ひきこもり報道におけるメディアの問題点とは

テレビ朝日「TVタックル」の『ひきこもり特集』で、フリースクールを運営する団体の代表がひきこもっている男性の部屋の扉を突き破るなど暴力的な映像を放送したことに対し、精神科医の斎藤環氏がツイッターやフェイスブックで異議を唱えた。ひきこもり報道におけるメディアの問題点とは?ひきこもりの実態、そして支援の在り方について、斎藤環氏とジャーナリスト・池上正樹氏が語り合う。2016年03月28日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「”ひきこもり”をめぐるメディア報道に異議あり~本当に必要なひきこもり支援とは?」より抄録。(構成/大谷佳名)

 

■ 荻上チキ・Session22とは
TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

「ひきこもり」とは?

 

荻上 ゲストをご紹介します。精神科医の斎藤環さんです。よろしくお願いします。

 

斎藤 よろしくお願いします。

 

荻上 そして、ひきこもり問題を取材する、ジャーナリストの池上正樹さんです。よろしくお願いします。

 

池上 よろしくお願いします。

 

荻上 今回、斎藤さんはひきこもりに対するメディアの取り上げ方について問題提起をされました。そのお話の前に、まずは「ひきこもりって何なの?」というリスナーの方も多いと思います。「ひきこもり」とはどういった状態のことを指すのでしょうか。

 

斎藤 定義上は、精神疾患などの問題に依らずに6ヶ月以上、社会参加をしていない人を「ひきこもり」としています。

 

荻上 ということは、何かの病気によって半年以上休んでいる方はひきこもりには当てはまらないわけですね。

 

斎藤 通常、統合失調症やうつ病などの病気でひきこもっている方については、その病気のカテゴリで治療や支援を行うことになります。日本では2000年代初頭から、そのような疾患がなくても長期間ひきこもる若者が非常に増え、ひきこもりが社会問題として注目されてきました。

 

荻上 いま日本にひきこもりの人はどれくらいいらっしゃるのですか。

 

斎藤 2010年の内閣府の発表では約70万人と報告されており、一応、これが公式の数字とされています。ただ、統計をとるたびに数が違っていますし、統計手法も非常に控えめになりやすい手法を用いているので、私はもう少し多いのではないかと推定しています。間違いなく100万人はいるはずです。

 

荻上 そうした方々は「病気ではない」と定義されるわけですが、ではどうしてひきこもりという状態になってしまうのでしょうか。

 

斎藤 さまざまな原因があります。たとえば、不登校が長期化して大人のひきこもりになってしまうケース。最近多いのは、一旦、就労したものの人間関係やパワハラなどを理由に退職してひきこもってしまうケースです。他にもいじめを受けて人間不信になりひきこもってしまうなど、いろいろなきっかけがあります。

 

荻上 たとえばパワハラやいじめが原因の場合、実は診断すれば「うつ病」に当てはまる方も中にはいらっしゃるのではないでしょうか。

 

斎藤 はい。その判別は難しいところですが、もともと病気の傾向がなくてもひきこもりになってしまう方はたくさんいらっしゃいます。一方で、長期間ひきこもっていると、いわば二次症状としてうつ病になるケースもあります。そうなると、どちらが先なのか分からなくなってしまうんですね。この場合は、うつ病の症状に対しても治療をして、同時にひきこもりに対しても支援をしていくことになります。

 

荻上 病気の有無に問わず、ある状態のことを「ひきこもり」と定義する。しかし、個人によってはさまざまな病気の可能性もあるわけですね。

 

斎藤 よくひきこもりのことを病気の名前だと思っている方がいらっしゃいますが、これは臨床単位の診断名ではなく、「不登校」「寝たきり」などと同じくコンディション・状態像を指す言葉です。

 

荻上 なるほど。一時のメディアの影響もあり、ひきこもりは部屋の中に閉じこもっていて、親とのコミュニケーションもなく紙一枚でやりとりするというイメージがありますが、これはかなり誇張されているようですね。

 

斎藤 もちろんそうです。しかし、多くの人がひきこもりの人は外出ができないと思っていますよね。だから、ひきこもり当事者がインタビューを受けていると「ひきこもりではないじゃないか」と言う人がいます。実際は、ある統計によると条件さえ整えば8割以上の人は外出ができるんです。私が見ているひきこもりの人でも、投票だけは行くという方が多くいらっしゃいます。

 

要するに、ひきこもりというのは外出できるかできないかは関係ありません。そうではなくて、社会に居場所があるかないかで分類をします。仕事や学校に通っている人、どこにも所属していなくても友人関係がある人、安定的な社会との関係がある人は、ひきこもりとは呼びません。

 

荻上 たとえば、ひきこもりでもコンビニへ買い物に行く方はたくさんいらっしゃる。ただ、仕事などで社会性のあるコミュニケーションをとることが困難だったり、長い名前のコーヒーを注文するときに店員とやりとりするのが難しかったり、線引きは人それぞれということですね。

 

 

高齢化する大人のひきこもり問題

 

荻上 これまでのひきこもり対策ではどういった取り組みが行われてきたのでしょうか。

 

斎藤 まず治療としての支援があります。私は精神科医なので精神医療の側からさまざまな場面で提言をしてきました。また、厚生労働省も研究班を組み、支援方法のガイドラインを作成しています。しかし、治療としての支援は比重が小さく、やはり一番大きいのは就労支援です。

 

荻上 一つの出口としての就労ということですね。

 

斎藤 おそらく、これまでの日本でひきこもりの社会復帰、社会参加に最も大きく寄与してきたのは就労支援です。寮で生活させるなど、いろいろな方法で就労につなげる。こうした支援は非常に大きな柱となっており、ひきこもりが社会問題となった当初から数々の団体が取り組んできました。

 

荻上 つまり、治療という、本人のメンタルに対する支援だけではなくて、生活環境そのものを一緒になって改善していくことが必要になるわけですね。

 

斎藤 そうです。ひきこもり当事者の家族の方々が集まる、「家族会」もあります。当事者を支える家族への支援やケアなども非常に大事になります。

 

荻上 なるほど。ところで、ひきこもりの方は女性よりも男性が多いと聞いたことがあるのですが、本当にそうなのでしょうか。

 

斎藤 男女比についてはさまざまな説があります。ニートに関する統計では、男女比がほぼ半々に近いです。一方で、ニートとひきこもりは成り立ちが似ているのに、ひきこもりの統計では7〜8割が男性なのです。

 

一つはっきりしていることは、男性の場合はひきこもりが事例化しやすい、問題視されやすいということです。つまり、大学新卒ですぐ就職しなかった場合に、男性と女性どちらがプレッシャーを受けるかというと、やはり男性です。女性は今でも「家事・手伝い」と言われ、多少は免責されやすい状況がありますよね。ですから、ひきこもりのレッテルを貼られにくい。そうしたことを割り引いていくと、圧倒的に男性が多いとは私は思えません。

 

荻上 年齢層でいうと、どの年代が多いのですか?

 

斎藤 それもいろいろなデータがありますが、私の統計ではだいたい30代の方が多いです。年齢に関していうと、一番顕著なのは平均年齢が年々上がっていることです。20年前に私が行った調査では平均年齢は21歳です。そして6年前の調査で32歳。そして去年の調査では34歳でした。

 

年齢が上がっている理由として、私の推測では2つあります。一つは、ひきこもりのきっかけが起こる年齢が上がってきたこと。昔は不登校からひきこもる人が大半でしたが、最近は退職してひきこもる人が増えました。ですから、問題が起こり始めるのが昔は15歳だったものが、今は20歳くらいになっています。

 

それからもう一つは、長期化しやすいということです。ほとんどの人は、一旦ひきこもるとそのままの状態で歳をとり続けてしまいます。抜け出す人も中にはいらっしゃいますが、多数派はそのまま止まっているので必然的に平均年齢は上がります。

 

 

斎藤氏

斎藤氏

 

 

荻上 以前、池上さんともこの番組で「大人のひきこもり」をテーマにお話したことがありますよね。いま、高齢化するひきこもりの問題は大きくなっているとお感じになりますか。

 

池上 そうですね。今は40歳を超えてきた団塊ジュニア世代が、非常に大きなボリューム層としてあると感じています。毎日、当事者の方々とメールでやりとりする中で思うのは、一旦、社会からこぼれ落ちた人たちがまた戻ろうとするときに大きな障壁にぶち当たってしまう。それがなかなか打開できない状況にあるということです。雇用環境の変化などが高年齢化に非常に大きく影響していると思います。

 

荻上 学校、会社に進んでそのまま老後を迎えるというコースを外れた人たち向けのサポートが存在しない。いじめがきっかけで不登校になったり、病気やパワハラが原因で会社を辞めるという形でドロップアウトしてしまった場合に、昨今の政府用語でいうところの「再チャレンジ」をするような梯子があちこちにあるわけではないということですね。

 

池上 はい。ひきこもり状態になる人は個人に問題があるかのように言われることが多く、そのために本人がますます発言しにくくなるという状況があります。本人がなぜそうなったのかというストーリー自体がまったく想像されることもなく、誰も分かってもらえない、受け止めてもらえない。関係性が遮断され、だんだん孤立していくということがたくさん起きていて、国全体の問題になっていると思います。

 

 

どうすればいいのか分からない

 

荻上 リスナーからこんなメールがきています。

 

「私の近所にもひきこもりの人がいます。中学生1年を一週間くらいしか行かず、卒業しました。学校側も煩わしいようで、ほとんど連絡なしだったみたいです。卒業しても家に引きこもっていて、このまま世の中に出ることもなく年をとるのでしょうか。ご両親が亡くなった後が心配です。」

 

「ご両親が亡くなった後」とは関係者の間でもよく議論されているところではありますが、やはり高齢化に伴い、家族だけでひきこもりの方を支えることがより難しくなっていくわけですよね。

 

池上 そうですね。ご両親が70、80代という年齢になってきて、今は年金生活でなんとか維持しているけど、なかなか子どもの打開策が見出せない。情報も少ないし、どうすれば良いのか分からない。子どものことを隠したいということもあって人脈自体も無くなっていき、家族ごとひきこもってしまうというケースがあちこちで起きています。

 

荻上 そうした中で極端な事例として報道されるのは、たとえば家族内の殺人であるとか、無理心中であるとか、年金を受け取るために亡くなった両親のことを役所に伝えなかったりと、事件化されるケースも一部にはあるわけですね。

 

池上 報道では当事者だけが悪いかのように取り上げられがちですが、情報がもともと遮断されていて、どうして良いのか分からないという現状があるんです。本当は情報をどうやって届けていくのかが社会全体で問われているのに、それを検証することなく、ただ個人を攻め立てるようなことが起きている。そうしたことが、本人や家族をますます追い詰めてしまうのです。

 

荻上 そんな中で、たとえば「親の会」など親同士が情報を共有できる場が作られたり、あるいは就労支援など当事者と社会をつなげる接点ができたり、まだ不十分ではあるけどサポートが徐々に整いつつあるという状況なのでしょうか。

 

池上 そうですね。やはり支援において重要なのは、関係性の再構築だと思います。その支えがあることによって、どんな状況であっても生きていける、社会でやっていけるという充実感にもつながっていきます。それが無いままに施設に放り込んだり、無理やり仕事につかせても、またひきこもる繰り返しになってしまいます。【次ページにつづく】

 

 

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