書くのは簡単、消すのは大変――ネットで中傷、どうすれば?

サイトによる対応の違い

 

キクチ サイト運営会社によって情報開示の差はありますか? 例えば2ちゃんねるとヤフーだったら、どちらが開示しやすいでしょうか?

 

清水 ヤフーの方が大変ですね、圧倒的に。2ちゃんねるの方は、争ってこないので。2ちゃんねるは、いろいろと手続きが面倒なことはあるのですけれど、自分は慣れているのでそんなに面倒ではありません。でも、ヤフーだと相手に代理人がついて細かいところまでしっかり反論してきます。これは当然に認められて然るべきでしょうという事にも反論をしてくるので、この反論を見つけるスキルが凄いなと思って、逆に。(笑)

 

キクチ ヤフーは、僕の時には削除にも応じてくれなかったんですよね。

 

清水 ソフトバンク系は、大体厳しいです。ただ、実際に捜査員が行って差し押さえを要求すると、出すようになっています。それをCD-R等に焼いてもらい、その提出を受ける形で差し押さえていくので、令状さえ出れば素直に出すんですよ。

 

キクチ 清水さんがフェイスブックで開示をした時の記事を読んだのですが、被害を受けた方が警察に行ってもフェイスブックはダメだと言われてしまったとか。もし、フェイスブックで殺害予告を書いたら、捕まらないのかっていう話になりますよね。

 

清水 フェイスブックは分からないのですが、ツイッターは殺人とか人命に関わるものについては話し合いができているみたいで、窓口に連絡するとすぐ開示してもらえる扱いになっているそうです。

 

キクチ 削除と情報開示では、どちらが面倒ですか?

 

清水 やはり、情報開示請求の方が大変です。削除はそれだけでよいですが。

 

キクチ 例えば、よくYouTubeとかで動画を出されてしまった場合の削除というのも、清水さんはやられた事とかはありますか?

 

清水 YouTubeもありますよ。ただ、YouTubeは、著作権侵害だと削除してくれると思うのですが、名誉毀損については、なかなか対応してくれない時が多いです。(パソコンの画面を見せながら)YouTubeは対応すると、このように「この動画は非公開です」と出ます。何が非公開かと言うと、本当に削除されているのではなく、実は削除されていない可能性が高いのです。

 

片瀬 「お住まいの国のドメインで表示されないようになっている」と説明がありますね。外国経由だったら見られるのですか?

 

清水 そうです。まあ、わざわざ外国経由で見る人はあまりいないのですけれど、どうせなら削除してよって思いますよね。

 

片瀬 ドメインで見えなくするくらいだったら、さっさと削除してしまった方が早いですよね。

 

清水 他の国からだと実際に見られるので、以前は他の国のドメインから入ればその国からアクセスできました。今はリダイレクトされるみたいで、全部を試したわけではないのですけれども、日本のサイトを通じていくと、国外から日本のドメインにリダイレクトされます。実際上、国内からは見えなくなっているので侵害の程度は低くなっているとは言えます。

 

例えば、グーグルに対して、検索に出てきたネガティブな結果を全て削除して検索に出ない様にしろという裁判ができるのですが、「co.jpからのものしか対応しませんよ」という風になっています。

 

検索でgoogleと入力するとgoogle.comが出てくるので、以前は、そこから削除対象のキーワードで調べると出てきてしまう、という状況になっていました。

 

それが今年に入ってからだと思うのですが、日本のサイトにリダイレクトされる様になったので、そちらも実際上見られなくなっています。

 

キクチ グーグルは結構、忘れられる権利とか、リベンジポルノも検索できない様にするという話がニュースになっていて、グーグルはちょっとこう、何かをやってくれるのではないかなという期待があります。

 

清水 いや、基本は期待しない方がいいと思います。グーグルは、裁判で負けたのでしょうがなくやっているという感じです。

 

 

書くのは簡単、消すのは大変

 

キクチ 清水さんが最近出された本(『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル』弘文堂)を読みましたが、いろいろな事例も含めて具体的な内容が書かれていて、凄いな~と思いました。僕が誹謗中傷を受けた時には、2ちゃんねるに削除依頼をすると、まず事実無根を証明して下さいと言われて、どうやって事実無根を証明すればいいのかと困惑しました。

 

清水 やってない事はなかなか証明できないですからね。

 

キクチ 2ちゃんねるは、今まで何回も削除依頼をしたのですがダメでした。それに、削除依頼スレッドに削除を申し入れることで火に油を注ぐ状況になったりしますし、かといってそれで削除してくれるかと言うと、結局してくれなくて。

 

清水 証拠隠滅しているみたいに言われたりしますよね。

 

キクチ これは、難しいな~と思いました。

 

清水 2ちゃんねるは、裁判で仮処分決定をとれば削除してくれています。例えば、これも相当量なのですけれど。(パソコンの画面で例を示す)

 

キクチ ああ、すごいですね。

 

清水 まあ、こんな感じです。2ちゃんねるは、去年の4月から2つになったんです。2ch.netというのが昔からある方で、2ch.scというのが新しくできた方です。現在の状況となったのは、2ch.netの管理権をめぐる争いが原因です。

 

キクチ 本に書いてあったフィリピンのっていう。

 

清水 それが2ch.netになっています。新しくできた2ch.scはシンガポールにあります。2ch.netに書かれたものは2ch.scによってコピーされるので、2ch.netで削除しても2ch.scの方にはそれが反映されません。

 

キクチ 2ヵ所やらないとならないのですね。

 

清水 それに加えて、コピーサイトやまとめサイトなども多数あります。

 

キクチ 全部削除しようとすると、結構な量になりますね。消すのにはすごく手間が要りますが、書くのは簡単なんですよね。書くのと消すのが同じくらい手間がかかるように、書くのをもっと難しくする仕組みにしていけば、例えばいろんなものをクリアしないと書けないという状況にしてもらえたらどうだろうと思ったりするのですが、でも、それでは多分、サイトとしては運営できないだろうなって。

 

片瀬 書くハードルを上げると利用し難くなって、そのサイトの利用者が離れてしまうでしょうね。何か上手い解決策があればいいのですが。ネット中傷に対しては、法整備が遅れていることもあって、一筋縄では行かないことも多いと思います。

 

清水 特にツイッターとかフェイスブックというのは、法律の文言上、開示が認められないことになりそうなんですよ。

 

プロバイダ責任制限法に基づいて開示請求をするのですが、簡単に言うと2ちゃんねる等では、書いて投稿した時のIPアドレスとタイムスタンプというかアクセスした時間が一致するので、それらと書いた人とが一致するかどうかを全部紐付けて行くという理屈です。

 

ツイッターやフェイスブックではログインしてから書き込むのですが、書き込みの時のログは記録をとってないらしいんですよ。ですから、ログインした時の記録しかないので、それと書き込んだ人が紐付けられるのかという議論が出てきます。

 

例えば、10時間前にログインして、10時間後に書き込みをしたとします。その間にいろんな書き込みをしています。また、その間にログアウトして、もう一回ログインしている記録がある場合に、この人とこの人は、実際に同一人物なのだろうかという問題があったりします。

 

法律を簡単に説明すると、「権利侵害を伴う書き込みをした時の情報を開示せよ」となっているんです。ログインの情報というのは、権利侵害を伴う書き込みをした時の情報ではないので、だから認められるのかという問題があるのです。

 

片瀬 そこはほんと、弁護士としての手腕ですよね。

 

清水 まあ、でもやはり強硬に反論される場合もあります。それで今、控訴をしたりもしていて、判断がまだ固まっていないところです。

 

 

心の闇

 

キクチ そうなのですか。まあ、結局はサイトというよりも、利用者の問題ではありますね。

 

片瀬 この前、清水さんは某記事で「ネットに闇があるのではなく、人の心の中に闇がある」とかコメントをされていましたね。

 

清水 あれはですね、あの記事で「どやっ」みたいな感じになっていますけれど、普通に雑談している中で、ちょっとぽろっと言ったことを拾われてしまって…。(笑)

 

キクチ でも、心の闇の部分というか、そこに引きずり込まれちゃうんですよね。例えば、掲示板やツイッターで誰かが書いている誹謗中傷の拡散に手を出したりして、一緒になってやり始めると、もう闇に引き込まれてしまいます。自分がネットで中傷されたから、やり返してやろうと相手に反論してしまっても、結局はそこの闇に入り込んでしまうんです。まず一線を引いて、ここはもう相手にしないという風な状況を作っていかないと、互いにエスカレートしていってしまいます。ネットが悪いわけではなくて、悪用する人達に触った瞬間に自分もその闇の中に入ってしまうという、そこが蟻地獄のようにすごく怖いところです。

 

片瀬 スマイリーキクチさんは芸能人という立場もおありですし、一般の人達と直接争うのを避けたい状況もありますよね。

 

キクチ 例えば、「バカ」とか「つまんない」など、そういうものでしたら別に何とも思いません。もうそんなのは別にいいやと。やはり、元の殺人事件があまりにも酷い分、僕を犯人だと思っている人達から強い敵意を向けられたのですが、でもそこで、やりとりはしたくないなっていうのが正直なところでした。

 

清水 まあ、直接やりとりはしたくないですよね。

 

キクチ それと、やはり被害者がいる事件ですし、被害者や遺族の方々のことを考えると、そこで「俺、犯人じゃねーよ」とか、「ふざけんなよ」と書いてしまうと、それすらご遺族を傷つけてしまうのでないかと自分の中であれこれと考えてしまって、否定だけをして反論は一切しませんでした。

 

 

kikuti

スマイリーキクチ氏

 

 

名誉毀損の考え方

 

キクチ 警察などに相談して、よく言われたのが「見なければいいんだ」というものでした。

 

清水 あ~、はいはい。大きな間違いですよね。

 

キクチ 事件を担当した検事さんからは、「インターネットというものを使わなければいんだと」と言われたのですが、「仕事でもメールは使うんです」と説明すると、「いや、それをまず止めて下さい」と。このご時世で、インターネットを使っちゃいけないという、自分1人が常に圏外って、どういう状況なんだって、頭を抱えました。

 

清水  ほんとに、検察・警察はよくそれを言いますね。あと、年配の弁護士さんにもいます。昔の感覚の人は、「敢えて不快になるのを別に見なければいいじゃないか」と言うのですよね。

 

キクチ ネットは今このご時世だと、絶対に使うものというか。「見なければいい」と言われても、僕は見なくても、言葉が生き続けてしまうので、結局はもうずっと続いてしまうんですよね。

 

清水 そこの話なのですが、実際上、何が問題かというと、他人にどう見られるかというところじゃないですか。名誉毀損というのは、「社会的評価の低下」なんですよね。そうすると、社会的評価の低下というのはどこで生じるかというと、他人にどう見られるかという話ですから、まさに。自分が見るかどうかとか、自分が不快に感じるかというのとは、次元が違う話なのですよね、本当は。でもそこを、一部の法律家達までが混同しているんです。「名誉毀損というのは、自分が不快だから名誉毀損なんでしょ」という感覚なのですよ。警察などでもよく言われるので、「それはそもそも法律論として違う」と理論的に説明するようにしています。

 

キクチ それは、絶対に必要だと思います。今日は、とても勉強になりました。清水さんとお話しできて、本当に良かったです。

 

清水 こちらこそ。お会いできて良かったです。

 

(2015年6月30日 法律事務所アルシエンにて)

 

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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突然、僕は殺人犯にされた  ~ネット中傷被害を受けた10年間

著者/訳者:スマイリーキクチ

出版社:竹書房( 2011-03-22 )

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Amazon価格:¥ 1,404

単行本 ( 284 ページ )

ISBN-10 : 4812445043

ISBN-13 : 9784812445044


 

 

 

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