オルタナ右翼を考える

今月20日、共和党のドナルド・トランプ氏による新政権が発足した。そんな中、トランプ氏の大統領就任に反対するデモは各地で行われ、人種差別、女性蔑視、移民排斥に対する危機感を訴える声が広がっている。大統領選において早くからトランプ氏を支持し、ネット上で過激な発言を繰り返している「オルタナ右翼」とは一体何なのか。今後アメリカ政治にどんな影響を与えうるのか? 専門家に伺った。2016年11月16日(水)放送TBSラジオ荻上チキ・Session22「トランプ旋風の一翼を担った『オルタナ右翼』とは何なのか?」より抄録。(構成/戸村サキ)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時~生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

オルタナ右翼とは

 

荻上 本日のゲストは、アメリカ現代政治がご専門、上智大学教授の前嶋和弘さんと、駿河台大学専任講師GLOCOM 客員研究員でオルタナ右翼ウォッチを続ける八田真行さんです。

 

前嶋・八田 よろしくお願いします。

 

荻上 また、のちほど映画評論家の町山智浩さんにもお電話でお話をお聞きしたいと思います。

 

さて、トランプ政権が1月20日からスタートですが、すでに電話外交や人事なども始まっています(※)。 お二人は現在の閣僚候補はどうご覧になりますか?

 

※2016年11月16日放送時点

 

前嶋 トランプ氏の選挙戦を支えてきた人がほとんどですよね。まだトランプ色がどこに表れてくるのかも分からない。そんな中で、共和党の本流メンバーも加わりつつ、トランプ氏をずっと支持してきた人も入りながらという微妙なバランスが今のところ見てとれます。

 

そんな中で、オルタナ右翼のプラットフォームとも言われるニュースサイト「ブライトバート・ニュース」の会長、スティーブ・バノン氏が主席戦略官と上級顧問を務めることになったのは、アメリカの中でもかなり論争を呼んでいますね。

 

八田 まだ不明瞭なところが多いのですが、面白いと思ったのは、国務長官(日本の外務大臣に相当)に、「ネオコン(ネオコンサバティブ=新保守主義派)」の代表格として日本でも知られるジョン・ボルトンという人物を起用しようとしていて、これが共和党内のオルタナ右翼から反感を買っている。トランプらしく支離滅裂というか、いきなり座礁しています。

 

 

既存の右翼・保守派とは異なる存在

 

荻上 ネオコンとオルタナ右翼との関係は水と油のように険悪と聞きましたが、そもそもネオコンとは、どういった思想の持ち主なんでしょう?

 

八田 日本で「共和党」と聞いて連想するような考えの持ち主が多いです。もともと反共産主義ですね。外交的にはタカ派が多く、ビッグビジネス(大企業)を優遇する。また、グローバリズムを推奨する。当然、TPP(環太平洋経済連携協定)も多くが推進する。そして親イスラエル、反ロシアという。

 

荻上 保守的な価値観を持ちつつ、国の力をより増していくという思想が強いですが、一方で ネオリベ (ネオリベラリズム=新自由主義)などとの経済政策ともマッチングがいい。ネオコンはブッシュ政権の頃から注目されてきましたが、やはり今でも共和党の中では影響力は大きいんでしょうか?

 

前嶋 今回の大統領選ではクリントン氏を応援していた人が多かったです。ネオコンは、民主主義を他の国に広げる、そのためには軍事力行使も拒まないタカ派 。その意味では、お節介ではあるけど理想はある。孤立主義を掲げてきたトランプ氏よりは、どちらかというとクリントン氏寄りの考え方なんです。

 

八田 「オルタナ右翼」という命名は2008年くらいですが、その存在が爆発したのは今年の8月25日です。何故かというと、クリントン氏がネバダ州での演説で「トランプ支持者はオルタナ右翼だ」と名指しで発言したからです。

 

色々な見解があると思いますが、僕はオルタナ右翼=トランプ支持者なのだと思っています。ただ、その中でも思想はばらばらなんです。エスタブリッシュメント (既得権益層)や移民に反対などのいくつかのテーマに関して一致しているだけだと思います。それが、インターネット上の「ブライトバート・ニュース」などのまとめサイト的な場所だったり、日本の匿名掲示板に影響を受けた「4chan」、あるいはツイッター、フェイスブックなどで繋がっている、という印象ですね。

 

荻上 共和党党員やキリスト教右派の人たちも包括してオルタナ右翼と呼べるのでしょうか。

 

八田 右派と呼ばれる人たちの中で、既存の共和党の主流を担っていた派閥の外にいる全ての人がオルタナ右翼であると考えます。もともと「オルタナ」と言うのは、彼らが今までの右派に対する代替案として出てきたからです。今までの右派の中には、ネオコンや宗教右派、リバタリアン、みんな含まれています。

 

実はアメリカでは、「ネオコンは保守主義ではない」と思っている人が多いです。本来の保守主義というのは孤立主義的なところがあって、海外にあまり干渉しない、グローバリズムに与しない、キリスト教の伝統を大事にする とか、そういう方向のはずなのに、「イラク戦争を始めたじゃないか」「リーマンショックで経済が傾いたじゃないか」とか、そういう声が全部ネオコンのような主流派に向けられた。その怒りを持っている人たちがオルタナ右翼かと。

 

荻上 思想が引き算で固まっていくんですね。ということは、海外に対してどんどん出て行く進出主義・介入主義に対して、孤立主義であったり、または自由貿易に対して保護主義であったり、排外主義的なところが、オルタナ右翼の思想として残っているわけですか?

 

前嶋 アメリカの中で多くの人がどう認識しているかというと、オルタナ右翼=白人至上主義で、人種差別的な言動がかなり目立つ。ですから多くの人は嫌悪感を持って見ている。

 

荻上 それでも無視できない力を持っているということですか。

 

八田 トランプ氏が当選してからは差別的な言動言説が広まってしまいましたが、その前までは、むき出しのレイシズムは避けていて「アイデンティティが重要だ」と言っていたんです。白人・黒人といった人種ではなく、 西洋的なアイデンティティを持つ人々以外を差別する、ということです。

 

そうなると移民、イスラム教や他のバックグラウンドを持っている人々が排除される。逆に言うと、白人であっても、イラクの帰還兵などでイスラム教に改宗したりした人たちは、差別の対象になってしまうわけです。

 

一生懸命レイシストだと呼ばれることを回避しようと試行錯誤を繰り返してきたのがオルタナ右翼の特徴だったのですが、トランプ氏が当選すると、もう安心だとばかり黒人差別や反ユダヤ主義的な言説が飛び交うようになりました。

 

前嶋 一般的なイメージはそこで、反移民で反イスラムで反ユダヤ主義。これを踏まえると、オルタナ右翼に賛同する人は多くないですよね。

 

従来のアメリカの保守主義というのは、宗教保守=キリスト教に対して熱心で、聖書をそのまま信じている、中絶も同性婚もダメだというのがあり、それから、80年代くらいから「小さな政府」、減税という思想が固まっていった。外交的な側面ではネオコンが出入りしますが、基本的には宗教保守、リバタリアン(完全自由主義)=小さな政府ですから、反ユダヤ主義であったりするものは右翼とは関係ないわけです。だから従来の保守主義の人々は「なんだこりゃ」と。

 

前嶋氏

前嶋氏

 

 

「寝取られ保守」

 

荻上 オルタナ右翼というのは、自らが名乗り始めたものなんですか?

 

八田 多くは自分たちで名乗っていますね。彼らは主流派を蔑称で「寝取られ保守(コックサバティブ)」などと言うんです。保守の魂をリベラルに寝取られたような情けない男、女みたいな男、というような意味で馬鹿にしているんです。そもそもミソジニー(女性蔑視)が染みついているんですね。「寝取られ保守」という言葉にオルタナ右翼の要素が詰まっていると思います。主流派は「腐った連中」で、自分たちは彼らとは違う、という自己規定ですね。

 

荻上 先ほど「レイシストではない」という打ち出しもありましたけど、価値観やアイデンティティが同じであればアメリカ人でなくても構わない、ある種の同化主義というか、「白人化しろ」的なスタンスでしょうか。

 

八田 昔のようにある地域を征服して改宗を迫ったりとかではないですね。どちらかといえば内向的で、一部では、白人だけ集まって「棲み分け」をしようという思想もあります。アイデンティティが混ざるから軋轢が生まれるんであって、同じアイデンティティ・バックグラウンドを持つ人間同士で集まろうと。ですから難民もアメリカに来る必要はなく、自分たちのアイデンティティに近いところにいなさい、と言うんです。ただ、自分のアイデンティティを変えるんだったら来てもいいよ、という意見が多いです。まあ人によりますが。

 

荻上 移民に反対、フェミニズムにも否定的、リベラルを敵視していながら、これまでの保守主義に対しても批判している。

 

八田 つまり中道的なものに対して強く反発するので、クリントン氏も共和党の主流派も彼らからすると同じカテゴリに入るわけです。

 

荻上 それでは、オルタナ右翼にとってバーニー・サンダース氏はどう捉えられているんでしょうか?

 

八田 彼はいわばトランプ氏の合わせ鏡のようなもので、主張は真逆ですけど、言ってみれば「オルタナ左翼」といえるかと。実際に「オキュパイ運動(NYウォール街での反政府運動)」を率いていた人物の中で、その後オルタナ右翼に転向する人もいました。要するに反エスタブリッシュメントという意味では共通しています。

 

荻上 反フェミニズム、反リベラリズム、そしてマイノリティを攻撃する、そうした言動が現実の社会の中で広がっていくこともあるのでしょうか。

 

前嶋 基本的にはネットでの活動です。それを今回クリントン氏が演説の中で名指ししたことで、世界に広めてしまった。しかしそれ以前から、ティーパーティ(保守派のポピュリスト運動)もかなりオルタナ右翼に近いものがありました。私も彼らと一緒に歩いたり、逆にオキュパイの人々とも行動したんですけれど、そこには「既存のものは信じないぞ」という理念がありました。「今あるものはぶっ潰す」と。そうした主張がネットに出てきたとも言えます。

 

荻上 リスナーからこんな質問が来ています。

 

「前々回の大統領選では、新たな右翼としてティーパーティが注目されましたが、彼らとオルタナ右翼はどう違うんですか?」

 

前嶋 結構似ています。ティーパーティは、運動としては「小さな政府」なんですよ。「もう税金はうんざり(Taxed Enough Already)」の頭文字を取って、ティー(Tea)・パーティです。しかし実際に話してみると、反移民、反ユダヤ、反イスラム、という人がものすごく多いんですよ。とりあえず「小さな政府」で行くんだという大前提はあったとしても「反オバマ」という部分は、オルタナ右翼とかなり似ている部分です。本当の意味で排外思想なんです。

 

荻上 なるほど。ただ、孤立主義・経済政策というスタンスよりも、オルタナ右翼の主張として目立つのはより攻撃的な、反リベラル・反マイノリティといったものですよね。女性蔑視、セクシュアル・マイノリティへの見方についてはどうでしょうか。

 

八田 それも不透明で、オルタナ右翼の中にはゲイの人もいる。先日のトランプ氏の演説でも、人工中絶に関しては一貫して反対していますけど、LGBTはOK、しかし女性蔑視は根強いです。

 

思想としては一貫していないというか、分かりかねるところが多くあります。ただ一つ言えるのは、反移民、言い換えれば「反外部」というものがあって、共通項はそれだけとも言えます。それから自分の生活が苦しい、労働者階級であるというのが最大公約数かと思います。それ以外の点については様々な人がいる、という印象ですね。

 

 

オルタナ右翼のオピニオンリーダー

 

荻上 そうした中で、オルタナ右翼のプラットフォーム、オピニオンリーダーはいるんでしょうか?

 

八田 有名な人と言えば、「オルタナ右翼」の名付け親であり、自身もそう名乗って活動しているリチャード・B・スペンサーという人がいます。それから白人至上主義という意味ではジャレッド・テイラーという、「アメリカン・ルネッサンス」という雑誌を作っている人物。あとは、オルタナ右翼と言うより陰謀論者に近い存在としては、アレックス・ジョーンズという人が人気です。

 

あとはラジオパーソナリティーのラッシュ・リンボーという人物。ティーパーティ運動が盛んだったころは右翼の言論プラットフォームがトークラジオだったんですね。そういうところから出てきた人が、オピニオンリーダーとして活躍しています。

 

荻上 それぞれの主張というのはどういったものでしょうか。

 

八田 スペンサー氏は「アイデンティティが大事なんだ」という概念を打ち出した人ですが、その源泉はヨーロッパです。フランスの右派、マリーヌ・ル・ペン氏も似たような思想を持っているのではと思います。テイラー氏は白人主義、レイシズムの思想ですが、人種間には優劣がある、それには科学的な根拠があるんだ、といったことを言っています。優生思想ですね。でも変なところでアジア人はいいんだ、と言ったりもしています。ジョーンズ氏は、「すべてはユダヤ人の陰謀だ」といった典型的な陰謀論者なんですけど、トランプ氏にかなり強い影響力を持っていて、彼のネット番組にトランプ氏が出演したこともあります。

 

前嶋 今回の大統領選で、トランプ陣営がオルタナ右翼をプラットフォームにした、つまり政治利用されたんです。トランプ陣営は、オルタナ右翼の思想は滅茶苦茶だけど、自分の味方にできると考えたんですね。【次ページにつづく】

 

 

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