福島第一原発3号機は核爆発していたのか?――原発事故のデマや誤解を考える

放射線の本を書いたわけ

 

小峰 どうして菊池さんと本(「いちから聞きたい放射線のほんとう」)を書くことになったの? ってよくきかれるんで最初にちょっとだけ紹介しましょう。

 

菊池 知りあったのは小峰さんのバンド、zabadakのコンサートを見に行ったのがきっかけでした。

 

小峰 ええ。打ち上げの席で、フィリップ・K・ディックの翻訳もやってる物理学者でテルミン奏者でもある、と紹介されて、面白そうなひとだな、と。ロン毛だし。

 

菊池 だいたい第一印象は「ロン毛のひと」なのよね。その後はよくTwitterでおバカな話をしてましたね。

 

小峰 ああ、平和な時代でしたね。そこに震災が起きて……

 

菊池 いろんなことが変わってしまった。

 

小峰 私は福島県で生まれ育ち、郡山の実家は地震でぐちゃぐちゃになっちゃったし、放射線問題も切実でした。もとから原発問題には関心がありましたし、恐れていた事故が現実になり、あの頃の絶望……どうしていいかわからず、ただただ超オロオロしていました。

 

菊池 地震、大津波、そして原発の爆発と、僕もテレビの前で呆然としていました。

 

小峰 いろんな情報がわあっとやってきたけど、菊池さんがネットを通じて放射線やその影響について丁寧に説明してくれて。おかげで変な情報に惑わされずに済みました。とても感謝しています。菊池さんの開催してた放射線勉強会に参加して、少しずつ科学的にものを見る目がついてきたのは大きかったです。

 

菊池 少人数でやらないとちゃんと伝えられないと思って、小規模な勉強会を何度もやって。小峰さん主催でも一度やりましたね。

 

小峰 はい。それから興味のあるいろんな勉強会にも参加して、ネットで話題になってる情報でも的はずれなことがあるのがわかるようになったりしたけど、私の周囲にもどんどん危険な方に煽られて行ってしまうひとがいたのも事実で……

 

あ、でも、あとで知ったら、かなり冷静なひとたちもたくさんいました。「いちから聞きたい放射線のほんとう」を出してから、「実は私はこう思ってる」とカミングアウト(?)してきた友人もいっぱいいて、ちょっと驚きでした。原発や放射線に関心があるなんて見えなかったというか、そんな話はしたことがないひとたちだったから。

 

菊池 極端な発言をするアーティストも目立ちました。いろんな話が飛び交ったし、数値とは別に気持ちの問題もあるから難しいところだとは思うんだけど。

 

小峰 反原発を掲げたイベントも多かったですしね、被災地のために何かしたい、っていうのは心からそう思って参加しているんだと思います。でも表現活動とは別として、デマみたいなのを信じてるひとも結構いるんだなあっていうのもわかったんですよね。

 

菊池 原発事故はいろんなことをあらわにしたというか。

 

小峰 それで、最初は友人たちが変な情報を信じてたりすると、「原発から煙が!って流れてる画像は爆発じゃなくていわき名物の海霧だよ」とか「雨で放射線量が上がるのは昔からで、事故とは関係がないよ」とか「放射線を消す石なんてないよ、行商でそんなん来ないよ」とか、個別にやり取りしたりした時期もあったんですよ。

 

菊池 ネットでもいろんなやり取りがあって、僕もいろいろ説明したりしたけど、中には徒労に終わったものもあったり。

 

小峰 ねー。すごかったですね。あれは傍から見てて胃痛がすることありましたよ。労力いりますよね。時間もかかるし。説明するってこっちがちゃんと理解してないと無理だし、大変なんですよね。そんな経緯もあって、菊池さんと、文系でもわかる日本一わかりやすい放射線の本を目指して「いちから聞きたい放射線のほんとう」を出版したのですが、それが自分では放射線関係でできることの一区切りかな、と思っていました。デマが回ってきても、まあある程度はもうしょうがないかな、と思ってたんですよ。

 

菊池 原発事故からこれだけ時間がたてば、勉強する気があるひとは自分で勉強して知識を得ているだろうし。

 

小峰 うん。前よりはひどくなくなってきたかなあと思ってたけど、うーん、そうでもない。

 

菊池 あり得ないようなあやしい話も姿を変えて何度でも甦ってくるね。

 

小峰 以前、微生物で放射線を除去するという話をなんで科学者が否定しないのかと菊池さんにきいたら、「それはあり得ないから」で終了、だった。だけど、一般のひとはその「あり得なさ具合」がわからないんですよね、だから信じちゃう。

 

菊池 微生物除染に関しては本でも触れて、少ない行数であり得なさ具合の説明に挑戦したつもりなのだけど。

 

小峰 でも一度誰かが徹底的に検証して否定しなくちゃいけないんじゃないかな、って思うこともあります。

 

菊池 「誰かが」っていっても「いったい誰が」っていう問題もあるし。そもそも真剣に否定するのもバカバカしいようなこととなると。

 

小峰 相手にしたくないですよね。これにかぎらず「科学者ならこういうことには責任をもって対処すべき」みたいな意見は事故以降かなり無責任に言われてきたと思う。あれはたしかに気の毒というかなんというか。

 

菊池 とんでもないデマを否定するのは、本来科学者の義務でも責任でもないと思うんだ。デマを流すのは簡単だけど、否定するにはものすごく手間がかかるし。

 

小峰 震災後、それこそ手弁当で尽力してくれた多くの科学者がいらしたのもたしか。感謝しています。これ以上彼らの時間をムダに奪うようなことはないようにとは願うのですが。

 

 

「核」のイメージ ~ チェルノブイリと核爆発

 

小峰 しかし! 最近久しぶりに会った友人たちと飲んでいたら、ひとりが「福島は実はチェルノブイリよりもひどい事故なんだから」って言ったんです。

 

菊池 たしかにそういう説は流れたし、今もそう主張するひとはいる。

 

小峰 それでね、さらに別の友人が「福島の3号機は実は核爆発だったんだ」って言ったんですよ。がっかりしたんだけど、反論するのも場の空気を悪くするかなあと、何も言わずにただ聞いてました。ここで反論すべきだったのか、後に悩むことになるのですが。

 

菊池 それは対応に困る状況ですね。

 

小峰 核爆発だというのは、爆発が起きた時の煙の形はきのこ雲だったから、と。きのこ雲イコール原爆というイメージはやはり強烈。

 

菊池 きのこ雲だからって核爆発とはかぎらないよね。火山の爆発でもきのこ雲が見られるじゃない?

 

核爆発説を最初に誰が言い出したのかはわからないんだけど、東電原発事故から1ヶ月半後にイギリスのバズビーとアメリカのガンダーセンというふたりのひとが、それぞれ3号機の使用済み燃料プールで核反応が起きたと発表したから、その影響が大きいのかもしれない。バズビーは核爆発、ガンダーセンは即発臨界という説なので、ちょっと違うんだけど、どちらも根拠はただ「爆発が激しかったから」だ。

 

小峰 即発臨界っていうのは核爆発とは違うもの?

 

菊池 違うものだけど、核分裂連鎖反応の暴走だよ。

 

小峰 そのひとたちはいわゆる専門家、なんですよね?

 

菊池 バズビーは欧州放射線リスク委員会(ECRR)科学事務局長という大層な肩書きの持ち主、ガンダーセンのほうは元原子力技術者で、どちらも原発事故直後から雑誌でよくコメントが取り上げられていたし、本も出版された。そういう意味では、一部のマスコミで原発事故の専門家扱いされていたひとたちと言えばいいと思う。

 

核爆発説はそもそもナンセンスな話だったんだけど、その後、3号機屋上の瓦礫が片付けられて原子炉の爆発じゃなかったことは誰の目にも明らかになったし、使用済み燃料プールの中の様子も撮影されて、使用済み燃料が破損していないことも確認されてる。原子炉の中であれプールであれ、核爆発説ははっきり否定されてるんだ。

 

小峰 裏付けされたんですね。

 

菊池 今は3号機の使用済み燃料プールから燃料を取り出す準備が着々と進められてる。この様子は東電のウェブサイトで見られるよ。

 

小峰 核爆発説はとっくに終わった話になったんだ。

 

菊池 核爆発も即発臨界もね。そもそも彼らはどうして核爆発だったことにしたかったのだろうな。結局彼らはネットで見た3号機の爆発映像だけを根拠に、核爆発だの即発臨界だのと言っただけなわけですよ。

 

小峰 その説が生き残ってるのはいやですねー。否定されちゃってるのに。ああ、あの時にそれをちゃんと言える私でありたかった。でもあの爆発の映像を見たら、これはまずい、って思いましたよ。終末がきたのか、って。水素爆発も核爆発も何も知識なかったし、原発で爆発、っていうだけでおそろしくて。だから何が起きたのか、正体を知りたい、とも思いましたけれど。

 

菊池 水素爆発だって、大事故には違いないから。しかも原子炉がいくつも。

 

小峰 あの……私達の世代だとジュリー(沢田研二)の主演した「太陽を盗んだ男」という映画を見てますよね。

 

菊池 見た見た。主人公が東海原発からプルトニウムを盗んで。

 

小峰 あの頃のロケンローラーは大抵はあの映画大好きだった。カルトっぽい人気でしたよね。ジュリーの演じる教師が、自作の原爆をタテに、政府に野球中継やストーンズの日本公演を要求するのです。

 

菊池 実際には原子炉から放射性物質をそのまま持ってきても核爆弾は作れない。原発から盗んだプルトニウムを自宅で精製して原爆にするっていうのは映画ならではの荒唐無稽な設定だよ。爆弾で放射性物質を撒きちらす、いわゆるダーティ・ボムなら作れるかもしれない。でも、あの映画のジュリーはかっこいい。

 

小峰 この映画で、原子炉の放射性物質から容易に、っていうか個人でも核爆弾が作れるっていうイメージが強烈に植え付けられた気がします。原爆、作れちゃうんじゃね? みたいな。もしかして、GS世代が一番誤解してるような気がしてきたぞ。

 

菊池 プルトニウム爆弾は構造が難しいから映画のように簡単には作れないよ。ウランを使った原爆なら個人で作れるとも言われるけど、原発のウランを盗んできても使えないから。

 

小峰 原発では原爆は作れない?

 

菊池 原発と原爆はどちらも核分裂の連鎖反応を使うとはいえ、しくみは全然違う。核分裂を制御して連鎖反応をゆっくり持続させるのが原子炉、一気に爆発させるのが原爆。そのために使う核物質の純度もぜんぜん違うんだよ。だから、原発の燃料に使うウランで原爆は作れない。核爆発させるには純度の高いウランが必要なんだ。その意味でも、3号機核爆発説は初めから成り立たない。

 

小峰 物理学者の前でいうのもはばかられますが、原発事故で降った放射性物質「同士」が地面などで触れた際に反応を起こし、それは連鎖的に続き、放射線を出し続ける、それはプルトニウムなら2万年以上も続くのだ、というひともいました。

 

菊池 いろいろごっちゃになってるね。2万年以上ていうのはプルトニウムの崩壊の半減期で、原子炉の中で起きてる連鎖反応は核分裂が続くことだから、別の現象だよ。

 

小峰 連鎖反応が起こる、っていう核反応の知識もなんとなーく、原子炉に関する番組なんかで昔はよく目にしてたので、放射性物質といえばどんどん放射線が出ちゃうイメージも、いろいろ誤解を生んでるんじゃないかって思うんですよ。初めてのことばっかりで、おぼろげに知ってることの断片をつないでいってしまって。

 

菊池 原発事故前は崩壊で放射線が出ることなんか考えなかったでしょう。だから、放射性物質から放射線が出るといえば、核分裂で中性子が出ることしか思い浮かばなかったんじゃないかな。

 

小峰 そうそう、そういうイメージが強かった。放射性物質は崩壊して減っていく……放射線を出したら、別の、放射線を出さない元素に変わるなんて知らなかった。

 

菊池 そこは、半減期についての誤解にも通じるね。

 

小峰 そう。この際、半減期についてもう一度おさらいしてもいいですか? 一番多いのは、放射性物質っていうのはずーっと放射線を「出し続けて」いて、「そのパワーが半分に弱まるまでの時間が半減期」っていう誤解……これはさっきのプルトニウムもそうだけどかなりのひとがまだそう思っている。まちがいない!

 

菊池 そこで太鼓判を押されても困るのですが。

 

小峰 けっこう自信ありますよ、この誤解。だから半減期が長いほどおっかない、と思っちゃうのです。さて、では解説いきましょう。

 

菊池 簡単に言うと、放射性物質の原子がひとつまたひとつと崩壊して減っていき、その数が半分に減るまでの時間が半減期。放射線を出すと、別の種類の原子に変わってしまうから、数が減っていくわけ。

 

小峰 数が半分になる、がポイントです。なんとセシウム137はβ線とγ線を出して、安定したバリウムになるんですよね。これ知った時はもうびっくり。

 

菊池 安定したバリウムはもう放射能を持たない。つまり、放射性物質じゃなくなるわけだ。ウランのように、変化した先の原子にも放射能があって、その先の原子にも放射能があってと、放射線を出す原子が何段階も続くものもあるけれども、それでも放射線をいくつか出すと最終的には放射能を失ってしまう。

 

小峰 放射性の原子がひとつあったとして、これがいつ放射線を出すかはわからない。すぐかもしれないしずっと先なのかもしれない。それは予測できないのでした。

 

菊池 ただ、そういう原子がたくさん集まっていれば、どういう率で減っていくのかはわかる。

 

小峰 いっぱいあれば、そこから出る放射線をカウントしていつ半量になるかが予測できる。

 

菊池 そう。そしてその長さは物質ごとに決まっている。

 

小峰 今回の事故で問題になったヨウ素131は8日間で半分に。セシウム134 は2年、セシウム137は約30年、でしたね。

 

菊池 天然のウラン235の半減期は7億年。半減期が長いほど安定していて壊れにくい。

 

小峰 おっかないと思いがちな長いものは、実は放射線を出しにくい。(なんでそんな長い半減期を調べられるのだ? と疑問を持った方は「いちから聞きたい放射線のほんとう いま知っておきたい22の話」を見てください)ここで誤解していると間違った方向に気をつけちゃうから。

 

菊池 半減期が長いから怖いとか短いから怖いとかじゃなくて、どれだけの放射線を出しているかが問題だよね。量が多いか少ないか。それを表す単位がベクレル。

 

小峰 1秒間に崩壊する原子の数ですね。半減期が長くても短くても、量が1ベクレルあれば1秒間に1個が崩壊する。

 

菊池 いっぽう、もし原子の数が同じなら、半減期が長いものほどベクレルは少なくなる。

 

小峰 何を問題にするかによるわけですね。

 

菊池 プルトニウム239は半減期が2万4000年もあるからって心配するひとをたしかに見かけるけど、ベクレルで言ったらほんとに微々たるものだから。

 

小峰 何に気をつけなくちゃいけなくて、何は気にしなくていいかなとわかるためにも、放射線の基本的なことは知っておきたい。

 

菊池 半減期について誤解が多いっていうのは、専門家がなかなか思い至らなかったことだと思うんだ。事故当初には半減期の2倍経つと全部無くなるっていう誤解も目についたし、半減期とは何かというのは今でもあまりよく理解されていないよね。【次ページにつづく】

 

 

 

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