若者の住まいの貧困――定住と漂流

働く世代で貧困が広がっている。若いうちから収入が安定しないということは、すなわち、住まいが安定しないということに直結する。本稿では、住まいにスポットを当てて若者の貧困問題をとらえ、家賃補助制度などの施策の必要性について検討する。

 

 

若者の貧困

 

2008年ごろから子どもの貧困率の高さが注目されるようになってきた。実は、男性のなかで最も貧困率が高いのは20代前半の21.8%である。女性では高齢期の貧困が深刻だが、65歳未満で最も貧困率が高いのは、やはり20代前半の19.5%である。図1、図2を見てみると、働く世代のなかでも特に50歳くらいまでの貧困率は1980年代半ばに比べて大きく上昇していることがわかる。

 

 

<図1 男性の年齢層別相対的貧困率(1985年と2012年の比較)> 出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)

<図1 男性の年齢層別相対的貧困率(1985年と2012年の比較)>
出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)

<図2 女性の年齢層別相対的貧困率(1985年と2012年の比較)> 出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)

<図2 女性の年齢層別相対的貧困率(1985年と2012年の比較)>
出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)

 

80年代半ばには、高校や大学を卒業した後、就職して正社員となり、安定的な収入を得る人(主に男性)が多かった。しかし現在では、非正規雇用の増加にともない、そのようなコースを歩む人が減っていることが貧困率上昇の背景にある。終身雇用が当然のように思われていた時代には、新卒で民間アパートに住み、結婚して社宅に移り、そのうち持ち家にという「住宅すごろく」が描かれたが、今やそれは伝説となった。現在のような厳しい社会状況にあって、若者たちは、どこに住んでいるのだろうか?

 

 

実家に「定住」する若者

 

図3は35~44歳の未婚者のうち、親と同居しているものとその割合の推移を示したものである(山田2015)。1990年に急激に増え、その後、増加傾向がつづいている。2010年には300万人弱、16%となり、2012年には305万人にまで増加しているという。そして、彼らの失業率や非正規率は、自立している人々に比べて高いことが指摘されている。このことから、これらの人々は経済的理由で親元に同居していることが推測される。

 

 

 <図3 親と同居の壮年未婚者(35~44歳)数の推移―全国(1980,1985,1990,1995-2010年)> 出所:山田正弘(2015)「女性労働の家族依存モデルの限界」小杉礼子・宮本みち子編著『下層化する女性たち―労働と家庭からの排除と貧困』勁草書房、pp.23-44. http://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/pdf/zuhyou/sanko3-2.pdf


<図3 親と同居の壮年未婚者(35~44歳)数の推移―全国(1980,1985,1990,1995-2010年)>
出所:山田正弘(2015)「女性労働の家族依存モデルの限界」小杉礼子・宮本みち子編著『下層化する女性たち―労働と家庭からの排除と貧困』勁草書房、pp.23-44.

 

2014年に年収200万円以下の20~40代男女を対象に、認定NPO法人ビッグイシュー基金「住宅政策提案・検討委員会」が行った調査(回答者数1,767人)からは、親と同居する若者の5割が自分で住居費を負担できないから親と同居していることが明らかになった。このことは前述の山田の指摘の裏付けにもなるであろう。

(参考:http://bigissue.or.jp/pdf/teiannsyo2.pdf

 

低収入とはいえ、親と同居している若者は実家という比較的安定な住まいに「定住」することができている。しかしながら、見方を変えると、親の住まいのなかに若者の貧困が隠されてしまっているともいえる。実家から出て独立したいのにできないのであれば、「定住」は必ずしも肯定的な状態とは言えない。委員会メンバーであった藤田孝典氏は報告書のなかで「実家という名の牢獄」と表現しているほどである。

 

若者自身が収入を得て、生活基盤を固められないままに実家を出ることになれば、とりあえずの居場所を転々とするなどし、住居喪失、いわゆるホームレス状態に陥るリスクも高まるのである。それが次に述べる「漂流」する若者である。

 

 

「漂流」する若者をとらえる

 

(1)国民生活基礎調査

 

働く世代(20~64歳)の貧困率を、世帯タイプ別(図4、図5)に見てみると、ひとり親世帯の貧困率が最も高いことは無視できないが、ここで注目したいのは、単身者の貧困率が高いことである。男性単身者では4人に1人、女性単身者では実に3人に1人が貧困である。親元から離れ、単身で暮らす勤労世代の若者の困窮が非常に深刻である。

 

日本では、働く貧困層に対する社会的支援施策は非常に手薄である。また、実家に頼ることのできないなかで、不安定な仕事と住まいの間を漂うように生活している若者の姿が、次に紹介する調査の結果から見えてくる。

 

 

<図4 稼働年齢層の男性世帯タイプ別貧困率> 出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)

<図4 稼働年齢層の男性世帯タイプ別貧困率>
出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)

<図5 稼働年齢層の女性の世帯タイプ別貧困率> 出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)

<図5 稼働年齢層の女性の世帯タイプ別貧困率>
出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)

 

 

(2)シェアハウス調査から

 

困窮する単身の若者が自力でアパートを借りようとした場合にまずぶち当たるのが、初期費用が払えない、家賃が払えない、転居費用が払えない、保証人を立てることができない、といった借り手側の問題だ。そして、家賃滞納リスクが大きいとして貸し渋りをする家主側の問題もある。そこで、初期費用や賃料が安く、連帯保証人不要などで入居契約の敷居が低いシェアハウスの需要が大きくなっている(注1)。

 

(注1)「シェアハウス市場調査2013年度版」(日本シェアハウス・ゲストハウス連盟・シェアシェア,2014)によると、2013年8月末現在、シェアハウス運営事業者は598社にのぼり、(1ヶ月以上の中長期型滞在向け)シェアハウスは全国に2,744件、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)だけで9割を占める。

 

大都市(主に首都圏)の低所得の若者の受け皿となっているとみられる、「非常に狭小あるいは窓がない」といった違法なシェアハウス入居者の実態について、2013年に国土交通省が調査している(注2)。

 

(注2)最低居住面積基準は単身の場合25㎡であるが、シェアハウスの場合、建築基準法上、「寄宿舎」の基準が適用され、最低専有面積は東京都の場合7㎡である。国交省によるシェアハウス調査の分析については拙著(2014)を参考されたい。

 

ネット調査会社に登録する関東圏の20歳以上の男女を対象とするインターネット調査によると、「狭小・窓無し」シェアハウス入居(経験)者146人の雇用形態は、4割が正社員である。一方で、派遣社員、契約社員、パートタイマー、アルバイト、日雇い労働者といった非正規雇用と自営業・自由業を合わせた収入が不安定な人が4割強である。

 

入居前と退去後の住居形態(図7)を見てみると、約半数は戸建て住宅または分譲住宅が直前の住居で、おそらく実家とみられる。大きな流れとして、実家から劣悪なシェアハウスにいったん出たものの、また実家に戻るというパターンがあると思われる。

 

 

<図7 狭小・窓無しシェアハウス入居前・退去後の住居>

<図7 狭小・窓無しシェアハウス入居前・退去後の住居>

 

その一方で、2割余りがシェアハウス・ゲストハウス、あるいは寮・社宅、ネットカフェ・漫画喫茶、カプセルホテルといったような非常に不安定なところから「狭小・窓無し」という劣悪なシェアハウスに移ってきている。そして、2割弱の人々がシェアハウス退去後もそういった不安定なところに転居していることが明らかとなった。

 

直前に実家やアパートに住んでいた人が「狭小・窓無し」退去後に不安定な住居に移ったケースもあるだろうことを勘案すれば、およそ3割が不安定な住居形態を渡り歩いていることが推測される。【次ページにつづく】

 

 

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