ベストミックスは誰のため?

「ベストミックス」もしくは「エネルギーミックス」の議論が佳境に入っています。エネルギーミックスとは発電電力量におけるエネルギー源の配分(すなわち電源構成)のことを示します。一方、ベストミックスはよく「最適な電源構成」などと説明されます。

 

しかし海外文献を調査するとわかるのですが、実は海外のエネルギー政策に関する議論では、energy mixという表現はよく使われるものの、best mix という表現はほとんど登場しません。

 

このことは国もさすがにうすうす気づいているのか、最近の審議会等の資料では「ベストミックス」はほとんど使われず、よりニュートラルな「エネルギーミックス」あるいは「電源構成」が用いられています。

 

しかし筆者がウェブや新聞データベースで調査した結果では、依然として電力会社をはじめとする産業界の資料や政治家の発言でこの「ベストミックス」という言い回しが多用されています。さらにマスコミも同様で、多くの日本のメディアがこの用語を好んで用いる傾向にあります。

 

ちなみに米国や欧州連合(EU)の政府関係の資料では、エネルギー政策の文脈で “best mix” を用いたものはほとんど見られません。Washington PostやWall Street Journal, The Times, CNN, BBCなど海外有力メディアでも同様です。

 

もちろんこの表現を使う記事や報告書は皆無ではありませんが、あったとしても再エネの中の配分であったり特定の設備でのベストなエネルギー配分だったりと、国全体のエネルギー政策の文脈で best mixという言葉が使われる例はむしろ稀なケースです。

 

このように、実は「ベストミックス」は限りなく和製英語に近い言葉であることがわかります。本稿では、この日本独自の概念である「ベストミックス」を取り上げ、そこに込められた「ベスト」の意味が一体何のために誰のためにあるのかを、国際比較分析から炙り出していきたいと思います。

 

 

電源構成の変遷の国際比較

 

他国のエネルギーミックス(電源構成)がどのようになっているかは、日本語でもさまざまな資料やデータが入手可能で、それほど目新しいものではありません。例えば政府が毎年公表する「エネルギー白書」でも、ドイツやフランス、米国などの単年の電源構成のグラフが示されています[1]。

 

しかしここでは、他の文献とは異なる視点から分析を行います。すなわち、(i) 1990年から約20年に亘る電源構成の時系列変化を見る、(ii) VRE(変動性再エネ)の導入が進んでいるが日本ではほとんど取り上げられない国(デンマーク、ポルトガル、スペイン、アイルランド)の分析を行う、ことにあります。

 

図1〜4はデンマーク、ポルトガル、スペイン、アイルランドの電源構成を1990年から現時点で入手可能な最新の年次である2013年まで時系列で描いたグラフです。図1〜4を一瞥して明らかな通り、各国とも化石燃料や原子力(スペインの場合)を過去20年で徐々に着実に減らしており、その裏返しで再エネ(特に風力発電)を着実に増やしていることがわかります。

 

 

図1 デンマークの電源構成の変遷(文献[2]より筆者作成)

図1 デンマークの電源構成の変遷(文献[2]より筆者作成)

 

 

図2 ポルトガルの電源構成の変遷(文献[2]より筆者作成)

図2 ポルトガルの電源構成の変遷(文献[2]より筆者作成)

 

 

図3 スペインの電源構成の変遷(文献[2]より筆者作成)

図3 スペインの電源構成の変遷(文献[2]より筆者作成)

 

 

図4 アイルランドの電源構成の変遷(文献[2]より筆者作成)

図4 アイルランドの電源構成の変遷(文献[2]より筆者作成)

 

 

各国の時系列の変遷をより詳細に観察していきます。まず、図1のデンマークは原子力がないことに加え、国が平坦なため水力もほとんどないことが特徴ですが、過去20年間で電源構成を大きく変えてきたことがグラフから伺えます。

 

具体的には、1990年には石炭火力が実に95%以上を占めていましたが、現在では40%にまで低減させています。さらに1990年代から風力発電を着実に増加させ、現在は風力だけで30%以上、バイオマスなどを含めると再エネ全体で50%を達成しています。

 

デンマークの事例から学べることは、かつてほとんど石炭に依存していた国が20年かけて徐々に電源構成を変化させ、ついに一国の電力量の半分を再エネで賄うまでに成長させることは現実的に可能だ、ということでしょう。(注)デンマークはさらに2050年までに電源構成における再エネを100%にする意欲的な国家目標を打ち出しています。

 

(注)このデンマークの努力の技術的な要因分析については、拙著「日本の知らない風力発電の実力」(オーム社)あるいはT Ackermann編著「風力発電導入のための電力系統工学」(オーム社)をご覧下さい。

 

一方、図2のポルトガルは元々水力発電が豊富で1990年代には40%近くを占めていましたが、2000年代後半以降急速に風力を伸ばし、現在は再エネ全体で60%の導入率を達成しています。

 

なお、水力発電の年ごとの増減が目立ちますが、これは渇水年と豊水年の差が激しいためです。図3のスペインも同じイベリア半島ということでポルトガルと似た傾向を見せますが、原子力を保有しており、その比率を1990年の35%から2013年の20%へと徐々に漸減させていることがわかります。また、風力だけで約20%と原発と肩を並べ、再エネ全体だと40%の導入率をすでに達成しています。

 

図4のアイルランドは国が平坦で水力資源があまり豊富でないため、再エネを増やすとしたら風力発電しか選択肢がほとんどありません。それでも風力だけで17%以上、他の再エネも併せると20%の導入率を達成しています。

 

アイルランドは北海道とほぼ同じ面積でほぼ同じ人口でほぼ同じ消費電力量ですが、2020年までに再エネ導入率40%を国家目標として掲げており、その目標は図4の過去の履歴を外挿すると、決して荒唐無稽ではなく十分現実的な目標であることがわかります。

 

ここまでは、デンマーク、ポルトガル、スペイン、アイルランドといったVREの普及に積極的な国を取り上げましたが、これらの国だけが特殊な政策を行っているわけではありません。【次ページにつづく】

 

 

 

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