Bad Science 「デタラメ健康科学 代替療法・製薬産業・メディアのウソ」に寄せて

2010年夏、日本学術会議がホメオパシーについての会長談話を発表した。ホメオパシーには効果がないから、医療に使うべきではない、というのがその内容。

 

ホメオパシーは200年ほど前にヨーロッパで始まった民間療法(代替医療なんていうしゃれた言いかたもある)のひとつだ。そういう特定の民間療法に学術会議会長がわざわざコメントを発表するなんて、異例の事態なのだけど、それくらい、学術会議はホメオパシーの流行に危機感を持ったわけだ。なにしろ、ホメオパシーに頼って、きちんとした医療を受けなかったばかりに、亡くなった人もいるというのだ。

 

それにしても、現代医療よりも200年前の民間療法を選ぶ人たちがいるのは、どうしてだろう。ホメオパシーに効果がないことははっきりわかっているのに、なぜ、普通の医療より効果があると信じてしまうのか。もしかしたら、そもそも「効果がある」とはどういう意味なのか、それがきちんと伝わっていないのかもしれない。では、薬や医療の効果を科学的に確かめるには、いったいどのようにすればいいのだろうか。

 

健康や医療は怪しい話の宝庫だ。本当はなんの専門家ともいえないような人たちが、専門家のような顔をしてテレビや雑誌で無責任な思いつきを話し、みんながそれに「へえ」と感心する。お昼の番組で「そんなときは奥さん、ココアですよ」と言われればココアが売れ、別の番組で「毎日、納豆を2パック食べなさい」と言われれば、スーパーの店頭から納豆がなくなる。

 

科学的な根拠なんかないような話ばかりだ。だいたい、そんなに毎週毎週すごい話が新たに出てくるはずがない。実際、納豆の番組にいたっては完全な捏造だった。健康雑誌もしかり。毎号のように新しい健康法が紹介されるなんて、おかしくないだろうか。そして、事実かどうかさえ怪しい「ガンが治りました」の体験談に彩られた謎の健康食品の数々。それにお墨付きを与える「博士」たちもいる。

 

そんな光景に呆れていたあなた。もし「これだから日本人は非科学的でだめなんだ」と日本人の国民性を嘆いていたのなら、本書を読んで少しだけ安心してほしい。怪しい健康情報に踊らされるのはイギリス人も同じなのだ。いや、世界中の人がおかしな話に一喜一憂する。国民性なんか関係ない。自分も信じちゃってたよとちょっと恥ずかしい気分のあなたも、怪しい話に振り回されるのは自分だけじゃないんだと思えば、ちょっとは気分がよくなるかもしれない。安心するようなことじゃないけどね。

 

本書はイギリスでベストセラーになったBad Scienceの日本語訳。ただのScienceではない。BadなScienceだ。「ダメな科学」っていう感じだろうか。Scienceと題されてはいるものの、科学全般ではなく健康や医療に関係する話題だけを扱っている。日本と同様、イギリスでもこれはダメな科学が大手を振ってまかりとおる分野なのだ。

 

ホメオパシーのような民間療法や根拠の怪しい話を吹聴する訳知り顔の栄養主義者(英語ではnutrionist、要するに「そんなときには奥さん」のイギリス版だ)、意味不明のサプリメント、そしてそんないい加減なものを流行らせるメディアの責任(あるいは無責任)。商売優先の製薬会社なんていう話もある。

 

イギリスでの話だから、必ずしもすべてが僕たちになじみのものというわけではない。

日本でも問題になっているものあり、あまり知られていないものありだ。

 

たとえば、冒頭で取り上げられている脳体操。日本でおなじみの「脳トレ」のことかと思ったら、さにあらず。こちらは本当に体操なのだ。脳にいい体操なんて、日本ではあまり耳にしないと思う。そんなものがイギリスでは学校の授業に取り入れられているらしい。イギリスは日本よりおかしいなあ、なんて思って笑い出したくなる。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.222 特集:沖縄

・仲村清司氏インタビュー「変わる沖縄——失われる心と『沖縄問題』」

・宮城大蔵「静かに深まる危機——沖縄基地問題の二〇年」

・北村毅「戦争の『犠牲』のリアリティー:当事者不在の政治の行く末にあるもの」

・神戸和佳子「『わからなさ』の中でいかに語り考えるのか——沖縄をめぐる哲学対話の実践から」

・山本ぽてと「沖縄トイレットペーパー産業史」
・齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「Yeah! めっちゃ平日」