生殖医療は「科学の濫用」か?――「自然」と「不自然」の狭間で

精子・卵子の凍結保存、人工授精、代理出産……生殖医療技術の発展によって「子どもを持ちたい」という願いをかなえる人が急増している。その一方で、そうした技術を使って子どもを産むことを「科学の濫用だ」と批判する声も耳にする。生殖医療の発展で生じた様々な軋轢、価値観や倫理への問い。『生殖医療はヒトを幸せにするのか』で、当事者と非当事者の「温度差」に橋を架けたかったと書く小林亜津子氏にお話を伺った。(聞き手・構成/金子昂)

 

 

生殖医療はどこまで発展しているのか

 

── 生殖医療が発展していることは多くの方がご存知と思いますが、社会や命に関する価値観が根底から揺さぶられるような事態になっているとは思ってもみませんでした。最初に、現代の生殖医療ではどんなことができるようになっているのか、いくつかご紹介ください。

 

そうですね。例えば精子の凍結技術に比べて、卵子の凍結技術はうまくいっていなかった、あるいは凍結できても妊娠率がかなり低かったのですが、培養液の開発などによって、かなりの精度で凍結することができるようになりました。

 

「卵子の老化」によって生殖能力が低下することはよく知られていると思いますが、この技術によって、若いうちに卵子を凍結する女性も増えるでしょうし、精子のように卵子の売買も行われるでしょう。

 

オンラインショップで自分好みの精子と卵子を購入して、出会ったこともない男女の子どもが、別の夫婦の子供として生まれるケースもでてくると思います。もし精子と卵子を買って、さらに代理母によって出産した場合、当事者夫婦とはまったく関係のない子どもが生まれるわけですよね。ある意味、養子と変わらないですよね。

 

 

──ゲイやレズビアンの方でも養子とは違った方法で自分たちの子どもを持てるようになるかもしれないんですね。

 

ええ、レズビアンの方はいまでも精子バンクを使えば出産できますよね。

 

マウスを使った実験では、iPS細胞で精子をつくることに成功しているようです。その技術を応用すれば、いずれは女性、そして無精子症の男性でも体細胞から精子を作って子どもを出産することができるようになるかもしれません。

 

 

── アーノルド・シュワルツェネッガーが実験によって妊娠する「ジュニア」という映画を思い出しました。SFの世界が現実になりつつあるというか……。

 

男性が子どもを生めるようになるかはわかりませんが、体細胞から子宮を作れるようになる可能性だってあるでしょうね。それに、いまは子宮を摘出してしまった人に別の子宮を移植する技術もあります。人工子宮の技術も開発中です。

 

代理母のリスクや産まれた子どもを代理母と依頼主で奪い合うようなことが起こらないためにも、人工子宮による出産が望ましいのかもしれません。ただそうした生まれた子どもが「試験管ベビー」と揶揄されたような状況が生じてしまうかもしれませんが……。

 

 

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生殖医療への懸念と批判

 

── 生まれ方によってスティグマが押されてしまう可能性もある、と。「生殖医療技術を使うと障害を持った子が生まれやすいのでは」という声も耳にしたことがあります。

 

当初から、生殖医療技術は障害の発生率を高めるのではないかという指摘はありました。しかし結果として、自然に妊娠して出産した場合と比べても、障害の発生率はほとんど変わりません。

 

例えば体外受精の際に異常のあるものが出来てしまっても、子宮に移植すると自然と流れるようになっているんです。女性の子宮は、妊娠初期に異常を感知して流産をさせるという機能をある程度もっているんですね。

 

ただ長期の影響はわからないところもあります。例えば無数の精子の中からひとつを取り出し、顕微鏡を使って卵子に注入する顕微授精は、比較的新しい技術のため、日本では追跡調査がされていないんです。普通、精子は自然淘汰されて、もっとも優れた精子が受精するわけで、培養士が選んだ精子を受精させることでなにか影響があるかもしれない。ベルギーでようやく追跡調査されるようになったのですが、なにしろ新しい技術のため子どもがまだあまり成長していないんですよね。

 

 

── 精子バンクや顕微授精は優生学だ、という批判もありそうですね。

 

あるでしょうね。顕微授精を無精子症の方が使った場合、選択した精子に無精子症の遺伝子が入っていると子どもがまた無精子症で悩むのではないかという指摘もあります。無精子症が遺伝するかどうかはまだわかっていないのですが……。ただ、そもそも自然に考えれば子孫を残せない人が無理やり残しているのであり不自然だ、という意見もあります。

 

 

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