日本に再エネの志はありや?――なぜ風力発電だけが大幅削減なのか

政府では電源構成(エネルギーミックス)に関する議論が急速に進んでいます。具体的には、4月28日に経済産業省の第8回長期エネルギー需給見通し小委員会(以下、需給見通し小委)で、2030年の日本の電源構成(エネルギーミックス)に関する案が発表されました。

 

この案では、2030年の総発電電力量に占める再エネの割合(導入率)は22〜24%程度と設定されています。すでにマスコミなどさまざまな評論で、原子力発電(同20〜22%)との比較が多く取り沙汰されますが、本稿ではさしあたりこの点は脇に置き、国際動向における日本の位置づけという観点から、この再エネ数値目標について分析したいと思います。

 

 

FIT施行後の再エネ成長の国際比較

 

本稿では特に、さまざまな再エネ電源のうち、風力発電と太陽光発電に着目します。この2つの発電方式は、世界各国で近年最も投資が進み成長の著しい電源であり、英語圏ではVRE(Variable Renewable Energy、変動性再エネ)という用語も一般的になりつつあります(注1)。

 

(注1)VREに関しては、つい最近、国際エネルギー機関(IEA)の興味深い報告書(国際エネルギー機関:「電力の変革 風力、太陽光、そして柔軟性のある電力系統の経済的価値」, 2015)が翻訳され無料でWeb公開されたので本稿でもご紹介しておきます。同報告書では「技術的観点から年間発電電力量における 25%~40%の VRE シェアを達成できる」など、今まで日本語ではあまり語られない技術情報などが紹介されており、一読をお薦めします。

 

需給見通し小委の2030年目標値では、再エネ全体で22〜24%のうち、VRE導入率は8.7%に過ぎません。しかもそのうち太陽光は7%であり、風力発電に至ってはわずか1.7%という案になっています。この数値は、国際エネルギー動向からどう読むべきでしょうか? 筆者も再エネや電力系統の国際比較研究を行う立場から、この2030年目標値についてデータやエビデンスを提示しながら客観的・論理的に分析していきたいと思います。

 

国際比較のため、まずは図1のような形でVRE(風力+太陽光)の導入の推移のグラフを作成してみました。

 

 

図1. FIT施行後の各国のVRE(風力+太陽光)導入率の推移

図1.FIT施行後の各国のVRE(風力+太陽光)導入率の推移

(文献[1]のデータを元に筆者作成)

 

 

図の実線は、欧州の再エネ先進国ともいえるデンマーク、ポルトガル、スペイン、アイルランド、ドイツ(VRE導入率上位5ヶ国)の過去の導入実績を表しています。グラフは横軸にFIT(固定価格買取制度)施行年を0年とした経過年、縦軸に総発電電力量に対するVRE導入率を示しています。図から、

 

デンマークは(途中5年間の中断があるものの)合計15年で30%を達成

ドイツ・スペイン共にFIT施行後10年で導入率10%を達成

スペインはさらにFIT施行後15年で導入率20%を達成

ポルトガルはFIT施行後わずか10年で導入率20%を達成

アイルランドはFIT施行時にすでに導入率が5%超と高かったということもあり、わずか5年後に導入率15%を達成

 

ということがわかります。

 

このように、本来FITという促進政策が持つ威力は絶大で、FITを施行した多くの国でVREの導入が進んでいます。また、このグラフでは表されていませんが、ドイツでは太陽光のシェアが若干大きいものの(2013年に風力8.4%に対し太陽光4.7%)、それ以外の4ヶ国では太陽光はあまり導入されておらず、ほとんどが風力発電であることにも留意すべきです。各国で風力発電の導入が大きく進んだ理由は、(水力を除く)再エネの中で風力が最もコストの低い電源であると見なされているからです(風力のコストに関しては後述)。

 

 

日本のさまざまな機関の予想と目標

 

これに対し図2は、図1のVRE導入率推移のグラフ上にカラーのプロットや点線で日本のさまざまな機関が公表した目標値や予測値も重ねたものです。日本では2012年にFITが施行されたので、その18年後の2030年の目標値や予測値をプロットしてあります。

 

 

図2. FIT施行後の各国のVRE(風力+太陽光)導入率の推移(日本の目標・予測との比較)

図2.FIT施行後の各国のVRE(風力+太陽光)導入率の推移(日本の目標・予測との比較)

(文献[1]〜[6]のデータを元に筆者作成。 ただし、日本の2030年の総発電電力量は文献[6]に従い10,650億kWhとして算出した)

 

 

まず、青のプロットは内閣府国家戦略室という前政権時代の政府機関が発表した目標値です[2]。それに対し、環境省では2013〜2015年に予測値を公表していますが[3]-[5]、これらは年を追うごとに2030年時点の予想導入率が上昇しており、最新の2015年版[5]の高位ケースの予想では2030年のVRE導入率は20%近くにも達する計算になります。このような目標値が年々上方修正されるのはこれまで他国の経験からもよく見られる現象です。これは、再エネの技術革新やコスト低減などが年々進展することにより、更なる上積みが可能となるためです。

 

一方、2015年の4月に経産省の需給見通し小委から発表された案[6]では、一転して大きくグレードダウンしています。また、現在の実績値から2030年までの目標・予想値を点線で補間すると、環境省2015年版ではスペインやドイツの成長履歴と遜色ない伸びを示すのに対し、経産省の案では、これらの実績曲線を大きく下回り、日本はあと15年たっても現時点での欧州諸国のレベルに到達しないことになってしいます。これではあまりにも「志の低い」目標と言わざるをえません。

 

一般に目標値は高い値であってこそ、イノベーションや市場活性化を促進させていくものですが、このように低い値では投資や技術開発の意欲も減退してしまい、これでは「目標」ではなく「制限キャップ」(すなわち「ここまで頑張ろう!」ではなく「こまででいいや」というメッセージ)となってしまいかねません。この目標値を定めた需給見通し小委の資料[6]では「再生可能エネルギーの最大限の導入」が明示的に謳われていますが(p.3)、自らが語る理念に反してこれでは「再エネの最小限の導入」が目的であるかのように見えてしまいます。せっかくのFITもこれでは骨抜き状態です。

 

図2に示した日本の諸省庁の目標(ないし予想)の内訳をもう少し詳しく見ていきたいと思います。図3は2030年のVRE導入率の内訳を示したグラフです。

 

 

図3. 2030年における日本のVRE(風力+太陽光)導入率の目標・予測値

図3.2030年における日本のVRE(風力+太陽光)導入率の目標・予測値

(文献[2]〜[6]のデータを元に筆者作成。 ただし、2030年の総発電電力量は文献[6]に従い10,650億kWhとして算出した)

 

 

前述の通り、2012年時点で国家戦略室により設定された目標値[2]から出発すると、環境省の3つの報告書[3]-[5]がいずれも予想を上方修正しているのに対し、経産省需給見通し小委[6]では大幅にグレードダウンしていることがこのグラフからも明らかです。このグレードダウンの主な要因が、風力発電の目標値の大幅減少であることもグラフからわかります。過去の政府報告書がいずれも6%台の風力発電導入率を予想・目標としているのに、なぜか需給見通し委の目標値案だけは1.7%と大幅ダウンです。なぜ、風力発電だけが大幅削減なのでしょうか?

 

以下では、風力発電の導入率が小さく見積もられている原因を小委員会の資料などから探っていきたいと思います。【次ページにつづく】

 

 

 

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