『天空の蜂』――核・原子力、自衛隊……日本の2大テーマに挑む、エンタメ映画の可能性【PR】

原発事故発生。巨大ヘリ墜落まであと8時間。ベストセラー作家・東野圭吾が1995年に発表した小説『天空の蜂』が堤幸彦監督により映画化される。核・原子力そして自衛隊、戦後日本の2大テーマに、エンターテイメント作品はどう挑むのか。その可能性について、新刊『はじめての福島学』が話題の社会学者・開沼博と、『ふくしまからきた子 そつぎょう』などを手掛ける絵本作家・松本春野とが語りあった。(※なお本記事には映画の内容に関するネタバレが含まれております)(構成/山本菜々子)

 

<ストーリー>

1995年8月8日。最新鋭の超巨大ヘリ《ビッグB》が、突然動き出し、小学生の高彦を乗せたまま、福井県にある原子力発電所「新陽」の真上に静止した!遠隔操作によるハイジャックという驚愕の手口を使った犯人は〈天空の蜂〉と名乗り、”日本全土の原発破棄”を要求。従わなければ、大量の爆発物を搭載したヘリを原子炉に墜落させると宣言する。

 

 

1995年という時代

 

kainuma

左から松本氏、開沼氏

 

 

松本 『天空の蜂』の原作は1995年なんですね。いまからちょうど20年前か……。

 

開沼 宣伝文句には「映像化絶対不可能といわれた禁断の原作が、ついに映画化!」とありますが、たぶん3.11前に映画化できなかったのは単に原発が地味なテーマだったからだと思っています。とはいえ、予言的な作品だと言えるでしょうね。

 

原発のリスクが科学技術の問題を超えて、社会的・政治的に影響を及ぼす様子が、専門家のみならず広く一般的な興味を惹くような形で描かれている。そもそも、原発のことは、「政治や科学の話でしょ」と多くの人はタッチしづらい。でも、『天空の蜂』は家族の物語を並走させることで、多くの人が共感しやすいようにしている。

 

松本 ただ、ちょっと女の人をステレオタイプに描きすぎているかもしれません。20年前の原作だから仕方ないのかなぁ。

 

開沼 女性の描き方は確かに古い。でも、それは東野圭吾さんが原作を書いた1995年のリアリティなのかとも思います。

 

時代背景をお話すると、いくつかの重要な社会学研究や批評でも1995年は節目の時代として象徴的にとらえられています。阪神淡路大震災やオウム真理教事件、あるいは原発関連で言うならばもんじゅのナトリウム漏えい事故などを通して、いわゆる「安全神話」が崩壊した年とイメージされる。

 

他方、10年ほどかけてプラザ合意、バブル崩壊と大きな経済状況の転換を経てきた上に、円高最高値を記録、日経連、現在の経団連が出した報告書「新時代の『日本的経営』」の中で非正規雇用の拡充が提言され、それが現在の派遣法などにつながっていく。当時は村山内閣。55年体制崩壊後の政治的な混迷の中で様々な課題が噴出していた。

 

もちろん、ネガティブな変化だけではありません。Windows95が発売された95年から一般家庭へのPC・インターネットの普及は急速にすすんだ。街の風景も大きくは変わらないから、ブラウン管のテレビとか携帯電話の大きさとかを観ない限りは、それほど違和感はない。

 

でも、そういったものと違って目に見えにくい価値観はまだまだ旧式のものだった。大企業に入り家庭を作り、一生勤めあげるのが標準であるというような感覚はまだまだあった。終身雇用、年功序列、護送船団方式が生きていた。

 

湯原の奥さんの抑圧された感じは、1995年のリアルだったのかもしれない。あと赤嶺のゆがんだ感じも。「そこまで思いつめる?」って、2015年に生きる僕達からしたら思ってしまいますけどね。

 

 

04_「天空の蜂」場面写真(仲間由紀恵)

(c)2015「天空の蜂」製作委員会

 

 

松本 でも、震災以後「絆」って言葉がもてはやされたり、今の政権内でも、ちょっと前より保守的な性別役割分担を口にする政治家が目立っている気がします。社会としては共働き家庭が増えているにも関わらず、3.11後に「弱者」として語られた家族も、父と専業主婦の母で子供がいて、みたいな家族ばっかりだったりして。

 

世の中が提示しているものと現実とが乖離している感じはありますよね。だから、「古いなぁ」と笑いながら見ていられないのかもしれない。

 

 

「けしからん」映画!?

 

松本 家族の話はおいておくとして、私は、エンタメでこんな作品が出てきたのはすごく良かったと思っています。でも、ちょっと外からみたら「けしからん」感じに見えちゃうのかなって思いました。

 

開沼 メインテーマが「原発」に、しかも「自衛隊」も重要な要素ですからね。

 

松本 不謹慎だ!ってみもせずに怒ってしまう人もいるのかなぁ。観たら観たで、リベラルには「自衛隊を美化し、原発の安全性を描いている」という見方もできなくはない。一方保守には「国や大企業に不信感を抱かせる映画」と不快感を示す人もいるのではないかと想像しました。両サイドから「けしからん」って言われかねない。

 

開沼 核・原子力と自衛隊は、戦後社会の民主主義を支える二大テーマです。1945年8月15日に原爆が落ちることによって、戦後社会ははじまりました。ある種の歴史観によると、そこをもってそれまでのファシズム体制が刷新されて、戦後民主主義体制が成立していくことになったとも言われる。

 

その歴史的な分断線のビフォア・アフターを分ける際、アフター側にとって重要なのが、日本が核を拒絶し、軍隊を持たない平和な国である、という二大フィクションに他ならない。この二大フィクションを軸に戦後社会はできてきたわけです。

 

でも、もうフィクションが通用しない時代になってしまった。今までの私たちは「けしからん!」と言い続けて、議論をしないままで来てしまったけれども、そろそろ「けしからん!」以外の言葉を探し、冷静な議論をする必要がある。

 

松本 原発や自衛隊について具体的な疑問を呈したり、意見表明すると「お前はどっちなんだ」とすぐに攻撃され、ありかなしかの二項対立の中で左右のレッテルが張られがちですよね。

 

子供の本をつくっている立場ですと、業界的にも「子供を守ること」に本当に一生懸命な方たちとたくさん出会います。それはとても素晴らしいことで、私も同じ気持ちでいますが、しばし、何が何でも危険な法案は遠ざけなければという思いから、「原発は絶対即時ゼロ」「安保法制が成立すればすぐに戦場に送られる」など、極端にもとれるような主張が蔓延することもある。そうなると、その文脈を相対的に見ようとする議論に首を突っ込むことにすら躊躇してしまいます。

 

3.11の原発事故後、私は『ふくしまからきた子』『ふくしまからきた子 そつぎょう』という福島から母子避難した子どもたちが、福島に帰るまでの絵本を描きました。それに対しても「福島みたいな危険な場所に親子を返すのか」との批判をたくさん浴びました。

開沼さんが仰っているように、現実の「福島」を語ること自体が、イメージ上の「フクシマ」に振り回される中で、めんどくさくて政治的なものにされてきた。でも、そこをまじめに議論しようとすると、「御用学者」だ「国策作家」だと言われてしまう。国や権力を美化した作品だと揶揄されてしまう。

 

開沼 大事なことなのに、多くの人にとってはあたかも存在しないかのような存在になってきた。でも、映画に出てくるテロリストはヘリを原発の上に落とすことで、それを目に見える形で出そうとしたんですよね。その両義性が本作のストーリーの最も面白い部分です。私達が普段社会意識の奥底に隠しているものが、全てひっくり返って自分たちにブーメランのように返ってきた。

 

松本 この映画が「けしからん」と言われないようになってほしいなって本当に思いました。安全に暮らして行くためにこそ、議論を深めないといけないタイミングに来ているとおもっています。だからこの映画は「けしからん」映画じゃないと思うんです。

 

 

(c)2015「天空の蜂」製作委員会

(c)2015「天空の蜂」製作委員会

 

 

スッキリしない?

 

開沼 映画の最後に、あるメッセージが出てきますよね。これは、エンタメ映画の結論としては分かりづらいものなのかもしれません。多くの観客はその最後の見せ場のちょっと前のアクションシーンで映画の印象が終わってしまうかもしれない。だから、映画は最後の最後までみて欲しいですね。

 

松本 一緒に見たんですけど、私、大衆代表なので、最後のアクションシーンに息をのみ、ドキドキさせられ、最後の大事なところを理解しのがしましたね(笑)。色々詰め込まれていたから、半分くらいの速度で見たかった……。

 

開沼 すごいテンポでしたからね。

 

松本 正直、この映画、全然スッキリしないじゃないですか。

 

開沼 よく分かります。

 

松本 でも、私スッキリしなくてよかったなぁと思ったんです。この映画は単に反原発/推進を言おうとしていないじゃないですか。【次ページにつづく】

 

 

 

◆◆「αシノドス」購読でシノドスを応援!◆◆

α-synodos03-2

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.224 特集:分断を乗り越える

・吉田徹氏インタビュー 「ポピュリズムはなぜややこしいのか?」

・【ヘイトスピーチQ&A】 明戸隆浩(解説)「ヘイトスピーチ解消法施行後の現状と課題」

・【今月のポジ出し!】 荻上チキ 「今からでも遅くない!メディアを鍛える15の提言」

・齋藤直子(絵)×岸政彦(文) 「Yeah! めっちゃ平日」第七回