刑務所がテロリストの「聖地」に――東南アジアに広がるISILの影響とは?

今年1月に起きたジャカルタのテロ事件。世界最大のムスリムの国・インドネシアで今、何が起きているのか。そして、東南アジアに広がるISILの影響とは。獨協大学教授の竹田いさみ氏が解説する。2016年03月15日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「ジャカルタのテロから2か月。 刑務所で広がる過激思想。東南アジアに広がるISILの影響とは?」より抄録。(構成/大谷佳名)

 

 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

ISILが狙う「アメリカ・権力」の象徴

 

荻上 今日のゲストを紹介します。獨協大学教授の竹田いさみさんです。よろしくお願いします。

 

竹田 よろしくお願いします。

 

荻上 今年1月14日にインドネシアの首都・ジャカルタでテロ事件が起き、8人が死亡しました。この事件、どういったものだったのでしょうか。

 

竹田 事件が起きた場所は、大統領官邸や日本大使館も近いジャカルタの中心部です。死者8名のうち4名は実行犯、自爆テロリストです。重軽傷者は26名。タムリン通りという大きな通りの角にスターバックスがあり、最初にそこで自爆テロが発生しました。

 

その数十秒後に、大通りの真ん中にある警察官の詰め所で二度目の自爆テロがありました。次に、実行犯が拳銃を乱射しながら小型の手榴弾を爆発させ、何人かの民間人の方が亡くなりました。そして最後は、テロリストがスターバックスの駐車場に戻り、自分たちが持ってきたリュックサックに手を触れた瞬間、自爆しました。

 

この事件が非常に衝撃的だったのは、インドネシアがテロ対策のため非常に厳重な警戒を行っていた直後の出来事だったということです。去年の12月から1月にかけて、テロ対策のために警察官8万人、軍隊7万人を動員して厳重な対応をしていました。それは、シリアに拠点を置くインドネシアの過激派から、「インドネシアで『コンサート』を行う」とテロ予告があったからです。ところが、クリスマスや年明けの時期にテロ事件が起きなかったので、警戒を解除してしまった。そのタイミングで事件が起きたのです。

 

この事件でさまざまな事が分かってきました。一つは、インドネシア政府の警戒は厳重なものであったが、その隙をつかれてしまったということ。また、重軽傷者26人のうちオランダ人とオーストリア人の二人は、事件の後に航空機でシンガポールの病院に緊急搬送されました。ジャカルタは大きな街ですが、高度な医療サービスが十分ではないのです。

 

今回のような爆弾テロに巻き込まれた時に、また航空機で1時間かけてシンガポールに行かなければならないとなると大変です。インドネシアにはヨーロッパの人や日本人も多いですし、やはり事前に何かあった時のための対応をしなければならないと、より気持ちが引き締まったと思います。

 

荻上 なるほど。今回の事件現場となったスターバックスですが、そもそもジャカルタにはたくさんあるのですか。

 

竹田 たくさんはないです。なおかつ値段も東京と変わらないので、ヨーロッパの人々やアメリカ人、オーストラリア人などの白人や、インドネシアでも富裕層の人々がコーヒーを飲みに行く場所という印象です。

 

荻上 ということは、格差を象徴する場所と言えるわけですか。

 

竹田 過激派から見ればそうなるかもしれません。今回の事件はISが犯行声明を出しましたが、インドネシアのISが明確に狙っている標的は二つあります。一つは、アメリカ系のシンボリックな施設。スターバックスがそうです。以前からも大使館を狙うなどの噂がありました。二つ目はインドネシア政府。それも、政府=警察官なんですね。今回も警察官が狙い撃ちにされており、死者は出ませんでしたが重症を負いました。警察官に向かって至近距離から発砲しています。

 

荻上 アメリカ資本の象徴と、権力の象徴ということですか。

 

竹田 はい。警察がなぜ狙われているのか不思議に思われるかもしれません。警察は市民を守りますよね。とくに発展途上国では、警察もしくは民間警備会社に守ってもらうしかない。しかし、警察がテロリストに狙われているとすれば、そばに行くと逆に危ないことになります。市民がものすごく動揺してしまうわけです。

 

荻上 分断を促すわけですね。

 

竹田 はい。また、もう一つの背景として、インドネシア政府が過去10年間に渡ってテロ対策を徹底的に行ってきたことがあります。特殊部隊「D88」を動員してテロリストやテロ容疑者をたくさん捕まえてきたのです。ですから、テロリスト予備軍や過激派と呼ばれる人たちは警察に対しての反感や怨念、復讐心に満ち溢れているのです。

 

実は過去5年間くらい、インドネシアのスラウェシ島中部・ポソという街では、警察官が襲われたり暗殺される事件が毎年、起きています。ポソはイスラム過激派が拠点を置いている地域なので、警察もかなり手荒く取り締まったのだと思います。だから非常に反感を持っているわけです。これで両方がいたちごっこです。

 

今回、犯行したのはポソの影響化にある小さなグループである可能性があります。つまり、今まで警察官に対して非常に復讐心を持っていた、東インドネシア・ムジャヒディングループの系列である、西インドネシア・ムジャヒディングループの流れをくむ、小さなグループ4人が今回の犯行に及んだのではないかと言われています。この東インドネシア・ムジャヒディンも、西インドネシア・ムジャヒディンもISに対する支持を表明しています。

 

 

竹田氏

竹田氏

 

 

刑務所がテロリストの「聖地」に

 

荻上 もともとISを支持していたのではなく、途中からということですか?

 

竹田 そうです。もともとISとは別のテロ組織でした。彼らは「ジェマ・インスラミア(JI)」という、東南アジアの広域テロ組織に所属していたのです。ところがインドネシア政府がJIを非常に厳しく取り締まり、組織を解体しました。その残党がポソにいたわけです。

 

ですから、もともと東南アジア全体を視野にカバーする巨大なテロ組織JIの一部が、ISの支持に回ったということです。また、「イスラム国家を作る」という共通の思惑もあります。そうした中で、国内で行き場のないJIの残党や貧困層の若者たちがISに共鳴するというわけです。

 

荻上 なるほど。これまで警察に追いやられてきたJIの残党が、反警察という理念のもとにISと合流し、今回のテロを引き起こしたということになるわけですね。

 

竹田 そうです。実行犯4人のうち2人は過去にもテロ容疑で有罪になっています。また、実行犯4人ともイスラム過激派の有力な精神的指導者であるアマン・アブドゥラフマンが収監されている「ヌサ・カバンガン刑務所」を訪ね、接触していたことが明らかになっています。そこで今回の事件に関する指示が下された可能性も考えられます。

 

荻上 刑務所では外部からの面会が簡単にできる環境になっているのですか?

 

竹田 はい。刑務所の管理体制は非常にずさんで、面会はかなり自由にできます。とくにヌサ・カバンガン刑務所には、もう一人の精神的指導者アブバカル・バアシルも収監されています。ここに行けばISを支持する重要なテロリストに会える。刑務所がある意味、テロリストの「聖地」となっている面があるのです。

 

また、刑務所の管理に対するメディアの批判を受け、治安当局が刑務所を捜索したところ、アマンの周辺の人々から27台のスマートフォンが見つかりました。刑務所内の監視体制は非常にゆるいため、受刑者もスマートフォンや携帯電話を自由に使えるわけです。

 

さらにアマンのいる部屋は4人部屋で、そのうちの1人もイスラム過激派で、フィリピンからの武器密輸グループの有力者だったです。考えられませんよね。悪い人同士を同じ部屋に入れてしまうから、話題は悪いことしかないでしょう。ですから、さらに過激さを増していく。しかもスマホがあって、すぐ外とも連絡がとれると。

 

荻上 刑務所の効果として、更生のためのプログラムもありますが、もう一つは「無力化」というのがあります。刑務所に入っている間は犯罪に手を染められない環境を作るということですが、どちらも機能していないですよね。

 

竹田 無力ではなくて、むしろエンパワーです。アブバカル・バアシルはバリ島テロ事件で逮捕された時はやせ細っていましたが、刑務所に入って太ってしまいましたから。今は77歳と高齢にもかかわらず、非常に健康です。その彼が、今インドネシアのIS支持者の頂点にいるんです。その次にいるのが若手の指導者アマン・アブドゥラフマンです。

 

荻上 映画や漫画の世界みたいですね。さきほど、インドネシアでは徹底的なテロ対策を行ってきたというお話がありました。そうして大勢のテロリストたちを捕まえて刑務所に入れたところ、今度は刑務所がテロリストたちの養成所になってしまったというわけですね。【次ページにつづく】

 

 

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vol.2019.3.15 

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