今、「部活がつらい」という声を出せるようになってきた――過熱する部活動から子ども・先生を救うには?

部活動問題の火付け役として議論を牽引し、各種メディアでも精力的に発言を続ける内田良氏の著書『ブラック部活動』(東洋館出版社)が発売された。

 

近年、部活動の過熱が続き、生徒の長時間活動の問題、教師のボランティアでの「全員顧問強制」など、部活動が大きな問題になっているという。部活動問題の課題はどこにあり、議論の高まりの背景には何があるのか。大会数の増加や吹奏楽部問題という話題から、SNSでの声を研究に取り入れる意味、さらには研究の姿勢について、内田良氏にお話を伺った。 (聞き手・東洋館出版社編集部/構成・櫻井拓) 

 

 

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「強制」への違和感

 

――今回の書籍はずばり、「部活動問題」についてのものですが、内田先生ご自身は何部だったのですか? 

 

 

中学では卓球部でした。私はもともと物事を強制されるのがすごく嫌いでして。当時、部活動からそういう空気を感じ取っていたので、私の中学校で極力ゆるい雰囲気だった卓球部を選びました。そうして入部したのですが、夏休みの頃には、参加しなくなりましたね。

 

 

――いわゆる「幽霊部員」ですね。 

 

そうです。高校は、部活動に入らなくていい学校だったので、最初から入りませんでした。その代わりに、何人かの親友と学校の周りを走るという、「勝手に走る部」をやっていました。

 

みんなが部活動の練習をしているときに3、4人集まって、学校の周りを2、3km走っていました。2周目まではジョギングのような調子で、少し喋りながら走って、最後の1周だけ本気で走る。そういう活動でした。あれは楽しかったですね。 

 

 

部活動問題に注目した経緯  

 

―― 一方で、内田先生が「ブラック部活動」と呼ぶ現状は、そういう楽しさからほど遠いものになってしまっている面があります。もともとは組み体操や柔道の事故、体罰、自殺などの「学校リスク」を専門にされてきた先生が、どのような経緯で近年、部活動問題に注目されたのでしょうか?  

 

私の研究の原点は、人々の苦しみに向き合うことにあります。大学院生の頃は、家庭における児童虐待が研究テーマで、その後、学校生活における子どもの苦しみのことを研究していました。その中で、子どもが学校で命を落としている原因が気になり、調べてみたら、柔道事故が浮かび上がってきた。

 

柔道事故によって、30年間で約120人の子どもが亡くなっているという事実を知った。それから徐々にスポーツにおける事故やハラスメントに関心が広がっていき、最終的には、学校で行なわれるスポーツの主要な部分を占める部活動に、主眼が移っていったのです。 

 

部活動中の事故やハラスメントでは、基本的には子どもは被害者で、先生は加害者だとみなされます。ところが、問題がその枠組みで論じられるだけだと、先生や学校が聞く耳を持たなくなる。先生も学校も、加害者として責められるばかりですからね。

 

「子どもの命を守る」ために私は先生方に直接働きかけたいのですが、先生方に「内田は自分達のことを加害者だと言っている」と思われてしまっては、私の話を聞いてもらえないし、結果として、子どもの安全を確保することができない。 

 

だからこそ、現場の先生に理解してもらう必要があると考え、部活動における教師の苦しみに言及しはじめたのです。教員たちからは、以前から「部活動が苦しい」という声を聞いていましたし、実際に統計資料を探ってみると、たくさん問題点が浮かび上がってきた。そういう経緯で、気が付けば部活動問題に取り組んでいました。  

 

 

ここ数年の議論の高まり

 

――つい最近まで、部活動の指導は教員の当然の義務であると思い込む先生は多かったと思います。部活動問題に関するここ数年の急激な声の高まりを、どのように捉えられていますか? 

 

私が子どもの苦しみのことをメインに研究していた頃に、様々な事故や部活動のことを調べていくなかで、この問題の火付け役といえる真由子さんのブログに行き当たりました。その当時、部活動問題について明確に情報発信していたのは、真由子さんくらいしかいなかったのではないでしょうか。

 

その真由子さんが、2014年12月に、Twitterを始めたのですよ。私の中で、「ついに真由子さんが動いた!」という感覚があった。これは大きい動きだ、私も盛り上げないといけない、と思いました。それで2014年12月の年末から翌年の年始にかけて、Yahoo! ニュースに、部活動問題に関する記事を2、3本書いたのです。

 

 

――その後2015年12月に、部活問題対策プロジェクトが動き出し、さらに2017年3月からは、部活改革ネットワークが始動します。複数の署名活動の影響など、これらの団体の活動の効果は本当に大きいものです。

 

匿名の先生たちの集まりである「部活問題対策プロジェクト」は、改革の必要性を、ウェブ署名という方法で、積極的に世論にはたらきかけていますよね。取材対応もたくさんこなしています。プロジェクトはけっして教員の負担のみに着目しているわけではありません。先生と生徒の両者の負担を減らすべきという主張は、重要な戦略だと思います。そして、2017年4月に、同じく匿名の先生方によって設立された「部活改革ネットワーク」は、現在約70名で構成されていて、Twitterのグループチャットの機能を使って全国の教員をつなぎ、情報や戦略を共有しています(Twitterアカウントは、@net_teachers_jp)。さらには、教員の働き方について、さまざまな立場にいる人たちの声を集めた「教働コラムズ」というウェブサイトも、いま注目を集めています。とくに、拙著『ブラック部活動』第4章で言及した「部活未亡人」の声からは、教員本人だけが苦しんでいるわけではないということが、強烈に伝わってきます。

 

 

大会が多すぎるから過熱が止まらない

 

――部活動の多忙化の理由の一つに、大会の数がそもそも多い、という指摘があります。

 

私が部活動問題をテーマに講演すると、「大会数が増えている気がしてならない」といわれることが多いのです。実際にとある地域の、先生が年間で何日大会に参加したかというデータを見てみました。すると、先生の大会参加日数は、10年ぐらいの間に、少しずつ増えてきています。どうやら、以前より大会の数自体が増えているのではないかと推測されます。

 

その理由ですが、中体連、高体連の大会以外に、地域や民間の大会があり、さらに最近では、先生たちのプライベートなネットワークによって5校や6校で行なわれる大会もあるようです。

 

 

――その分先生達の引率や練習の時間も増えますし、生徒の活動も過熱することになりますね。

 

実は20年前にも、文部省(当時)から、中学校の部活動は週に2日は休みなさい、高校は週に1日は休みなさいというガイドラインが出ています。でもそれが守られているどころか、さらには過熱しているのが現状です。

 

それぐらい、部活動がいったん「勝つ」ことを目的に動きはじめてしまうと、そこから抜け出るのは難しい。自分の学校が練習を休んでいる間に他の学校が練習していると思うと、疑心暗鬼もあり、結局練習してしまうんです。

 

 

――だからこそ、本書でご提案されている「ゆとり部活動」へと転換するためには、大会数を減らすことが大前提にならざるをえないわけですね。   

 

そう、それはすごく大事だと思います。全国大会をやめて地区大会だけにする、開催回数も年1回にとどめるなど、歯止めをかける仕組みが必要です。部活動は、生涯スポーツ、生涯文化活動の視点に立って、将来にわたって継続可能なものにする。その一方で、アスリートとしてトップレベルを追及したい生徒は、部活動ではなく民間のクラブチームに行けばよいのです。実際に今日、たとえば水泳や卓球、体操などオリンピックのメダリストは民間で育っています。 

 

 

苦しみが「見える化」していない吹奏楽部

 

――今回の本で、苦しみが見えにくい部活として挙げられているのが、吹奏楽部です。その実態の研究は今後の課題とされていますが、研究の現状についてお話しいただけますか。 

 

私の元には、部活動で苦しんでいる様々な当事者からの、苦しみの声が届いてきています。その中でもいちばん多いのが、吹奏楽関係です。吹奏楽経験者、あるいは子どもが苦しんでいるという親、あと吹奏楽部の顧問、そして顧問の親、など多岐にわたります。

 

その声は、基本的に吹奏楽部が部活を「やりすぎ」だというものです。そのなかには当然、ハラスメントや人間関係のトラブルなども含まれてくる。

 

ところが、では吹奏楽部の実態を調べようと思ってデータを探してみると、運動部と比べてまったくといっていいほどデータがない。データがないので、実態がわからないわけです。

 

 

――なぜ、運動部と違いデータがないのでしょうか?

 

一つは、部活動についてのこれまでの議論が、全部運動部を中心に行なわれてきたからです。もう一つは、文科省や中体連、高体連、スポーツ庁など、様々な関連組織が行なっている調査や新たな施策も、同じ理由で運動部ばかりが対象になっていたからです。

 

吹奏楽部はどの学校でも大きい部であることが多いのに、先生や子どもの苦しみが「見える化」していない。これは危ない状況だと思います。 

 

 

――吹奏楽は、練習が長期間しやすいという問題もありますね。 

 

演奏も大きな集団で行ないますし、一人ミスをすると全体を乱す。そう考えてくると、吹奏楽固有の問題というのはたくさんあって、そういう特徴を、いくつか取り上げて議論していかないといけないでしょうね。 

 

他方で付け加えておくと、吹奏楽部は地域で演奏したり、学校でも多くの行事で演奏したりしますよね。そう考えると、教育的な意義や貢献という面で非常に優れている活動だと思います。

 

 

――たとえば商店街で演奏するとか、地域の人達の前で演奏する機会が多いというのは、おっしゃるようにいい側面ですよね。

 

地域の商店街やショッピングモールで、中学校の吹奏楽部が演奏している姿、見かけますよね。それを聴いている私達も「一生懸命演奏しているな、いいなあ」と思う。むしろそういう活動を充実させてほしいと思いますね。【次ページにづく】

 

 

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