食材としての昆虫とそのリスク――野外で採集し調理する「プチジビエ」を楽しむには

昆虫混入から考える日本の安全管理システム

 

昨年9月末に、岐阜県可児市の小中学校において複数の給食パンに1~4匹のハエが混入した騒ぎがあった。これに対し給食センターは、付着した部分を取り除いて食べれば問題ないと指導した。

 

混入したハエはクロバネキノコバエという体長1、2ミリの小さなハエ。このハエはイエバエのように動物の腐った肉や排泄物にたかることはなく、キノコや植物を食べる昆虫である。

 

筆者自身はクロバネキノコバエが混入したパンを食べること自体に抵抗はないのだが、この事件の論点は混入したハエを食べること自体の是非より、コバエ混入に至る過程に食品管理上の不備がなかったかどうかだ。もし工場内に発生したキノコや腐敗した有機物からコバエが発生した、あるいは食中毒をおこす細菌の侵入を容易に許すような環境だったとすれば衛生管理に問題があったと言わざるを得ない。だが、事件後の報道を見る限り、そういった問題を指摘する声は上がってきていない。

 

クロバネキノコバエは西日本など野外で度々大量発生することが報告されている。今回も大量発生したコバエが野外から工場内に侵入した可能性が高い。体長1、2ミリのハエであるから、おそらく窓のちょっとした隙間でも容易に入ることができるはずだ。野外で発生したコバエの侵入を完全に防ぐには、数ミリの隙間もなく工場を外界から遮断する必要がある。また、工場の周りからコバエが発生する朽木や植物、菌類を排除する、といったことも必要だ。さらに、工場内外の殺虫剤による駆除も大事になる。

 

このように、コバエが自然界で大量発生した際、食品へコバエの混入が起きる状況は容易に想像がつくが、むしろ混入が起きないという状況をつくりだす方が難しいということに気付く。朝日新聞によると、パン製造会社の小倉俊一社長は「コバエが混入したことは申し訳ないが、コバエが大量発生したことが根本的な問題だ」と話したのに対し、冨田成輝可児市市長は「コバエが大量発生したから混入したという言い分は考えられない」と述べている。

 

我々は「昆虫は食品に混入しなくて当たり前」という状況に慣れ切ってしまっているのかもしれない。今年に入って昆虫の食品混入の報道は朝日新聞において4件。報道数が必ずしも事件数を表すわけではないが、ほとんどの食品工場では昆虫の混入がない(あるいは人が気づくほど昆虫が混入されていないか、報道するに足らない軽微な量の)食品が人々に届けられていると考えられる。いわば、それくらい我々は食品工場の厳密な管理を経て、食べ物を口にしている、ということである。

 

どんな昆虫一匹たりとも混入は許さじ、とする日本の食品管理姿勢には疑問を感じるが、我々の食生活は高度にシステム化された食品管理技術で守られているといえるだろう。

 

 

システムから外れた「プチジビエ」である昆虫食

 

日本においてかつて猛威を振るっていた食中毒を引き起こす細菌のいくつかは、今では低いレベルに抑えられている(表1)。

 

 

【表1】厚生省食中毒統計 年次別食中毒発生状況(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html)より筆者作成

【表1】厚生省食中毒統計 年次別食中毒発生状況(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html)より筆者作成

 

 

これは食品製造・保存技術の発達や食品衛生法といった制度のおかげだ。より広くとらえれば、上水道や下水道といった水回りの整備、抗生物質や抗菌剤などの衛生管理システムも含まれるだろう。我々はこういった管理システムからの恩恵をあまり自覚なく、当たり前のように受けて生活をしている。コバエなどの小さな昆虫が一切食品に混入することのない状況に慣れてしまっているのも無理はない。

 

一方、こうした管理システムによって失いつつある感覚もあるだろう。スーパーにパック詰めされて並んでいる様々な食材がどこからきて、どのような過程を経てきたかを想像する必要はない。食材と自分自身との距離が遠くなり、自然と人とのつながりが希薄になってきている。

 

そうした問題意識もあり、筆者らは2011年に大学生・大学院生や社会人からなる食用昆虫科学研究会(e-ism)を結成し、昆虫食を科学的に捉え、昆虫食普及活動に活かしていく試みを行ってきた。e-ismでは、昆虫料理の開発を行う昆虫料理研究会と共同で、これまで野外でセミやバッタなどの昆虫を採集し、唐揚げなどにして食べるイベントを開催してきた(写真1,2,3)。

 

 

【写真1】セミ調理の様子

【写真1】セミ調理の様子

 

【写真2】バッタ採集の様子

【写真2】バッタ採集の様子

 

【写真3】科学の祭典「サイエンスアゴラ」での昆虫食ブース出展

【写真3】科学の祭典「サイエンスアゴラ」での昆虫食ブース出展

 

 

このイベントは、その土地の恵みを頂き、自然とのつながりを実感できる、いわば「プチジビエ」を楽しめる場となっている。「プチジビエ」とは造語で、昆虫を採集して調理する一連の営みを言う。「ジビエ」はフランス語で狩猟において食肉用に得た野生鳥獣を意味する言葉である。プチジビエは鳥獣の狩猟ほど大掛かりな装備やコストがからず、だれでも身近に楽しめるところが特徴である。

 

しかし、プチジビエは本家のジビエ同様、衛生管理システムの庇護から逸脱したリスクを伴う行為でもある。この自覚無くして楽しむことは危険と言わざるを得ない。以下にプチジビエを実践する際の注意点をまとめた。

 

 

注意点その1. 加熱による衛生管理

 

残念ながら、多くの昆虫は日本でも食材として認められておらず、その衛生管理についてのガイドラインも未整備なままである。

 

三橋淳著「世界昆虫食大全」によると、昆虫を普段食べている国々においても、炒める、揚げる、煮るなどの加熱調理をして食べていることが多いようである。例えば、アフリカ南部の国々で広く食されるモパニワームというガの幼虫は、現地の人々は腸の内容物を手でこし出した後、15分ほど焚火の熱い灰に入れ加熱する。さらに天日干しで十分に乾燥させた後、火で炙って食べるそうだ。また、乾燥させ保存状態を良くしたモパニワームの多くは市場にも出荷される(写真4,5)。

 

筆者らも提供する昆虫料理も十分に加熱することを徹底しており、普及を目的とした生食は勧めていない。昨年7月初旬に、関市立倉知小学校で出された給食の鶏肉の照り焼きに生きたハエの幼虫が混入していたという報道があったが、これは混入したハエが何であれ、生きた生の昆虫は食べてよいものではない。

 

 

【写真4】モパニワーム入り缶詰。Edible-shop.com(http://www.edible-shop.com/about/)で購入できる(写真提供:三橋亮太)

【写真4】モパニワーム入り缶詰。Edible-shop.com(http://www.edible-shop.com/about/)で購入できる(写真提供:三橋亮太)

 

【写真5】缶詰の中の乾燥させたモパニワーム(写真提供:三橋亮太)

【写真5】缶詰の中の乾燥させたモパニワーム(写真提供:三橋亮太)

 

 

 

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