自民党一強の強みと弱み――安倍内閣支持の急落で問われる野党の政権担当能力

シノドス国際社会動向研究所(シノドス・ラボ)ではシリーズ「来たるべき市民社会のための研究紹介」にて、社会調査分析、市民社会の歴史と理論、政治動向分析、市民運動分析、地方自治の動向、高校生向け主権者教育、などの各領域において、「新しい市民社会」を築くためのヒントを提供してくれる研究を紹介していきます。

 

今回は『二大政党制の崩壊と政権担当能力評価』の著者、山田真裕氏に、日本の民主政治における競争性を担保するためには何が必要なのか、ご議論いただきます。

 

 

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安倍内閣支持率は急落したが……

 

時事通信社が2017年7月7~10日に実施した月例の世論調査の結果、安倍内閣の支持率は前月比15.2ポイント減の29.9%であった。これは2012年12月の第2次安倍政権発足以降、最大の下げ幅で初めての30%割れである。また不支持率も同じく前月比で14.7ポイント増の48.6%となり、これは過去最高の数値である。

 

同じ調査で政党支持率を見ると、政権与党である自民党と公明党の支持率はそれぞれ21.1%と3.2%となっている。一方、野党第一党である民進党の支持率も3.6%にとどまっている.この値より高い支持率を持つ野党はない。支持政党なしは前月比で4.5ポイント増の65.3%となっている。

 

これらの事実から内閣や与党から支持が離れても野党支持にはつながっていないことがわかる。国民の期待は未だ野党の上にはない。なぜこのような事態になったのか。拙著『二大政党制の崩壊と政権担当能力評価』(木鐸社、2017年)はその答えを、有権者による政党の政権担当能力評価に求めた。図1はJES(Japanese Election Study)データを用いて自民党と民主党(2016年からは民進党)に政権担当能力を認める有権者が何パーセントいるのかを示したものである。

 

1996年に結党された民主党は徐々に得票や議席を拡大し、2009年には政権を奪取するに至っている。図1が示しているのはその民主党が2007年参院選挙後調査時点において、ほぼ半数の有権者から政権担当能力を認められるようになったということである。この間政権を保持していた自民党については、7割以上の有権者が政権担当能力を認めていた。

 

 

図01

 

 

拙著(第1章)では2009年総選挙における民主党票の分析において、2005年総選挙において自民党に投票していた有権者から少なからぬ部分が2009年総選挙では民主党に投票していることに注目し、このような有権者をスゥイング・ヴォーター(swing voter)と呼んだ。そしてこのようなスゥイングが起きた理由を分析する中で、民主党に政権担当能力を認めるか否かが大きな役割を果たしていることを示した。

 

民主主義国家における有力な投票行動理論の1つとして認知されているものに、現在の政府による業績に対する満足度で与野党への投票行動を説明する「回顧投票(retrospective voting)」(ないし「業績投票」)がある(この理論についての包括的な説明として遠藤晶久「業績評価と投票」山田真裕・飯田健編『投票行動研究のフロンティア』おうふう,2009年、第7章)。この理論には暗黙の前提がある。すなわち、今の与党に代えて野党に政権を取らせても大丈夫である、すなわち今の野党が与党になっても政権運営が可能であると有権者が考えていること、である。

 

しかしながらこのような前提を戦後日本の民主主義体制は長らく満たしていなかった。1955年から続いていた自民党一党優位体制のもとでは、不況時にかえって自民党への投票が増えるという「回顧投票」の理論と逆の説がもっともらしい説明だったのである(薬師寺泰蔵『政治家vs官僚――サプライサイド政治学の提唱』東洋経済新報社1987年、45-8)。 

 

つまり自民党一党優位体制のもとでの有権者は政府の業績に不満があっても、選挙によってそれを罰し、別の政権を生み出すという選択肢を事実上持たなかったのである。その意味で2009年と2012年に起きた2度の政権交代は、戦後日本において初めて選挙で政権与党を変えられたという意味において、日本の民主政治にとって画期的なできごとであった。日本の民主政治にもついに選挙によって政権の責任を問える日が来た、と。

 

しかし図1にも現れているように、今や自民党以外の政党に有権者の多数が政権担当能力を認めるような状態は継続していない。2012年衆院選後調査では民主党に政権担当能力を認める有権者は15.3%に激減した(ちなみにこのとき、みんなの党には13.2%、日本維新の会に19.5%の有権者が政権担当能力を認めている)。

 

民主党が民進党に衣替えをした2016年参院選前調査においても、15.9%の有権者だけが民進党に政権担当能力を認めている。2014年衆院選後調査と2016年参院選前調査では自民党と民主党(民進党)の他に、10%以上の有権者から政権担当能力を認められている政党は存在していない。

 

このようなデータこそが現在の自民一強状態を強く示していると筆者はみている。内閣支持率が多少下がっても、自民党以外に政権を任せられる政党はないと有権者の多くが思っているのであれば、自民一強は続くのである。

 

 

民主党が評価されていた部分とは?

 

ではなぜ民主党は政権担当能力を少なくとも一時は有権者の多くに認められようになったのであろうか。いろいろな仮説がありうるが、ここではJES調査の結果の1つをご紹介しよう。

 

JES調査では2010年参院選前に自民、民主両党の政権担当能力評価について10項目をたてて有権者に尋ねている。それら10項目とは、(a)国を導く力量(政治理念や将来の構想力)、(b)政治手法の正しさ(透明性や説明責任)、(c)政治家集団としての力量(リーダーシップや政治への志)、(d)政策の力量(政策立案力や政策推進力)、(e)政権運営の安定性(連立間協議を含むマネジメント力)、(f)行政(官僚)に対する統率力、(g)有権者に対する応答力(公平さやニーズの反映力)、(h)社会的弱者に対する配慮、(i)国際的な発信力・交渉能力、(j)将来を担う政治家の育成、である。

 

2010年参院選時点は図1によれば、民主党が59.3%と最も多くの有権者に政権担当能力を認めてもらった時期である。このとき自民党の値は56.7%であり、民主党の値よりも低かった。

 

図2-1、図2-2はそれら10項目についての有権者による評価の分布を示している。図2-1で示されている5項目中、民主党が明らかに自民党よりも評価されている項目は(b)政治手法の正しさだけで、自民党については「十分にある」が4.1%、「ある程度ある」が33.3%であるのに対して、民主党では「十分にある」が4.1%、「ある程度ある」が45.0%である。

 

また図2-2では(g)有権者に対する応答力と(h)社会的弱者に対する配慮、(j)将来を担う政治家の育成の3項目においては民主党への評価は明らかに自民党へのそれを上回っている。逆にこれら2枚の図において明らかに民主党が自民党より評価されていない項目は、図2-1においては(d)政策の力量であり、図2-2では(i)国際的な発信力・交渉能力となっている。これらの情報は党派的立場に関わらず踏まえておくとよいだろう。

 

 

図02-1

 

図02-2

 

 

ともあれ民主党政権は国民の期待に添えず、今に続く自公連立の安倍政権を生むこととなった。日本人のマジョリティから政権担当能力を認められる政党が自民党以外になくなってしまったことは、政治不満、政治不信と強い関連を持っている(拙著、第4章)。政権担当能力を持つ政党がないという有権者は棄権の確率も相対的に高い(、第5章)。2012年衆院選、2014年衆院選のいずれにおいても投票率は6割に満たない結果となり戦後最低を更新している。この低投票率のもとで生まれたのが現在の安倍政権なのである。

 

 

安倍首相が支持されてきた理由

 

安倍晋三内閣は今でこそ3割を切る低い内閣支持率に悩まされているが、少なくとも2012年総選挙以後の発足から2016年9月までは、他の内閣に比して相対的には高い内閣支持率を得てきた(拙著、第6章)。

 

第2次安倍内閣以降の安倍首相はなぜ支持されてきたのであろうか。JES調査では政党や政治家に対する有権者の好悪を感情温度計の形で尋ねている。感情温度計では強い反感を0度、中立が50度、強い好意を100度で示し、回答者に何度かを答えてもらう形式である。2012年総選挙以降の安倍晋三に対する感情温度を見ると、その標準偏差が相対的に大きいことがわかった。図3をご覧いただきたい(拙著、p.177の図6-2と内容的には同一)。これは自民党と民主党(民進党)、そしてそれぞれの党首に対する感情温度について2001年以降の標準偏差をプロットしたものである。

 

これを見てわかる通り、2014年からの安倍に対する感情温度の分散は顕著に高い。このことから安倍については有権者間で比較的好悪が明確に分かれる傾向が強いことがうかがえる。にもかかわらず内閣支持率そのものは相対的に高かったことが2013年から2016年9月までの安倍内閣の特徴であった。

 

 

図03

 

 

筆者が安倍に対する感情温度を分析した結果(拙著、pp.116-121)によれば、安倍への感情温度と強い関連を有していたのは、内閣全体の業績評価ならびに具体的政策としてはアベノミクスへの支持であった。また価値観から見ると、安倍への感情温度は、保守的ではあるが私生活中心主義的態度と正の関連性を有しており、国家主義や集団主義的な態度によって支えられたものではなかった。安倍首相が再び高い内閣支持率を望むのであれば、この点は踏まえておいた方がよいように思われる。

 

現在、安倍内閣への支持率は本稿の冒頭で紹介したように大きく低下している。また先述したように、安倍内閣を生んだ2012年、2014年の衆院選の投票率は記録的に低かった。不満の受け皿になる政治勢力が出現すれば、現在の自民一強も吹き飛ぶ可能性がある。しかしこれもまた本稿冒頭で紹介したように、多くの国民の期待は未だ野党の上にはなく、かつての自民党一党優位体制のように、現状の自公連立以外の政権選択が考えにくい現状である。

 

政権交代の可能性のない選挙は有権者にとっては実質的に選択肢のない選挙であり、投票意欲もそがれる。競争なき政党政治は多くの有権者に政治的疎外感を与え、民主主義体制への支持を弱める。これを避け、日本の民主政治における競争性を担保するためには、自民党以外にも国民から政権を任せるに足ると信頼される政治勢力(政党ないし政党間連合)を構築する努力を多面的に積み重ねる必要があるだろう。拙著『二大政党制の崩壊と政権担当能力評価』(木鐸社、2017年)の分析がそのお役に立つならば、著者としてこれ以上の喜びはない。

 

謝辞

本稿の作成にあたっては浅羽祐樹氏(新潟県立大学大学院国際地域学研究科教授)にご助言をいただきました。記して謝意を表します。

 

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