「終身刑化」が進む無期懲役刑の実態

法務省は昨年11月、無期懲役刑に関するデータを公表した(法務省「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について」)。それによると服役中の無期刑者は2015年末時点で1835人。仮釈放が認められた受刑者は一桁にとどまり、服役期間が50年を超える受刑者も12人におよぶことがわかった。服役期間の長期化、所内での死者、数少ない仮釈放と、事実上の終身刑化が進む無期懲役。無期刑制度、受刑者の実態と、考えるべき課題について専門家に伺った。2016年12月10日放送TBSラジオ荻上チキ・Session22「塀の中でも老老介護〜終身刑化する無期懲役刑の現実」より抄録。(構成/増田穂)

 

荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

生涯続く懲役

 

荻上 本日のゲストを紹介します。刑事政策や犯罪者の更生について研究されている龍谷大学教授浜井浩一さんと、無期刑で服役中の受刑者を取材したTBS報道局の巡田忠彦解説員です。よろしくお願いいたします。

 

浜井・巡田 よろしくお願いします。

 

荻上 まず、無期懲役制度とはどういった制度なのでしょうか。

 

浜井 無期懲役刑は海外ではライフ・センテンスといわれていて、直訳すると終身刑にあたります。終身刑には、仮釈放を認める終身刑と認めない終身刑があり、日本の無期刑は仮釈放を認める制度とされています。ただし、釈放といってもあくまで仮なので、懲役刑そのものは死亡するまで維持されます。恩赦がない限りは出所後も本籍地は刑務所となり、生涯に渡り保護観察がつくことになります。だからライフ・センテンスなのです。

 

また、仮釈放制度があるとはいえ、法務省の報告書にもあるように、現状では仮釈放される人より刑務所内で亡くなる方のほうが圧倒的に多く、その数は年々増加しています。現状を鑑みると、事実上一生刑務所内にいる仮釈放のない終身刑と変わらない運用となっています。

 

荻上 無期刑と無期懲役刑の違いについてはいかがでしょうか。

 

浜井 無期刑には無期禁固と無期懲役があります。日本の場合、無期禁固刑は、理論上あり得る刑として存在していますが、実際に言渡されることはほとんどなく、事実上全員が無期懲役刑となります。懲役刑は拘禁刑であると同時に労働刑で、刑罰として労働が課せられています。交通事故などの場合で禁固刑となる場合もありますが、日本では禁固刑を処遇する体制がないため、請願作業という形で実際は懲役刑と同様の作業をすることになります。ちなみに、現在無期刑の45%ほどの人が60歳以上、つまり実社会では定年を過ぎた年齢ですが、受刑者である以上彼らは何歳になろうとも働き続けなければなりません。懲役刑に定年という概念はないのです。

 

荻上 海外では終身刑がある国もありますが、こちらと無期懲役の違いは何なのでしょうか。

 

浜井 先ほども申し上げた通り、日本の無期懲役刑も終身刑のひとつです。ただ、一般に終身刑というと、仮釈放のない終身刑を想像されるかもしれません。こちらの場合、一生涯刑務所から出ることはできません。アメリカは州によって制度が異なり、テキサス州などでは仮釈放なしの終身刑制度を導入することで死刑の言い渡しが減ったとする報告があります。これを受けて、日本でも死刑制度に関して、日弁連などでは、死刑廃止の代替刑として仮釈放のない終身刑を導入することも議論されています。

 

荻上 なるほど。一方で、無期懲役もあくまで仮釈放なので完全な釈放はないということですね。

 

浜井 基本的にはありません。例外的に仮釈放中に恩赦を申請し、認定されれば刑が消滅することはありますが、実際にそうしたことが認められることはまずありません。実際には生涯に渡り保護観察が続きます。

 

浜井氏

浜井氏

 

 

長期化する無期懲役

 

荻上 仮釈放の対象になるまでにはどれくらいの期間がかかるのでしょうか。

 

巡田 これまで有期刑の最高刑は20年で、これが基準になっていました。しかし、1990年代以降、併合罪などを厳罰化する動きが起こり刑法が改正され、有期の上限が30年になりました。これに伴い、有期刑以上の罰であるはずの無期刑受刑者が20年前後で出所してしまうという矛盾が生じました。結果として、現状では30年を超えないと仮釈放が難しくなっています。今では無期刑の判決を受けて、一生刑務所暮らしになることを覚悟する受刑者が非常に多いです。

 

浜井 30年以下で仮釈放になる人が全くいないわけではありませんが、巡田さんのご指摘通り、現在は30年が基準になっています。30年を過ぎると、刑務所長からの仮釈放申請がなかった場合でも、地方更生保護委員会という仮釈放の決定をする機関が、職権で仮釈放の検討を行うことができるようになります。まあ、現実的には、刑務所長の申請を受けて仮釈放審査が始まります。一般的には、有期最長刑を超える段階で実質的な仮釈放の検討が始まることになっています。

 

現在仮釈放になった人の平均在所期間が31年です。「早ければ10年、最長25年くらいで出所できる」などといわれることもありますが、これは間違いです。30年がひとつの基準であることは間違いなく、実際に30年以下で出所する人はいても例外で、ほとんどのケースは30年を越えています。しかも、そもそも仮釈放になる人自体が稀で、その数は年間10人にも満たないのです。その3倍近い人が刑務所の中で亡くなっています。10年で出てくるといったような誤解はなくなって欲しいですね。

 

荻上 厳罰化に伴い無期懲役刑の期間の平均も延びてきているのですね。

 

巡田 確かに昔は「頑張れば10年」のように言われていたことがありますが、その時入所した人たちは未だに服役しています。裁判員制度の導入などで厳罰傾向が進み、システム的には30年経たないと仮釈放の審査対象になりません。

 

浜井 刑法上は10年経つと仮釈放審査の対象になるので、10年という数字が出るのかもしれません。しかし実質的な審査が刑務所内で始まるのは早くても20年、現実的には30年です。30年以上前には確かに20年程度で仮釈放となる受刑者が一定数いましたから、その時入所した人たちは真面目に刑を務めれば20年後には出所できると思って頑張ってきたでしょう。ところが20年経ってみると厳罰化が進み、出所できず、仲間は死んでいく。絶望して意欲もなくなり、保安事故が増える悪循環も起こっています。

 

荻上 仮釈放が認められる割合はどの程度なのですか。

 

浜井 2015年末のデータでは、1835人の無期刑受刑者がいます。新規に25名が無期刑を言い渡されました。仮釈放になった人は11人いますが、内2人は再犯による入所からの仮釈放ですので、新規に仮釈放で出所したのは9名になります。この仮釈放数は近年では最も多い数値です。一方、22名が所内で亡くなっています。

 

荻上 世間では仮釈放される人がほとんどと認識されているようですが、実際に仮釈放される比率はとても少ないんですね。

 

浜井 過去10年を見ても仮釈放された人数は53人、所内で亡くなった人は164人です。仮釈放は圧倒的に少ないのです。

 

荻上 こんな質問も来ています。

 

「模範囚、恩赦などで無期懲役を全うする受刑者は少ない印象があるのですが、実態はどうなのでしょうか。また、無期懲役の受刑者とその他の受刑者で待遇は異なるのですか」

 

実際に仮釈放される数は大変限定的だというお話はありましたが、「無期懲役を全うする」という点はいかがですか。

 

浜井 繰り返しになりますが、無期刑受刑者の仮釈放はあくまで「仮」釈放です。刑務所にいなくとも、無期懲役刑自体は継続しています。恩赦が認められることはほとんどないので、死んで初めて刑を全うしたことになります。そうした意味で、私は無期懲役は終身刑だと考えています。

 

荻上 仮釈放中の面談や保護観察報告体制はどうなっているんですか。

 

浜井 基本的には他の受刑者の保護観察と同じく、月に数回担当保護司と面談し、問題があれば保護観察官が対応します。事案の重大性や本人の状況によって複数の保護司がついたり、保護観察官が直接担当する場合もありますが、こちらは例外的です。

 

荻上 移動の制限などはあるのですか。

 

浜井 長期間旅行に出かける場合などに制限や報告義務が課せられます。許可なく旅行に行くことで仮釈放の取り消しに繋がります。無期刑の場合パスポートの申請にも制限があります。

 

荻上 刑務所内での待遇の違いについてはいかがですか。

 

浜井 刑の長さによって刑務所が異なるので長期刑を執行している刑務所では雰囲気は異なりますが、無期懲役でも有期刑でも待遇自体に違いはありません。

 

荻上 無期懲役受刑者専門の刑務所があるということですか。

 

浜井 無期懲役刑専門ではありませんが、執行刑期10年以上の場合、受刑者はL(ロング)指標という専門の刑務所に入ります。さらに累犯性の高さで、初犯ならばLA、再犯ならばLBと分けられます。【次ページにつづく】

 

 

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