出場条件はホームレス!――もうひとつのワールドカップ

2014年のFIFAサッカーワールドカップがブラジルで開催されている。世の中には、もうひとつのワールドカップが存在することを読者の皆様はご存知だろうか。その名も、「ホームレス・ワールドカップ」。選手は全員がホームレスで、大会の目的は選手の自立だ。

 

2011年夏、ビックイシュー基金が主催するホームレスサッカープロジェクトから、日本のホームレスサッカーチームの代表として「野武士JAPAN」が出場した。今回は、その軌跡を書いた『ホームレス・ワールドカップ日本代表のあきらめない力』(PHP研究所)の著者であり、現在、野武士JAPANの監督を務める蛭間芳樹氏からお話を聞いた。(聞き手・構成/山本菜々子)

 

 

ホームレス・ワールドカップとは

 

―― 今日は野武士JAPAN監督の蛭間さんにお話を伺います。タイトルにもなっている「ホームレス・ワールドカップ」について教えてください。

 

「ホームレス・ワールドカップ」は文字通り、ホームレス人たちが出場するサッカー世界大会です。出場条件はホームレスであること。サッカーを通じてホームレスの人たちが生きる喜びや希望を持ち、自立への一歩を踏み出すことを目的としています。この大会に参加できるチャンスは人生に一度しかありません。ワールドカップに出場する過程や本大会を機に、自立して欲しいという趣旨からです。

 

世界60か国からの参加があり、野武士JAPANも2011年に日本代表として参加しました。この本では、2009年から2012年の間に、私がホームレスの人たちと出会い、サッカーの練習をし、様々な困難に直面しながらもワールドカップ出場とその後の自立に向けた歩みと選手の変化について、目の前で起きたことを記録しています。

 

 

―― フットボールチーム「野武士ジャパン」の練習にお邪魔しましたが、なかなかハードな練習ですね。二日くらい筋肉痛で動けませんでした(笑)。

 

ははは、そうでしたか(笑)。うちの選手はピンピンしていますよ。スポーツですから練習はしっかりやります。なかでも、基本練習をきっちりやっています。仕事でも勉強でも、なんでもそうですが、基礎が大事ですから。

 

 

写真:蛭間芳樹氏

写真:蛭間芳樹氏

 

 

―― もし私が監督だったら、試合を多くして「楽しかったね」という感じにしてしまうと思うんです。しかし、なぜ練習を真剣にし、ワールドカップに行って……と高い目標を持ってやっているのでしょうか。

 

このチームの目的は“選手の自立”です。遊びで集まっているチームではありません。練習に来るのも来ないのも彼らの判断ですし、練習に来ることは自立への意思表示だと思っています。ですから私たちコーチやスタッフも真剣です。

 

私たちボランティアスタッフは平日働いているので土日の時間しか提供できません。でも、ビックイシューの販売者の方からすれば、土日は雑誌がよく売れます。本来ならばそのお金を得られるはずなのに、サッカーをしに来る。だとしたら、無形かもしれませんが経済的な価値以上のものを提供しないといけません。ですから、こちらも真剣勝負です。

 

ここに来る価値があると、選手にいかに思ってもらうか。今日の練習に参加して、何かを身に付けたいと思って彼らは来ているわけです。その思いに対して失礼にならないように私たちは気をつけています。

 

ただ試合や相手に勝つということは、このチームの目的や方向性ではありません。もちろんスポーツですから、サッカー技術の向上や試合に勝つための練習は行います。それより重要なことは、選手個人がやりがいや希望をみつけてもらい、仲間とのつながりや信頼関係の大切さに気がつきながら、そして、自身の人生の再スタートや自立に向け選手もコーチも共に歩んでいく為のチームです。ですので、一筋縄ではいかないというか、色々と試行錯誤しながらやっています。

 

 

―― コーチングをする上で意識していることはありますか。

 

距離感の取り方は非常に気を付けていますね。あんまり近づきすぎると「この人についていけばいい」となってしまう。でも、基本的には試合中も人生も自分でなんとかするしかありません。セルフヘルプ、自助が基本です。そこは、冷たいですけど、「自分のことは自分で頑張ってね」とするしかありません。援助ではなく支援という表現が適当ですし、ビッグイシューの組織活動の趣旨もそのような立場です。

 

ビックイシューのコンセプトも、雑誌を売りたければ売ればいいし、休みたければ休めばいいし、その間でどれだけ自己努力するのかが求められています。

 

とはいえ、「監督」と「選手」のような、かしこまった関係ではなく、OB選手の家に鍋パーティをしに行ったりするんですよ(笑)。監督ではあるんですが、別に偉いわけではありません。指揮や指導はしますけど、チームの中のひとつの役割だと思っています。このチームに関わる人それぞれが、それぞれの役割に基づいたリーダーシップを果たせば良いと個人的には思います。

 

「俺たちはホームレスだけど、お前はホームレスになったことないんだから、俺たちの気持ちは分からないだろう」と思われたら信頼関係が終わってしまいます。選手のほとんどは、自分より年齢が高い人、障がいがある方など、社会的不利・困難な状況にある人たちです。彼らの方が、人生経験が長かったり、沢山の困難に局面していますから、ごまかしは通用しません。どこから持ってきた話ではなく、きちんと自分の意見を持って膝詰めで対話することが大事だと思います。

 

 

写真:練習の前と後には選手とのミーティングを行う

写真:練習の前と後には選手とのミーティングを行う

 

 

 

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