2014.08.14

襲撃されるホームレス――聞き取り調査からみえてきた襲撃の実態

大西連 NPO法人自立生活サポートセンター・もやい

社会 #野宿者#ホームレス襲撃

本日午前11時半、都内のホームレス支援団体・生活困窮者支援団体等による「野宿者への襲撃に関する調査」の発表と、都庁への申し入れに関する記者会見が行われた。調査によると、都内に住む野宿者の40%が過去に何らかの形で襲撃を受けたことがあり、また襲撃は夏場に、特に子どもたちがグループで行われることが多いらしい。調査からみえてきた野宿者襲撃の実態とは? 記者会見の様子を書き起こした。(構成/金子昂)

野宿者襲撃の実態

稲葉 野宿者への襲撃に関する調査の発表と都庁への申し入れに関する記者会見をはじめたいと思います。司会を務めさせていただきますNPO法人の自立生活サポートセンターもやいの稲葉剛と申します。

本日は、もやい理事長の大西連が都内で行われた野宿者への襲撃に関する調査の結果概要について発表をし、その後、調査に携わった方にお話をしていただきます。そして後半には、野宿当事者の方に体験談をお聞きしたいと思っています。それでは、まずは調査結果概要についてお話いたします。

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大西 近年、野宿者が暴力を受けることが頻発しています。そこで都内各地で活動を行っている団体の協力のもとで、6月28日から7月14日まで、新宿・渋谷・池袋・上野・浅草、山谷地域などで、炊き出しや夜回り、訪問活動などを通して、アンケートという形で聞き取り調査を行いました。今日は、同じく野宿者への調査である、厚労省の平成24年度「ホームレスの実態に関する全国調査」と比較しながら、調査結果概要についてお話したいと思います。

今回の調査は、回答者数が347名、そのうち333名が男性で、8名が女性、その他の方が1名となっております。これは国の実態調査とほぼ変わりません。また、われわれの調査では平均年齢が59.8歳でしたが、これは国の調査の平均年齢59.3歳と変わらないものです。

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寝場所に関しては、国の調査と異なる点もあります。公園、道路、その他については変わりないのですが、河川敷が少なく駅近郊が多くなりました。これは東京という地域的な違いによるものだと思います。寝場所の移動は、「常に同じ」と「だいたい同じ」を合わせて、8、9割近くで、やはり国の調査とほぼ同じです。

以上から、属性を見ると、国の調査と単純に比較することが可能だと考えています。

野宿者の40%が襲撃を受けている

続いて今回の調査の肝となる襲撃に関する回答ですが、過去に何らかの襲撃を受けた経験がある方は40%いらっしゃいました。その内訳は、「よくある」が7%、「たまにある」が19.6%、「ほとんどない」、つまり過去になんらかの襲撃を受けたことがある方が12.3%となっています。まったくない方は57.5%でした。

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国の調査には、人権擁護機関に相談したい事項という項目があります。これをみると近隣住人等の嫌がらせが6.4%、通行人からの暴力が5.6%、その他嫌がらせや暴力が0.4%となっています。これまでの統計では、野宿者への嫌がらせや暴力は12.4%だったということです。今回、当事者に近い支援団体が行った調査では、40%の方が襲撃を受けたことがあるという結果となっておりますので、実態は、より多くの方が襲撃を受けていたということだと思っています。

夏場、子ども、複数名

続いて襲撃の時期ですが、春が28.6%、夏が57.1%、秋が2%、冬が12.2%と圧倒的に夏が多いという結果になりました。

加害者については、夜に襲撃されることが多いために、「その他・不明」と回答された方が4割もいました。ただ、大人が22%、子ども・若者が38%と、大人に比べると子ども・若者のほうが多いということはわかっています。襲撃者の人数をみていくと、2人以上に襲撃された方が75%を占めています。

襲撃内容については、暴言や脅迫が25%、蹴る殴る叩くなど身体を使った暴力が25%、ペットボトルや火のついたタバコを投げる、花火を放つ、鉄パイプで殴るなどモノを使った暴力が37%でした。

こうした結果を踏まえて襲撃者と内容についてのクロス集計をしたところ、子ども・若者が、モノを使った襲撃を多くすることがわかりました。つまり、子ども・若者が、夏場に、グループで、モノを使った暴力に及んでいることが多いということになります。

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当事者も交えた対策を

今回の調査結果を受けて、われわれは東京都に4つの申し入れを行いました。

1つ目が、実態把握のための東京都による調査を行ってほしいというもの。2つ目が、野宿者への差別偏見を減らすための人権研修プログラムを、当事者や支援団体と行ってほしいというもの。3つ目が、やはり当事者や支援団体と連携して教育現場で正しい理解を促して欲しいというもの。そして最後に、襲撃を受けた野宿者がいた場合は、人権擁護機関などが必要な保護を行うと共に、再発防止に向けた協議と当事者や支援団体と行ってほしいというものです。

実は2、3、4つ目の申し入れについては、東京都が6月に発表しているホームレス対策の第三次計画の中に書き込まれています。ただ、われわれはそこに当事者や支援団体についても交えて欲しいと要望したんですね。というのも、2002年にホームレスに関する特別措置法が成立した段階から、こうした項目が含まれているものの、95年以降、10名の野宿者が襲撃によって亡くなられているんです。東京都だけでなく、当事者や支援団体も交えて対策をすることが重要だと考えて、今回のような要望を出した、というわけです。私からは以上です。

野宿者と襲撃者の眼差し

稲葉 それでは続いて、今回のアンケート調査に携わったひとりである、社会慈業委員会ひとさじの会代表の吉水岳彦さんにお話いただきます。

吉水 私どもは月二回ほど大きなおにぎりをたくさん作り、浅草や上野、山谷や隅田川あたりをまわって、野宿者のみなさんに配る活動をしています。寝床まで伺って直接お渡ししていたこともあり、もともとおじさんたちからいろいろなお話を聞かせてもらっていました。襲撃を受けて怪我をされている方がいることも知っていたのですが、今回のアンケートで改めて、その数の多さを実感しました。

聞き取り調査では、最初は「たいしたことされてないよ」とみなさんお話になります。しかし、よくお話を聞いていくと、物を投げられるなどの暴力が日常茶飯事のために、我慢されていらっしゃるようです。中にはおじさんたちにとって仕事先に行くためにとても大事な移動手段である自転車を川に投げ込まれるといった事例もありましたし、最近では、わざわざ水を入れたペットボトルを集団で投げ込んで来るような事例もありました。

路上にいる方の眼差しはとても優しいんですね。「襲撃するやつらにも、つらいこととかいろいろ事情はあるんだろう」っておっしゃるんです。でも、繰り返し襲撃を行う若者がいる。どの学校の生徒かもわかっていて、何度か学校に相談しに行ったこともあるけど、襲撃が止むことはない。「あいつらは、俺らのことをモノだとしか思っていないんだ」とお話になる方もいました。とても残念なことです。

ペットボトルを投げ込むことも許されることではありませんが、子どもたちが加害者になってしまうような、より激しい襲撃が起きてしまうこともあります。子どもたちが、野宿者のみなさんもまた人間であるという認識がないことはとても恐ろしいことです。教育現場でしっかりと、指導をしてほしい。アンケート調査に携わって改めて思いました。

墨田区で打たれた再発防止プログラム

稲葉 ありがとうございます。続いて、山谷労働者福祉会館活動委員会の向井宏一郎さんにお話いただきます。

向井 私は台東区、墨田区、江東区などで日雇い労働者や野宿者の支援活動を続けています。襲撃は10年以上前から続いており、野宿者にとってたいへん深刻な問題です。そうした中で、墨田区で行われているある取り組みが一定の成果を出しつつありますので、そのお話をしたいと思います。

墨田区の地域的な特性として、ホームレスの方が他の区に比べて多いというものがあげられます。墨田区でもやはり野宿者への襲撃問題はずっとありました。2000年と2005年には、子どもたちによって殺されてしまうという悲惨な事件も起きています。また一昨年、昨年と、区内の中学生による執拗な野宿者襲撃も続いていました。

そうした中で、私たちは区の教育委員会と継続的に話し合いを行ってきました。その結果、再発防止プログラムが、この夏休み前に、区内にある区立小学校の5、6年生と中学校の全学年を対象に打たれました。

内容を簡単に紹介しますと、まず生徒たちにホームレスの人たちに対するイメージを率直に出してもらいます。そこでは怖い、汚い、アルミ缶の仕事をしているといった声があがります。その後、学習用DVDや新聞記事などの資料、そして私や当事者が教室に赴き、なぜ路上生活をしているのか、どういう経緯で、どういう生活を行っているのかといったお話をします。襲撃がどこか遠くで行われているものではなく、身近な、地域の問題であることを知ってもらうこと。そしてそうした暴力が、どれだけ残酷で許されないものなのかをきちんと認識してもらうことなどが狙いです。

このプログラムが今後、区内の小学校中学校で継続的に行われるようになりました。野宿者への襲撃問題は、ただ野宿しているだけで暴力が行われているという点で、特有な問題を抱えているように思います。今回のアンケートが、襲撃問題を教育現場のみなさんに受け止めてもらう具体的な手掛かりになることを願っています。

稲葉 ありがとうございます。では最後に、匿名を条件に当事者の方がインタビューを受けてくださることになったので、向井さんをインタビュアーに、これからお話を伺います。

当事者へのインタビュー

向井 まずは台東区で野宿されている方にお話を伺います。最近経験した暴力についてお話ください。

野宿者A ここ3カ月は、花火ですね。花火や爆竹の被害が多いです。突然あらわれて、爆竹を繰り返し投げてきます。

あとは水道用のパイプをもった3人組の子どもが振り回しながらやってくることがありました。黙ってやられるわけにもいかないので、恐怖なんて乗り越えて、私も覚悟して立ちあがって。そしたらパトカーが2台くらいきていたんですよね。どうやら余所から追ってきていたみたいです。たぶん捕まったんじゃないですかね。運が良かったです。

向井 爆竹もやはり子どもが投げてきたんですか?

野宿者A 子どもですね。中学生か高校生のはじめぐらいの子が二人くらい。

向井 通りがけに投げていくんでしょうか?

野宿者A いや、ずっといて、こっちの隙を伺うんですよね。投げたら自転車で逃げていくんです。パイプを振り回してきたのも中学生くらいでした。

向井 続いて墨田区で野宿されている方もいらっしゃるので、お話を伺います。直近で襲撃があったのは春休み前後ですかね?

野宿者B はい。

向井 やはり子どもたちでしょうか?

野宿者B はい、そのとおりです。

向井 何時くらいにきて、どういうことをされたのかお話いただけますか?

野宿者B そのときは、ちょうど小屋の外にいたので、来るのはわかっていたんです。なぜなら子どもの話し声が聞こえていましたし、すぐにロケット花火を打ち込んできましたから。

時間はだいたい12時くらいでした。だいたいそのくらいが多いんですね。人数は5、6人だったと思います。3、4人では襲撃に来ないですね。こっちはなんていったって大人なので、向こうも怖がっていますから。少なくても5人~8人。だいたい景気づけにロケット花火を打ってから、もってきた石を投げてきますね、交代で。

投げる石を用意してきたこともありましたね。縁石を割った角ばった石でした。夜で見えないので、石がなくなるまでは小屋の陰でみんなで待機していました。

向井 石が終わるまで何十分も小屋の外で待っていることが多いんですね。

野宿者B はい。

向井 そのときに中学生の子どもたちは言葉をいったりすることはありますか。

野宿者B むこうも怖がっているのかわかりませんが、絶えず連絡をとりあって、こちら側の悪口を言いますね。「乞食野郎」とか、「泥棒野郎」とか、あと必ず「死ね」って言いますね。

向井 墨田区では2人の野宿者が殺されていることがあるので、危険な状況だと考えざるを得ないと思うんですよね。

野宿者B 毎日不安なんですよね。夜が来るたびに、今晩来るんじゃないかって。ノイローゼになってみんな眠れなくなっちゃって。

向井 今年は夏休み前に墨田区で全小学校高学年と中学校全学年に対する野宿者襲撃防止プログラムが行われたのですが、夏休みに入ってどうでしたか?

野宿者B まだきません。

向井 もしかしたら教育の効果がでているのかもしれないませんね。

野宿者B まだわかりません。お盆あけて、夏休みが終わるまでは気を緩められません。

向井 ありがとうございます。

野宿者は襲撃されて仕方ないのか?

大西 最後に補足させてください。ホームレス問題の授業作り全国ネットが、95年以降の襲撃の実態をまとめています。それによると東京都では10名が未成年の方による襲撃で亡くなっているそうです。

裁判や報道で死因などがわかっているのですが、内臓破裂、外傷性ショック死、出血性ショック死、頭蓋内損傷、出血多量など、かなりショッキングな死因で亡くなっている。一方で、そういった犯行にいたった子どもたちが、いきなり殺害に及んだかというと、いくつかの裁判で明らかになっているように、からかいなどから始まったものが、ちょっとずつエスカレートしていって襲撃にいたっているようです。

国の統計では、襲撃を受けたことのある野宿者はたった12.6%でした。この数字は、150ページある報告書の中の、1ページの隅っこにちらっと書かれている。襲撃の実態についてはその程度の認識しかまだされていないということです。

私たちは、日々の活動の中で、野宿者やその周辺の方に接する中で、「こういうことされた」「怖かった」という話はよく聞きます。正直にいって、今回の40%という数字は、支援に携わっている身としては少ないと思っています。先ほどお話いただいたように、皆さん最初は「なにもされていないよ」とお答えになる。これは、暴力とか嫌がらせを受けることを、仕方ないことだって思ってしまっている方が多いということなんです。

これは社会が、野宿者は暴力や嫌がらせを受けても仕方ないんだという意識も持っていて、当事者の方もそうした認識を持たされているからなのだと思います。だからこそ、まずはわれわれの調査をきっかけに、この問題が、子どもが襲撃してしまうということだけでなく、大人の、社会の問題でもあるということを知っていただきたいと思っています。

プロフィール

大西連NPO法人自立生活サポートセンター・もやい

1987年東京生まれ。NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わる。東京プロジェクト(世界の医療団)など、各地の活動にもに参加。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言している。初の単著『すぐそばにある「貧困」』(ポプラ社)発売中。

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