2016.12.08

選挙からみる複数の「沖縄」――民意はどこで示されたのか?

山﨑孝史 政治地理学、沖縄研究

政治 #選挙#沖縄

はじめに――「沖縄」にみる亀裂

2014年11月の沖縄県知事選挙では、保守派ながら普天間基地の辺野古「移設」に反対し、「オール沖縄」をとなえ革新の支持を得た翁長雄志が、次点の仲井眞弘多と10万票の差をつけ当選した。

一部の新聞は「オール沖縄」や「イデオロギーよりアイデンティティ」というフレームが県民の心をとらえたと評価した。このフレームは、従来の「基地か経済か」という主張とは異なり、沖縄県内の利害対立を争点化せず、沖縄人(ウチナーンチュ)という集合意識に基づく「地域主義」を前面に出す言説戦略であった。

私は、2014年12月配信の『αシノドス』に「国家の「中心」と「周辺」―政党対立からみた沖縄の分断」という記事を寄稿したが(山﨑2014)、この知事選挙において、沖縄島北部や離島地域の有権者は必ずしも「オール沖縄」候補(翁長雄志現知事)を支持したわけではないことを指摘した。

翁長は、沖縄島中南部において従来の保革間の亀裂を埋め合わせることに成功したが、同時に沖縄県内にある「中心」(沖縄島中南部)と「周辺」(沖縄島北部・離島地域)の差異を際立たせたとも言える。「オール沖縄」の理念とは裏腹に、「沖縄」は一枚岩ではなく、政治的に全域が一様(オール)ではないのである。

本稿では、1972年から2010年まで実施された沖縄県知事選選挙の分析結果をベースに、2016年6月に実施された沖縄県議会議員選挙と7月に実施された参議院議員沖縄県選挙区選挙の結果を分析することによって、「沖縄」の複数性を踏まえた「オール沖縄」の可能性について考えたい。

基地問題のある「沖縄」

まず、沖縄の基地問題の概観を整理しておこう。

「沖縄県には74%の米軍基地が集中している」とよく耳にする。これは正確には「日本の自衛隊と共同使用されない米軍施設の面積」の県内総計が日本全体の74%を占めるという意味である。

2014年現在で、県内の米軍施設33のうち32が専用施設であり(沖縄県2014)、県土は専用施設によって占有されていると考えて良い。さらに、米軍の陸上施設(面積)の95.6%が沖縄島に集中しており、島外施設で一定の規模をもつのは伊江島飛行場(3.4%)のみである(図1)。

沖縄島における専用施設面積の割合は18.3%に達し、特に島の中部と北部において集中が著しい。よって、県内での一時的な海域・空域の使用を除くと米軍基地問題とは沖縄島(および伊江島)に集約的に現れてきたと言える。

図1 沖縄県内の在日米軍基地 出典 https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/08/US_military_bases_in_Okinawa.svg (2016年10月30日閲覧)
図1 沖縄県内の在日米軍基地
出展:https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/08/US_military_bases_in_Okinawa.svg (2016年10月30日閲覧)

対して自衛隊の施設面積は全国の0.5%にすぎず、多くは沖縄島南部に集中し、島外では近年までは久米島と宮古島に小規模の施設が立地する程度であった。しかし、2010年12月に閣議決定された「防衛大綱」において、沖縄島より南西部の島嶼部が陸上自衛隊配備のない「空白地域」と位置付けられてから、先島地域における自衛隊配備の議論が活発化する。

すなわち、県内地域の「軍事化」に関しては、米軍や自衛隊の分布に明確な地域差があり、そうした多様な「沖縄」の中で軍事基地の是非が議論されていることをまず踏まえておく必要がある。

県知事選挙からみる複数の「沖縄」

そこで、上で述べた米軍基地の分布の地域差が沖縄県民の投票行動にどのように反映されてきたかを考えてみよう。図2aから2dは、沖縄県が日本に復帰した1972年から2010年まで実施された県知事選の絶対得票率を保守系候補と革新系候補に分け、県全体(a)と3つの基地所在市町村(b, c, d)について示している。

各陣営から複数の候補が出馬した場合は合算し、いずれの陣営にも分類できない候補の得票率は除いてある。絶対得票率は当日有権者に対する各候補の得票率であるので、投票率が下がると得票率も下がる傾向がある。なお、2014年に保革の枠を超えた「オール沖縄」候補が出馬したのでこの分析は2010年までとしている。

図2a 沖縄県復帰後の知事選挙結果(県全体、1972-2010年) 出典 山﨑(2013)ほか(以下同様)
図2a 沖縄県復帰後の知事選挙結果(県全体、1972-2010年)
出典 山﨑(2013)ほか(以下同様)

まず図2aから2つのことがわかる。1つは、県知事選には県全体でみると保守系と革新系の知事が一定期間をはさんで交代する明確な「スイング」が確認されることである。

復帰前から沖縄県内の選挙において基地問題は主要な争点であり続けてきた。沖縄県内には、米軍および日本政府との関係において、米軍基地を容認するか否かで政治的な立場が(保革に)二分される傾向、つまり政治社会的な亀裂(クリーヴィッジ)が形成されてきた。そこにスイングが確認されるということは、有権者が保革いずれかの立場を一貫して維持しているというよりも、時々の状況に応じて、立場をかえる浮動票が多いということを示している。

もう1つは、県知事選における投票率は低下傾向にあり、その影響は保守票よりも革新票に強く現れていると考えられることである。言い換えると、投票率の低下と共に革新票の動員が弱まり、保守系の知事が近年連続当選する状況(県政保守化)の一因となったと推定できる。

多くのメディア報道は、県全体の選挙結果についての分析にとどまる。しかし、複数の地理的スケール(範囲)でこの結果を分析するとなにがわかるだろうか。上述のように、米軍基地は地理的には沖縄島中北部に集中する。したがって、その地域の基地所在市町村での投票行動には基地に関係する社会経済的メリットとデメリットが影響していると考えられるが、そのパターンは図2bから2dが示しているように多様である。理論的にも実態的にも各市町村の投票行動は革新優位、保守優位、いずれでもないという3つのパターンに区分できる。

読谷村(図2b)は、読谷補助飛行場ほかが返還されるまで基地が村域の大部分を占拠しており、近年まで革新優位の自治体であることがわかる。

図2b 沖縄県復帰後の知事選挙結果(読谷村、1972-2010年)
図2b 沖縄県復帰後の知事選挙結果(読谷村、1972-2010年)

対して北部の金武町(図2c)は、キャンプ・ハンセンほかが町域の6割近くを占めるが、一貫して保守優位の自治体である。

図2c 沖縄県復帰後の知事選挙結果(金武町、1972-2010年)
図2c 沖縄県復帰後の知事選挙結果(金武町、1972-2010年)

そして沖縄市(図2d)は嘉手納空軍基地のゲート前に形成された基地の街であり、有権者は保守と革新の間を揺れ続け、そのパターンは沖縄県全体の動きと近似している。

図2d 沖縄県復帰後の知事選挙結果(沖縄市、1972-2010年)
図2d 沖縄県復帰後の知事選挙結果(沖縄市、1972-2010年)

このように、沖縄県全体の投票傾向から読谷村や金武町の投票行動を読み取ることは不可能である。したがって、基地問題をめぐる地方政治の実像に迫るには、なぜ読谷村や金武町でこのように異なった投票行動がみられるのか、なぜ沖縄市では保革が拮抗するのかを市町村のスケールで見極めていく必要がある。

こうした地域差をもたらす要因の説明は拙稿(山﨑2008)に譲るが、ローカルな政治の動向を握るカギは、基地反対運動の強度、「自立」産業の有無、軍用地料依存といった要素であると考えられる。すなわち、選挙で集計される沖縄県民の「民意」とは、そうしたローカルなスケールでの民意が合算・平均されたものであり、県民の総意には違いないが、総意とは異なった民意が県以下のスケールに隠されている。当選した候補にとっては、そうしたローカルな民意、つまり複数の「沖縄」にこたえることも課題となろう。

「民意」はどこで示されたのか

〇沖縄県議会議員選挙

そこで2014年の県知事選の結果をベースに、2016年6月に実施された県議選と7月に実施された参院選の結果を比較考察してみよう。2014年の知事選を分析した前稿(山﨑2014)では、「オール沖縄」を標榜した翁長の出馬と当選を2つのプロセスから解釈した。

1つは復帰前後の中央政党との系列化によって形成された県内政党間の亀裂(保革対立)を埋め合わせる過程である。もう1つは、沖縄県民が共有できる「アイデンティティ」を基礎に本土と沖縄県の間のより対等な交渉関係を築く過程である

選挙結果を分析すると、これまで保守系知事に投じられていた保守票の一部が革新票に上乗せされており、保革の枠を超える投票行動が存在したことが確認された。

しかし、そうした投票行動は有権者の約8割が集中する沖縄島中南部で顕著であり、島北部と先島(宮古・八重山諸島)・離島地域では他の候補を支持する票が優位となることも確認された。

その要因として県内地域間に形成された社会経済的格差(ミクロな中心―周辺関係)があり、「オール沖縄」陣営が沖縄島内の米軍基地問題に傾注しすぎると周辺地域の離反を招く可能性があることを私は指摘した。

2016年の2つの選挙は、同年4月にうるま市で発生した米軍属による「女性死体遺棄事件」に大きな影響を受けることになる。6月の県議選では、県政与党である「オール沖縄」陣営が選挙前の23議席を上回る27議席を獲得した。野党自民党も1議席を上乗せしたが、与党の勢いには及ばなかった。県議選は中選挙区制で行われ、立候補者と選挙区民との関わりにも地縁・血縁といったよりミクロな要素が複雑に絡み合う。

図3aは、県議選での各候補の単純得票率を市町村ごとに算出した上で、候補者の属性を県政与党(「オール沖縄」)系、野党(自民党)系、中立(公明・維新)系の3つに分類・合算し、与党系を得票率によってさらに2つに分類している。

図3a 沖縄県議会議員選挙(2016年)における候補別・市町村別得票率 出典 沖縄県選挙管理委員会ホームページ http://www.pref.okinawa.jp/site/senkan_i/ (2016年10月30日閲覧、以下同様)
図3a 沖縄県議会議員選挙(2016年)における候補別・市町村別得票率
出典 沖縄県選挙管理委員会ホームページ http://www.pref.okinawa.jp/site/senkan_i/ (2016年10月30日閲覧、以下同様)

一見して与党候補の得票率が高く、2014年の県知事選とは異なり、沖縄島北部(名護市は無投票選挙区)や八重山諸島でも与党票が伸びたことがわかる。国政選挙よりもミクロな要素が絡むにもかかわらず、与党が「圧勝」したことについて、地元紙は全県的に「女性死体遺棄事件」の影響があるとした(『沖縄タイムス』6月6日、『宮古毎日新聞』6月6日1面など)。こうした「島ぐるみ」の民意の表出は、沖縄県民が一つの「沖縄」への政治的ベクトルを時に生み出しうることを示している。

しかし、それでもなお、宮古諸島のように野党(自民党)系候補を支持する傾向が強い地域が存在する。また、中選挙区制であるので与党優位の選挙区でも野党候補は多数当選し、自民党は最も得票数の多い政党であり続けている。こうして投票行動の地域差が明らかになると、それにしたがって政治も動く。

今回の選挙の争点は選挙区によって異なるが、先島地域では宮古島と石垣島への陸上自衛隊配備問題が争点の一つになっていた。宮古島市区(定数2)では革新系1人、保守系2人の候補が立ったが、水源地への自衛隊配備に反対した革新系の新人女性候補がトップ当選し、もう1議席は保守系現職が獲得した。保守系候補は離島振興を強調し、必ずしも自衛隊配備をうたってはいなかった。

対して石垣市区(定数2)では革新系2人、保守系1人の候補が立ち、自衛隊配備を訴えた保守系候補がトップ当選し、自衛隊配備に反対する2人の革新系候補のうち新人1人が当選した。このように先島地域では、各選挙区で保革が1議席ずつを分け合う結果となった。

この結果について、『宮古毎日新聞』(6月6日1面)は「女性死体遺棄事件」の県議選への影響に言及しつつも、宮古島市区においては革新系候補による自衛隊配備反対の主張への支持と共に保守陣営の分裂も影響したとし、革新陣営が市政奪還に弾みをつけたと評した。

そうした流れを受けてか、県議選後の6月20日に、自衛隊配備に積極的とされる下地敏彦宮古島市長が市議会で自衛隊の受け入れを正式に表明した。『琉球新報』(6月21日32面)は「来年の市長選への影響を緩和するための政治的判断が透けて見える」と市長の姿勢を批判した。

八重山諸島では、県議選当初から石垣島への陸上自衛隊配備が争点化されていた。自民党公認候補(後述する砂川利勝)が島内への自衛隊配備も辺野古への米軍基地移設も必要であると訴えたのに対し、革新系の二人の候補はそれらに反対した。

結果は保守系候補がトップ当選したものの予想よりも票が伸びず、地域の中心都市石垣市でも革新票が保守票に迫る結果となった。これを受けて『八重山毎日新聞』(6月7日2面)は、2010年の中山義隆石垣市長誕生以来、保守陣営が各種選挙で連勝し、革新陣営は長期低落傾向にあったが、過去2回の県議選で革新陣営が勢力を挽回してきたと評した。

県議選後の6月20日に開かれた石垣市議会において、自衛隊配備賛成派の市民団体から提出されていた自衛隊配備請願が一部の与党(自民党)市議の反対から採択されなかった。ここにも加速する軍事化への保守系議員の懸念がみて取れる(『琉球新報』6月21日2面)。

このように2014年の知事選時にみられた先島地域の保守優位の傾向は、その延長線上にある陸上自衛隊配備問題を争点としながらも、革新への流れにやや推移しつつあるようにもみえた。

〇参議院議員沖縄県選挙区選挙

県議選が県政与党勝利に終わったことで革新陣営は勢いづいたが、「オール沖縄」自体は保革を超えた政治的統一戦線をうたっているので、県紙(『沖縄タイムス』6月10日2面、『琉球新報』6月11日2面)はそろって県政与党の革新色の強まりを指摘する記事を掲載した。

6月19日に那覇市で「オール沖縄」が開催した「女性死体遺棄事件」に抗議する県民大会には自民党と公明党は参加せず、参院選を前に保守陣営は県政与党との距離を印象付けた。こうした保革間の亀裂を際立たせる動きは、県政を再び保革の対立に立ち戻らせる可能性をはらんでいた。

2016年7月に実施された参議院議員沖縄県選挙区選挙は、自民党所属の現職であり、沖縄・北方担当相でもあった島尻安伊子と、元宜野湾市長で2010年の県知事選挙にも出馬した「オール沖縄」が擁立する無所属新人の伊波洋一との事実上の一騎打ちとなる。

伊波は無所属ながら、革新系として知られた政治家であり、選挙の図式は従来の保革対立を髣髴とさせた。伊波はもっぱら辺野古「新基地建設」や先島地域への自衛隊配備に反対を唱えたのに対して、島尻は生活者の視点や子供の貧困対策を訴えた。彼女は、辺野古問題について明確な言及を避け、先島地域への自衛隊配備についても「やむを得ない」と表現するなど現状追認の姿勢に終始した。島尻の苦戦は県議選の結果からも予想されていた(『沖縄タイムス』6月7日2面)。

開票の結果、伊波が島尻に10万票以上の差をつけて「大勝」する。その結果を地図化したのが図3bである。投票率(54.46%)は2014年の県知事選よりも10ポイント近く下回っているが、県知事選(図3c)の投票パターンとよく似ていることがわかる。

図3b 参議院議員沖縄県選挙区選挙(2016年)における候補別・市町村別得票率
図3b 参議院議員沖縄県選挙区選挙(2016年)における候補別・市町村別得票率
図3c 沖縄県知事選挙(2014年)における候補別・市町村別得票率
図3c 沖縄県知事選挙(2014年)における候補別・市町村別得票率

つまり「オール沖縄」候補への支持は沖縄島中北部に集中し、島北部と先島・離島地域では保守系候補が支持されるという傾向が継続している。伊波は選挙期間中に先島地域にも足を運び、離島振興や陸上自衛隊配備反対を訴えはしたものの、選挙の争点そのものを辺野古「新基地建設」反対にすえており、沖縄島中心の公約を掲げていた(『八重山毎日新聞』7月6日1面)。県議選の結果(図2-a)と比較すると、知事選や参院選といった全県区選挙では県内周辺部の保守支持の傾向が浮上してくることがわかる。

図4は、県知事選(2014年)と参院選(2016年)について、市町村ごとの候補者別単純得票率を当選者(翁長と伊波)の得票率が高い順に並べている。県知事選での下地幹郎候補(宮古島市出身)への票が一部伊波に流れつつ島尻に上乗せされたと考えれば、参院選では県知事選と同じような投票行動が確認される。

図4 県知事選挙(2014年、上)と参議院議員選挙(2016年、下)における市町村別候補者得票率の変化 出典 沖縄県選挙管理委員会ホームページhttp://www.pref.okinawa.jp/site/senkan_i/ (2016年10月30日閲覧)

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図4 県知事選挙(2014年、上)と参議院議員選挙(2016年、下)における市町村別候補者得票率の変化
出典 沖縄県選挙管理委員会ホームページhttp://www.pref.okinawa.jp/site/senkan_i/ (2016年10月30日閲覧)

つまり、「オール沖縄」への支持は県内の人口重心(沖縄島中南部)から離れるにつれ下降する傾向があることがわかる。ここに地理的にいまだ「オール」にはなりきれない「オール沖縄」支持の地域的偏りをみて取れる。2014年の県知事選に始まる「オール沖縄」陣営の連勝によって「四度民意は示された」とされるが、「沖縄」の民意は地理的にみてまだ一つにはなっていない。

おそらくこのことは、宮古島市長が県議選後に陸上自衛隊配備を推進しようとしたことや、日本政府が参院選直後に東村高江のヘリパッド建設予定地に本土の機動隊を投入したことと無関係ではあるまい。沖縄県域にみえる民意のグラデーションは新たな軍事化を招きうる空間を際立たせているとも言えよう。

おわりに――亀裂を埋め合わせる

自由民主主義社会では有権者は個人の利害意識や政治的信条から投票するので、沖縄県内のどの市町村の有権者にも多様な投票行動がみられる。そもそも「沖縄」の社会は一枚岩ではない。

しかし、人々はある程度のまとまりをもつ社会集団を構成し、そうした集団の分布には地理的なスケールがある。沖縄県は40以上の有人島からなる島嶼県であり、各諸島は海で隔てられている。米軍駐留や尖閣諸島などの政治問題があり、各諸島は地政学的に複雑な環境の中にある。各諸島間には歴史・文化的な差異も社会経済的な格差も存在する。そこには複数の「沖縄」があり、それらをどう結びつけていくかが県政運営の課題の一つとなろう。

前稿(山﨑2014)や図2で示したように、沖縄県政は、戦後長きにわたる米軍駐留の影響から、重層化し、複雑化した保革対立の政治として理解される。そして、こうした根深い政治的対立は、「沖縄」が一つにまとまることを妨げ、日米両国家による軍事的利用を継続させてきたと言える。「オール沖縄」はそうした保革の対立を克服し、「沖縄」の自己決定を実現する政治的試みとして有権者の支持を集めていると考えられる。

しかし、本稿が明らかにしたように、「沖縄」は依然として一つではなく、従来のような保革対立が再燃したり、県内周辺地域の軍事化が進行したりする可能性は否定できない。「オール沖縄」がその理想に近づくには、これら重層化し、複雑化した亀裂を沖縄県自体が埋め合わせていく作業が必要になろう。

県議会石垣市地区選出の砂川利勝(自民党)は、2016年7月5日に沖縄県議会代表質問に立ち、尖閣諸島の周辺海域に中国艦船が侵入した問題で県の対応を問うた。しかし県側は「尖閣に関する日本政府の見解を支持し、注視する」と答弁するだけで、明確な対応を示さなかった。これを、彼は「離島軽視だ」と批判した(『沖縄タイムス』7月6日3面)。

6月20日に沖縄タイムス社が実施した参院選立候補予定者座談会で、島尻は「自衛隊の県内駐留は違憲か」と伊波に問うたが、伊波は「安倍政権が進める先島の自衛隊配備は米軍の戦略に基づく配備であるので反対だ」とこたえた(『沖縄タイムス』6月21日6面)。

こうした問いに対する沖縄県と伊波の回答は、問題となる事態を日本政府や米国の政策に帰着させ、沖縄県が主体的にどう取り組みうるかについてこたえてはいない。

地方政府である沖縄県が国防の問題に直接取り組むことは困難であるが、沖縄島北部における米軍基地建設問題と先島地域の自衛隊配備問題は、沖縄県内の中心―周辺関係(社会経済的格差)、つまり周辺の衰退や脆弱性がもたらす一つの帰結とも考えられる。離島・過疎地域の振興や漁業など生業の安定を求める県民に適切にこたえることは、日本政府だけではなく沖縄県の責務でもあろう。

そうした観点から、沖縄県が推進している施策に「離島地区情報通信基盤整備推進事業」がある。これは沖縄島と先島・離島地域を海底光ケーブルによって結びつけ、情報の県内格差を是正し、離島地域の産業振興と定住条件整備を図る事業である(『宮古毎日新聞』4月9日)。国からの一括交付金が8割を占める事業ではあるが、こうした事業は「沖縄」の分断を緩和する効果をもつと期待される。

本稿が示したように、沖縄島中南部と県内周辺地域との間に確認される亀裂の先には、新たな軍事化と保革対立の兆候がみえている。沖縄県をめぐる地政学的環境が好転しない限り、「オール沖縄」の理想は今後も困難を極めていくと予想されるが、「沖縄」の新しい未来はこれら県内の亀裂を粘り強く埋め合わせる施策の先に開かれていくと信じたい。

参考文献

・沖縄県(2014)『沖縄沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)』

http://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/kichitai/toukeisiryousyu2603.html(2016年10月30日閲覧)

・山﨑孝史(2008)「軍事優先主義の経験と地域再開発戦略―沖縄「基地の街」三態」人文研究59、71-96頁

http://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/infolib/user_contents/kiyo/DBd0590003.pdf

 

・山﨑孝史(2013)『政治・空間・場所―「政治の地理学」にむけて[改訂版]』ナカニシヤ出版

・山﨑孝史(2014)「国家の「中心」と「周辺」―政党対立からみた沖縄の分断」α-SYNODOS 162/163 https://synodos.jp/a-synodos

参考新聞記事(いずれも2016年)

『沖縄タイムス』

・「社説 与党が過半数維持 基地への拒否感根強く」(6月6日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/3682(2016年10月30日閲覧)

・「オール沖縄 伊波氏51% 参院選振り分け想定」(6月7日2面)

・「「大勝利」三役手応え 強まる革新色懸念も」(6月10日2面)

・「基地問題・改憲で違い 参院選立候補予定者座談会」(6月21日6面)

・「県対応に「離島軽視」 尖閣の中国船に砂川氏」(7月6日3面)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/51246(2016年10月30日閲覧)

『宮古毎日新聞』

・「離島の情報格差を是正/海底光ケーブル工事着工」(4月9日)

http://www.miyakomainichi.com/2016/04/87376/(2016年10月30日閲覧)

・「県議選 県政与党が過半数維持」(6月6日1面)

『八重山毎日新聞』

・「社説 八重山振興へ公約実現を」(6月7日2面)

http://www.y-mainichi.co.jp/news/29926/(2016年10月30日閲覧)

・「陸自の部隊配備に反対 伊波洋一氏」(7月6日1面)

『琉球新報』

・「粘り勝負 地盤固まる 革新増、県政と距離注目」(6月11日2面)

・「自衛隊配備請願を否決 石垣市議会」(6月21日2面)

http://ryukyushimpo.jp/news/entry-301936.html(2016年10月30日閲覧)

・「議場に怒号、市民二分 宮古島市長の陸自受け入れ」(6月21日32面)

コザ暴動プロジェクトin大阪「都市と暴動」写真展・シンポジウム


期日: 2016年12月16日(金)~18日(日)
時間: 午前10:00~午後6:00(入場無料、16日は午後7時まで開場延長します)
場所: 大阪市立大学都市研究プラザ 船場アートカフェ(辰野ひらのまちギャラリー)
〒541-0046 大阪府大阪市中央区平野町1丁目5-7 辰野平野町ビル地下1階
http://art-cafe.ur-plaza.osaka-cu.ac.jp/
イベント詳細: http://polgeog.jp/archives/782

プロフィール

山﨑孝史政治地理学、沖縄研究

1961年京都市生まれ。アメリカ合衆国コロラド大学大学院博士課程修了。(Ph.D.)。現在大阪市立大学大学院文学研究科教授。専攻は政治地理学、沖縄研究。著書『政治・空間・場所―「政治の地理学」にむけて[改訂版]』(ナカニシヤ出版、2013年)。

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