「カジノ法案」成立――ギャンブル依存の実態と対策

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」、いわゆるカジノ法案が今月15日に成立した。自治体や経界から経済効果を期待する声が上がる一方、ギャンブル依存症への影響、金銭の流れの透明性、国際交流など、さまざまな問題が指摘されている。今回は注目されるギャンブル依存症について専門家にお話を伺った。2016年12月7日放送TBSラジオ荻上チキ・Session22「カジノ法案が今週にも成立か!? ギャンブル依存の実態と対策」より抄録。(構成/増田穂)

 

荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

カジノに限定せず依存に対する総括的な支援を

 

荻上 本日のゲストをご紹介します。一般社団法人ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さんと、ギャンブル依存の治療にお詳しい、成瀬メンタルクリニック院長の佐藤拓さんです。よろしくお願いいたします。

 

田中・佐藤 よろしくお願いします。

 

荻上 佐藤さんは、ギャンブル依存症からの回復についてどのような取り組みをなさっているのですか。

 

佐藤 GA(Gamblers Anonymous)というギャンブル依存の当事者による自助グループや、リハビリ施設で支援を受けている方と連携をとって、医療の立場でできることをしています。

 

荻上 GAの活動はどのようなものなのでしょうか。

 

佐藤 GAには依存症当事者やその家族などが参加しています。匿名参加が可能で、グループミーティングでの会話などを通じて、自分の抱える問題について理解を深める場を作っています。

 

荻上 カジノ法案成立の可能性についてはどのようにお考えですか。

(※編集者注:本放送は12月5日の衆議院通過を受けて。その後、15日参議院本会議にて成立。

 

佐藤 もちろん、法案の成立は重要な問題です。しかし現状問題を抱えて苦しむ方々の支援を行っている立場としては、今回の件をきっかけにギャンブル依存の問題や支援体制のあり方についてより多くの方々に知っていただく機会になればと思っています。

 

荻上 すでにある問題について、もっと議論しなければならない。

 

佐藤 そうですね。賭け事には合法的なもの違法なもの、法律的にいろいろ区分があり、関連したさまざまなものへの依存で苦しんでいる方がいらっしゃいます。そうした事実や、それに対する支援がどのように行われているのか、皆さんに理解していただきたいです。

 

荻上 田中さんのお考えはいかがですか。

 

田中 カジノ自体には、賛成でも反対でもありません。しかしどの程度、依存症への対策が行われるのが気がかりです。

 

荻上 依存症対策に関しては野党や与党公明党からも議論の必要性を指摘する声があがっています。しかしなかなか法案には反映されません。

(※編集者注:放送後、12月14日参議院本会議の段階では法案が一部修正され、依存症対策の文章も盛り込まれた。)

 

田中 法案自体にはほとんど記載がありませんね。附帯決議には多少盛り込まれました。

 

荻上 附帯決議への記載はどのようなものなのですか。

 

田中 「依存症予防等の観点から、カジノには厳格な入場規制を導入すること。その際、諸外国におけるカジノ入場規制のあり方やその実効性等を十分考慮し、我が国にふさわしい清廉なカジノ運営に資する法制上の措置を講ずること」「ギャンブル等依存症患者への対策を抜本的に強化すること。我が国におけるギャンブル等依存症の実態把握のための体制を整備すると共に、ギャンブル等依存症患者の相談体制や臨床医療体制を強化すること。加えて、ギャンブル等依存症に関する教育上の取り組みを整備すること。また、カジノに留まらず他のギャンブル等に起因する依存症を含めて関係省庁が十分連携して包括的な取組みを構築し、強化すること」などが盛り込まれています(注)。

 

(注)第192回国会衆法第20号 附帯決議
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/naikaku1063EFFDA0F22F394925807D00266E7F.htm

 

多少なりとも依存症対策の必要性が理解されたという意味では良かったと思っています。しかしこれがカジノに限定した対策では、ギャンブル依存者への支援としてどれだけ有効に働くのかどうかは明確になっていません。

 

 

田中氏

田中氏

 

荻上 付帯決議には法的拘束力がありませんね。本文には、「カジノ施設の入場者がカジノ施設を利用したことに伴い悪影響を受けることを防止するために必要な措置」を政府がとる旨が書かれています。依存症対策も含まれると考えられますが、具体的ではない。付帯決議がどう機能するかは不透明ですね。そもそもギャンブル依存とはどういうものなのでしょうか。

 

佐藤 自らの意志でギャンブルをする事を上手くコントロールできなくなる障害といわれています。結果、使うべきではないお金に手を出してしまう。本来楽しいはずのギャンブルが楽しくなくなってしまう。それでもやめられない、といった状態です。生活上で蓄積するストレスなどを上手に解消できず、特定の依存対象物にのめり込んで行くといった背景があるといわれています。

 

荻上 これまで薬物やアルコールなどが身体的に快楽をもたらし、こうした作用のある物質に依存するというのが一般的な依存症のイメージでした。しかし最近では、ギャンブルや買い物、ネットなどの行為をするときに脳内分泌物質に変化が起こり、依存症になることも知られてきました。

 

佐藤 依存症の研究は、薬物の動物実験を中心に行われてきましたが、最近は脳画像などを使った研究も盛んに行われるようになりました。結果、行為にのめり込む場合でも、物質に対して依存する場合と同様のメカニズムが働いている可能性が指摘されるようになりました。

 

こうした捉え方は「依存」の枠組みを広げることになります。「勉強依存」や「ジョギング依存」など、何でもかんでも「依存」の括りにしてしまうことには問題があると思います。しかし、なんらかの行為にのめり込むことで、日常生活に深刻な問題が起こる可能性がある場合には、支援対象としていくべきだと考えています。

 

荻上 好きでのめり込んでいる人に比喩的に「依存症」という場合としっかり区別しないといけませんね。日本にはどれくらいギャンブル依存症の方がいらっしゃるのですか。

 

佐藤 厚生労働科学研究で行われた疫学調査では、国内で536万人の依存者がいると推定されています。ただしこれは海外の調査票をもとにした推定値で、実際の依存者数については今後の詳しい調査が必要です。

 

 

周囲の人を巻き込んでしまう

 

荻上 ギャンブルに定義はあるのでしょうか。

 

田中 「ギャンブル依存」で考えられるギャンブルだと、競輪・競馬・競艇・オートレースなどの公営競技、遊戯区分とされるパチンコ・パチスロ、他にも宝くじトトなどですね。最近ではFXにのめり込んで、大きな借金を抱えご相談に来られる方もいらっしゃいます。

 

荻上 田中さんはご自身もギャンブル依存になったご経験があるそうですが、どんな状況だったのですか。

 

田中 四六時中ギャンブルのことを考えて、借金も抱えてました。普通の人が考えればギャンブルをやめればいいだけの状況でありながらやめられない。この悪循環を断ち切るにはギャンブルで取り戻すしかない、という感覚に囚われてしまう。自分ではそれ以外考えられず、やめられなくなってしまうんです。しかもそのおかしさに気付けなくなっていました。

 

私は祖父・父・夫と家族の多くがギャンブル依存症でした。幼少期から親を見ていて「あんな風にはなりたくない」と思っていました。それでも同じような人と結婚し、同じように依存症になってしまいました。

 

荻上 ギャンブル依存の世代間での連鎖はあるのでしょうか。

 

佐藤 もちろん周囲にギャンブルをする人がいなくても、ギャンブル依存になる方はいらっしゃいます。しかし身近にギャンブルをする人がいれば、その分本人がギャンブルに接する頻度は高くなる。その中で生きづらさを解消するための手段としてギャンブルを活用し、依存する可能性は上がってくると考えられます。

 

荻上 環境的な接しやすさというのは人によってあるのですね。薬物中毒のような禁断症状はあるのですか。

 

田中 あります。大きなレースの時に例えば、お金がなくていけないとしても、いてもたってもいられず、イライラして落ち着くことができません。なんとしてもお金を作ってやる!という感じで、どうにかお金を用意してレースに行ったりもしました。

 

佐藤 薬物中毒時の禁断症状と、ギャンブル依存の禁断症状が同様のものかという点に関しては、医学的には異論があります。しかし臨床的には薬物中毒と同じように、それに接していないと落ち着かないとおっしゃる方は多いです。

 

荻上 現在ギャンブル依存症対策はどのように行われているのですか。

 

佐藤 国内では地域差が大きいです。GA以外ですと、宿泊可能なリハビリ施設があるところもある。こうしたものがない地域だと多くの場合、薬物やアルコールの依存症患者を支援する医療機関が対応をしています。ギャンブル依存に特化した支援を行っているところは、現状かなり少ないと思います。

 

荻上 リスナーからはこんな質問がきています。

「仮にギャンブル依存の人が増えたとして、社会どのような弊害が起こりうるのですか」

 

田中 ギャンブルはお金の問題が関わり、借金などで周囲の人が巻き込まれるケースがあります。最近だと、ギャンブル依存の彼氏にお金を貸した彼女が、うつ病になってしまったというご相談もありました。他にも横領や窃盗、失踪、自殺、家庭の問題だと児童虐待やネグレクトなどの問題に繋がりかねません。波及的な影響を考えると、やはり社会的にギャンブル依存へ対策を行う必要性を感じます。

 

荻上 ギャンブル依存になると、賭けるギャンブルの形態は問わない方が多いのでしょうか。

 

田中 内輪では「得意種目」なんて言ったりして、好みはあります。私は競艇とカジノにはまりましたが、パチンコは全く興味が湧きませんでした。

 

荻上 こんなメールも来ています。

「友人の中には恋人ができたり、将来のためといってピタッとギャンブルをやめた人もいます」

 

やめられる人とやめられない人の境目はどこにあるのでしょうか。

 

田中 やはり依存度だと思います。完全に依存している人と愛好家では、やめやすさも異なります。【次ページにつづく】

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シノドス国際社会動向研究所

vol.222 特集:沖縄

・仲村清司氏インタビュー「変わる沖縄——失われる心と『沖縄問題』」

・宮城大蔵「静かに深まる危機——沖縄基地問題の二〇年」

・北村毅「戦争の『犠牲』のリアリティー:当事者不在の政治の行く末にあるもの」

・神戸和佳子「『わからなさ』の中でいかに語り考えるのか——沖縄をめぐる哲学対話の実践から」

・山本ぽてと「沖縄トイレットペーパー産業史」
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