学校・病院で必ず役立つ『LGBTサポートブック』

さまざまな生きづらさを抱えているLGBT当事者、ことに青少年期の当事者が適切なサポートやケアを受けられるよう、学校教育関係者と医療従事者にとって欠かせない情報を凝縮した『LGBTサポートブック』(保育社)が出版された。適切に対応することの必要性は認識していても、きちんとした知識をどこから得たらいいのかがわからないという人のために、看護・医療・教育の専門家、研究者、当事者、理解者・支援者たちが共同執筆した本書より、いくつかのQ&Aを転載し内容を紹介する。(シノドス編集部)

 

 

Part1 LGBTの基礎知識

 

Q LGBTとはどういう意味ですか?

A レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を取ってLGBTといいます。性の多様性を表す言葉です。(桂木祥子)

 

レズビアンは女性を性愛の対象とする女性、ゲイは男性を性愛の対象とする男性、バイセクシュアルは異性も同性も性愛の対象とする人、もしくは好きになるのに性別が重要ではない人をいいます。LGBとは、好きな対象の話で、これを「性的指向」といいます。異性を性愛の対象とすることも性的指向のひとつです。

 

よく、ゲイはみな女性的な「オネエ」だと思われがちですが、そうではありません。その人がゲイかどうか、見た目からはわかりません。レズビアンやバイセクシュアルも同様です。

 

トランスジェンダーは、生まれたときに割り振られた性別とは違う性別を生きようとする人です。日本では、生まれたときの外性器の形状で性別が決められます。そのとき決められた性別に多大な違和感を感じ、自分は異なる性別だと感じています。このように、自分自身の性別をどう思っているかを「性自認」といいます。

 

性のことをわかりやすく考えるために、性を4つの指標に分解してみましょう(図)。

 

 

図 4つの指標

QA1-1図

 

身体の性とは、外性器や内性器、染色体などを指します。性表現は、服装や仕草などです。それぞれグラデーションになっています。この4つの指標に則ると、トランスジェンダー(注1)は、心の性と身体の性とが一致しない人となります。身体が反対の性別だと感じる人もいれば、男性90%・女性10%だと思う人もいます。また中性だと思ったり、女性ではない何かだと思ったり、さまざまです。

 

(注1)生まれたときに男性の場合はMTF(Male to Female)、生まれたときに女性の場合はFTM(Female to Male)といわれます。また、反対の性や男・女に規定されない性としてMTX、FTXと表現することもあります。単にXジェンダーという場合もあり、MTX、FTXと同意のときもあれば、性別役割にとらわれたくない人という意味で自認している場合もあります。「X」は日本にみられる用語で、他の文化圏ではあまりみられません。

 

気をつけなければならない点は、見かけが男性であっても、自分のことを男性だと思っていないことがあるということです。また、どのような性別を好きかは、性自認を決定する要素にはなりません。トランスジェンダーで同性愛者の人もいれば、異性が性愛の対象である人もいます。ご自身をこの図で表すとすれば、どこに丸をつけるでしょうか? 身体はどんな特徴をもっていますか? 服装はどんなものを好みますか?

 

女性の特徴とされている特徴もあれば、男性の特徴とされていることもあるかもしれません。そもそも、自分の染色体を知っているでしょうか。当然、そうだと思っていても、実は典型的な男性の染色体XY、もしくは女性の染色体XXでないこともあります。端に◯をつける人ばかりではないことにお気づきでしょう。異性愛の人も、4つの軸の◯は人それぞれ違うところにつくでしょう。同様に、LGBも、◯がつく箇所は人それぞれです。

 

人の性はとても多様です。LGBTでは自分の性を言い表せないのでQ(queerもしくはquestioner)としLGBTQ(注2)とすることもあります。また、性的な感情を抱かない人をAセクシュアルということもあります。恋愛や性的な話で友だちと盛り上がる時期には、とても居心地の悪い思いを抱くことがあります。ほかにもさまざまな表現があります。

 

(注2)昨今、国際的には「SOGIE」(Sexual orientation[性的指向]、gender identity[性自認]、expression[表現])が使われています。

 

このように、自分の性愛の対象や性別をどう思っているかは人それぞれで、聞かなければわかりません。聞いても、本人にもわからないことがあります。男女に分かれたこの社会で、性別違和感があることや異性愛以外であることに自ら気づき、認めることは、ときに困難です。重要なのは、相手の性別を決めつけずに会話することです。彼もしくは彼女はとは言わず、名前を言うのもひとつの方法です。その名前も、相手の呼んでほしい名前で言うのがよいでしょう。

 

彼は、彼女かもしれません。恋人や結婚についての会話も、相手は異性ではないかもしれませんし、また関心のない人かもしれないことも想定しておくとよいでしょう。

 

 

Q LGBTと話すとき、どのようなことに気を配るとよいのでしょうか?

A まずは相手や自分のことをどのように呼ぶか、適切な言葉を使いましょう。(はた ちさこ)

 

最近、テレビなどでよく「オネエ」という言葉が使われています。それについてあなたはどのように感じていますか? これは女性的なしゃべり方や仕草をする男性に対して向けられる言葉であるようです。ご本人が自分のことを「オネエ」だというのは問題ありませんが、他人が誰かを指してそう言うのは要注意です。

 

日本にはまだ「男は男らしく、女は女らしく」という価値観が残っているため、男らしくない、女らしくないというのは相手を侮辱する(あるいはけなす、批判する)ために使われる表現です。「オネエ」という言葉は、男性と認識されている人が「女らしい」状態であるときに使われているわけですから、誰かが他者に向けてこの言葉を使うとき、多かれ少なかれ、相手を蔑む気持ちが含まれています。

 

そもそも「オネエ」と呼ばれる人の性自認(自分の性別がどういったものであるか)を、呼んでいる側の人は正しく理解しているのでしょうか? トランスジェンダーの性自認は人によってそれぞれ違います。自分は女性であると認識している人を「オネエ」と呼ぶのは失礼なことです。トランスジェンダーやゲイ男性を十把一絡げにして「オネエ」と呼ぶ安易さ、そこに他者を尊重する心があるとは思えません。

 

このように、言葉というのは正しい意味を理解した上で用いるのでなければ、人を傷つけてしまう可能性があります。また同じ言葉であっても、誰が使うかによっても意味や価値が変わってしまうものです。近頃はさすがに「ホモ」という言葉を使う人はあまりいませんが、かつて男性同性愛者を侮蔑するのに使われることが多かったため、当事者以外がこの言葉を使うのは要注意です。「ゲイ」という呼称を用いるのがよいでしょう。

 

なお、欧米では男性だけでなく女性同性愛者のことも「ゲイ」と呼ぶことがあります。日本では女性同性愛者を「レズビアン」と呼ぶのが一般的ですが、「レズ」と省略するのは「ホモ」と同じく侮蔑的なニュアンスが含まれてしまうので、使わないようにしてください。当事者のあいだでは「ビアン」という言葉がよく使われていますが、これも当事者以外が安易に使用するのはあまりよいことではありません。両性愛者(バイセクシュアル)を「バイ」と省略することについて違和感を覚える当事者は少ないようですが、初めてバイセクシュアルの人と話すときには、どのように表現すればよいか、「バイ」と省略してもよいか、相手にたずねてみるといいかもしれません。

 

一方、LGBT当事者でない人をどういう言葉で表現するかについては、「ストレート」もしくは「ヘテロセクシュアル」(「ヘテロ」と省略することもあります)を使用するのが最善です。「普通」や「ノーマル」は「異常でない」=「LGBTは異常」と言っていることになるので、避けるべきです。

 

また新しく「アライ」という言葉が日本でも使われはじめています。「アライ」とは、LGBTを支援するLGBT当事者ではない人を表す言葉です。アメリカなどでは多くの著名人が「アライ」であることを表明しています。自分が「アライ」であることを表明しながら接すると、LGBT当事者は安心感や心地よさを持つと思います。

 

 

ほかにも、こんな疑問に答えます

 LGBTはどれくらいいるのでしょうか? どこにいるのでしょうか?

 性的指向とはなんですか? 子どもには関係のない話なのでは?

 同性愛と性同一性障害の違いがわかりません。

 

 

Part2 学校・教育関係スタッフが知っておくべき知識

 

Q LGBであるという相談を受けました。どのように対応したらよいでしょうか?

A LGBであるということは性的指向のカミングアウトです。カミングアウトの基本構造を理解した上で、適切な情報やサポートを提供しましょう。(原ミナ汰)

 

自分の性的指向を打ち明ける「カミングアウト」(自己開示)は、決して一様ではありません。その意図や目的は、ミクロ・メゾ・マクロ、それぞれの領域によって大きく異なります。

 

 

ミクロ領域でのカミングアウト:アイデンティティを受け止める

 

主に「等身大の自分を知ってほしい」という動機で行われる、個別の自己開示です。打ち明ける相手が教師や医療者でも、そこに親しみがあり、「ありのままを受けとめてほしい」との想いがあれば、これに該当します。そんなときは、平常心で素直に反応すれば十分で、特に助言はいりません。「そうだったのか、ちっとも知らなかった。君のことがまたひとつわかったよ」「教えてもらってよかった」「自分のことがよくわかっているね」など、まずは投げられたボールをしっかりと受け止めましょう。

 

 

●にわか勉強では遅すぎる

 

日頃からLGBに馴染みがないと、必要以上にうろたえて、「嘘だろ? 冗談だよな?」「信じられない!」などと相手の言動を茶化したり、「身近にそんな人はいなかった」とつい言い訳したりしますが、こうした反応は信頼感を損なう原因となります。備えあれば憂いなし。急な自己開示に慌てないよう、旧い情報は更新し、性的指向に関する基礎知識を周囲の人とあらかじめ共有しておきましょう。

 

 

●先回りしない

 

十分なインテークができるまでは、憶測や役割や固定観念は横に置いて、一個人として本人の話を傾聴しましょう。「僕、ゲイなんです」と聞いて、早速HIV感染予防の話をしたが、本人はただの片想いで、空振りに終わった、なんてこともあります。

 

 

●ゲイは女っぽくて、レズビアンは男っぽい?

 

世間では「ゲイ」というと皆オネエ、という印象が強いようですが、それは異性愛文化の思い込みにすぎません。実際、男性的な男性同士、女性的な女性同士のカップルはたくさんいます。誰を好きになるか、と自分の性別感覚をどう表現するかは、必ずしも「男女の組み合わせ」と連動していません。

 

 

メゾ領域でのカミングアウト:現状の改善や不都合の是正

 

性的指向への偏見や、それに起因する差別に悩み、なんとかしたいと、所属する集団や組織に対して「LGBであること」を表明する場合です。この場合の自己開示の目的は信頼関係づくりというより、現状改善や不都合の是正、介入の要請なのです。よくあるメゾ領域の悩みを以下に挙げます。

 

 

●「人と違う自分」への不安や自責・自傷:まずは孤立の解消を

 

「よく思い切って話してくれたね」とねぎらうことが大事です。そして、「同性に心惹かれる人は、結構大勢いるんだよ」など、「独りではない」ことを情報提供しましょう。必要なら医療につなぎますが、丸投げはせず、連絡を取り続けましょう。本人が行ける場所を増やすことが大切です。地域の社会資源を一緒に調べたり、役に立つサイトの情報提供も重要です。

 

 

●カミングアウトすべきか否かの相談

 

本人が自己開示したいなら、たとえ傷つく怖れがあっても口止めはせず見守りましょう。代わりに、傷が深くならなくて済む方法(例:身近に味方を三人作る、カミングアウトの予行演習をする、など)をいくつか提案し、問題が起きたらいつでも仕切り直しできることを伝え、サポートします。

 

 

●同性との恋愛や性関係の悩み

 

恋バナが語れるサイトや、集まりを紹介します。また、ストーキングやデートDVをされている/している場合は、ストーキングもDVも性別問わず起きること、物理的距離をとることを伝え、性感染症、特にHIV感染予防の大切さも伝えましょう。先生自身がスクールカウンセラーおよび学内の理解ある教員に相談しチーム体制をとる必要があります。

 

 

●拒絶や暴力

 

打ち明けたら家族に拒絶された、複数の同級生からいじめに遭っている、などの場合はどう対応すべきでしょうか。メゾ領域で個人が集団や組織に物申すと、社会で居場所を失うリスクが増大します。そのため、この領域でのサポートは一対一では難しく、支援者も孤立しがちです。

 

対策として、三名一組のチーム対応を基本とし、うち一人が必ずミクロ領域で本人のケアを担当、二人目がメゾ領域で空間や人間関係の調整役となり、三人目がマクロ(制度や指導要領の改善、法律的対応)を担当すると、うまく回ります。そのためには、問題が生ずる前に研修を重ね、LGBに柔軟に対応できる人たちを集め、役割のシミュレーションをしておきましょう。

 

 

マクロ領域でのカミングアウト

 

性的指向への偏見やそれに起因する差別に悩み、なんとかしたいと、メディアや不特定多数の集う場所で「LGBであること」を表明し、制度や法律の制定や改正に取り組むことです。この自己開示の目的は社会啓発と、不都合な規則や法律の改正です。

 

いったんマクロ領域でカミングアウトすると、後戻りするのは難しいとされていますが、対話ができる関係であれば事前に知り準備することができます。メゾ領域での訴えがうまく通らず、直訴に出る場合もあります。学校でも、先生がLGBであることを表明して出版したり、中学生が顔を出してメディアに登場したりしています。卒業式や修学旅行中にカミングアウトしたら、同級生から暴力を受けて学校に通えなくなった、しかしそれを契機にオリエンテーションや教員研修が始まった、などの例もあり、現代のネット社会では、そのインパクトはさらに増大しています。【次ページにつづく】

 

 

シノドスの楽しみ方、あるいはご活用法のご案内

 

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vol.212 特集:生命

・『生殖医療の衝撃』著者、石原理氏インタビュー「時間と空間を超える生殖が日常となる現代――日本で求められる法整備」

・粥川準二「『新しい優生思想』とは――相模原事件、出生前診断、受精卵ゲノム編集」

・打越綾子「生命の観点から人と動物の関係を考える」

・杉田俊介「優生と男性のはざまでとり乱す――優生思想についてのメモ」

・岩崎秀雄「生命美学とバイオ(メディア)アート――芸術と科学の界面から考える生命」

・齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「Yeah! めっちゃ平日」第1回:加齢と向き合う