経済成長も、再分配も――消費税増税延期が及ぼす影響とは?

消費税再増税の是非が問われる中、シノドス編集長の荻上チキが11月4日に「今後の経済財政動向等についての集中点検会合」に参加。その後、荻上が「消費税増税を見送るべき」という点検会合での発言内容をツイートしたところ、NPO法人フローレンス理事の駒崎弘樹氏が「増税延期には賛成しづらい」という苦渋の立場を表明する。それをきっかけにして巻き起こった議論は、決して冷静なものとは言えない不幸な衝突となってしまった。そこでシノドスでは、駒崎氏と経済学者・飯田泰之との対談をセッティング。互いの立場から、財源論や消費税増税のタイミングについて語り合ってもらった。(構成/金子昂)

 

 

「財務省」という人はいない

 

荻上 11月4日、「今後の経済財政動向等についての集中点検会合」に参加してきました。ぼくはそこで、消費税増税を見送るべきという立場を表明しました。そこで話したことを連続ツイートした際、それを受けて駒崎さんが、このようにツイートされました。

 

 

「消費税再増税が経済に悪影響を与え、低所得者層に対しても良くない、というのはよく分かる。でも、ようやく消費税増税分から7000億円確保して、子育て支援が強化できるようになった。確実な代替財源が約束されるなら再増税延期は賛成できるが、そうでないなら中々賛成しづらいのが悩ましい。」

https://twitter.com/hiroki_komazaki/status/530199554180669441

 

 

低所得者層への悪影響については理解を示してくださった一方で、増税が延期されることが、少子化対策や保育・育児支援の予算見送りにつながらないかを懸念し、立場上、今回の増税に賛成せざるを得ない、というわけです。苦渋の実情をストレートに明らかにしてくださって嬉しかったのですが、それをきっかけにネット上で議論が巻き起こり、一部では「財務省のレクを受けたから駒崎は増税に賛成なんだろ」といった罵倒もみられました。

 

駒崎 財務省の犬的な(苦笑)。

 

飯田 あはは(笑)。

 

荻上 本来の財源論やタイミング論ではなく、内面を邪推するような議論になるのは無意味ですし、単純な敵味方構造になってしまうのはとても残念です。そもそも消費税の延期を主張したのも、「困った人をますます増やさないため」であったので、駒崎さんの主張は重要です。

 

論点を改めて整理する必要性を感じたので、今日はこうして、飯田泰之さんとの対談をセッティングさせていただきました。ちなみに今日は、シノドスからのレク=ご説明というわけではありません(笑)。

 

駒崎 もちろん、わかってます(笑)。

 

最初にぼくの立場を表明させてください。ぼくは、いわゆるリフレ政策に反対しているわけではありません。いわば中道左派ですから、むしろ親和性は高いんじゃないかと思っています。なぜならば金融政策等によって景気がよくなれば、さまざまな社会保障が充実する可能性があるからです。

 

荻上 パイを増やし、適切に分配する。財布を育てながら優しく配ろう、ということですね。

 

駒崎 そうです。そこに違いはないと思うんですね。

 

ツイッターでは、「財務省ガー」みたいな意見が寄せられて、まともに議論できるような状況ではありませんでしたが、別に財務省にレクされたらみんな財務省の手先というわけではないですし、レクなんて審議会にいればみんな受けています。

 

ぼく自身は一時期官僚でしたし、審議会にも20代から参加し続けているので、レクがどういうものか分かっているのですが、ツイッターで財務省陰謀論を唱えている方々は、その辺り、おそらく実体験がないがゆえに、相当大きなバイアスを持ってしまっているのではないかな、と。

 

飯田 ネットで行われる議論の悪いところがでていたと思います。

 

クリティカルシンキングでは、相手の発言を最大限良心的に解釈しようという「良心の原則」が基本とされています。相手の発言を悪意として受け止めようとすれば、言葉の端々すべてを悪意として解釈できますから、それは罵り合いにしかならない。

 

荻上 悪意と陰謀で埋め尽くすと、とてもすっきりする。けれど、対話する努力を放棄することになりかねない。

 

飯田 そう。それでも駄目なら、それは本当に駄目な議論か、自分が決定的に間違えているか、のどちらかなわけです。

 

荻上 駒崎さんはあえて、財務省にレクされたことをちゃんと伝えた上で、自分のスタンスを表明していました。逆に誠実だったと思います。本当に「財務省の犬」なら、わざわざレクされたことなんて言わない。

 

飯田 レクって結構誰にでもするんですよ。ぼくのところにもたびたびレクが来る。そもそもぼくは財務省の上席客員研究者ですから、そのレクの効果はぼくの発言から推し量っていただければと。まあしょっちゅう飲みに連れて行かれるようになると、友達が特定の省庁の人ばかりになって危険かもしれないけど(笑)。

 

荻上 発言するときに、顔が浮かぶようになるかもしれませんね。

 

駒崎 「ああ、あの人、嫌がるだろうな」と思いながら発言することはありますね。

 

飯田 「財務省の陰謀」みたいな言説って、各省庁が統一的な意思決定のもとで動いているというイメージから来ているんだと思います。でも、そんなにちゃんとした組織だったらこんなに財政は悪化していないんじゃないかな。別に誰かが「えいやっ!」とすべてを決めているわけではない、中の人でも動かせないようなもごもごとした空気が組織としての意志を動かしている極めて日本的な組織なんですよ。

 

駒崎 「財務省」という人はいません。中の人達と話してもらうと、普通の会社と一緒でいろんな考えの人がいる。当然組織としての公式見解や、目指すべき方向性(財政再建)はあるのだけど、それはどこの省庁も、会社だって一緒。秘密結社じゃないんだから(笑)。

 

飯田 そもそもいわゆる「リフレ派」だって、「金融政策によって緩やかな経済の拡大を目指す」以外の一致点はないんです。例えばぼくと稲葉振一郎さんの政治的な立場はぜんぜん違います。シノドスで連載を書いている松尾匡さんはマルクス経済学ですが、右寄りの思想をもつリフレ派もいます。

 

消費税増税に関しても、自民党の山本幸三議員のように、金融政策をきちんとふかせば消費税をあげられて財源が確保できるし、こんなにめでたいことはないと考えていた強気のリフレ派もいれば、消費税そのものを否定されている先生もいます。いまは経済状況を鑑みて、増税は先延ばしたほうがいいと考える人が増えていますね。山本議員も今回の増税は先送りすべきだと考えを改められました。

 

 

photo3

 

 

政府に対する強い不信感

 

飯田 議論の内容をみていくと、やはり気になるのは「消費税は目的税ではない」という話です。

 

改正された消費税法の2条をみても、今回の消費税増税は少子化対策の目的税といえるほど強力な紐づけではありません。そもそも社会保障費の方が消費税収よりも多いのですから、いわゆる目的税にはしようがないのです。もちろん駒崎さんは、やんわりとした努力目標だとしか思えなくても、そこを頼りに保育の拡充を進めていきたいというお考えなのだろうと思いますし、それはよくわかります。ただやっぱりこの紐づきは比較的弱いものだと言わざるを得ない。

 

駒崎 その前提をどう解釈するかが意見の差異を生み出しているように思います。

 

まず、消費税法第一章1条2に「消費税の収入については、地方交付税法(昭和25年法律第211号)に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。」と明記されているという点。

 

そして、少子化対策の歴史は非常に不幸なもので、随分前から少子化が進むことはわかっていたにもかかわらず、十分な予算も施策も打たれずにきました。具体的には、94年のエンゼルプラン、99年の新エンゼルプラン、04年の子ども・子育て応援プランと、5か年計画のように戦力の逐次投入が行われてきたんです。そして、予算の分捕り合戦の中では、非常に微々たる予算しか得られず、当然、実際の効果も弱かった。いわば少子化対策の失われた20年という歴史があるんですね。

 

十分な予算を獲得するには、相当な政治的コミットメントが必要だということがわかってきた。そうして、ようやく消費税から税源を固定させて、少子化対策にドカンと7,000億円を割り当てようという話になったんです。これまでは数万人単位の待機児童解消を、5年間で40万人解消という規模感です。

 

その限りにおいて、消費税に肯定しうる要素があると思っています。ぼく自身、消費税一般に関してはあげないで済むならあげない方が良いと思っていますし、増税するにしても低所得者対策などを打つ、所属税の累進強化や相続税など、きちんと順番は考えないといけないと思っています。更に消費税によってのみ財政を再建すべしとも考えていません。

 

荻上 駒崎さんとしては当然、増税を先送りにするならば、代わりとなる財源を確保して欲しい。逆にいえば、確保されるならば先送りしてもいい、ということになるわけですね。

 

駒崎 その通りです。ただ、そう簡単な話でもないのは、われわれの業界は政府に対して不信感が強いこと。

 

もともと少子化対策、待機児童解消、そして子育て支援については、1兆1,000億円が必要だという試算があり、民主党政権時に、7,000億円を消費税増税分から、4,000億円はどこか別のところから調達するという話になっていました。しかし政権交代後、どうも4,000億円の確保は難しそうだから、とりあえず7,000億円で走り出そうという話に変わってしまった。これでは、全産業平均以下の保育士給与の改善や、児童養護施設の強化、学童保育の質改善等、望むべき水準を達成することは不可能になりました。子ども子育て会議は失望して、「1兆円用意するって言ったんだからちゃんと用意してよ」と要望書などを提出してきましたが、どうにもなりませんでした。

 

ひとまず確保できた7,000億は、4,000億を主に保育所の数を増やすといった「数」の部分に、3,000億を保育士の処遇を改善する、昔は孤児院と呼ばれた児童養護施設を強化するなど「質」の部分にあてることになりました。ようやく走り出せる! と意気込んだ矢先に、増税を延期するという話が出てきてしまった。5%から8%の増税にとどまったら、予算は4,000億しか確保されません。4,000億で「数」だけ増やすわけにもいかない。処遇が悪いために保育士の資格を持っていても働かない人が多い中で、ただ箱の数を増やしても、働く人がいなければ、結果として保育所は増やせないからです。低処遇や過剰な業務負担を解決すべく、処遇改善・人員配置改善等、質も改善しなくてはいけない。

 

ですので、増税しないならば、かわりの3,000億をきちんと確保してほしい。といっても1兆円強を用意するといって結局7,000億しか用意してくれなかった前科もちの政府をそう簡単には信じることはできない。これが審議会に参加している、保育園団体や子育て支援業界の思いの最大公約数でしょう。

 

荻上 消費税でなくてかまわないからなんらかの形で予算を付けて欲しい。しかし、政府への不信感が強いために、なかなか信用はできない。

 

駒崎 ええ、子育て分野は、介護保険、医療保険や年金など保険制度で制度設計され、恒久財源がベースとしてしっかりある他の社会保障と、予算の分捕り合戦をしなくてはいけません。保育三団体や幼稚園などの団体は力があると言われますが、他の分野に比べたらぜんぜん弱いし、ベースとなる保険料収入がないから、そもそも弱い。増税が延期されたかわりに何らかの形で予算がついたとしても、2017年度の消費税増税もやめる、つまり永久凍結されてしまったら、おそらく予算を措置し続けてくれないのではないかという心配がある。

 

ですから、たとえ努力目標だったとしてもようやく紐づけられた消費税に私たちはこだわるしかない。法律上ではっきりと明記されていますが、それでも「弱い紐づけ」だという指摘もあるかもしれません。ですが、財務省から予算がとれたという政治的なモメンタムが、非常に重要なんですね。

 

飯田 今回の場合、消費税増税に紐づけられたことがモメンタムを動かしたという側面はあるでしょう。少子化担当大臣が、増税が延期しても2015年、2016年度の予算は別の手段で確保すると約束してくれるなど、別の動きに繋がる可能性はないのでしょうか。

 

駒崎 少子化担当の有村治子大臣はそうおっしゃっていますね。増税延期議論に対して、われわれが騒いだための配慮だと思います。この配慮が選挙後も続いて、何らかの形で約束通りに確保してくれればまったく構いません。

 

荻上 そのためにはプレッシャーをかけ続ける必要がある。「やるやる詐欺」になってはなりませんから。

 

駒崎 そうなんです。怒り続けないといけない。ただ先ほどもお話したように、子育て支援や少子化対策は、予算の分捕り合戦の中で常に劣位に置かれてきた。その中で予算を勝ち取ることができるかはなはだ疑問です。そもそも、消費税増税で12.5兆税収が増えると言われている中で、たかだが7,000億円しかつかないんですよ。紐づけると言ってもその程度。そしてその程度の予算すらついてこなかったんです。2050年には高齢化率40%という、人類がいまだに到達したことのない社会が実現され、一方で労働者は今の3分の2に減る、という未曾有の事態を迎える我が国において、です。

 

荻上 駒崎さんの立場はよくわかります。たとえば駒崎さんが、「消費税じゃなくてもちゃんと予算を付けてくれるなら、見送ってもいいですよ」と発言したとしましょう。それが結果として、「見送り賛成」のメッセージだけ受け取られ、後になってから「増税できなかったので、どうにもなりません」と言われてしまったら、元も子もない。だから、いまのようなポジションで主張を続けることが、政治的に変えがたいという面があるのだと思います。【次ページにつづく】

 

 

 

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