外国人出稼ぎ労働者の受け入れ――改正入管法の問題点

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2018年12月8日未明、参議院で改正入管難民法が可決成立した。同法はこれまでの入管政策を大転換し外国人の非熟練労働者(いわゆる単純労働者)を正面から受け入れようとするもので、2019年4月からの施行が予定されている。

 

もっとも、ここで言う大転換の本質は、単純労働者を受け入れる点ではなく、彼らを正面から受け入れる点にある。事実上、単純労働者の受け入れ自体は1993年に制度化された外国人研修・技能実習制度(労働法の適用されない「研修生」および適用される「技能実習生」)のもとで広く行われ、2010年に「技能実習生」に一元化された後、2017年の外国人技能実習法で対象職種や期間が拡大されて現在に至っている。

 

また、2008年の「留学生30万人計画」のもとで、当時14万人だった留学生を2020年までに30万人にまで増やすこととされ、これを達成するために当時は「就学」とされていた日本語学校や専門学校の学生に対する在留資格が「留学」に一元化されたうえ、緩やかな審査でビザが発給されたことから、出稼ぎ的な「留学生」が大量に来日するようになった。

 

本稿では、現在日本向けの技能実習生や留学生の最大の送り出し国となっているベトナムについて、どのような若者たちがどのようにして来日し、日本でどのような生活を送っているのかを概観した上で、この度の改正入管法の問題点を概説する。

 

 

どんな人たちが来日しているのか

 

技能実習生として日本に来る人たちと、(もっぱら出稼ぎ目的の)留学生として日本に来る人たちの間に大きな違いはない。どちらかというと技能実習生の方が年齢層の上の人(30代)や既婚者、体力に自信のある人が多く含まれているといった程度である。本人の住む村から先に日本へ渡った知り合いが技能実習生として行ったか留学生として行ったか、その村に来たブローカーが本人にどちらを勧めたか、といった事情で選択されているに過ぎない。

 

もっとも、その時々で若干のトレンドは存在する。「技能実習生は酷い目に遭う人も多いらしい」とか「留学生の方が自由に仕事(アルバイト)や住居を選べるらしい」などの情報が広まって留学生を選択する人が増えた時期もあるし、近時では逆に、「留学生は勉学と仕事の両方をしなければならない」とか「留学生は在留資格を維持するために毎年学費を納めなければならない」といった当然の事柄がようやく知れ渡ってきたことや、不法就労(留学生に許されている週28時間を超える就労)に対する入管当局の取り締まりが厳しくなっていることなどから、留学生希望者の増加に陰りが見え始めている。

 

なお、留学生に関してはすでに「30万人」の目標が達成されたことなどから、このところビザの発給や更新の審査が厳格になっている。以上から、今後、「留学」の資格で来日する出稼ぎ労働者の数も減少していくことが見込まれている。

 

来日する出稼ぎ労働者の出身地についてみると、これまでは、都市部にある「日本語学校」や「送り出し機関(海外就労斡旋会社)」にアクセス可能な近郊の農村部の出身者が多かった。しかし最近では、とくに建設や縫製などの不人気分野で就労してくれる人材を獲得するために、いまだ日本での技能実習生などの過酷な現状が伝わっておらず産業の発展も遅れている遠隔地の貧農地域にまでブローカーが入り込んで「人集め」にいそしんでいる。

 

また、学歴・職歴についてみると、応募する若者たちの多くは採用条件などとの関係で高卒ということになっているが、実際には中卒も大卒も含まれる。中卒の場合は実在の高校の担当者に賄賂を渡して卒業証書を「買う」(発行してもらう)ことになる。また、大卒の場合は例えば新卒だと技能実習制度のもとで要求される「前職」(その職種での就労経験)が無いことが明らかになってしまうので、あえて高卒として申告する場合もある。なお、溶接やミシンなど一定の技術を要する一部の職種を除き、技能実習生として来日する若者の大半は、さしたる「前職」を有していない。

 

居住する地域には生活を十分にまかなえるほどの仕事が無く、都市部での就労も難しい(社会主義国であるベトナムでは農村から都市への移住には制度的および実際的な制約が多い)からこそ来日するのであり、台湾や韓国での出稼ぎを経て来日する人もいる。十分な「前職」を有さない場合は、送り出し機関を通じて実在の会社の人事部門からニセの在職証明を「買う」ことになる。このように、実在の高校や会社から各種の証明書を発行してもらうため、日本の審査当局など第三者がその真贋を見極めることはほとんど不可能である。

 

結局、ブローカーへの支払い(良い仕事を紹介してくれる送り出し機関の紹介料)、来日までの日本語学習費用や生活費(扶養家族がいる場合はその生活費も含まれる)、送り出し機関に支払う事務経費・サービス料(技能実習生についてとくに高額であり、3年の技能実習の場合だとベトナム国内法にもとづく上限額は3600ドルだが、この上限を遵守している送り出し機関は少数である)、留学の場合の初年度納付金などで、おおむね100万円前後の借金を抱えて来日することになる。また、技能実習生については、これまでの「保証金」に代えて、「失踪」や自己都合での中途帰国の場合に両親が送り出し機関に約50万円を支払うとする「違約金」契約を締結させられるケースが一般的となっている。

 

 

日本でどんな生活をしているのか

 

留学生は、借金を返しながら生活費を稼ぎ、さらにその後の学費も期限までに準備しなければ学籍を失い、したがって在留資格を更新できなくなってしまう。さらに、出稼ぎ目的の留学生であれば、仕送りのためにそれ以上を稼げなければ意味がない。しかし、彼らは週28時間までしかアルバイトを許されていないし(ただし長期休暇期間は40時間の就労可)、是非はともかくとして風俗業での就労も禁止されている。

 

日中は登校して授業を受けなければならないのでアルバイトは夜間となり、そのため学校では疲労と睡眠不足で勉強がはかどらず、日本語が上達しないのでコンビニの弁当製造など低賃金の職場しか見つからず、低賃金なので週28時間の規制を潜脱して働くために複数の職場をかけもちせざるを得なくなるという悪循環に陥りがちである。

 

他方、技能実習生の場合は、借金や違約金契約という実際上の足かせに加えて、制度上も転職の自由が認められていないため、忙しい職場(たとえば、厳しいノルマを課される縫製業など)に当たった人はたとえ違法な低賃金でも残業や休日労働を拒むことが難しく、逆に暇な職場(たとえば、雨天では仕事ができない塗装業など)に当たった人はたとえ時給制のもとで仕事を手配されず低収入で困窮してもアルバイトなどで副収入を得る道は閉ざされている。

 

また、実際上、受け入れ企業が準備する宿舎に住まざるを得ないため、生活のすべてを会社により管理・支配されることになりやすく、不当に高額な家賃や水光熱費を設定されても使用者との交渉は難しい。結局、搾取や暴力、ハラスメントに対しては、緊急避難的にその職場から「失踪」する以外に方法がないという人も少なくないのが実情である。【次ページにつづく】

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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