なぜ選挙カーは候補者の名前を連呼するのか?【PR】

「○山○男をお願いします!」選挙前に聞こえる選挙カーの声。なぜ選挙カーは候補者の名前を連呼するのでしょうか。7月10日に迫った参議院選挙前に、不思議な公職選挙法の仕組みと、候補者の選び方について、『残念な政治家を選ばない技術 「選挙リテラシー」入門』(光文社新書)著者で、選挙プランナーの松田馨氏にお話を伺いました。(聞き手・構成/山本菜々子)

 

 

少しでも社会が良くなるビジョンがみえるか

 

――「選挙プランナー」はどのような仕事ですか?

 

クライアントである候補者の当選に向けて、政治活動のスケジュールや予算のマネージメント、公職選挙法についてのアドバイス、PR戦略の立案などをおこなっています。

 

 

――松田さん自身の政治信条などもあると思うのですが、どのような基準で仕事を引き受けているのでしょうか。

 

政治家になることは、権力を持つことと一緒です。ですから、この人が政治家になったときに、社会が良くなるイメージが持てるかを大事にしています。

 

おっしゃる通り、私にも個別の政策について意見はあります。ですが、細かい政策について、なにが本当に地域のため、国民のためになるのかを判断するのは非常に難しい。

 

参院選の争点になっている「アベノミクス」一つとっても、与党は様々な数字を出して「景気が良くなっている」と言い、野党は「効果はない」とこれまた数字を持ち出して反論するわけです。具体的な政策が正しかったかどうかは、時間がある程度たってから歴史的に判断されるものだと思います。

 

ですので、私個人の考え方とは違っていても、その人の発言に説得力があり、少しでも社会が良くなるようなビジョンが見えるのであれば、お手伝いすることにしています。

 

 

――依頼を断るケースもあるのでしょうか?

 

あります。政治家になりたいだけで、当選後のビジョンがない人はお断りしています。たとえば若い人で「市議会議員になりたい」という人に「どうしてなりたいのか?」と聞くと「若い人の声を反映したい」と答えます。私が、「市議会に傍聴にいったことは?」「市の予算規模はどれくらいか知っていますか?」「市政の総合計画には目を通していますか?」と聞くと答えられない。「まずは自分で調べてみて、やりたいことがあればまた来てください」言って、地方自治法の本や自治体のサイトなどを紹介するのですが、だいたい二度と来ません(笑)。

 

選挙プランナーの私が、候補者を「勝たせてあげる」わけではありません。選挙運動をするのはあくまで、候補者と支持者の人たちです。私ができるのは、ルールを守って選挙を闘うためのアドバイスと、闘い方の提案だけ。本人に相応の覚悟と「絶対に勝つ」という信念がないとダメだし、人を巻き込んでいける人じゃないと選挙は勝てません。

 

 

一票入れても意味がない?

 

――2015年の衆院選投票率が戦後最低の52.66%を記録するなど、政治への関心の低さが選挙のたびに問題になっていますよね。「投票に行こう」と呼びかける声も多いですが、どのようにしたら、投票率は上がるのでしょうか。

 

「投票に行こう」と私も言ってきましたし、様々な方が呼びかけています。その意義はよく分かりますが、毎回投票に行くような人に、投票日を思い出させるくらいの効果しかないのが現状で、投票にいく習慣のない人の行動を変えさせることは難しいと感じています。

 

たぶん、「○○党が勝つのだから」「どうせ私の一票じゃ結果は変わらない」と、無力感のある人が多いのではないでしょうか。ですが、選挙の現場にいると、投票が無駄になることはないとよく分かります。

 

というのも、政治家にとって得票数は戦闘力であり勲章です。だから、すごく得票数を気にするんです。当選した議員だけでなく、落選した議員にとっても意味があります。というのも、選挙というのは、何度も回数を重ねるものです。

 

「今回これだけの票を取れたから次は頑張ろう」と、落選した議員が奮起し、次の選挙で当選する。政治の世界では、よくあることです。投票の結果を政治家は受け止めますし、業界的にも大きな意味を持ちます。

 

たとえば、2009年に自民党から民主党に政権交代が起こりました。それが実現できたのも、与党になれなくてもコツコツ民主党に票を入れてきた人たちがいたからです。次に自民党に政権交代したときも同様で、与党が優勢であるときも、票を入れ続けた人たちがいました。

 

「どうせ、○○党が勝つし」と考えて、本当は違う党を応援しているのに、一票を入れないのは非常にもったいないことです。今回の選挙で仮に与党が勝ったとしても、野党が善戦すると、政治家たちは無視できません。勝ち負けから見ると、意味がないと思うかもしれませんが、あなたの一票は長いスパンでじわじわと効いてきます。あなたの一票は非常に重いのです。

 

 

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選挙カーは嫌いですか?

 

――選挙の時期になると、「選挙カーがうるさい」と話題になりますよね。それにしても、選挙カーが名前ばかり連呼するのはなぜですか?

 

あまり知られていないのですが、実は公選挙法で決められているんです。では、該当する部分を見てみましょう。

 

(車上の選挙運動の禁止)

第百四十一条の三  何人も、第百四十一条の規定により選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない。ただし、停止した自動車の上において選挙運動のための演説をすること及び第百四十条の二第一項ただし書の規定により自動車の上において選挙運動のための連呼行為をすることは、この限りでない

 

(連呼行為の禁止)

第百四十条二 何人も、選挙運動のため、連呼行為をすることができない。ただし、演説会場及び街頭演説(演説を含む。)の場所においてする場合並びに午前八時から午後八時までの間に限り、次条の規定により選挙運動のために使用される自動車又は船舶の上においてする場合は、この限りでない。

 

――えーっと、どういう意味でしょうか。

 

分かりづらいですよね。つまり、選挙カーに乗って選挙運動するのはダメ。だけど、例外として、走っている車の上から名前を連呼するのはOK。また、止まった選挙カーからだったら演説するならOKということです。「みんなに元気を!○山○子です!」のようなキャッチフレーズは政策とはみなされないので、走行中も言ってOKということになっております。

 

 

――ややこしいですね。選挙カーで名前を連呼することで、投票につながるのでしょうか。

 

これには様々な議論があります。去年、ブロガーの山本一郎さんが「『選挙カー』ってウザいけど意味あるの?」という記事を書いて話題になりました。選挙カーと得票の関係について、調査を分析したところ「回数多く選挙カーで名前を連呼した候補者は、その地区での得票は増える」傾向があると指摘されています。これは現場の感覚から言っても、うなずけるものです。選挙カーで名前を連呼することで知名度は上がりますし、投票にもつながります。

 

選挙カーの声が聞こえるということは、候補者がその地域を周っていることの証です。むしろ、「選挙カーが来てないぞ! うちの票はいらないのか?」と電話で怒られたことが何度もあります。「ウグイス譲が早口で聞こえなかった」とか「もっとゆっくり周ればいいのに」とお叱りを受けることも。小さな街の有権者などは、政治家に忘れられていると感じることに敏感ですし、「こんな場所にも来てくれた」と喜んでくれる方もいるのです。

 

ですから、現場の実感としては、選挙カーは嫌われていない。むしろ好かれています。でも、選挙にあまり関わっていなかったり、関心の薄い人からすると、「選挙カーはうるさい」と思われてしまうのでしょう。

 

実際、「選挙カーを使いません」と宣言している候補者もいますが、「あの人は選挙カーを使っていないから」投票する人はかなり少ないでしょう。それに、「選挙カーがうるさいから投票はしない」と言う人は、そもそも投票しない人なので、選挙結果に影響を及ぼしません。

 

 

ケーキとまんじゅうをめぐって

 

選挙カーのようなツールを利用するのも、公職選挙法で候補者のできることがかなり制限されているからです。たとえば、公職選挙法では有権者との直接接触を制限するものが多い。たとえば、アメリカでは個別訪問をするのは当たり前のことです。候補者や支持者が有権者にフェイストゥーフェイスで政策について伝えて、議論し合います。しかし、日本では基本的に個別訪問は制限されています。

 

 

――なぜですか?

 

有権者がなめられているとしか思えないのですが、「買収の温床になる」と考えられているからです。ですが、もし仮に買収しようとしたら、すぐSNSに書かれるような時代です。どの候補者もそんな危ない橋はわたりません。有権者と候補者の接点をなくすことで、どんな政策をするのか伝わらない方が問題です。実際、先進国で個別訪問が違法なのは日本だけです。

 

さらに言えば、選挙事務所にきた有権者にみかんや饅頭を差し出すのはOKだけど、ケーキを差し出したら違反になると言われています。「人に対して贅沢なものをふるまうのは買収行為にあたる」と規定があるからです。つまり、「まんじゅうでは投票しないけれど、ケーキで心動かされている可能性がある」と公職選挙法では考えられているとも言えます(笑)

 

――不思議ですね。なぜ、このような規定が残っているのでしょうか?

 

改正はされているものの、古い時代の価値観が残っている法律だからです。基本的には、「お金の有無にかかわらず、平等な選挙ができるように」という目的で制限がかけられています。ですが、ケーキが贅沢品だった時代はもう終わりました。選挙法事態も見直さなければいけない時期に来ていると言えるでしょう。

 

選挙制度そのものにも課題があります。2014年の選挙の際は、自民党の得票は48%だったにも関わらず、議席占有率では76%に達したことが話題になりました。この場合、主権者である国民の意志は正確に反映されたと言えるのでしょうか。

 

坂井豊貴さんが『多数決を疑う』(岩波新書)の中で、ボルダルールと呼ばれる選挙方式を紹介されています。有権者は1人1票ではなく、1位~3位までをランキングし、候補者にはそのランキングに応じて得点が配分されます。その最高得点者が当選となる仕組みですが、1人1票の多数決よりも、有権者の意志がより正確に反映される選挙制度です。

 

公職選挙法には、「主権者である国民の意志をどうすればより正しく反映させることができるか」という視点や「有権者が候補者を選びやすくなるにはどのような選挙運動が望ましいか」といった視点はありません。個人的には、公職選挙法の問題が政治離れをつくる根本だと感じています。イギリスのEU離脱を見ても、選挙はルールの決め方で勝敗が変わることが分かります。しかし、いま選挙で選ばれている人たちは、今のルールで選ばれているので、選挙制度を変えることは難しいでしょうね。

 

 

――議論も盛り上がりづらいかもしれませんね。「議員定数を減らす」のような分かりやすい話はみんな好きですが。

 

本来、政治家は国民の代表ですから、その人たちを減らすのは自分自身の首を絞めていることと同じです。さらに言えば、政治家の側も「議員定数削減!」と大きな声で言って、自分自身の首を絞めるのはいかがなものかと思います。税金のムダ遣いということで言えば、議員定数の削減の前に、やれることは沢山あります。

 

 

どうやって候補者を選べばいいの?

 

――今回の選挙のポイントを教えてください。

 

すごく基本的なところから説明しますね。日本は参議院と衆議院の二院制を取っています。参議院の任期は6年、日本の政治家の中で一番長いスパンで活動できます。6年間腰を据えて、政策について冷静に判断する機能が求められていると言えます。

 

 

――「良識の府」ってやつですね。選ぶ際にはどのような基準がありますか?

 

国政選挙なので、どちらの政党が過半数を取るのかが、重要ポイントになっていきます。候補者個人の資質よりも、その政党を支持できるかを考えてください。まずは、現政権を支持できるか考えます。支持できるなら与党に、できないなら野党から選びましょう。

 

参議院は、投票用紙が2枚渡されます。

 

1つは都道府県単位の選挙区から選ぶ「選挙区選挙」です。選挙区から1人を選ぶ場合は、比較的簡単です。今回はだいたい与党側候補と野党側候補で二分されているので、現政権を支持するなら与党、しないなら野党の候補を選ぶ。

 

一方、東京・大阪のような大都市では、複数人の候補が当選します。その場合、同じ政党から複数の候補が出る場合がありますので、政党だけではなく、候補者の資質をみて選ぶことも重要です。自分が投票したい候補者が絶対に当選する人や、高確率で落選する人なのであれば、支持政党の当落ギリギリの候補者に入れる戦略も考えられます。

 

2つ目は「比例代表選挙」です。これがややこしいのですが、「候補者名」と「政党名」のどちらを書いてもいいのです。候補者名と政党のどちらも、政党の得票としてまとめてカウントされ、より多くの票を獲得できた順に政党内で議席が割り振られます。そして政党内での順位は、個人名での得票が多い人が上になります。ですから、候補者名を書いた方が、2度おいしいと言えますね。比例区の場合は、知名度が重要なので、有名人の候補者が多く出るのも特徴です。

 

 

――今回も、女性歌手やスポーツ選手の出馬が話題になりましたね。

 

必ずしも、タレント候補だからといって、否定する必要はないと思います。というのも、有名人候補の場合は選挙に強いので、党に借りをつくらずに、自由にやりたいことができるのです。国会議員は何回も当選する中で、党の役職が上がったり、大臣になったりと、政治家として成長していきますから、選挙に強いタレント議員はその知名度を生かせるでしょう。

 

ただ、有権者の方がなんとなく入れてしまうのは問題です。知名度だけではなく、その人が自分の意見を言っているのか、どんな政策をしようとしているのか、把握した上で一票を投じてほしいと思います。気になる候補者のブログやSNSなどで簡単に調べることができます。

 

 

――「18歳選挙権」が今回の参院選から導入されますが、新しく選挙に参加する若い世代にメッセージはありますでしょうか?

 

今回、奨学金制度の話が盛り上がったのも、18歳選挙権の効果だと思います。18歳・19歳に関係のある論点をつくろうと政党側が考えたとき、思いついたのが奨学金の話だったんでしょう。18歳・19歳の有権者数は全国で約240万人、有権者の約2%にしかなりませんが、マスコミの報道も多く、注目度はかなり高いと言えます。

 

大人たちは「18歳選挙にしたけど、どうせ投票率は低いでしょ」と思っています。もしここで、高い投票率であることがわかったら、相当なインパクトを持つでしょうし、奨学金の整備もすごい速さで進むでしょう。注目をあびている今がチャンス!今回の投票はレバレッジが効くので、はじめて選挙に参加する若い人たちには「投票に行かないともったいないぞ」と言いたいですね。

 

 

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