韓国にとってどれほど大きいのかをみていきます。韓国のGDP全体、そして中韓貿易の規模、日中貿易の規模を比べると、韓国は17.5%、日本は6.3%と、中国の経済重要性は単純に考えて3倍近くの大きさを持っていることになります。日本の立場に置き換えて考えてみれば、そのすごさがわかるはずです。日本は、尖閣問題が何も解決していないのに、中国との関係改善に乗り出しました。その理由のひとつは、日本にとっても中国は重要な貿易相手だからです。韓国にとっては、その巨大な中国が3つもあるような状態にあるわけです。

 

では、どうして韓国はそんな状態になっているのか。その答えは貿易依存度のデータをみると一目瞭然です。韓国は貿易の総額がGDPよりも大きい国です。つまり、貿易依存度が100%を超えている。ちなみに日本は30%程度で、世界の主要国の中でもアメリカと並んで貿易に多くを依存していない国だったりします。そしてその貿易に大きく依存している韓国の貿易の、かなりの部分、つまり4分の1近くを中国が占めている。いずれにせよ、韓国にとっての対中貿易の重要性は、われわれには全く考えられないレベルにあるわけです。

 

言葉を変えて言うと、「韓国は保守政権であるにもかかわらず、中国を重視している」のではないんです。違います。「保守政権だからこそ、財界の意向を受けて、財界にとって死活的に重要な関係である中国を重視せざるをえない」という状態にあるわけです。【次ページにつづく】

 

 

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