社会的企業が作り出す社会的・経済的な価値――イタリアの社会協同組合がもつ競争力を、社会的貢献を評価することによって理解する

未曾有の経済不況下、企業がリストラを進める中でも雇用を伸ばし続けたのがイタリアのソーシャルファーム、社会協同組合(cooperativa sociale)である。彼らのモットーは「連帯と品質」。同じ価値を共有した仲間が集まって、一般企業と異なるフラットな経営で、地域との共生を目指し、付加価値の高い商品やサービスを地域に提供し持続可能な雇用を生み出すことに成功している。EURICSEの研究員のSara Depedri氏に、ソーシャルファームが持つ経済効果に関する研究を報告いただいた。(翻訳 / 龍谷大学、浜井浩一)

 

 

はじめに

 

現代社会における社会的企業(ソーシャルファーム)(注1)の役割とは何だろう。そして、社会的企業が社会にどの程度貢献しているのかを示す必要があるのはどうしてであろう。今日の私の話は、イタリアにおいて法的に社会的企業として認められている社会協同組合を例に、こうした疑問に答えるものである。

 

(注1)ソーシャルファーム・ヨーロッパ(Social Firm Europe) では、以下の5点をソーシャルファームの定義としている。(http://socialfirmseurope.org/

1.障がい者や労働市場で不利益な立場にいる人たちの雇用を創出する。

2.市場志向性を持つ製品やサービスによって社会的目的(ミッション)を追求する。

3.30%以上の従業員が障がい者や社会的に不利益な立場にいる当事者である。

4.それぞれの能力にかかわらず、すべての従業員に市場と同等の賃金が支払われる。

5.労働の機会は不利益な立場にいるいないにかかわらず平等であり、すべての従業員は同じ権利を持ち義務を負う。(以下、注は翻訳を担当した浜井浩一による。)

 

私は、イタリアの事例は、今日の聴衆の皆さんにとって、とても興味深いものに違いないと思う。というのも、イタリアと日本の社会的企業には共通点があるからだ。それは、非営利であること、社会的なサービスと雇用の創造を含んでいること、さらには、最近起こっている社会福祉サービスにおけるイノベーションの多くが上からのお仕着せでなく、市民運動など下からのボトムアップによるものだからである。

 

日本の社会的企業へのアプローチで興味深いのは、マーケットや経済的側面との関連性にある。日本では、社会的企業は社会的・経済的な利益をもたらす存在だと見なされている。イタリアのアプローチが少し異なっているのは、イタリアの社会協同組合では、社会的な役割が第一だと見なされていることにある。もちろん、社会協同組合もいえども企業である以上、予算があり、経済的な制約にさらされている。そのため、財政・人事管理や生産過程などの管理などにおいて企業家としての素養が必要となるが、経済的な役割はどちらかというと副次的なものだと見なされている。

 

社会的企業に関する論文をいろいろと調べてみると、現代社会の様々な問題を解決するために、社会的企業の役割やその重要性を認識する研究者や行政が増えている一方で、社会的企業が果たしている経済的・社会的役割や、社会的企業が最近急増している原因に関する研究はほとんどなされていないことに気づく。

 

社会的企業が現れたのは、財政難等から、行政が必要な社会的サービスを十分に提供できなくなった状況において、社会的企業は、サービスを増強するために寄付を集めるなどして財政難を克服する能力があるからだと説明されている。しかし、そのような説明は十分とはいえない。社会的企業が果たしている役割は、地域社会や社会経済システムに対する社会的、経済的な効果(インパクト)を調べることで説明されるべきである。ご承知のように、社会的企業は、その社会的、経済的な役割とともに日々拡大している。だからこそ、データを集め、実証的なエビデンスを見つけることで、社会企業の役割や社会的な貢献を明らかにしなければならない。

 

近時、こうしたデータに対する公的な要請は、イタリア議会やヨーロッパ社会からもなされている。イタリアでは、2013年6月6日に、第三セクターや社会的企業改革のための法律103号が成立した。そこで導入された改革の中で、この法律は、社会的企業の社会的な貢献に対するアセスメントに向けた透明化と情報公開とを求めている。

 

この社会的貢献に対するアセスメントとは、「質的、量的な評価で、短期・中期・長期的の視点から、地域社会の活動に対する効果、それぞれの組織が掲げた使命(ミッション)や活動に沿った評価(第7条3項)」となっている。私たちは、こうした定義は必要にして十分なものであり、これによって地域経済における社会協同組合の役割を現実的に理解することができると考えている。

 

しかし、その一方で、政府によるこうした要請は、社会的企業にとってかなり厳しいものだとも考えている。というのも、こうした要請は、社会協同組合に対して、相互の比較を可能にし、経済や社会システムに対する社会協同組合の貢献を理解可能なものとするためとはいえ、大量のデータや情報を収集し、彼らが作り出す価値や指標を明確にすることを求めるものだからである。

 

このアセスメントの最大の利点は、社会協同組合が地域社会のために現実に生み出す価値にエビデンス(根拠)を与えることができることにある。さて、それでは、社会協同組合による社会的・経済的な多面的効果について紹介しよう。それは、私がベネト州(注2)で行った調査の結果である。ベネト州は、成熟した企業が多いのが特徴の州の一つで、そこでは行動の効率と効果、社会的使命と企業家としての活動のバランスが顕著である。

 

(注2)ヴェネチアを州都とする北部イタリアの地方行政区域で人口は約500万人。

 

社会協同組合の概要

まず、イタリアの社会協同組合について、一般的な情報から紹介しよう。イタリアは、過去20年間で社会的企業が最も着実に発展してきた国の一つである。今日、13,000の社会協同組合が存在し、そのうち56%が社会的サービスを生み出し(A型)、33%が何らかのハンディを持った人(困難を抱えた人)に対する雇用を生み出している(B型)。残りは、その両方を含む多様な活動を行っている。つまり、イタリアの社会協同組合は、社会的サービスの提供と労働市場への包摂(就労支援)の両方を担っているのである。

 

2014年にイタリアの社会協同組合が記録した総売上高は102億ユーロであり、40万人の雇用を生み出し、うち10%が何らかのハンディを背負っている人たちである。また、2011年には、42,000人を数えるなど、社会協同組合には多くのボランティアが働いている。国の推計によると、2011年の段階で、困難を抱えている人300万人を含む500万人(全人口の8.5%)の人が社会協同組合の提供するサービスを利用している。興味深いことに、社会協同組合は経済危機が深刻なときほど大きく成長を遂げている。2008年から2013年にかけて15.1%も雇用を延ばしている。同時期に、イタリア全体では1.2%の雇用が失われている。こうした成功はどこから来るのか。社会的貢献に対するアセスメントを研究することは、地域社会の経済や社会の発展に貢献する社会的企業の成功の要因を明らかにすることなのである。

 

 

Sara Depedri氏

Sara Depedri氏

 

 

財政的側面と経済効果

 

まず、最初の重要な要因は、社会的企業の経済的な側面である。いくつかの経済的側面の分析によって、社会的企業の地域社会における経済的貢献や、組織としての持続可能性が理解しやすくなる。いくつか事例を紹介しよう。

 

ベネト州では、他の州と比較しても、様々な規模の社会協同組合が活動している。生産額が50万ユーロ以下の小規模生産の組織も少なくない一方で、年間生産額が100万ユーロを超える大きな組織もある。収益に関しては興味深いデータがある。社会協同組合のタイプによって大きな差があるものの、いくつかの社会協同組合は、市場競争力を持ち、公共機関に対する販売に頼らなくても自立する能力をもっている。

 

A型と呼ばれる社会的なサービスを提供する協同組合は、年間収入の73%を公共機関からの収益に頼っている一方で、B型と呼ばれる社会協同組合では、ビジネスの多様性やイノベーションによって、収益の62%を市場での販売か、企業との取引から得ている。

 

さらに、他に二つの社会協同組合の効率性を示す側面がある。一つは、彼らはもともと持っているリスクが小さいということである。というのも、社会協同組合の収入構造が重層的であり、そして、少数の投資者に頼っていないからである。もう一つは、社会協同組合は、EUの補助金、地方の補助金や(たとえ金額としては少ないとしても)寄付など、多様な財源を求めることができるということである。

 

経済的側面の最後として、純資産を考慮しなくてはならない。一般的に社会協同組合、特に生産性の高い社会協同組合ほど高いレベルで純資産をもっている。そのほとんどは前年度の蓄積された利益から作られたもので、それらが投資、成長、イノベーションや総合的な資産形成を可能にし、地域社会に経済・社会的貢献をもたらしている。

 

さらに、そのことによって、社会協同組合の利益構造(利益の妥当性)を理解することできる。利益は財政的資源として蓄積されるため、利益を得ることで社会協同組合は資産を増加し、長期的に見た経済的安定性と持続可能性を改善することができる。また、最後に、商売を畳むときに、社会的企業の純資産は他の社会的活動に投与され、そして社会貢献につながることも指摘しておかなくてはならない。

 

さて、財政データの分析によって、私たちは社会的企業の経済的役割について理解することができた。しかし、地域社会に対する経済的貢献をトータルに理解するためには、財政面以外の側面も考慮する必要がある。

 

第一に、地域に対して社会的サービスを提供するという、社会協同組合の活動を支えている重要な資源(リソース)は不動産である。そして、興味深いことに、多くの社会協同組合は財産を持ち、不動産への大きな投資で競争力をつけている。しかし、さらに社会的協同組合の資源を確かなものとしているのは、行政機関との強固な関係や地方政府と信頼関係である。社会協同組合の資源の多くは、公的機関が所有している土地や建物であり、それらを使うことで社会協同組合はサービスを供給することができ、また、様々な投資も可能となっている。

 

このように、無料で建物を使用できるといった公的機関とのパートナーショップは、単に社会協同組合にメリットがあるだけでなく、使われていなかった施設を補修したり、そこを利用価値のあるものにしたりすることによって、公的機関や地域にも恩恵をもたらしている。

 

さらに、社会的企業のもう一つの経済的貢献の側面として、社会的企業自体が、地域から物資を購入するという点も指摘しておく必要がある。社会的企業による物資の購入の75%は地域経済の中で行われ、それによって地域経済に貢献しているのである。また、地域の第三セクターについても、購入の約15%は非営利団体によるものである。

 

 

社会的側面と社会的効果

 

では、次に、私の所属するヨーロッパ社会的企業研究所(European Research Institute on Cooperative and Social Enterprises)にとっても重要な概念である、社会的企業の社会的な貢献に関する指標を見てみよう。

 

イタリアの社会協同組合の特徴の一つはガバナンスの重層性にある。これが従来の伝統的な非営利団体に対する、社会協同組合を含む社会的企業の利点となっている。伝統的非営利団体は一般的に(Henry Hansmann(注3)によると)非独占組織であるのに対して、社会的企業はステークホルダー(利害関係者)(注4)によって効果的に運営されている。

 

(注3)エール大学教授(法と経済学)。非営利団体を財源の調達とそれを誰が管理しているかという点から分類した研究で有名。

 

(注4)消費者(顧客)、従業員、寄付者、ボランティア、仕入先、得意先、地域社会、行政機関などの利害関係者

 

イタリアのほとんどの社会協同組合には、クライアントである組合員だけでなく、寄付者、その他の公的・私的組織やボランティアがその運営に関わっている。重層的なステークホルダーによるガバナンスは、ステークホルダーそれぞれの利害を守り、組織の社会的目的(存在意義)を強化する。それによって、さらに多くの人がコミットし、信用と信頼が拡大し、結果として、地域でのプレゼンスが高まり、資源を集める機会を増加させることにつながっている。

 

その他、社会協同組合の民主的な運営や包摂的プロセスに関する指標として、ネットワーキング(連携)への投資がある。ネットワークは、社会協同組合にとって、知識を共有し、新しいサービスを生み出し、地域での資源を集め、活動を改善するための重要な機会そのものである。

 

質的にも量的にも、二つのタイプのネットワークが、社会的企業に付加価値を与えている。一つは、公的機関とのネットワークであり、そして、もう一つは他の企業とのネットワークである。公的機関とのネットワークに関しては、社会協同組合の収入に関するデータや契約数が、そのパートナーシップの重要性を示している。

 

しかし、社会協同組合は、ただ単に経済的な理由や契約だけで公的機関とつながっているわけではない。イタリアの社会協同組合は、質の高いサービスを生み出したり、優れた地域政策を実現したりすることで、直接的・間接的に社会貢献につながるような連携を模索している。多くの社会協同組合が公共機関と一緒に、サービスの設計や政策評価のためのパブリックミーティングに参画している。社会協同組合は、ハンディを背負った人々の就労の機会や利用者のニーズにより良く答えるために、地域行政と一緒に活動し、そして、多くの社会協同組合が地域政策の策定に関与している。

 

民間企業とのネットワークについては、いくつかの計量経済学の指標によって示すことができる。社会協同組合同士の連携や他の社会的企業との連携の商業的な価値や貢献については、すでに述べたとおりである。しかし、彼らの社会的貢献に目を向けると、一般企業とのネットワークは、生産や企業経営のノウハウの増加、ひいてはサービスの量や質の向上やサプライチェーン(注5)の向上につながっている。民間企業との連携によって、社会協同組合は、競争力を増し、公共の入札に参画し、ひいては、技術を身につけたハンディを持つ従業員を、一般企業に就職させることにつなげることができるのである。

 

(注5)サプライチェーンとは、企業の経営・管理で使用する用語で、原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、販売、配送までの製品の全体的な流れのこと。

 

さらに、社会協同組合が他の第三セクターと協力することで、ソーシャルキャピタル(社会資本)の架け橋となったときに、ネットワーキングは地域社会に大きく貢献するこができる(つまり、それは、異なる社会経済的背景を持ちながらも、同じ使命を持ち、異なるグループに所属するメンバー同士の信頼関係を向上させる)。社会協同組合の多くが、他の同様の組織とのコンソーシア(連盟)に参加したり、他の第三セクター組織とネットワークを結んだりしていることをデータは示している。

 

こうしたネットワークは、社会的企業の競争力を高める点で実質的メリットがあると同時に、社会的貢献にもつながっている。ネットワークが生み出す社会的貢献とは何か、少し例を示して説明しよう。

 

他の第三セクターとの協力は、それぞれの組織に様々な連帯的な行動を可能にする。他の組織に対する無料のサポートや助言を与えたり、借入や寄付を与えたり、財政難から他の組織をレイオフされた人を受け入れたりするなどである。これに次いで、地域社会にとって最も大きな直接的メリットは、地域のニーズに対する対応や政策に影響を与えることと関係している。社会協同組合は、ボランティアの参加や、関与している組織の個別的資源や資金調達活動のおかげで、クライアントに新しいサービスを無料で提供できる。そのことによって、他の組織と協力することで長期的かつ幅広く、地域社会に対してこれまでになかったサービスをデザインし、提供することができる。

 

 

浜井浩一氏(左)

浜井浩一氏(左)

 

 

アウトプットとアウトカム(社会的企業が社会的包摂を作り出すサイクル)

 

これまでに述べてきたような競争的優位や、社会的企業独特の特徴、統合的(連帯的)プロセスによって、イタリアの社会協同組合は、社会的サービスを生み出し、ハンディを持つ人々を雇用市場に組み入れるという社会的目標を達成した。そして、以下のような中心的活動を効率的、効果的にサポートすることができている。

 

A型の社会協同組合は、子どもたち、若者、障がい者、高齢者、移民やホームレスといった人たちに、医療サービス、教育的・文化的なサービスといった多くの社会的サービスを提供するなど、地域の幅広いニーズを満たすその優れた能力によって社会に貢献している。彼らの貢献(を示す指標)は、そのユーザー数に表れている。すでに紹介したように、人口の8%の人が(その割合は社会協同組合が網の目のように広がっている地域ほど高くなっている)社会協同組合からのサービスの提供を受けている。しかも、この割合は年々著しく増加し、行政によるサービスの提供、人口の変化や新たに生まれるニーズに対しても的確に応えている。

 

つまり、社会協同組合の成功を説明する最も重要な要素は、彼らの提供するサービスの質にあるといえる。社会協同組によって提供される社会的サービスは、良い意味で(行政サービスと異なり)、しばしば標準化されていない。しかし、それだけに一人ひとりのニーズに応えた、ユーザーの個人的特性に合った柔軟なものとなっている。社会協同組合の作り出すサービスの質は、クライアントや彼らの家族、そして公的機関にとって高く評価され、満足度も高くなっている。

 

B型の社会協同組合でも同様の結果が表れている。彼らの活動は、地域の社会・労働政策に大きく貢献し、その効果は、ハンディを持つ人たちの高い就業人員に表れ、就労支援の効果は、専門的かつ統合された就労プロセスにも表れている。

 

B型の社会協同組合は、もともとは心身に重い障がいを持つ人の就労支援を目的として作られたものだが、近年は、ニート、移民や犯罪者など、新たなタイプのハンディを持つ人たちにも就労の機会を提供している。さらに、社会協同組合が持つ統合された就労支援プロセスの強みは、生産を増やし、ハンディを持つ就労者に貢献するために、他の組織が持つサービスチェーンを利用したり、彼らの活動に他の社会協同組合のユーザーを導いたり、彼らの習熟した従業員の潜在的受け皿であるパートナーを見つけたりする社会協同組合の能力にある。

 

残念ながら、最近の経済不況によって、ハンディを持つ人たちの就労は試練にさらされている。にもかかわらず、データは、社会協同組合が引続きハンディを持つ人たちにとって重要な役割を果たしていることを示している。この期間も、ハンディを持つ人たちの雇用は毎年3~4%増加し、訓練期間を含め、就労しているハンディを持つ人たちの72%が、任期のない社会協同組合の正組合員として働いている。そして、平均して4.5% が一般企業へと就職している。

 

 

一般雇用へ:就労の質的側面

 

これまでに紹介したデータは、イタリアにおける社会協同組合の社会的、経済的役割を表すのに適切な要素を含んでいると同時に、他の国の社会的企業にも当てはまるものである。これらの数字は、社会的企業の実社会での活動を表す、経験、投資、参加、ネットワーキング、その他の多くの特徴の結果を示している。

 

しかし、社会協同組合の社会的役割を最終的に結論づけるためには、(人が資本の企業である組織の性格上)彼らの活動の柱の一つを考慮しなくてはならない。それは、従業員(組合員)そのものである。社会協同組合の雇用への貢献は明確である。2014年には40万人が社会協同組合によって雇用されている。そして、近年、その数は、経済・財政危機の期間を含めても確実に増加している。

 

イタリアの社会協同組合は、生産性が高く、財政的にも安全かつ安定している組織であることをデータは示している。また、社会協同組合がコンソーシアによってネットワーク化され、他の第三セクターや公的機関や一般企業ともネットワークを結ぶことで、さらに発展するためのシステムを作り上げることに成功していることもデータは示している。

 

経済危機が、社会的企業にまったく影響を与えなかったとはいえないとはしても、そして、公的資源の不足や他の機関の財政危機が社会的企業の収入に間接的な影響を与えたとしても、社会的企業の主要な資源と最も重要な結果は、そこで働き続けている従業員たちの存在にあることは間違いがない。

 

社会協同組合の中で最も生産性が高く、企業家精神に富んだ地域(ベネト州もそのひとつだが)のデータを見ると、四分の一以下の社会協同組合が従業員15人以下であり、四分の一以下が従業員100人以上である。そして、この業界は女性の雇用をより多く生み出している(社会協同組合の全従業員の75%が女性である)。特に、若年女性においてそれが顕著である(データによると従業員の16%が30歳未満である)(注6)。

 

(注6)イタリアの若年者の失業率は2014年に40%を超えたが、徐々に低下し、2016年に40%を切り、2017年には30%前後となっている。

 

さらに、社会協同組合は、法律上の定義にあるような明確なハンディを持っていない一般の求職者に対しても、労働市場弱者と見なされている者、たとえば長期間にわたって失業している者、社会的な困難を抱えていて社会福祉の支援を受けている者や就職が困難な若者といった者を、社会的なプロジェクトの一環として雇用している。

 

社会協同組合の雇用への貢献といった質的側面は、雇用の安定性(78%が任期のない雇用契約)、勤務時間の柔軟性(43.8%の従業員がフルタイムで雇用され、パートタイムは女性従業員のニーズに従って設定されている)、地元雇用(64%の従業員が社会協同組合所在地の州の出身者で、28.9%が所在地の市町村の出身者である)などの指標に表れている。そして、結果として、従業員の仕事に対する満足度はとても高く、社会協同組合の社会的使命にコミットし、その活動に専念し、すばらしい活動に従事している。

 

 

結語

 

社会的企業の貢献を理解するためには、多くの側面や要素に注目する必要がある。

 

本日説明した様々な情報が、社会協同組合が生み出している経済的貢献、社会的な価値の創造、社会的企業の社会や労働政策への貢献、地域社会の発展への貢献を理解する手助けになれば幸いである。

 

今回紹介したイタリアの事例やデータは、国際的な領域における社会的企業の活動の一例であるが、イタリアの社会協同組合モデルは、社会的な目的(社会的包摂)の名のもとに行われる企業活動のベストプラクティス(最良の実践)の一つである。イタリアは単に社会協同組合運動において最も歴史を持っているだけでなく、社会的目標や本質を失うことなく、近年は、社会的企業のイノベーションや発展に象徴される効果的なエコシステムを生み出している。

 

イタリアの社会協同組合の大きな強みは、企業家と社会活動家という二つの顔の間でのバランスを上手にとる能力にあると私は考えている。そうすることで、人々のニーズに応え、必要なサービスを作り出し、提供することで、多様なステークホルダーだけでなく、社会全体に貢献するより良い答えを出しているのだ。つまり、社会協同組合の特徴は、単に経済効果によって測定できるものではない。それに加えて、組織としての連帯、リスクをとった投資、多様な分野での活動によって成長する能力などによって測ることのできる、優れた生産性と企業家としての能力にあるのである。

 

こうした企業家としての能力は、サービスを発展させるために必要な(市場資源や個人の関心といった)資源を呼び込むことに対して、目に見える効果を持っているだけでない。さらには、投資、消費や都市再生を促進することなどによって、直接関わってはいない第三者にも影響を与えている。

 

良いビジネスは、社会的活動の方法、より良いサービスを生み出す能力、利用者やステークホルダーの幸福に対して妥協をしない。社会の異なるニーズに応えるサービスとは、フレキシブルで、しばしば顧客のニーズに合わせることができ、利用者だけでなく、その家族にも良い効果をもたらすことができる。

 

同時に、社会協同組合の持つ力は、様々なネットワークを通して、市民、パートナー関係にある企業、第三セクター、公的機関や政治家などを巻き込んで、関わっている者すべての信頼と協力を向上させる。そして、社会的企業自身の成長をサポートする財政的、人的、そして意欲といった資源を増加させることで、地域社会のニーズにより良く応える。そうすることで、人々の幸福に貢献することのできる社会サービスを、ともに考え、ともに生み出すことができるのである。

 

もちろん、社会協同組合のモデルに弱点がないわけではない。ベストプラクティスの中にも、一貫性のない行動で、地域やパートナーの信頼を失ったり、公的資源の非効率的な管理によって組織としての持続可能な活動に支障をきたしたり、競争入札によって他の組織との協力関係を損なったりすることもある。しかし、協力関係が向上し、すべてのステークホルダーが関与し、社会的企業による経済的そして社会的な貢献が、社会に新しい価値を加えていることが理解されたときに、こうしたリスクは限定的なものとなるのである。

 

2017年3月20日 日伊シンポジウム「ボラーテ刑務所の奇跡 ソーシャルファームを活用した社会復帰」より収録

 

 

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