「魂のジェノサイド」――ウガンダ「反同性愛法案」とその起源

東アフリカの内陸国を揺るがした「反同性愛法」

 

ナイル川の水源、ヴィクトリア湖に面した東アフリカの内陸国、ウガンダ共和国は、昨年12月20日から2月24日までのおよそ2か月間、一つの法案に関する大統領の判断を巡って大きく揺れ動いた。その法案とは、「反同性愛法案」(Anti-Homosexuality Bill)である。

 

昨年12月20日、ウガンダ国会は、「法案は人権侵害である。そもそもウガンダには同性間性行為を禁止する刑法があり、新たな立法措置は必要ない」という少数派の主張や、国会が議決をする定足数を満たしていないとする首相の警告を振り切り、圧倒的多数で法案を可決した。

 

ウガンダでは与党・国民抵抗運動(NRM)とウガンダ民主党、ウガンダ人民会議などの野党が積年の対立関係にあるが、「反同性愛法案」の可決は、ごく一部の反対を除き、すべての政党が賛成によってなされたのである。

 

ここにおいて、「反同性愛法案」をめぐる情勢は新たなステージを迎えた。法案は大統領が署名することによって初めて法律となる。「反同性愛法案」は、2009年に国会で可決されて以来、何度か可決されてきたが、1986年以来28年間政権の座にあるヨウェリ・ムセヴェニ大統領はそのたびに署名を拒否、法案はからくも不成立に終わってきたのである。ムセヴェニ大統領は国際社会と国内政治の両面から、注目を集めることとなった。

 

当初、ムセヴェニは主要援助国である欧米との関係を気遣って粛々と署名を拒否すると思われていた。しかし、政権の長期化と腐敗の進行で政権基盤が脆弱化する中、国内保守派の支持をつなぎとめる必要があることから、ムセヴェニは不思議な論法で署名を正当化し始める。

 

ムセヴェニは署名の可否を判断するために、「国内の科学者グループ」に同性愛に関する調査を命じ、1か月ほどの検討の結果、「同性愛は生来的なものでない」との結論を得たとの理由で、署名を行う意向を示したのである。これについて、米国のオバマ大統領は2月16日、「深い失望」を表明、「法案が成立すれば、ウガンダと米国の価値ある関係は複雑化するであろう」とする声明を発表した。

 

ムセヴェニは18日、これに対して、「ウガンダ共和国大統領・退役将軍」との肩書で長文の反論を発表し、再度、「科学的根拠」を強調して自らが法案に署名することを正当化した。ウガンダ議会が、大統領による返答の期限として設定していたのは2月23日だったが、最終的に、ムセヴェニはその翌日の2月24日、オバマへの反論と同趣旨の長文の声明を発表しつつ、法案に署名し、ここに「反同性愛法」(Anti-Homosexuality Act)が発効することとなった。

 

 

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同法案はその国会審議の過程から、ウガンダを揺さぶっていた。ウガンダ国内の同性愛者グループ「ウガンダの性的少数者たち」(SMUG)は法案に反対する立場を鮮明にし、米国の「国際ゲイ・レズビアン人権委員会」(IGLHRC)をはじめとする性的少数者の人権団体は2月10日を「ウガンダの法案に反対する世界行動デー」として、各国のウガンダ大使館などに抗議行動を行った。インターネットを通じた国際的な同性愛者の人権キャンペーンである「ALL OUT」は、世界中に散らばる登録者に対して、自国の首脳に働きかけてムセヴェニ大統領に署名を断念させるよう圧力をかけさせる国際キャンペーンを展開した。しかし、24日のムセヴェニ大統領の法案への署名により、これらの反対運動は結局、失敗に終わる結果となった。

 

ちなみに、ムセヴェニは法案への署名にあたって発表した声明で、同性間性行為に加えて、「オーラル・セックス」も「不自然」な性行為として退けるべきと言及している。ムセヴェニはウガンダの日刊紙「ニュー・ヴィジョン」の記者に対して「西側諸国がこれ以上、この問題に介入するなら、それは社会的帝国主義だ」と述べて民族主義者を気取っているが、実際のところ、同性愛に加えてわざわざ「オーラル・セックス」もこと挙げする彼のレトリックは、「アフリカの伝統」どころか、百数十年前に生殖目的以外のすべての性行為を「ソドミー」として禁止した英国ヴィクトリア朝の悪しき再現に他ならない。

 

 

 

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