「国籍」とは何か?――蓮舫議員をめぐる議論をきっかけに改めて考える

国籍選択をしなければならないケースとは

 

荻上 帰化の手続きには大変な手間と時間がかかる現状があるわけですね。そうした中で確認しておくと、蓮舫氏の場合は帰化ではなく、届出によって日本国籍を取ったとのことでした。一般に、二重国籍の人が国籍の選択をしなければならないのは、どういうケースが想定できるのでしょうか。

 

奥田 典型的な例を言えば、国際結婚から生まれて、父母両方の国籍を取得した人です。今は日本を含め多くの国が「父母両系主義」ですから、国際結婚から生まれてきた子供は二重国籍になります。

 

日本の法律には「国籍選択の義務がある」と書かれているのですが、法律の世界では「義務に違反したらどうなるのか」が重要です。しかし、「国籍選択を怠っている場合は、日本政府が催告(督促)をすることができる」ということしか書かれていないんです。

 

さらに、国籍法改正から30年以上経っていますが、実はこれまで一度も催告をしていません。国はウェブサイトやポスターなどで「国籍選択の義務がある」と宣伝するだけで、催告をしていないという事実は書かないわけです。

 

ですから、中には勘違いをされて「両方の国籍を持つのは法律違反なのでは」と思われる方が非常に多いです。日本国籍の離脱届を出してしまう人もいます。たとえば去年と一昨年は、年間500人以上の人が国籍離脱届を提出していますが、その多くは勘違いの可能性があります。

 

二重国籍の人の場合、離脱届は簡単に受理されてしまうので、そうなるともう一度日本国籍を取り戻すためには、帰化を申請するしかありません。こうした背景があり、「国籍選択制度は紛らわしいから廃止してくれ」という請願が国会に多く寄せられています。

 

荻上 なぜ日本政府は国籍選択を催告しないのでしょうか。

 

奥田 おそらく、やるのであれば平等にする必要があるからだと思います。まず二重国籍の人を把握するのが難しい。国際結婚から生まれた子どもでも、外国人の親と同じ国籍を取ったかどうかを確認するためには、外国の国籍法を調べる必要があります。パスポートを持っていないから、国籍がないとは限りません。

 

つぎに督促状の送り先を把握するのも難しい。外国に住んでいる人など、住所が分からないときは、官報に掲載すると法律には書いてあります。しかし、1か月過ぎたら日本国籍が自動的になくなるとも定めています。知らないうちに日本国籍がなくなったという苦情がたくさん寄せられるでしょう。

 

国籍選択という制度を作ってみたけれども、実際に運用しようと思ったら、うまくいかないことが分かった。それが本音ではないでしょうか。

 

 

二重国籍を認める国々

 

荻上 国籍選択制度を廃止するなどすれば、日本も二重国籍を認めることができるわけですね。

 

奥田 現在でも、国籍選択をしていない人に催告をしていないので、事実上二重国籍を認めているようなものです。また日本国籍を選択する届出もできるわけですが、そうすると外国国籍を放棄する義務があると法律には書かれています。これも実質は「努力義務」です。というのも、日本の法律で外国の国籍を離脱できるかどうかを定めることは当然できないからです。

 

国によっては国籍の離脱に関して非常に厳しい条件を設けている国、兵役制度の関係で離脱を認めない国もあります。帰化の申請でも、そうした場合で、かつ日本人と結婚したなどの例外的なケースであれば、二重国籍を認めることになっています。

 

荻上 一方で、日本人が外国に帰化した場合は、自動的に日本国籍を失ってしまうわけですよね。

 

奥田 はい、そうです。ただし、戸籍はそのまま残ってしまうので、市町村の役所に行って「国籍喪失届」を提出する義務があります。中には「隠しておけばいいんじゃないか」と思っている人も多いようですが、法律家から見ると、非常に危険です。なぜかというと、在留資格がないまま日本に住んでいた「不法滞在者」となってしまうからです。また、日本のパスポートを使ってしまうと、旅券法違反にあたります。

 

荻上 日本以外のケースでいうと、たとえばA国からB国に移った場合に、B国が二重国籍を認めている場合はどうなるのでしょうか。

 

奥田 たとえばヨーロッパでは、「帰化をしても元の国籍を失わなくてもいい」という国が増えています。ただし、日本の国籍法では「他国に帰化すると自動的に日本国籍はなくなる」としていますし、日本の大使館のホームページなどでも注意を呼びかけています。

 

荻上 しかし、A国、B国両方が認めていれば、二重国籍はありえるわけですね。それではアメリカで生まれた日本人夫婦の子供の場合ですと、どうなるのでしょう。

 

奥田 アメリカの場合は生まれた場所で国籍を決める(出生地主義)という法律なので、親が両方とも日本人でもアメリカ国籍を取得します。ただ、日本の国籍法に「国籍留保」という制度があり、外国で生まれた二重国籍者は、3ヶ月以内に国籍留保の届出をしなければ日本国籍を失ってしまいます。

 

国籍留保の届出というのは、大使館、領事館に置いてある出生届の用紙に「国籍留保」の欄があり、ここに親がサインするだけですが、やはり3ヶ月を過ぎてしまう方も多いのです。

 

3ヶ月以上経ってしまうと出生届は受理されません。なぜなら、国籍法に「生まれたときに遡って日本国籍を喪失する」と書かれているからです。届出期間の3ヶ月間だけ日本人だった、ということにはなりません。ただ、20歳未満の間に日本に帰国すれば、法務局で再取得の手続きをとることは可能です。

 

 

なぜ日本は二重国籍を認めないのか

 

荻上 二重国籍についてリスナーから質問がきています。

 

「日本はどうして二重国籍をかたくなに認めないのでしょうか。二重国籍だと何か得することあるのでしょうか。」

 

奥田 得するというより、特に国際結婚をした人の場合は、非常に切実な願いだと思います。二重国籍が認められれば、どちらの国にも簡単に住むことができるし、帰省することも簡単です。これがないと、短期間の家族一緒の帰国でもいちいちビザを取らなければいけない。中にはビザの免除が受けられない国もありますので、非常に不便です。

 

荻上 なるほど。いまある不便を解消するために必要、という感じでしょうか。「得」という言葉で言えば、「国籍が二つもあるなんてずるい」という漠然とした意識の人もいれば、あれだけ報道されているのだから何か違法な事なんだと思っている人もいそうですね。また、こんな質問も届いています。

 

「二重国籍だとどのような問題点があるのでしょうか。」

 

奥田 一説によれば、国籍選択、国籍留保を設けた理由は出入国の問題があるからだとされています。二重国籍者はパスポートを2つ持っていますよね。たとえば通常は、日本を出国するときには日本のパスポートを使い、アメリカに入国するときはアメリカのパスポートを使います。

 

これでは日本のパスポートを見てもアメリカに入国したという記録が残りません。パスポートをいくつ持っているかは本人しか分からないので、出入国の確認が完全にはできないから不都合だ、というのです。

 

荻上 しかし、他国ではそんなことは問題にしていないので、日本が二重国籍を認めたところで普遍的な問題が発生する根拠は示されていないわけですよね。

 

奥田 そうですね。一方で世界的には、二重国籍を認める方向に動いてきています。たとえば、ヨーロッパの多くの国々が批准している「国籍条約」という条約では、「国際結婚で生まれた子供の場合は二重国籍を認めなければいけない」とはっきり書いてあります。条約上の義務として、国籍を奪ってはいけないことになっているわけです。

 

また、兵役についても取り決めをしています。たとえば両方の国に兵役義務がある場合、今住んでいる国の兵役義務を履行すればよい、とされています。納税や社会保障についても、基本的には二重に求められることはないように調整されています。

 

 

国籍をめぐるさまざまな問題

 

荻上 そうしたヨーロッパの国々では、帰化をした場合の国籍はどうなるのでしょうか。

 

奥田 帰化の場合でも、二重国籍を認める国は増えてきています。やはり一時帰国する際に元の国の国籍がないと困るという理由で、今住んでいる国に帰化をすることを躊躇ってしまう人が多いからです。それでは受け入れる国としても、なかなか地域に馴染んでもらえない。ですから、国籍を捨てなくていいから帰化してください、という環境整備をしたわけですね。

 

荻上 むしろ元の国籍を認めた方が帰化を決断しやすくなり、結果として地域定着が進むという方針を欧米はとっているわけですね。一方、日本の場合ですと「法律で決められているんだから国籍を捨てて当然だ」「二重国籍を認めると定着しなくなる」という考え方が根強くあるように思います。

 

同時に、「日本で物を言いたいなら帰化をしろ」というように、国籍が思想と結びついている面もあります。無論、帰化した場合であっても、「あいつは元○○人」みたいな仕方で、ヘイトの対象になることもあるのですが。

 

今回の蓮舫氏への批判の中には、「本当の日本人」的な純血主義や差別意識が混じっていて、だからこそ蓮舫氏も、「私は日本人です」と強調せざるをえなかった。複雑なアイデンティティが認められないような状況が浮き彫りになりましたね。

 

奥田 欧米では、普段の会話の中で「あなたの元の国籍はどこ?」という話題が、問題なく普通に出てくるような雰囲気があると思います。

 

またEUの中では、学生が他の国の大学に入学することを推奨しています。卒業後も留学先の国でそのまま働きたいと思う人も多いわけですし、受け入れる側の国としても二重国籍を認めた方が、優秀な人材を確保しやすくなりますよね。逆に、自国民が外国に帰化するときに元の国籍を失ってしまう仕組みだと、海外に活躍の場を求める人の障害になります。

 

日本でもこうした事例はあって、たとえば2008年に南部陽一郎名誉教授がノーベル物理学賞を受けたとき、すでにアメリカに帰化していて日本国籍を消失していることが後になって分かりました。もし日本が二重国籍を認めていれば、アメリカでの研究に身を置きながら日本の大学でも指導を行うなどの手続きがスムーズにいったはずです。人材の国際交流を考えるのであれば、日本での在留資格の緩和だけではなく、国籍についても考える必要があると思います。

 

荻上 蓮舫議員の件をきっかけに国籍について考えてきましたが、むしろ、現在の日本の法律にも改善点は多くある。グローバルな人材の活用という点、また個人の権利やアイデンティティの問題等、国際間移動や国際結婚が増えているという実情にあわせて考えても、二重国籍を前提とした法改正を進めていく必要がありそうですね。本日はありがとうございました。

 

 

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