定数配分訴訟と「選良」の限界 

2012年12月16日に行われた衆議院総選挙(第46回)について、その定数配分が憲法に違反しているとして選挙の無効を求める訴えが全国各地で起こされ、次々と高裁判決(第一審)が下されていることは報道を通じてよく知られているかと思う。そのうち、2013年3月25日の広島高等裁判所判決、26日の広島高等裁判所岡山支部判決が選挙を無効にするという戦後初となる判断を示したことは、とくに話題になっているだろう。

 

だがじつのところ、法的な見地からこれらの裁判の結果がきわめて重要だとか興味深いとは、少なくとも筆者は考えていない。この問題は要するにほとんど組み上がったパズルになっているし、裁判所がその範囲でどのように判断しようが、きちんとしたかたちで解決する可能性はないからだ。

 

以下では、何故そうなるのか・今後の展開として何が求められるのかについて述べていこう。(なお、各高裁判決の全文はまだほとんど公開されていないため、入手できた範囲以外のものは報道に依拠して説明している。)

 

 

初期条件

 

まず、今回の一連の訴訟以前の状態がどうであったのかを確認しておこう。現在の衆議院は定数300の小選挙区部分と定数180の比例代表制部分との並立制になっている。このうち選挙区間の格差が問題になるのは、基本的に小選挙区の部分である。

 

その配分については都道府県を単位とし、(1) まず各1議席を配分したうえで(一人別枠方式)、(2) 残り253議席を人口比例(最大剰余方式)によって配分する。そのあと都道府県ごとに、選挙区間の有権者数の格差が2倍を超えない・大都市をのぞいて市区町村を分割しない・飛び地をつくらないなどの基本方針に沿って個々の選挙区へと区割りされることになる。この区割り作業は国の衆議院議員選挙区画定審議会(区画審)によって行なわれ、首相へと勧告された内容は特段の問題がなければ国会へと提出され、審議されるという手順になっている。同審議会の委員(国会議員以外の有識者7名)は、国会同意人事により任命される。

 

問題は、2000年の国勢調査をもとに行なわれた区割り改訂において、一人別枠方式があるために選挙区間の格差を2倍以下にできないことが判明した点にある。この結果、2009年8月30日に投票された第45回総選挙の定数配分をめぐって提起された訴訟において最高裁判所は、当時の選挙区割りは憲法違反の状態にあると判断した(最高裁判決平成23年3月23日)。一人別枠方式は、小選挙区制度の導入当初(1994)においてそれまでの定数配分とのあいだで生じる違いを緩和するための方法としては一定の合理性を持っていたものの、すでに制度の定着した現在において・一票の価値の格差を拡大させる主要な原因になっているにもかかわらず・維持する正当性を認めることはできないというのである。

 

結論として最高裁は、「できるだけ速やかに本件区割基準中の1人別枠方式を廃止し、区画審設置法3条1項の趣旨にそって本件区割規定を改正するなど、投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要がある」と指摘した。

 

 

違憲状態は是正されたか

 

これを受けて立法府においても法改正の内容が検討された。しかし改革案に関する与野党協議は合意に至らず、野党が欠席するなか衆議院で与党案を単独可決・参議院に送付(2012年8月28日)、野党側が反発して野田総理大臣問責決議案の可決に至った(29日)。この間の経緯・与野党双方の改正案の内容については、すでにSynodos Journalに掲載していただいた(「選挙制度はどう改革されようとしていたか」)。

 

結局、与党案は第180国会において審議未了廃案、野党案について閉会中審査の手続きを取り、第181国会において成立させた(11月16日・平成24年法律95号)。その内容は、一人別枠方式を廃止しつつ、2010年国勢調査を踏まえた当面の改定案についてはそれと別にいわゆる「0増5減」を行なうというものであった。つまり、最高裁判決の要求を無視したわけではないがきちんと実現したわけでもなく、なんとか合意の取れた範囲での弥縫策を講じた程度だということになろう。

 

しかし衆議院はその同日に解散されたため、総選挙までに区画審の作業を行なう時間的余裕はまったくなかった。結果的に、第46回総選挙はすでに「憲法に違反する状態」であると最高裁に判断された定数配分のままで行なわれたことになる。

 

一般的に言えば最高裁判所は同一の問題については自らの以前の判断を維持するし、そのことを前提として下級審も最高裁判例に従った判決を下す傾向が強い。放置しておいたのに勝手に定数配分が修正されるわけはないから、今回選挙の定数配分についても同様の判定が下されるのはほぼ必然的だった、ということになるだろう。実際にこれまでの判決においても、比例区の定数配分を争った東京高裁3月21日判決以外はすべて「違憲状態」を認定している。

 

 

 

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