アフリカ取材のあり方を通じて日本のメディアを見つめてみる

ジンバブエが日本のメディアで取り上げられるのも珍しいので、わたしが働いているジンバブエの教育セクターのことが日本のメディアで取り上げられることなんて、まずないと思っていたのですが、驚くことに朝日新聞の「アフリカの風に吹かれて」という連載記事のなかで「672ドルになります 教育国の学力低下取材@ハラレ」と「人生を賭けた試験、背後に政府の人心掌握術?@ハラレ」と、二回にも渡ってジンバブエの教育が取り上げられました。

 

この「アフリカの風に吹かれて」は、アフリカ大陸に住み、歩き、語らい、感じ、そして日本を見つめるという趣旨の下に連載されているようなので、わたしもこの連載にならって日本のメディアのアフリカ取材のあり方から、日本のメディアのあり方を見つめてみようと思います。以下では、先ほどご紹介したそれぞれの記事の内容を順番に追っていって、日本のメディアのあり方を見つめてみます。

 

 

日本のメディアの傲慢さ

 

教育省の幹部に直接取材しようと押しかけたら、会議中だという。秘書が「質問と連絡先を紙に書いて」というので、ノートを破って書いて渡した。すると小一時間たって幹部から電話がかかってきて「質問があるときは、会社の正式な用紙に印刷するものです」と文句を言われる。

 

 

そもそも、ジンバブエにかぎらず、途上国の教育省の幹部は概して多忙です。途上国の教育官僚も、さまざまな陳情を受けたり、国会対応があったり、地方視察があったり、調査を行ったり、先進国の教育官僚と変わらない仕事をしています。ただ、途上国の教育官僚は先進国の教育官僚とは次の二点で大きく異なっています。

 

(1)人材・インフラ不足

 

つい先日、ジンバブエの国庫には217ドルしか残っていないことが、欧米や中東の主要メディアによって大きく報道され、日本のメディアでも取り上げられました。途上国の教育財政はここまでいかないにしても、大抵どこの国も逼迫した財政状況なので、新たに人を雇ことは難しく、教育省の内部を見ると、かなりのポストが空席のまま放置されているのが一般的です。普通の先進国ではこのような状況はないと思うのですが、基本的に途上国は先進国以上に少ない人材で仕事をしているというのが実情です。

 

さらに道路や電気などのインフラも整っていません。地方へ出張に行くのも、先進国なら日帰りで行けるような距離や行程であっても、鉄道はあるものの高速鉄道というには程遠く、それでいて道路の状況も良くないので移動に時間がかかる上に、治安上の問題で夜間は車の運転をすることができず、泊りになってしまったりすることもよくあります。

 

さらに、停電でパソコンやインターネットが使えなかったり、エレベーターが使えず10数階まで階段で行くこともあったりします。つまり、人もインフラも不足しているために、同じ仕事をしようとすると先進国よりも遥かに時間がかかってしまうという現状があります。

 

(2)ドナー・機関対応

 

わたしが働きだす前と比べて随分と改善されてきているそうなのですが、依然として国際協力業界でこれは大きな問題となっています。わたしの拙い仕事ぶりもそうさせてしまっている面があるので心苦しいかぎりなのですが、途上国の教育官僚は、世界銀行・ユニセフ・ユネスコ・UNDP・アフリカ(アジア・米州)開発銀行・ILOのような、教育関連の国際機関の職員との会議に頻繁に駆り出されてしまいます。

 

もちろん、援助の世界で動いているのは国際機関だけではありません。JICA、USAID、DFID、SIDA、GTZ、China AIDのような二国間援助機関(ドナー)も数多くあり、いくら近年コーディネートされてきているといえども、それらの機関との打ち合わせのために長い時間が割かれてしまうこともしばしば起きます。これに加えて、PLAN、World Vision、Oxfamのような数多くの国際NGOも途上国では活動しており、これらの国際NGOとの打ち合わせももちろんあります。

 

これだけでも頭が痛くなると思うのですが、各国には数多くの国内NGOも存在していて、教育省はこういった団体とも一緒に仕事をしています。近年、援助協調のスローガンとともに、この手間を減らそうという動きが盛んではありますが、まだまだ改善の余地があるのが現状です。

 

このように途上国の教育官僚の方々の多忙さは、教育省幹部と会議をするために、われわれでも10日前から彼らの日程を抑えさせてもらうことがあるほどです。とくにジンバブエの発展に貢献するような建設的な報道をするわけでもなく、ジンバブエで政治的なプレゼンスを発揮している報道機関でもない朝日新聞が、アポなしで押しかけていって教育省幹部に時間を取ってもらえるという考え方は傲慢以外の何ものでもないと思いました。

 

そもそも、日本の文部科学省の幹部に取材をするにあたって、いきなり押しかけて取材するような失礼なことをするのでしょうか? 日本での日々の業務のなかでやったら失礼なことは、基本的にどこの途上国に行っても失礼なことである、という認識が欠けているように思われます。途上国に対する驕りがそうさせているのかもしれませんが、これも傲慢以外の何ものでもないと思います。

 

この連載の別の記事 http://www.asahi.com/special/news/articles/TKY201302280366.html では、中央アフリカの大統領と面会するのにラフな服装、なんてこともされていますが、たとえば安倍総理に面会してもらうのにラフな服装でなんてありえないと思うのですが、一国のトップに時間を割いてもらってこの態度というのは、掲載されている写真を見ても傲慢さを通り越して一般常識が無いのではないか? と疑わざるを得ません。

 

 

 

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