テロの連鎖を断ち切るには――現代テロリズムの傾向と対策

2016年7月1日、バングラデシュの首都ダッカで武装集団が飲食店を襲撃し、日本人7人を含む20人が亡くなった。また7月15日、フランスの都市ニースで革命記念日の祭りでにぎわう見物客の中に大型トラックが突っ込み、少なくとも84人が死亡、100人以上が負傷した。今回は、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏と日本大学危機管理学部教授の福田充氏を招き、世界各国で発生しているテロに対して今後いかなる備えが必要なのか、その傾向と対策を考える。2016年07月18日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「世界各地でテロ相次ぐ。現代テロリズム、その傾向と対策」より抄録(構成/畠山美香)

 

■荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。さまざまな形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら→ http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

トルコクーデター未遂事件の影響

 

荻上 今日のゲストをご紹介いたします。軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんと日本大学危機管理学部教授の福田充さんです。

 

先日、トルコでクーデター未遂が起きました。国際情勢やISIL対策などに、今後どういった影響が及ぶでしょうか?

 

黒井 基本的な対策に大きな変更はないと思います。トルコは対テロでは最前線ですので、もっと大きな影響を予想していましたが、早い段階で落ち着いたという印象です。短期的にアメリカとの関係はギクシャクしましたが、今は回復に向かってきています。エルドアン政権はISILやPKKに対しても強気できていて、その点は軍の主導部ともある程度一致していますから、その路線が崩れることはないと思います。

 

荻上 福田さんは今回のトルコの件について、どのようにお感じになっていますか。

 

福田 国民を味方にすることに失敗したことが大きかったと思います。エルドアン政権はISILの掃討作戦も強化しなくてはいけないですし、国内を引き締めるために強権化を進めていくことになります。EUに向けた国際的な立ち位置と、国内の強権化のギャップというジレンマが極大化したときに今後どうなっていくのかという心配があります。

 

荻上 これからもトルコが重要な地域であることは変わらないということですね。

 

黒井 トルコは大量の難民が入ってきていますし、ISILの出入り口になっていますから、そこがこけてしまうと世界のテロ対策自体がこけてしまうことになります。福田先生がおっしゃったように、トルコの国内で不満が介在しているようであれば、その行方が今後重要になってくると思います。

 

荻上 「不満」はテロを考える上で重要なキーワードになると思います。また後ほどそのあたりも国内情勢とどのように関係してくるのか読み解いていきたいと思います。

 

 

「テロ」とは何か

 

荻上 「テロ」という言葉について、さまざまな意見がきています。

 

「テロという言葉について定義もなく、いい加減に使われているというのが私の意見です。テロという分かったようで分からない言葉を用いることは、それこそ政治的目的を持った国家による印象操作を許すだけです。」

「テロの定義を示してください」

「政治目的を持ったテロと自殺志願者が冥土の土産にひと暴れする通り魔を整理してほしい。」

 

「テロ」の使われ方や定義についてどのようにお感じになりますか。

 

福田 テラー(terror)は本来「恐怖」を意味しますから、テロは「恐怖」を利用した政治的コミュニケーションと言えるでしょう。

 

私自身の定義としては、政治的目的というものを持って、爆弾や銃撃事件などを起こすことで、社会から注目を集めて自分たちのメッセージを世界に宣伝し、それによって一国の政策を変更させたり、社会を混乱させる暴力行為のことを「テロリズム」としています。

 

しかし、政治的目的がなくても、大規模な事件を起こしたらテロと呼ぶべきだという意見もありますから、研究者の中でも色々な立場があります。たとえば、ニースでの事件の場合、フランスの革命記念日の花火大会が狙われたため、フランス国民にとっては政治的なダメージがありました。そのとき、容疑者が政治的目的を持っていたかは関係ありません。意図はなくても政治的な効果が発生するのであれば、「テロリズム」であると考えることもできます。

 

荻上 黒井さんは「テロ」の定義についてどうお感じになられますか。

 

黒井 学問上のテロリズムと報道上のテロリズムはちょっと違います。社会側から見て政治的背景にあるものは「テロ」と呼んでいるというのが報道上の慣習だと思います。特に定義は決まっていません。犯罪度が高いかどうかでテロか抵抗運動か、あるいはゲリラ運動かという区別もあります。

 

また、「テロ」には、言う側の悪意が含まれているように思います。政治的な対立構造の中でやっている本人たちを、一方的に悪いものとして扱うような意味があるのではないでしょうか。

 

荻上 では、先週の末に起きたニースでの出来事はテロと考えて良いのでしょうか。

 

福田 容疑者が亡くなっているので本人の目的は分かりませんが、「フランスの革命記念日が標的になっている」という政治的効果が発生した時点で、テロと言えます。社会も国家権力もメディアも一緒に「テロ」を作り上げていく共犯関係的な部分もあります。

 

テロリズムという現象を語っていく「行為」自体も政治的なコミュニケーションといえるでしょう。「テロ」とせずに、「独立運動の英雄」とみなすこともできますし、「テロ」かどうかは解釈する人の立場によって変わります。

 

 

「ホームグローン」と「ローンウルフ」

 

荻上 ニースのテロについて、容疑者のタイプや犯行の手口についてはどのように見ていらっしゃいますか。

 

黒井 自殺志願者の心境は個人それぞれで違うと思います。1つのパターンとして想定できるのは、「たくさんのひとを道連れにしたい」「すがるものが欲しい」という破滅願望が先にあり、イスラム化した可能性です。

 

福田 犯行の手口自体は特に新しいものではないと思っています。トラックを使って轢き殺していく方法は、日本でも秋葉原の事件の際に加藤容疑者が使った手段でもあります。自動車爆弾を使ったテロは世界中で起きていますし、中東でも連日起きています。

 

荻上 亡くなってしまった容疑者の心理は分からないにしても、犯人のタイプをどのように考えればよいでしょうか。

 

黒井 おそらく、思想背景は少ないけれども、大きなことをやってやろうという風潮に感化されたのではないでしょうか。今後こういったテロの形が危惧されていくのではないかと思います。

 

荻上 海外の過激思想に共鳴した国内出身者が起こすテロを「ホームグローン」と呼びますよね。彼らがなにかしらのはけ口をテロに結びつけるようになってしまった。さらには、団体に所属していないにも関わらず、思想的に感染してテロを起こす「ローンウルフ(一匹狼)」というひとたちも最近では目立ってきていますよね。

 

福田 今回のニースのテロについてもホームグローン的であるし、ローンウルフ的であるという意味では、最近増えてきている無差別テロのパターンの一つだろうと思います。

 

荻上 ホームグローンとローンウルフがセットでよく語られますが、ホームグローンでありながら国内で感染組織を独自で作って数人、数十人などでテロを行うということも想定しておいた方がよいのでしょうか。

 

福田 今月起きたバグダットでのダッカの日本人人質テロ事件は、その傾向があります。そうではなくても、たとえばアメリカのボストンマラソンの爆弾テロ事件は、ローンウルフ型でありながら、二人の移民の兄弟が実行したという「ホームグローン」の側面もあります。今回のニースのように、ISILなどのテロ組織とは直接的に関係がないようなタイプがこれから増えてくると思います。

 

 

福田氏

 

 

ソフトターゲットへのテロ

 

荻上 テロにおけるターゲットの選び方というのはどう考えれば良いのでしょうか。

 

黒井 警備の手薄なイベント会場や建物、民間人などを「ソフトターゲット」と呼びます。これまで、ソフトターゲットへのテロは、軽い感じで扱われていて話題にもならなかった。しかしISILの登場から、「ジハードの成果」として、ソフトターゲットであっても多くののひとを殺した方が評価され、英雄視される傾向があります。

 

福田 現在のテロの潮流は無差別テロに明らかにシフトしているでしょう。ぼくは「ソフトターゲット」には3つの要素があると思っています。 

 

1つ目は伊勢志摩サミットやオリンピックのような、世界中の要人やメディアや観客が集まるメディアイベント。

 

2つ目は9.11で狙われていたワールドトレードセンタービルのようなランドマーク。そういった象徴的なもの、観光地などは狙われやすい。

 

3つ目はレストランやイベント会場、もしくは駅など不特定多数のひとが集まっている集客施設や交通機関。そこに紛れてしまえば簡単にテロを起こすことができる。これからの潮流として、3つ目を狙うテロが多くなると考えられます。

 

荻上 象徴的な効果はないけれども、たくさんひとを殺したという意味で潮流になっているということですね。

 

黒井 そうですね。また、イスラムに敵対する勢力と認識されるような、文化やイデオロギーが加味された政治性のあるものが狙われやすくなると思います。

 

荻上 その政治性については一貫していない印象があります。巻き添えを食ってしまうムスリムのひとたちもいると思うのですが。

 

福田 選別して本当のターゲットを殺害するのではなく、ISILやアルカイダなどに影響を受けた一般人が過激化し、簡単な方法でテロをやってしまいます。だから無差別になるという杜撰な部分があるのです。「大雑把なテロリズム」という言い方もできるかもしれません。

 

荻上 テロ対策の対象として、ソフトターゲットを入れることは現実的に考えられるのでしょうか。

 

黒井 ソフトなところを全部やるというのは人為的にも予算的にも無理なので難しいでしょう。特に今のテロリストとは、過去と違って自殺前提の犯行ですから、そこを防御していくのは難しいでしょう。

 

荻上 リスナーから質問が来ております。

 

「ソフトターゲットへのテロ対策について質問です。一見普通のひとに見えるひとの暴力によるテロが問題について、どのような対策を講じれば防ぐことができるのでしょうか。」

 

黒井 我々一般にできることはほとんどないと思います。いわゆる普通のひとに対しての事前察知はまず無理でしょう。インターネットの書き込みを全て監視するのは不可能ですから、それはしょうがないのかなと思います。

 

福田 さまざまな危機において言える事ですが、リスクをゼロにするのは不可能に近いので、一般人が急に過激化して社会の中でテロを起こすことを防ごうと思ったら、強大な監視社会を作るしかありません。 安全安心のための監視を強化していくのか、自由、人権を守るために考えていくのかというバランスが必要だと思います。【次ページにつづく】

 

 

【ご支援ください!】新しい政治を生み出すために、シノドス国際社会動向研究所をつくりたい!

 

lounge

 

α-synodos03-2

1 2

vol.216 特集:移動

・東京大学大学院超域文化学教授・内野儀氏インタビュー「国境を越える舞台芸術――移動するアーティストと変化する舞台表現」

・松岡洋子「『エイジング・イン・プレイス』と『日本版CCRC構想』」

・上村明「牧畜における移動――不確実性を生きる」

・中田哲也「『フード・マイレージ』から私たちの食を考える」

・齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「Yeah! めっちゃ平日」